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鉄 (くろがね)のアレス!  作者: ユッキング加賀


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第三章「アレスは出会う」

こんにちは、ユッキング加賀です。

今回の鉄のアレスですが、ヤンキー高校生の錠示雄成《じょうじ たけなり》が登場いたします。

主人公アレスに彼がどう絡んでくるのか、是非、お楽しみ下さい。

14時50分、志木市のとある神社の境内にある公園。

「おいゴルルァ!テメー、ウチの次郎に肩ァぶつかったまんま謝りもせずに行っちまったそうじゃあねえか!俺らの縄張りで何晒してくれとんじゃボケェイッ‼︎」

「ワリかったワリかったって!えぶってて突然いきあってただけだしよー!それにソッチのモンだか知らねぇが、ええまちさせたワケでもねぇしよ〜!もうけえしてくれないっスかねー?」

(悪かったって!歩いてて突然出くわしただけだしよー!それにお前たちの奴だか知らないが、怪我させたわけでもないからさー!もう帰っても良いですかねー?)

長く流した金髪の学ラン姿の総長、西村佻助《にしむら ちょうすけ)とその手下30人が1人のとあるヤンキーを囲っている。

ある者は鉄パイプを、別のある者は釘が打たれた木製のバットを背中に担ぐなり、地べたで引き摺るなりしている。

「アァン?何言ってっか分かんねーんだけど?標準語で喋ってくんない?標準語で?ヒャーッハッハッハッハッハッハッ‼︎」

佻助に連られるように、手下も高笑いしている。

「標準語じゃあねえと何言ってんのか理解出来てねーみてーだから、この際ハッキリ言ってやるぜ!

ココはテメーらの縄張りなんかじゃあねぇぜ。それともう一つ、肩はぶつかったんじゃあねぇ。"ぶつけてやった"んスよ。文句あっかよテメーら!」

高校のブレザーを着崩している、長野弁で喋っていた黒いリーゼントの1人のヤンキーが啖呵を切った。

その発言は佻助の逆鱗に触れ、激怒で地面を踏み鳴らさせた。

「文句しかねェぞクソ野郎がッ⁉︎アァン‼︎ゼッテー許さねーぜコンチキショーがッ‼︎おいテメーら、サッサと殺っちまえ‼︎‼︎‼︎」

「「「「「「オォーッス‼︎‼︎‼︎」」」」」」

段々と縮こんでいく、男を囲む男の壁。

(当然わざとでは無かったんだけどなぁ。

冗談でつい、何だか粋がって言っちまったぜ…。人数的にも限度があるしよぅ…。

あーあぁ…、今日の帰りは遅くなりそうだなぁ)

自分で喧嘩を売っておいて難だが、殆ど諦めかけていた。

そんな時。

「ちちぃ〜ぶぅ〜のぉ〜みぃ〜ねぇ〜の〜、ゆきぃ〜しぃ〜ろぅ〜くぅ〜」

1人のとある外国人が、恐らく埼玉県民しか知らないであろう、盆踊りでよく使われている直実節《なおみねぶし》を気持ち良く唄いながら、"集団"の居る公園へと足を踏み入れた。

「おーいコラァッ⁉︎なぁにワケの分からん曲を歌ってやがんだテメェ‼︎あんにゃろゥゥゥ…、ぶっ殺しティヤルゥウン‼︎‼︎‼︎」

青い髪。橙色の瞳。

赤いチェック柄の上着の隙間から、イギリスのテムズ川や観覧車がプリントされている白いシャツが見える。ダメージの入った半ズボンのジーパンを穿いて、青いサンダルでちんたらと歩いてくる。

「お……おい、何やってんスか……⁉︎危ねぇぞ!」

「……オレが気持ち良く直実節を唄ってた所を邪魔するたぁ、良い度胸してんじゃねーか」

感じた事をそのまま口に出していくスタイルである。

「ベラベラとうっせえぞオッサンよぉ!……て、何してやがんだ」

「オレの名はアレスだ。次に会う時が、テメーらのお葬儀前日になる事を永遠に覚えとけ」

アレスは集団に向けて右手を突き出し、拳を作っていた。

「ざっと見て…、お前以外で数えると31人ってとこか」

「アアッ⁉︎テメ何を言って」

アレスは深く呼吸をした。そして。

「……奥義、波紋撃」

一瞬、たった1人を除く周囲31人の不良グループの視界に見える空間内全てが激しく歪んだ。それと同時に彼らの内臓を、脳味噌を、精神を、内側から強く締め付けるような激痛が襲い掛かる。

「行こうか」

「えっ…、でもよ…」

アレスの言葉に、1人のヤンキーは困惑する。

「良いから。一緒に居りゃあ面倒事になるだろうし、それに…」

「ん…?何だって言うんスか?」

疑問が隠し切れない。

溜め息を吐くアレス。

「奴らは既に気を失っている。

構う必要ねーぜ」

「何…だと…⁉︎」

バタバタバタバタバタ…。

白目を剥き、涎を垂らして気絶していた31人の集団は、拡がる水面上の波紋の如く倒れていった。


「なぁ…オイ、何モンなんだよ。さっきのはどう見ても、人間離れし過ぎだと思うぜ!」

「あぁー、波紋撃の事か」

「何スかそれ」

公園を背後に歩くアレスと1人のヤンキー。

「説明せんでもええだろー、面倒だし。それより、さっきから何だってんだ。オレに勝手に付いてきやがって。別に連れてく気なんかねーぞ」

「俺、錠示雄成《じょうじ たけなり》って言うん…です。雄に成長の成って書くんスよ」

アレスの隣で、聞いてもいないのに自己紹介をした錠示雄成。

「お…おう、アレスだ」

とあるニンジャのアニメを観て以来、挨拶には気を遣っているのだが、今回ばかりは面倒事が出来そうな予感がしてならず、どうも調子が上がらない。

「錠示雄成って言ったな」

「おうっ…、ッス」

「これからは音読みのアダ名で、"ジョジョ"って呼んでやるからなー!」

「冗談はよして下さいよ、アレス兄貴〜」

早速の兄貴呼ばわりである。

「その呼び方は気が乗らねーけどなぁ。もしかして読んでたか、あのマンガ?」

「グレートっスよね。4部が超熱くて好きなんですよ」

「へぇ〜、分かるクチか。あの主人公の髪型に拘ってる理由も、町の為に戦う決意にも惹かれるよなー」

「「漢のあの熱さって最高だよなッ‼︎」」

互いの声色がシンクロした。

「ケッ、こいつは良いダチ公になれるかもな!」

「ウッス、兄貴!」

「ダチ公に兄貴呼びすんのはどうかと思うんだよなぁ」

「すまないっス!

でも、兄貴は恩人だ。とてもダチ公呼ばわり出来る立場じゃあねぇんです。

俺に、ぜひ兄貴と呼ばせて下さいッ‼︎」

「わぁーったわぁーった!そんなに呼びたいんなら、兄貴とでも何でも呼ぶが良いわ!」

「アザっス!兄貴‼︎」

(最初はどうかと思ってはいたが…。

成る程な、根は悪く無さそうなヤツじゃねーか。

もうちょい歳でも食ってくれてりゃ、雄成とは旨い酒が呑めるとこだったんだがなぁ)

アレスは少し残念がってはいたが、話のよく通じる同性の仲間が出来た事実に、ほんの僅かだが、笑顔を綻ばせた。



15時16分。

「ただいま〜!」

「お邪魔しま〜す!」


「お帰り…って、誰ですか?隣の人」

細田楓《ほそだ かえで》宅に上がり込んだのは、スーパーの買い物袋を幾つか提げているアレスと、リーゼントに着崩したブレザーの男であった。アレスの袋からは長ネギが飛び出ている。

「は…、初めまして!その、錠示雄成って言います!宜しく…」

「えと、初めまして。細田楓です。あれ、その制服って…」

「ん?どうしたよ」

「同じ高校みたいですね…」

「あっ…。そ、そうっスね!同じ学校ですね!」

(雄成の奴…。妙に歯切れが悪いな)

「おい雄成。調子良くないのか?」

「いやいやいや、何でもないっスよ兄貴!」

「兄貴…?」

アレスは、雄成の違和感に何となく察しが付いた。

(そうか…。こいつはもう…)

ギュルルルル〜。

「あはは…。その、小腹が…」

「嘘こけ。腹減ってんだろお前」

「あの。たくさんは出せませんけど、お茶とお菓子くらいならありますけど」

楓は雄成を家に入れることにした。

「面目無いっス、細田さん。その、頂きます」

「オレも食って良いかー?」

「わかりました!少しだけですよ?」

「サンキューカッエ!」

「言いにくくないですか、それ」

「まあまあ。その前にこの袋の中身を冷蔵庫に入れてくるか」

アレスは一旦スーパーの袋を置いていく為に、玄関近くの台所がある部屋へと向かった。


「良いんすか⁉︎こ、こんな物食べさせてもらっちまって!」

「良いですよ、どうせ趣味で作りましたし。ショートケーキなんて1ホールも食べられないですから」


錠示雄成は楓に連れられ、1階の広い和室のような居間へと案内された。

玄関前の時点で、雄成は既に家の敷地の広さで少しも驚きを隠せてはいなかったのだが、いざ入ったら入ったらで、居間であったり、庭であったりの大きさに一々ビックリしていたのだが、楓はその挙動を見かける度に、軽く吹き出してしまっていた。

居間に通された雄成を待ち受けていたのは、居間のテーブルに敷かれた白いランチョンマットの上で並べられた、麦茶のペットボトルと6つに切り分けされた苺のショートケーキだった。

「美味そうだなぁ…。実は俺、甘党で…」

「マジでか」

ちょうど台所から戻って来たアレスが割って入る。

「あ、どうぞ。召し上がって下さいね」

「頂きまァーッス!」

「よっしゃ、食うゾ〜」

「アレスさんは一個だけですからね。お昼ご飯だけで、1人で4合も食べるなんて考えられませんからね」

「ちぇー」

今朝のニュース番組で取り上げられた、例の窃盗未遂事件。

その裏側で一体何が起きていたのか。

そして、アレスが遭遇したと言う悪魔の奇術師のジムーソンとの戦いの一部始終等の話を聞いていた楓。

ジムーソンへの止めに使った技である『鋼轟嵐《こうごうらん》』は、非常に高い威力を誇るアレスの必殺技なのだが、その反面、気合いと鉄のアルケー両方のエネルギーをかなり消耗する為に慎重な使い方を求められる技なのにも関わらず、アレスは『最後に決まるとカッコ良いから』などという理由で、フィニッシュによく使っているのだとか。

はっきり言って、いい加減にして欲しい。

何だろう。こういう時なんだと思う。

一粒食べるだけで約10日間何も食べずに済むようになったり、ケガを完全に治してしまうというあの魔法のお豆が凄く欲しい。


「旨かったっス!ゴチになりましたー!」

繊細なホイップクリームの甘みとイチゴの爽やかな酸味が、頬を溶かすように蕩けさせる。

雄成は結局、ショートケーキを2つ程ご馳走になった。

(しかし意外だな…、そんな甘いもんが好きそうには見えねーけどな。人は見掛けに依らないのだろうか…)

アレスはそんな事を考えながら、何となく麦茶を啜っている。

「はい、お粗末様です」

楓もどうやらご満悦のようだ。

「あの、兄貴。さっきの事聞いても良いスか?」

「ん?どーしたよ」

雄成はつい先程の出来事が気になっていた。あの技の事である。

「えっと…、波紋撃でしたっけ。

あれって、何だったんスか?よく分かんなかったんスよ」

「それの事な…」

アレスは少々迷いながらも、間を置いて提案してみた。

「やってみるか?オレの波紋撃」

「…え?」

「ただ知る位なら覚えてみろ。その技の事がよく解るようになるし、今後、またあんな事になった場合に役立つだろーよ」

「それもそうっすね…。でも出来るんスか?そういう感じの事なんて今まで一度も…」

「安心しろ。波紋撃はちゃんと練習すれば、早けりゃ1時間でも習得出来る。どうだ?」

本当に波紋撃なんて技が俺に使えるのだろうか。でもやるっきゃねぇ。どういうロジックなのかを、身を以て知ることが出来る折角の機会だし。それに、この技1つマスターすりゃあ、他のヤツらをボッコボコにする事など造作も無いことだろう。

「おっと。波紋撃はあくまで攻撃する為の技じゃねーからな。何かを守る心の力が、そのままエネルギーになるんだからよ。だから決して、『他のヤツらをボッコボコにする事など造作も無いことだろう』等と考えるんじゃねーよ?分かったな」

「⁉︎」

心を読まれただと⁉︎

兄貴…、一体アンタは何者なんだよ…。

「オレか?ああ、テメーにとっての兄貴だよ。文句あっか?」

「なっ…⁉︎あ、兄貴!さっきから俺の思ってる事を完璧に読み取れてるみたいだが、一体そりゃ何なんスか⁉︎」

「読心術だ。動作、表情、言動から、相手の心を読み取る1つの技術だ。まあ、今回はこれ関係無いから。

よし、早速練習しようぜ。庭に出て、靴を履いてこい」

「分かりました、兄貴!」

「兄貴じゃねー。ここからは師匠と呼ぶことだな」

「了解っス!兄…師匠!」

雄成はそそくさと、玄関へ自分のコインシューズを取りに行った。

「…アレスさん。あの人とは何処で知り合ったんですか?最初よく分かんなかったんですけど」

「散歩中に拾ってきた。少し鍛えてやろうと思ってな」

「という事はアレスさん。弟子取ったんですか」

楓は呆れた。居候の分際で弟子を取ろうなどとよくも考えたわ、と。

「言うほどじゃないさ。

ただ、技でも伝授してやろうかと思ってな」

「はぁ」

男性って、何を考えてるのか全然理解出来ない。

「お待たせしましたっス、あ…師匠!」

「よし。早速、ここの庭に出るぞ!

教えてやるぞ、波紋撃をッ!」


こうして、師匠のアレスと弟子の雄成のトレーニングの日々が始まったのである。



時は進み、その晩の午前1時28分。


某所、廃工場内。

中は薄暗く、僅かな月光が天井に空いた穴から細々と差し込む。

そんな建物内にポツンと1人、積み重なったタイヤの上に腰を掛けている1人の姿。

「ハァー、だりーよ。超だりーし」

金色の長髪に、所々改造が成された学ランの男、そう、彼の名は『西村佻助』である。

「変な喋り方するヤローに唆された挙句、よく分かんねー外国人に訳分からんコトされて気を失った…。分かりたくもねーが何となく分かってた。分かってたがよゥ‼︎」

座っているタイヤを、踵《かかと》で力一杯殴る。

「クソがッ‼︎根性無しだったか、俺様の子分は全員ドッカに行っちまった。俺様はあの出来事1つで全てを失ったッ‼︎何もかもだッ‼︎‼︎憎いぜ…。あのサザエさんみてーな髪型のヤローと意味わかんねー外国人がッ‼︎

大体何なんだよ…、直実節って…。地元民の俺様でも知らねーぞそんなのよ…」

毎晩仲間達と遊びまくっていた此処にはもう、何も残ってはいない。

俺様があんな余計な事しなければ、仲間を1人足りとも失う事なんて無かったのだろうか…。

「それにしてもよく分かんねぇ。あの時、あの外国人は俺らに何をしたんだ。右拳をいきなり突き出したと思えば、目の前が急にグニャグニャになって、気付いたら既に気絶しちまっていた…。すっげえ腹ン中が痛かったぜ。刺されたり焼かれたりした感じというよりは、こう、ギューッと、強い何かに握り潰されたりしているような、そんな痛みだったぜ…。魔法か何かか…。いや、ンなわきゃねーよな。俺様は現実に生きてる。そう、現実にだ。奇跡も魔法もねぇ、ただの普遍な世界に居ンだ。あんな可笑しな事がホントにあって堪るもんか!ザッけンじゃねーぞゴラァーッ‼︎」

現実にあった事を現実として認めたくない、絶対に認めたくはない。だが、受け入れなければならない。認めなければならない事なのだ。

これをそうであって欲しいと思う自分を認めたいものであっても、そう思う事はつまり、現実にそのような出来事が実際にあったのだと、自分で認める事になるのではないのかとも考える。そしてこうとも考え、口に出してしまう。

「あンなのが現実で出来るンなら、俺様にだって、それとは多少違うだろうが、もしかしたら出来るかも知れねぇ。したくはねぇけど、きっと必死に努力すりゃあ、この俺様にだってやれンじゃねーのかな」


「――――出来ますよ、努力なんて要りません」


「誰だよオイッ⁉︎今、この俺様の根城には一体誰が居るッ‼︎」

見回しても人影1つ見当たらない。

機械という程では無いにしても、感情の篭ってはいない、何とも無機質で不気味な声。

空耳だったのだろうか。それとも、今日だけで溜まっでしまった、処理のし切れない疲労による幻聴なのだろうか。

「『チカラ』…、差し上げましょうか」

「何だと」

何だ⁉︎空耳でも幻聴でも無かったのか!

「口をお開けなさい」

「んあぁ…、ホヘヘヒェンフブァッ⁉︎」

ゴホッ、ゴホッ!

突然、口内へ何かが放り込まれた。

「…ゴクン。あ、」

よく分からない小さく丸い何かが、急に投げ込まれたように飛び込み、喉に突っ込んできやがった。突然の事でよく分からなかったのだが、俺様はそれが何かを知らずに、反射的に飲み込んでしまった。

「…飲みましたね?」

「お…、おう」

声の主が何処にいるのか分からない。

ただ暗いだけならば、俺様には最低でもシルエットぐらいは見えるだろう。これでも視力には絶対の自信がある。学校の健康診断であった視力検査の結果で知っている。

俺様の視力は1.5以上だ。実際は2.0だが。

だが、それでも人影すら目視出来ない。そもそもの話、声の主には姿が無いのか?

そんな事よりも、今は飲み込んだ物について考えるべきだ。

何だか喉の奥が熱い。いや、食道が熱い。違う、そうじゃない。今度は胃袋が熱い。

否、"それ"の通った後がとにかく熱い。

焼きたての熱々なタコ焼きを口に放り込んだ際に、ハフハフするだろう。まあ、普通の人ならば、それ以前に、息を吹き掛けて冷やそうとするだろう。

だが俺様はしない。

それは作った人の、熱々な内に食べて欲しいという意思を捻じ曲げたくは無いのだ。

例え熱かろうが関係無い。火傷してでも、俺様はその人の魂に応えたい。それ以上に、俺様がその熱さに負けたと認める事になるのだと考えているからだ。

そんな俺様の事を、ただの馬鹿野郎だと思う奴は居て当然だ。だがそれで良い。別に、同じ事をやらない奴がどうたらこうたらと言う気など、毛頭も無い。

迷惑にはならないように気を遣いつつも、どうしても俺様自身の意志だけは曲げるつもりには、やはり成れない。何かに屈する所を子分というか、仲間に見せちまったら、総長たる俺様の、無敵という像を見せちまう事になる。常に絶対的な、野郎どものリーダーでなければならないと心から誓っていたからだ。

その仲間はもう、俺様の元には居ない訳なんだけどな。

…………思索が脱線しちまった。

つまり…、そンくらい熱いって事だぜ!

「お…い……。俺…様に……、何を飲ませやがったッ⁉︎オイィッ!」

呼吸が荒れる。

頭がフラフラしてきた。

が、同時に何か、よくも理解出来ないような『チカラ』が、体の奥底から湧いてくる。

気持ち良い。

熱さが裏返ったのか、それとも俺様がトチ狂ったのか、とにかく、"それ"が体内収まってから感じていた焼けるような熱さが、俺様には最高に気持ち良い、スカッとするような気分になってきた。今の俺様なら何もかもが1人でこなせそうな、そんな根拠も無いようなやる気が全身から溢れてくる。

「それは『覚醒の丸薬』。得たのですよ……そう、チカラを。覚えておきなさい、手に入れたそれの名は『アルケー』。そしてその属性は『熱』。温度を急激に上げたり下げたり。その使い道は、貴方にお任せします」

「何⁉︎ンな物を飲ませる程の理由の1つ位はあるのでは無いのか⁉︎」

一瞬、自分の言葉遣いに違和感を覚えた。

「無い。強いて言えば、殺しの限りを尽くせ。そして、その騒ぎを聞きつけて駆けつけるであろう、とある神を死に晒すのだ」

とある神?何の事だ。

「おい、その神とやらは何て名前なんだよ。ご希望なら直接行ってやるからよ」

その名を聞いて佻助は驚愕した。

何故なら、

「神界より舞い降りた、戦争を司り、荒ぶる軍神。『アレス』だ」

其奴《そいつ》は今日の昼頃、俺様含む仲間全員を謎の力によって気絶させた、謂わば、俺らを解散にまで追い込んだ張本人だからだ。

佻助の心の中で、アレスに対する憎悪の感情が氾濫を起こしている。

「熱の…アルケーとか言ったな。それさえありゃ、アレスをぶっ倒せるんだよな?」

復讐の意を込めて言葉を放った。

「そこは貴方次第ですよ。その能力を使いこなせるだけの実力が備わっているかどうかに依ります。アルケーに振り回されたりする事が無いよう、健闘を祈りますよ…」

姿こそ見えなかったが、その声の主がそこから居なくなった事だけは解る。何となく、雰囲気で感じるのだ。

「熱のアルケーか。ドワァァァッ⁉︎……痛ッつぅ」

佻助はタイヤに腰掛けていた、筈だった。

瞬間、ドロッと腰の辺りが解けたかと思うと佻助は素っ転んでしまった。

「タイヤが…、解けているッ⁉︎

これが本当に俺様の能力だとでも言うのかッ‼︎」

佻助の触れていた辺りが、まるで土砂崩れにでもあったかの様な、ドロドロと解けた形へと変貌していた。

「ははは…、良いぞ!良いぞ良いぞ!このチカラさえあれば、あの野郎をぶっ殺せるぜ!だが、ここで焦っちゃあいけねぇ。この熱のアルケーについては俺様自身も正直まだ理解が足りていないしな。よし、早速特訓だぜ!」

アレス達の知らぬ所で、西村佻助による秘密の特訓が始まったのであった。


果たして、アレスは『刺客・西村佻助』に勝てるのか!

そして、佻助にアルケーを授けた姿の見えない声の主の正体とは⁉︎

この作品に触れて頂き、誠に有難う御座います。

さて、終盤に現れた謎の声の主。

佻助に飲ませた『覚醒の丸薬』とは一体何なのか、声の主の正体とは。

これからも、この鉄のアレスをどうぞお楽しみ頂ければ幸いです。

それでは、また次回。

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