表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/39

【最終章 望月の 欠けたることも なしと思へば】全年齢版④

【最終章 第4話】


「小泉さん!ねぇ、商店街に怪物とヒーローが出てるって!」


 日向が、食いつくようにテレビの前へ身を乗り出す。画面では、緊迫した声で、アナウンサーが原稿を読み上げていた。


『引き続き、事件の現場から生中継でお伝えします』


 映像が切り替わる。


『こちら、七夕祭りの会場です。ご覧ください。にわかには信じがたい光景ですが、私たち取材陣の目の前で、怪物と、それに立ち向かうヒーローが交戦しています』


 画面の中では、怒号、悲鳴、発砲音、はぐれて泣きじゃくる子供。まるで戦争でも始まったのかと思わせる混沌。


『正しくは……ヒーローなのか分かりません。ですが、少なくとも彼らは、傷ついた人を庇い、避難を誘導していました』


「……今日は、七夕祭りは難しそうだね」


 小泉が、テレビから目を離さずに言う。


「日向くん、今日は家で遊ぼうか」


『怪物が現れた直後、二人の若者が前に出て、私たちの目の前で、変身したように見えました』


 慌てて撮影されたのだろう。画面は揺れ、焦点も合っていない。


「……え?」


 日向の声が、わずかに上ずった。


「蓮にいちゃんと……柊にい?」


「え?」


 小泉が振り返る。


「蓮くんと、柊くんが……どうしたって?」


 テレビの中では、赤と青の閃光が、断片的に映し出されていた。


 身近な街。毎年、同じように繰り返されてきた、ささやかな祭りの時間。けれど今、人々の目に映っているのは、それとはまるで異なる、恐ろしく、そして否応なく現実を突きつける光景だった。


⸻⸻


「式神強装、陰陽消長」


 声が、重なった。世界が、一段階、静まる。余計な音が削ぎ落とされ、感覚が鋭く研ぎ澄まされていく。


 これなら、酒呑童子と互角にやりあえる。


「ブルー! 合わせて! 業火流水の矢!」


 放たれた矢は空へと舞い、洗車雨のように降り注いだ。


〔……外道丸殿〕

〔……文も見で 心も知らで〕

〔……昔は物を 思はざりけり〕


「水鏡……大斬刀!」


 写し身が酒呑童子の腕を捌く。その一瞬の隙を逃さず、ブルーが振り抜いた。水の流れのような、しなやかな太刀捌き。それに似つかわしくない、重く、確かな一撃。


〔……憂し〕

〔……恨めし、恨めし、恨めし〕

〔……恨、恨、恨〕


 酒呑童子の身体から噴き出す煙の中。その奥に、かすかな文字のようなものが浮かび、そして、立ち消える。攻撃を重ねるごとに、溢れる言葉が、より鮮明になっていく。


「朱雀! さっきから聞こえるこれ、なんだ!?」


「……わからねぇ。俺様たちの時代の言葉ってのはわかるが」


 玄武が、低く呟く。


「これは恋じゃな。わしには、恋の和歌うたに聞こえるそれも、情念に焼かれた、悲しき恋の和歌うたじゃ」


「恋の和歌うた……」


 酒呑童子が、くつくつと喉を鳴らした。


「ふふ。面白いことを言うね」


 その瞬間、酒呑童子の瞳が、僅かに揺れる。


「酒呑童子、教えてくれないか」


 視線を、真っ直ぐに向けた。


「なんで、人を、愛を、狙うんだ?」


「何故か……うん、そうだね。それくらいは、教えてあげよう」


 酒呑童子は、どこか愉しげに口角を上げる。


「私はね、人類に終わってほしいんだ。ゆっくりと、静かに、衰退してほしい。君たちの生み出す愛は、美味い。だが、憎しみや争いを生む。それは次代に継がれ、苦しみが連鎖する。ならば、余計な感情ごと、愛を喰ってしまえばいい」


「愛し合う感情がなければ、人は情を交わさない。人は獣とは違って、理性がある。感情がなければ、本能は理性に劣る。子を成さず、育てず、やがて、静かに、終わりを迎える」


「……そんな、勝手な理由で……」


 ブルーが、拳を強く握りしめる。


「私は、気に入っているんだよ」


 酒呑童子は、視線を二人に向けた。


「君たちは、番いになったとて子を成せぬ。血は絶える。だが、極上の愛を生み出す。飼ってあげよう。人類が滅びるまで。私の食事としてな」


「ふざけんな」


 レッドが、即座に言い切った。


「俺たちのことは、もう答えを出してる」


「うん、あなたに、どうこう言われる筋合いはないね」


 酒呑童子は、距離を取り、声を上げて笑った。


「そうか。なら、仕方ない」


 一拍置いて、視線を細める。


「ところで、まさか、自分たちが“互角に戦えている”なんて、思っていないだろうね?」


 笑みが、さらに深くなる。


「十分、楽しめたよ。たった数週間の間に、随分と美味そうに育ったじゃないか。そろそろ食事にしよう。呪力を纏えるのが、君たちだけだと思ってないだろうね」


 酒呑童子の周囲に、禍々しい呪力が渦を巻く。


「呪力怨装」


 とても穏やかに、しかし冷酷な声色が届く。渦巻いていた呪力が酒呑童子の身体に重なり、赤い甲冑のような形を成した。ビリビリと脳髄にまで届くような圧が、のしかかるように全身を貫く。


 酒呑童子が、腰の刀を抜き、構える。


 反応する間もなかった。


 瞬きのまに酒呑童子の顔が、目の前にある。


「レッド……!」


 腹部に、焼けつくような熱。


 視線を落とすと、酒呑童子の刀が、腹部を深く貫いていた。


「……がっ、は……っ」


 激痛と共に、酒呑童子の悲しみに満ちた呪力が、流れ込んでくる。悲しく冷たい。


「ぐっ……柊……」


 それは、刃よりも冷たい。愛を知らぬ者の、哀しみだった。

5月22日更新分は、12時00分から10分ごとに、ラスト3話+あとがきを公開いたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ