表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/34

【最終章 望月の 欠けたることも なしと思へば】全年齢版②

【最終章 第2話】


 気がつけば、眠っていた。いつ、どうやって横になったのかも覚えていない。瞼の向こうから、じわりと光が差し込む。


「……ん……」


 寝苦しさに、無意識に身じろぐ。肌にまとわりつく空気は、すっかり夏のそれだった。修行を初めて何度目かの朝。カーテンの隙間から差し込む日差しが、やけに眩しい。


「……暑っ」


 喉の渇きとぼんやりした頭。呪力を使い切ったような感覚があるのに、身体が、軽い。指先を、そっと握る。呪力が、心臓の鼓動に合わせ、血液のように、滞りなく全身を流れていくような……その感覚に、わずかに目を見開いた瞬間。


「お、起きたか」


  軽い調子の声。朱雀が、いつものように宙を飛んでいる。


「よくやったな。完全に、呪力が循環してるぜ」


 にやりと笑う。


「無駄もねぇ、滞りもねぇ、今のお前らは、かなりいい状態だ」


 胸の奥で、静かに何かが落ち着いていく。


「蓮、おはよう」


 キッチンから、柊が顔を覗かせた。


 ゆっくりと身を起こす。


「今日は、街で酒呑童子の気配を探そう。ついでに、買い出しも」


 柊の言葉に、一瞬だけ別の考えがよぎる。久しぶりのデート、なんて言葉。でも、流石に今はそんな状況じゃない、な。


 床に足をついて立ち上がる。


「……呪力、馴染んでるだけじゃない。柊と深く繋がってるみたいだ」


 呟くと、朱雀が楽しそうに笑った。


「そうそう、それだ。前みたいな垂れ流しじゃねぇ。呼吸するみてぇに、勝手に、でも、無駄なく巡ってるだろ」


 これなら、酒呑童子にも届くかもしれない。


 外に出ると、朝の空気が一気に流れ込んできた。梅雨が明け、蝉の声が一斉に騒ぎ出していた。アスファルトに照り返す光。じりじり、と肌を焼く日差し。季節は、完全に夏だった。


 商店街へ向かう途中、自然と周囲を探る。呪力の気配、歪み、不快な濁り、物怪の気配が何ひとつない。


「……静かだな」


「うん、酒呑童子の気配は、感じないね。やっぱり隠されたりしたら、わからないのかも」


 そう言いながらも、柊の視線は街の奥へ向けられていた。


 商店街に入ると、雰囲気が少し違う。店先に、色とりどりの紙。笹の葉。ガラス越しに揺れる短冊。


「……もう、そんな時期か」


 電柱に貼られた一枚のポスターが、目に入る。


《第68回 星降り七夕祭り 今週末開催》


 屋台の準備をしている店主たち。子どもたちのはしゃぐ声。短冊に願い事を書くスペースの案内。


 平和な日常。あまりにも、普通すぎる。酒呑童子が現れた時の集団昏睡事件はあったものの、玉藻前を封印してからというもの、物怪は形を潜めている。そうなれば、人は警戒心を緩めてしまう。


「なぁ、蓮。こういう時ほど、嫌な予感がする」


 同意するように、胸の奥がざわつく。


 七夕。

 願い。

 星。

 想いを結ぶ夜。


「人の感情が溢れる夜。あいつが、黙って見てるとは思えないよな」


 そこが、次の戦場になるかもしれない。


 短冊に願いを書く子供を遠くから見つめる。日向はどうしているだろうか。


「会いたいなぁ」


 風が吹き抜け、短冊が、かさりと音を立てた。空を見上げる。まだ、青い。けれどその向こうに、確実に夜は近づいている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ