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【最終章 望月の 欠けたることも なしと思へば】全年齢版①

【最終章 第1話】


「やーっと出てこられたぜ!」


 朱雀が姿を現すなり、羽根を大きく広げて伸びをする。


「ふむ……素晴らしい呪力に満ちておる。満ちて……おるなぁ」


「酒呑童子にやられて、一時はどうなるかと思っちまったが……おいおい、おまえら……そうか。ついにか」


 朱雀がちらりとこちらを見る。


「ほっほっほっ。今夜は赤飯かのう?」


 玄武が、にやにやとした笑みを浮かべながらこちらを見つめてくる。


 やめろ。なんだその目。妙に居心地が悪い。


「ほー! やるじゃねぇか!」


 朱雀が、楽しそうに声を上げる。


「どうにもなんねー時はよ、ちょちょっと呪力悪用して、強制的に呪力を高めさせちまおうとも思ったが」


 ……今、悪用って言ったよな?


「へー」


 柊が、妙に素直な声で食いついた。


「朱雀。それって、具体的にどんなことできるの?」


 おい、柊。なんで興味津々なんだ。


「そうだなぁ」


 朱雀は嘴に翼を当て、楽しそうに考える。


「全身の感覚を最大まで上げたり、呪力を高めないと出られない部屋作ったりよ……お、なんだ、興味あるか? 今なら初回サービスで……」


「その話、終わり!!」


 思わず声を張り上げる。


「このアホ鳥! やっと出てきたと思ったら、なんてこと話してんだよ! 柊も残念そうな顔すんな! ばか!」


 言葉を遮られた柊が、わずかに唇を尖らせる。


「初回サービス……」


 ……拗ねてる。こいつもやっぱり、普通の男の子なんだな。まぁ、俺も興味がないわけじゃないけど。


「……ところで、朱雀よ」


 空気を切り替えるように、玄武が口を開いた。


「こやつらの呪力じゃが、何か、おかしいとは思わんか? 繋がりが異常に深いというか……」


 二人の間を、ひらりと飛び回る。


「確かに。いつもと比べると、妙だな」


 朱雀が真面目な声に戻る。


 玄武が、ゆっくりと頷いた。


「うむ、なるほどな。二人の呪力が深く結びつき、互いを循環しておる。昨夜の出来事のせいかの」


 昨夜の出来事。先ほどまでの情景を思い出し、耳が熱くなる。


「陰陽師同士の感情が繋がると、こんなことになるのか」


「……ふむ。この状況、使えそうじゃな」


 おれと柊を置いて、話がどんどん先に進んでいく。


「ちょっと待て、もう少し、わかるように説明してくんない?」


 玄武が、にやりと笑った。


「よかろう」


 低く言い切る。


「身体に、教え込んでやる」


 朱雀が、にっと不敵に笑う。


「特訓だ!!」

「特訓じゃ!!」


 盛り上がる式神たちと、なぜか目をギラつかせる柊に挟まれ、俺は一抹の不安に頭を抱えた。


「まず、現状確認じゃな」


 玄武が低く言い、俺の前に立つ。


「はっきり言うぞ。蓮は、呪力量が多いが、コントロールが雑」


「うっ」


 思わず声が漏れた。


「事実じゃ」


 玄武は容赦がない。


「溢れる呪力を、力任せに叩きつけておる。威力はあるが、無駄が多すぎる」


 今度は、柊を見る。


「一方で、柊。お主は、コントロールは上手いが、呪力量が少ない」


 柊は否定しなかった。薄々、自覚があったからだ。


「正確で、迷いがない。じゃが、単独では押し切れぬ場面が増えておる」


 朱雀が豪快に笑う。


「つまりよ。どっちも単品だと、酒呑童子クラスには足りねぇってこった」


「しかし今のお主らは、以前と違う」


 二人の間に、ゆっくりと水紋のような呪力が広がる。


「蓮の量が柊の制御を通って整い、柊の精度が蓮の力で補われておる」


「名付けるなら、バイパスってやつだな」


 朱雀がにっと笑う。


「つまり、二人で一つの呪力回路になっている……?」


「その通りじゃ。一流の陰陽師であれば、一人で循環できるのじゃがの」


 玄武は満足げに頷く。


「そして、これを意識的に使えるようにすれば、もう一段、強くなれるってわけだ」


 息を呑む。


「……じゃあ、俺が全部出して、柊が全部整える?」


「近いが、まだ甘い」


 玄武が首を振る。


「一方的では長くもたん。循環が切れる」


「だから、交互に主導権を渡す」


「攻める時は蓮、耐える時は柊。んで、切り替えの瞬間に……呪力を一気に跳ね上げる」


「それ……相当、呪力がいるだろ」


「相当?」


 朱雀が吹き出す。


「甘ぇな。今までの比じゃねぇぜ」


 にやにやと笑う。


 玄武が、軽く咳払いをした。


「方法はさておき、重要なのは、呪力を共有しながら役割を切り替える感覚を、身体で覚えることじゃ」


「頭で理解しても意味はない。感情、呼吸、体温。すべてが揃った瞬間にしか、回路は安定せん」


 静かな沈黙が落ちる。


 俺は、柊を見る。


 柊も、同じように俺を見返した。


「……やるしか、ないよな」


「ああ」


 柊は小さく頷く。


「避けて通れない」


 朱雀が、満足そうに羽根を鳴らす。


「よし決まりだ!」


 玄武が、低く宣言する。


「しばらくは、寝る暇もないぞ」


 圧倒的だった酒呑童子の力。

 それに対抗できる可能性が、ほんのわずかでもあるのなら……


 俺は、柊の手を取り、ぎゅっと、強く握りしめた。

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