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【第4章】全年齢版①

【第4章 第1話】


 目を覚ましたのは、まだ朝だと確信するには少し早い時間だった。浅い眠りの底で、何度も意識が浮かんでは沈んでいたせいか、体は重いのに、頭だけが妙に冴えている。


(……近い)


 そう思ってから、ゆっくりと視線を動かす。シングルベッド。逃げ場のない距離。昨夜、特別な言葉を交わしたわけじゃない。ただ、どちらからともなく、当たり前みたいに同じ布団に入った。体温が触れ合ってしまうのは、もう避けようがなかった。


 背中に、ぬくもり。呼吸のリズム。眠っているはずなのに、確かにそこにいると分かる存在感。それだけで、胸が満たされてしまう自分がいる。


(……寝不足、だな)


 そう思いながら、体を起こそうとした瞬間。


「……ん」


 小さな声と一緒に、ベッドが軽く沈み、腰に腕が回され、引き寄せられる。温かな体温が全身を包み込み、首筋に僅かな呼吸が触れる。たった一晩で、ここまで意識してしまうなんて。


「おはよ」


 耳元で、柊が囁いた。まだ少し眠たげで、それなのに、やけに甘い声。


「……おはよ」


 声が、思ったより低くなった。


「眠れた?」


 問いかけは、からかうみたいに優しい。


「あんまり」


 正直に答えると、柊は小さく笑った。


「おれも」


 身体を起こした柊に、仰向けにされると、顔を覗き込まれる。額が軽く触れ、それから……ほんの一瞬だけ、唇に触れる。深くもなく、確かめるみたいなキス。それだけで、心臓が跳ねた。


「……やっぱさ」


 柊は冗談めかした声で言う。


「ちょっと大きいベッド、買い足す?」


「……それ、冗談に聞こえねぇんだけど」


「はは。どうだろ」


 そう言い残して、また一度強く抱きしめた後、するりと腕を解き、ベッドから立ち上がる。名残惜しそうに一度だけこちらを振り返る。


「先、朝ごはん作るね」


 そのまま、キッチンの方へ消えていった。残された布団には、まだ温度が残っている。昨夜よりも、目を覚ました今の方が、ずっと現実味があった。二度のキス。親友だと言い聞かせていた想いは、早まる鼓動に否定され、胸を締め付ける感覚が、新しい答えを出していた。


(……付き合うってことに……なるんだよな)


 全身に熱が広がる。隣で眠るだけで、こんなにも満たされる。唇に触れた、体温の名残りに触れる。初めてだった。隣の枕に顔を埋め、柔らかくて甘い香りを深く吸い込む。


「……しちゃった」


 小気味よくまな板包丁が叩く音が、鼓動と重なる。思いがけずもたらされた恋人との同棲。二人の新しい日常が少しずつ動き始めた。

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