【第3章 逢ひ見ての のちの心に くらぶれば】全年齢版②
【第3章 第2話】
吉岡酒店に到着し、玄関先で、二人とも少しだけ立ち止まる。今日から柊は、ここで暮らす。
吉岡酒店は、一階が店舗で、三階に吉岡さん、二階に吉岡さんのご両親が住んでいた。玄関開けるとダイニングキッチンがある。そこを中心に、リビングと寝室、そして風呂とトイレに繋がる。俺はこれまで、寝室とキッチンしか使ってこなかった。今日からは、リビングが柊の部屋になる。
どちらから先に靴を脱ぐでもなく、声をかけるでもなく。
「……先、どうぞ」
ほぼ同時に言って、顔を見合わせる。
「……あ」
「……はは」
それだけで、少し緊張がほどけた。柊は鞄を置き、ゆっくりと腰を下ろす。
「……不思議だな」
「なにが?」
「こうして一緒にいるの。元々はひまわりの里で一緒に住んでたのに、今日から二人でって思うと、急に実感が湧いてきて」
柊の声は静かだった。
「あ……腹、減ってない?」
「減ってる」
即答すると、柊は小さく笑いながら立ち上がり、台所の方へ目をやる。
「……ここ、使っていい?」
その一言が、泊まりじゃなく生活なんだと、意識させる。
「もちろん。好きに使ってくれ」
そう答えると、柊が袖をまくる。逞しい腕に浮かぶ血管に目がいく。あれ、こいつ、こんなに男らしかったっけ?
「蓮、冷蔵庫、勝手に開けるね」
「今さらだろ」
冷蔵庫を覗いて、柊が小さく息を吐く。
「……予想以上に何もない」
「はは。自炊、しないからな」
「まぁ、知ってた」
そう言いながらも、柊は戸棚を開け、最低限の材料を探し出していく。包丁の音が、部屋に響く。その音を聞いているだけで、不思議と胸の奥が落ち着いていく。
「……なぁ」
「ん?」
「こういうの、なんかいいな」
柊は手を止めずに答えた。
「うん。……悪くない」
火にかけた鍋から、湯気が立つ。同じ部屋で、同じ時間を過ごしている。それだけのことなのに……今日は、少しだけ特別だった。




