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魔眼の幻創術師 ~勇者パーティに見捨てられた三流幻術師は真の力に目覚めて世界を翻弄する~  作者: 結城 からく


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第96話 逸脱した幻

 一体どれほどの時間が経ったろうか。

 俺の目の前には痩せ細った人間が横たわっている。


 その人間は皺だらけの皮膚で、掠れた呼吸音を繰り返している。

 元の人相が分からないほど衰弱していた。


 ――こいつが勇者だったなんて、とても考えられない。


 しかしそれが真実だ。

 こいつが積み上げてきたものを奪い続けた結果、こんな風になってしまったのである。

 ほぼすべてを失った元勇者は、抜け殻同然の状態だった。


 俺は元勇者の背中を注視する。

 もう何も出てこない。

 無理やりやれば僅かな記憶や人格くらいは抜き取れるだろうが、そんなことをしても意味がないだろう。


 足で踏みつけると、皮膚が破れて血が滲んだ。

 筋肉は薄く、ほとんど機能していない。

 もう少し力を込めれば体内まで突き破れるはずだ。


(これが聖剣の魔王……元勇者の末路か)


 俺は無表情で見下ろす。

 なんともあっけない幕切れだった。

 とてつもない強さを披露した元勇者だが、結局は物理法則の範疇だった。


 元勇者は世界最強とも言えるほどの剣術を持っていたが、幻創魔術は別次元にある。

 真っ当な強さが通用しない領域にあり、実際に圧倒的な格差が存在していた。


 元勇者が悪いのではない。

 この能力が規格外だっただけだ。

 逸脱した幻に対し、行儀の良い物理法則が対抗できるはずもなかった。


 俺はいつの間にか片手に不浄剣を握っていた。

 杖から変形して剣になっている。

 心の内で望んだから出現したのだろう。


 俺は無言で不浄剣を振り上げる。

 あとは真っ直ぐに下ろすだけだった。

 枯れた元勇者の命を簡単に散らすことができる。


 それで終わりだ。

 俺の復讐は終焉を迎える。


 その時、動かなかった元勇者が跳ね起きた。

 どこに残っていたか分からない力で掴みかかってくる。

 元勇者は乾いた目を見開いて叫ぶ。


「おれ、は……まけて、いない! ころされて、も……こころ、だけは、おれない、からなっ」


 元勇者が俺の頬を殴る。

 痛みを伴わない衝突だった。

 同時に枝の折れるような音が鳴る。


 見れば元勇者の手首がおかしな方向に曲がっていた。

 割れた手首から血が微かに流れる。

 殴った弾みでそうなったようだ。


「く、くおおおおおぉぉぉっ」


 元勇者は残る手を伸ばして俺の首を絞めてきた。

 握力が足りておらず、まったく苦しくない。

 そもそも半透明の身体には呼吸など不要である。

 元勇者が万全の力だったとしても感想は変わらなかっただろう。


 俺は必死に首を絞めてくる元勇者を眺める。


(こんな姿なのに、まだ絶望で潰れていないのか)


 心を折ってから殺すつもりだったが、残念ながらそれは叶いそうにない。

 元勇者はクズ野郎である。

 しかし、それを上回る決して崩れない信念を宿していた。

 この点だけは否定できない。


 素直に負けを認めた俺は、不浄剣で元勇者の首を刎ねた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今話もありがとうございます! ……レードは『死合』には勝ったが、ある種の『勝負』には負けたわけか。 だからといってレードの足跡がここで途絶えるわけはないが。 [一言] 続きも楽しみにし…
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