第97話 復讐完了
僅かな迷いもなく剣を振り抜く。
ほとんど手応えなく生首が宙を舞って落下する。
遅れて身体が膝から崩れ落ちた。
断面から小さく血が噴いてすぐに止まる。
転がった生首は決死の形相を浮かべていた。
俺への絶対的な抵抗だろうか。
どんな姿になっても決して絶望することはないと主張しているように感じる。
それは負の勇気と言える感情であった。
暴力では敵わないと悟り、執念を見せつけてきたのだ。
狂気的な意志が伝わってくる。
同じだった。
俺も執念で盲目の五年間を生き延びた。
絶体絶命だったが、幸いにも生き延びる道があった。
そこから死に物狂いで努力して、奇跡的に幻創魔術を習得した。
一方で元勇者は状況的に詰んでいた。
俺が徹底的に逆転の芽を摘んだからである。
何が起きてもやられないように、多重の策を敷いて執拗に追い詰めてきた。
実際、まだいくつか切り札は残している。
それは元勇者も同様だろう。
きっと諦めて使わなかったのだ。
どんな手段で反撃したところで、すべて幻に塗り潰されると分かっていた。
だから無抵抗で奪われるしかなかった。
俺は元勇者の死体を不浄剣で取り込む。
すると白い空間が蒸発するように消えて元の世界に戻った。
前方には都市の跡地が広がっている。
俺は近くに転がっていた僧侶の死体も不浄剣で吸収した。
二人の英雄を喰らった不浄剣は、枯れ枝の長い杖となった。
ひび割れた表面には無数の古代文字が刻まれている。
見つめていると黒い液体が文字から漏れてきた。
臭いからして古い血だろうか。
怪訝に思った俺は魔眼の視点をずらす。
血に無数の顔が浮かんでいた。
この武器で殺してきた者達の顔だ。
恐ろしい顔をして怨念を垂れ流している。
鼓膜にへばり付くような不快感だった。
「…………」
俺は親指で顔を押し潰して杖になすり付ける。
怨嗟の合唱は途切れて聞こえなくなった。
これでいい。
耳を貸してやるほど律儀な性格はしていない。
その直後、杖が変形して剣になる。
禍々しい形状ではない。
洗練された機能美を持つ剣だ。
形状に見覚えがある。
いや、先ほど目にしたばかりだった。
つまりそれは元勇者の具現化した剣術であった。
気が付くと俺の手足が痩せ細っている。
乾燥して皺だらけで、今にも折れそうだった。
死ぬ直前の元勇者と酷似している。
(何かが干渉したのか。或いは俺の感情の起伏か)
落ち着いてゆっくりと瞬きすると、四肢は元通りになった。
もう勝手に変貌することはない。
嘆息した俺は夜空を仰げて剣を掲げる。
月が白やかな光を落としていた。
俺を見捨てた三人の英雄は死んだ。
五年前の復讐はようやく終わったのだった。




