第95話 失っていく力
俺は手に入れた剣を見つめる。
視線がきっかけになったのか、剣は端から変色して風化していった。
そのままあっという間に消滅する。
俺は元勇者を踏んだまま報告した。
「お前の剣術は消えた」
元勇者の背中を注視すると、今度は水晶が出現した。
内部で様々な色の光が明滅しながら渦巻いている。
これはおそらく元勇者の魔力だ。
魔術的な才能も含まれているのは、水晶の表面に刻まれた術式で推察できた。
剣士である元勇者だが、別に他の分野に秀でていないわけではない。
むしろ両立させることで超人的な強さを獲得していた。
俺は水晶に足を置いて力を込めていく。
頑丈そうな水晶に亀裂が走り、軋むような音が鳴り始めた。
臨界点に達した瞬間、甲高い音を立てて砕け散る。
破片が白い空間に飛散し、薄れて消失した。
「これで魔術も失った」
俺はそう告げながら元勇者の血だらけの背中を注視する。
今度は一冊の書物がはみ出してきた。
これは分かりやすい。
知識や記憶だろう。
どこまでを司っているのか不明だが、わざわざ読む必要もない。
しかし、すべてを消滅させると苦痛を与えるのに支障が生じてしまう。
俺は書物から適当なページを引き千切り、人差し指で撫でた。
その動きに沿って炎が生まれてページを燃やし始める。
追加で何度かページを破って燃やすと、残った書物は踏み付けて背中の中に戻した。
これ以上はまた後でいい。
「知識や記憶の一部を失ったはずだ。気分はどうだ」
「…………」
元勇者は答えない。
ただ静かに出血するだけだった。
まだ生きているのは確かだ。
反応するつもりがないのか、或いはそれだけの気力が残されていないのか。
もはや俺の言葉を理解しているかも怪しかった。
それでも手を抜くつもりはない。
俺は幻創魔術で元勇者の持つ様々な要素を奪っていく。
かつて裏切られた報復だった。
陰湿かつ過剰な仕打ちだが、それでいいと思っている。
半端な復讐はまた新たな争いを生み出すだけである。
ここで遺恨を断つのが一番だろう。
そう言い聞かせて、無抵抗の元勇者に遠慮なく手を加えていった。
最強の剣士だった男が、少しずつ削れていく。
俺が丁寧に奪っては捨てている。
そのたびに元勇者の積み上げたものが無かったことになった。
快感はない。
ただ己の醜さを感じながら、因縁の終わりに向かっているだけだ。
後悔は恐怖もない。
空虚な怨念を抱えて、俺はひたすら元勇者を台無しにし続けた。




