第87話 道を外れた英雄達
「前からこいつは殺したかったんだ。妙に増長して鬱陶しくてな。お前のおかげで楽ができたよ」
元勇者が僧侶を踏み、愉快そうに笑う。
その姿を見た俺は心底から罵倒した。
「……外道野郎が」
「お前だって同じだろう。ここまで来るのにどれだけ手を汚してきた? 生半可なやり方では辿り着けなかったはずだ。オレは知っているぞ。上層部を消して王国を奪った挙句、魔王を殺しまくっているらしいな」
元勇者は冷淡に語り、それから聖剣で僧侶の首を刎ねた。
乾燥した生首がしばらく転がってから止まる。
断面から血は流れてこない。
血の一滴も出ないほど体内も枯れているようだ。
元勇者は首なしの胴体を踏み砕きながら断言する。
「世界を最も乱しているのは間違いなくお前だ、レード」
「だったらどうした。まだまだ乱すつもりなんだ。これくらいで怒るなよ」
「……開き直りやがって。以前にも増して生意気な態度だ。まったく、本当に、殺したくなる」
元勇者が忌々しそうに睨み付けてくる。
奴は聖剣を引いて構えると、不敵な笑みを見せて言う。
「五年で強くなったのがお前だけだと思うなよ」
次の瞬間、元勇者の姿が消えた。
いや、恐ろしい速度で疾走してきているのだ。
俺は紙一重で不浄剣を割り込ませて防御し、力任せに振り払いながら眉を寄せる。
(――速い。油断していたら斬られていた)
とてつもない身体能力だ。
それを元勇者は自然な動きから発揮している。
決して無理をしているわけではない。
奴にとっては序の口なのだろう。
案の定、元勇者は低い姿勢で聖剣を振りかぶると、勝ち気な様子で笑みを深めた。
「まだまだ加速するぜ」
元勇者が霞むような挙動で斬りかかってくる。
俺は魔眼を駆使して対処した。
単純な連撃だが、その速度が常軌を逸している。
一瞬の攻防で掠り傷が増えていく。
反撃の機を窺う中、俺はあることに気付いた。
(傷が再生しない?)
受けた掠り傷がいつまで経っても治らない。
本来なら幻創魔術によって一瞬で再生するはずだ。
視線で考えを読んだのか、元勇者が嘲るように説明する。
「驚いたか。オレの聖剣は再生阻害と状態固定の力を持つ。お前がどんな能力を持っているか知らないが、そう簡単に治癒できると思うなよ」
その間も凄まじい連撃が続く。
さすがは元勇者である。
一筋縄ではいかないようだ。




