第88話 元勇者の実力
元勇者が絶え間なく攻撃を繰り出してくる。
だんだんと加速する規格外の剣術は、一太刀で他の魔王を斬殺しかねない凄みがあった。
本来、勇者として備えていた素質に加えて、殺した相手の力を還元する聖剣の機能が完璧に噛み合っている。
この五年間で元勇者も尋常でない領域まで強くなっていた。
魔王として君臨するために、一体どれだけの命を取り込んできたのか。
鍛練についても狂気的な質と量をこなさなければ、ここまでには至らないはずだ。
(幻創魔術では、間に合わない。技量の差が大きすぎる)
聖剣の振り上げが迫るが、距離的に避け切れない。
次の瞬間には、左腕が付け根から切断された。
断面から血が迸る。
意識を向けてもやはり再生しない。
聖剣の再生阻害が効いている証拠だった。
俺の幻創魔術を上回るとは、相当な強制力である。
飛び退いた俺は、腕の断面を押さえながら元勇者を見る。
元勇者は少しも息を切らしていない。
まだ余裕が窺えるということは、すなわち全力とは程遠いのだろう。
俺の心を折るつもりであるのはよく分かった。
元勇者は聖剣を回して嘲笑する。
「この程度の実力でオレに挑んだのか。やめてくれよ、笑えてくるだろ。幻の魔王は最強だと噂だったが、実際は大したことが無いようだ。有能な仲間頼りだったんだな」
「…………」
俺はただ視線を返すだけで反論はしない。
焦りは怒りは隙を生むだけだ。
実際、元勇者はそれを誘っているのだろう。
奴が一気に勝負を終わらせないのは、幻創魔術を警戒しているからだ。
ここまであっけないはずがない。
そう考えているからこそ、慎重な立ち回りを意識している。
あわよくば挑発で俺の理性を削ろうとしているのだ。
(その手には乗らない。俺は勝つためにここにいる)
因縁を断つのだ。
下らない感情に惑わされている暇はなかった。
俺は戦況を冷静に見極める。
身体能力と技能は元勇者が圧倒していた。
これは認めざるを得ない。
性格は最低だが大した実力である。
元勇者は横暴が見合うだけのものを持っていた。
奴の神髄は剣術と身体能力だ。
二つの要素を聖剣による成長能力で無限に強化している。
単純明快だ。
故に対処が難しい。
まともな打ち合いでは負ける。
そこで対抗すると敵わないのは明白だった。
たとえ不浄剣の能力を全開にしたところで、それを凌駕する斬撃が来る。
再生できない不利を背負っている以上、余計なことはすべきではない。
俺が残された戦法はたった一つ。
自らの得意分野に引きずり込み、元勇者の強みを奪い尽くすことだろう。
刹那、俺は魔眼を解放した。
元勇者が突進してきたがもう遅い。
空を割って降り注ぐのは無数の隕石だった。




