第84話 圧倒する力
「……ァッ!?」
片目に百足が侵入した僧侶は悶絶する。
彼女は荒々しく片膝を切断すると、足首に巻かれた鎖から逃れた。
次の瞬間、その場から消失する。
僧侶の魔力反応、地上に移動していた。
(短距離転移か)
おそらく僧侶の切り札だ。
なるべく俺に見せたくなかったが、出さざるを得ない状況に陥ったのだろう。
それにしても、僧侶はいつの間にか空間魔術を習得していたらしい。
元勇者の側近として、魔王だらけの時代を生き抜く中で身に付けたようだ。
やはり相応の実力を備えている。
(どうしてその才能を、世界のために使えなかったんだ)
俺は苛立ちを覚えるも、それ以上は考えないようにする。
無駄なことだ。
もう決別している。
こうして殺し合っているのだから結末は一つだけだった。
俺は沼を泳いで水面まで上がる。
僧侶と取り巻きの軍隊は空中にいた。
魔法陣を足場にして沼に落ちないようにしている。
軍隊の数が減っているのは、沼から上がれなかった者がいるからだ。
俺は空中に階段を作って同じ高さまで上がる。
そして、沼を地面に戻した。
すぐそばの都市は大きく傾いているも、まだ沈むには至っていない。
沼になっていたのは短い時間だったので、あまり影響が出なかったのだろう。
それと何らかの魔術で防御したものと思われる。
魔眼で確認すると、術の干渉を妨げる細工が施されているのが分かった。
部下に守られる僧侶は、欠損した片腕と片脚が復元していた。
さらに片目から百足を引きずり出して、踏み潰す。
彼女は血の涙を流して荒い呼吸をしていた。
随分と消耗しているが、欠損部位も瞬時に治せるだけの回復魔術を使えるのはさすがだ。
やはり術者としては一級の才能と実力を持っている。
感心しているうちに、僧侶と軍隊が俺に向けて魔術を連射した。
数に任せた広範囲への攻撃だ。
俺は魔眼で不浄剣を注視して、巨大な盾に変形させる。
術が命中している感覚があるが、盾を貫通してくる気配はない。
多数の魔王の力を吸収しているのだから、生半可な攻撃ではまず突破できないだろう。
俺はさらに盾を変形させて、固定型のクロスボウにした。
受けた術を一本の矢に変換し、そのまま僧侶達に返す。
矢は凄まじい速度で放たれる。
一瞬で彼らに到達すると大爆発を起こした。
黒煙が舞い上がって一帯が見えなくなる。
俺は目を凝らして成果を確かめる。
(さて、どうなった?)
黒煙から肉片の雨が降ってくる。
そこに紛れて満身創痍の僧侶が落ちた。




