第75話 今の世界
ノアはどこからか持ち込んだ干し肉を齧っていた。
旨そうに咀嚼しながら彼女は俺に尋ねる。
「レードは魔族と人間が癒着する世界が嫌だったのだろう? 我らの躍進によって、世界の動きは大きく乱れた。独立する勢力も出てきたのは、喜ばしいことではないのか?」
「確かにそうなんだがなぁ。ちょっと混沌としすぎだろ。どこもかしこも戦争だらけだ」
「それはレードのせいだぞ。魔王を殺しすぎだ。勢力争いが激化したのは当然の結果だ」
「…………」
真っ当な指摘を受けて黙り込む。
確かに有力な魔王ばかり狙っていたのは事実だ。
早く成果を出したいという考えから、遠慮なく攻めまくったのは否めない。
強引すぎたと言われれば、反省するしかないだろう。
もっとも、俺の猛攻で生じたのは悪いことばかりでもない。
世界規模の戦争が最盛期を迎えた一方で、種族別の力関係に少なくない変化が起きていた。
(絶対的だった魔王の信頼は落ちて、人間側の独立が増えてきた。勢力図の偏りが解消されつつある証拠だ)
魔王である俺とノアの行動で魔王の名に傷が付くのは不思議な気もするが、人々の印象はそのような形になっている。
強大な力を持つ魔王も、決して倒せない存在でないことが認知されたのだ。
何気に無視できない傾向だと思う。
このまま人間側の自立を促していきたい。
魔王の立場が強くなりすぎると、すべてを魔族が管理する世界になってしまう。
以前までの王国などが良い例だろう。
人々が魔王に感謝するような状況は無くしていかねばなるまい。
無論、現在の王国も例外ではなかった。
俺達が英雄視されるのは問題である。
世界の勢力図を調整したら、その辺りも考えていくつもりだ。
(やりすぎた分は行動を取り返さないとな)
俺は脳内に構築された立体地図に意識を向ける。
これは幻創魔術の産物である。
現実世界の勢力図と連動しており、俺が認識していない部分も常に反映される仕組みとなっていた。
配下からの報告を受けずとも状況把握ができている理由がこれだ。
仮に虚偽や間違いのある報告を受けても、この立体地図を参照すれば惑わされることはない。
色分けされた土地ごとに支配者も分かるようになっており、どこの誰が暗躍しているかも一目瞭然であった。
立体地図をしっかりと観察しておけば、基本的に大きく出遅れることはない。
魔王になってから開発した術だが、何かと便利なので重宝していた。
「俺としては人間の王が台頭してくれるのが好ましい展開だ。この際、魔王が各地の実権を握るのは容認するとして、人間が率いる勢力を対等な立場まで引き上げたいと思う」
「なるほど。レードは人間想いだな」
「違う。帳尻を合わせるだけだ。人間を守るために動いているつもりはない」
俺は人間に失望している。
それでも滅んでほしかったり、魔族の奴隷になってほしいわけではなかった。
むしろ、活気付いて魔王軍と正面からぶつかれるような存在にしたい。
人間が魔王に怯える時代を終わりにするのだ。




