第74話 新時代
俺は玉座で頬杖をついていた。
そばには不浄剣を突き立てている。
放っておくと禍々しい力を帯びて変形するので、常に魔眼で矯正しなければならない。
それでも同じ形を保つことはなく、刻一刻と流動していた。
まるで世界の移り変わりを表しているかのようだ。
仮にそうなのだとしたら、不浄の名を与えたのはあまりにも皮肉な話だった。
天井を眺めながらどうでもいいことを考える一方、玉座の前で跪いた部下が緊張気味に発言する。
「ほ、報告は以上となります」
「そうか。分かった」
ようやく終わったらしい。
随分と長い報告だった。
報告はあまり真面目には聞いていない。
わざわざ知らされなくても戦況は把握している。
一応、形式的に報告はさせているものの、本来なら不要な時間なのだ。
それでも欠かさないのは、俺が把握していることを誰にも悟らせないためである。
なるべく手の内は隠しておいた方がいい。
俺は天井から前方の発言者に視線を落とす。
屈強な体格をした初老の男がいた。
王国に所属する将軍の一人で、俺が魔王として乗っ取った後に成り上がってきた人物である。
将軍は跪いた姿勢のまま、遠慮がちに提案した。
「あの、陛下。王国はこれからどういった動きを取るのでしょうか。もし侵攻でしたら、我が部隊にお任せいただけると……」
「ニーク・ナルウェニア」
俺は将軍の名を呼ぶ。
なるべく平坦な口調を意識した。
それだけで将軍は凍ったように動かなくなる。
己の死を連想したのだろう。
恐怖心に苛まれながらも、彼は気力を振り絞って応じる。
「な、何でございましょうか」
「進言は不要だ。命令は追って伝える。理解したか?」
「申し訳ありませんッ! 失礼しましたァッ!」
将軍はよろめきながら逃げるように退室した。
過去に数人の配下が見せしめで処分されたのを知っている。
今度は自分の番になるのではないかと思ったに違いない。
手柄欲しさに侵略戦争を推してくる困った男だ。
それでも基本的には従順で、戦場における指揮能力は高いらしい。
当分は駒として残しておくつもりだった。
将軍の去った部屋で、俺は深々とため息を洩らす。
「まったく、どいつもこいつも滅茶苦茶やりやがって……」
「良い傾向ではないか。誰もが利益のために衝き動かされている。競争は加速し、時代を変えてゆくぞ」
視界の端から現れたのはノアだ。
彼女も魔王として活動中である。
現在、王国の頂点に立つのは俺達だった。
二人の魔王が支配する異例の地として、王国は戦乱の時代を駆け抜けていた。




