第52話 魔王と魔王
帝都だった泥は濁流となって床を満たす。
もう終わりだ。
俺が何をせずとも街が消えてなくなる。
魔王軍も一緒に泥となっており、もはや判別がつかなくなっていた。
反撃される心配は万に一つも存在しない。
それよりまだ終わっていない戦いを見るべきだろう。
俺は視線を遥か上へと向ける。
魔王同士の戦いは、ルイズが圧倒していた。
変幻自在の闇の力を駆使して、リエアを翻弄している。
青炎が闇に包まれて次々と消されていた。
今のところは攻防が成立しているが、徐々に押されているのはリエアであった。
(予想が外れたな。加勢は必要なかったか)
当初の印象では、ルイズが不利になるはずだった。
いずれどこかで助太刀する気だったが、ルイズの執念が上回ったらしい。
この五年間、積もりに積もった想いがあるのだろう。
「クソがァッ!」
激昂するリエアが青い炎を撒き散らす。
ルイズは冷静に対処する。
周囲に闇を展開すると、被害を受けないように封じてみせた。
さらには一部を槍に変形させて、瞬時に伸ばして反撃する。
リエアは青炎の壁で防御を図る。
漆黒の槍が衝突し、先端が無数の糸になった。
糸は縫い進むように青炎の壁を貫くと、素早く進んでリエアを襲いかかる。
「くっ……!」
リエアは青炎を小出しにして防御を試みるが、上手くいっていない。
全身各所を闇の糸に貫かれて負傷した。
ルイズの魔力が毒のように巡って肉体が蝕まれている。
それによってますます能力のキレが悪くなって追い詰められていた。
(さすがだな。ルイズも青炎の対策を考えていたのか)
堅牢な防御を貫通できているのは、闇の力が変則的な挙動で攻撃しているからだ。
槍で青炎の表面を削り、高密度の糸で一気に穿っている。
もちろん素の能力が高いルイズだからこそ成立する戦法だった。
得意の防御を突破されたリエアは、必然的に劣勢となっている。
リエアは既に全身が破損していた。
あちこちの骨が砕けて腐肉が溶け出している。
激しい戦闘の連続で消耗しているのだ。
青炎の噴出で滞空するリエアは、苦しそうに懐を探る。
「ったく、こいつだけは使いたくなかったんだがな……」
彼が取り出したのは濃密な魔力を秘める結晶だ。
それを鷲掴みにしたリエアは、しゃがれた声で述べる。
「魔王ルイズ、あんたの魂の破片だ。離反の時に少しばかり貰っていたのさ」
五年前、リエアは不意打ちでルイズの魂を破壊した。
その破片を密かに奪っていたらしい。
(あれがリエアの奥の手か)
リエアは魂の破片をしっかりと握り締める。
微かに軋む音がこちらまで聞こえていた。
ルイズは冷徹な眼差しでその様を観察している。
「魂の吸収は危険な賭けだが、まあ仕方ねェよな。すべてはあんたに勝つためだ。打ち勝ってやるよ」
そう言ってリエアは、魂の破片を己の胸に叩き付けた。




