第53話 封殺の一手
リエアは苦痛と喜びの入り混じった声で叫ぶ。
「う、おおおあああああああぁぁぁァァァァッ!」
魂の破片がリエアに浸透しつつあった。
奴の魔力が急速に増大する。
骨が輝きながら太く分厚いものとなり、へばり付いた腐肉は広がりながら硬質化し、骨格を鎧のように覆い隠す。
リエアの戦闘本能が己という存在そのものを強化しているのだ。
それは進化に等しい規模であった。
元から凄まじい力を誇る魔王が、さらに規格外の次元へと至ろうとしている。
そこに竜形態のノアが迫る。
高速飛行で接近する彼女は、ブレスを連射を見舞った。
魔王軍を一網打尽にした攻撃はしかし、変容するリエアに命中した端から消滅する。
いや、消滅したのではない。
魔眼は今の現象をしっかりと捉えていた。
ノアのブレスはリエアに吸収されたのだ。
体表に生じた青炎に接触した瞬間、魔力へと分解されてリエアの糧となったのである。
(あらゆる術や魔力を伴う能力を吸収できるようになったのか)
防ぐのではなく取り込む。
青炎の魔王の守りは異常な性質を獲得した。
それだけルイズの魂の破片が馴染んだのか。
ここまで来ると、生半可な手段では太刀打ちできない。
ルイズは顔を曇らせて睨むばかりだ。
闇の力も吸収されてしまうため、下手に手出しできないのだった。
高密度の糸にして貫こうとすれば傷つけられるかもしれないが、変容の速度に負けてすぐに決定打にならない。
現在のリエアは反則的な状態だった。
地道に削る戦法では絶対に倒せず、魔力を纏わない高威力の攻撃で倒すのが妥当と言えよう。
もっとも、俺の幻創魔術は例外だ。
発動方法が多様で、リエアの魔力吸収を避けて干渉することも可能である。
多少は抵抗されるだろうが、誤差の範疇だった。
むしろその特性を逆手に取った手法も使うことができる。
(すべては俺の解釈次第だ。最適解となる幻を構築しろ)
視界から得られる情報を望むままの光景に歪める。
それを現実に当てはめる。
リエアに焦点を定めると力を吸収されかねないので、今回は発想を転換させて段階的に仕掛けていく。
まず手始めに、リエアの周囲に無数の渦を発生させた。
それらは仄かに青い炎を帯びて、螺旋を描きながら魔力を吸い込み始める。
大気に含まれる魔力があっという間に枯渇した。
さらにはリエアの内包する魔力まで吸い出していく。
渦はリエアの変容を模倣した代物だ。
ただし吸引力は十倍以上に改良している。
その機能だけに特化させたからこそ可能な芸当だった。
幻創魔術で生まれた渦は、魔術の産物ではあるが、性質は自然現象に近い。
俺の調整によって吸い込む力に魔力は生じず、進化した青炎でも抗うことはできない。
リエアの防御性能は外部からの攻撃にはめっぽう強い一方で、吸引による間接的な干渉には弱かった。
まずは有利な環境を構築して、リエアの力を引き剥がす。
物事は一気に解決してくてもいい。
後出しの搦め手で構わないのだ。
理論を組んで相手の力を段階的に崩すのは、魔術師の専売特許であった。
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