第31話 記憶の花畑
部屋から生える手が植物へと変化する。
間もなく毒々しい極彩色の花が狂い咲いた。
人々はその中に埋没して、恐怖に押されてもがく。
しかし、抵抗すればするほど深く沈んでいくようになっていた。
複雑に絡まった蔦が耳や口や目や鼻から侵入して、彼らの体内を蹂躙していく。
人々は極度の絶望に満たされながら意識を失った。
全員が気絶したのを確認して、俺は壁の一面にある数百の無作為な光景を見つめる。
それらは絶えず動き続けており、たまに突拍子もなく場面が切り替わっている。
壁に埋め尽くすのは植物に囚われた人々の記憶だった。
情報を吸い出して投影しているのだ。
色々と吹っ切れたせいか、複雑な操作もできるようになった。
無意識に忌避していた部分に踏み込んだのかもしれない。
まあ、今は好都合だと思う。
これで情報収集には困らなくなった。
人々の記憶を残らず搾り取るだけでいい。
五年で生まれた常識や勢力図の把握は網羅したも同然だろう。
かなり強引な手段で、受け手の負荷は計り知れない。
しかし別にどうだっていい。
彼らが壊れようと俺が悲しむことはないのだから。
「俺の価値観を否定して、諦めさせたのはお前らなんだ」
怒りが滲み出すのを自覚しながら呟く。
責任転換をするつもりはない。
このおぞましい情報収集は間違いなく俺の罪と言えよう。
だが、それを受け入れた。
綺麗事だけではやっていけない。
主張を通すには力が必要なのだった。
どれだけ崇高で理想的であろうと、弱者が唱えれば無意味な戯れ言に成り果てる。
たった五年で変貌した世界において、俺の憧れた英雄に居場所などない。
だから根本的に切り替えないといけないのだ。
幻創魔術で世界を翻弄し、新たな道を模索していく。
それを可能とするだけの能力は既に習得していた。
個人の願望を叶えるのではなく、全体を俯瞰して行動するのだ。
俺にはそれを徹底するだけの資格がある。
(必要な情報だけを抜粋する機能もほしいな。まだまだ改良が必要だ)
その場に腰かけた俺は、狂気の花畑を一瞥する。
次に壁の記憶群に目を向けた。
同時に進行するそれらを理解するのは煩わしい。
魔眼を使えばそこまで難しい話ではない。
視認した記憶が手元で本として物質化されるためだ。
俺の意識とは別に半自動で繰り返されるので気疲れすることはなかった。
たまに記憶群を見つめつつ、ただ本を読むだけでいい。
数は膨大な上に無駄な情報も多いが、陰惨な拷問よりは人道的で効率が良いだろう。




