第32話 情報収集
俺は白い部屋でひたすら勉強する。
参考資料は、謁見の間の人々の記憶だ。
彼らの記憶を投影し、時に本として物質化させて熟読する。
どうでもいい部分は飛ばして、この五年間の世情に関する箇所は念入りに確かめた。
多少は手間がかかるものの、知識や情報を集めるのを面倒臭がるのは良くない。
いずれ知らねばならないことなのだ。
それならこの機会に把握しておくのが先決だろう。
俺は一人でじっくりと収集を進めていく。
(だんだんと現代の構図が分かってきたぞ。やはりこの方法で正解だった)
犠牲となった人々の呻き声は今も聞こえてくる。
しかし、別に気にすることはない。
もう意識なんて残っていないのだから。
彼らは既に記憶を吸い出すための媒体に過ぎなかった。
いずれ崩壊しても、その時は現実世界に捨てればいい。
自分でも驚くほど冷酷になりつつあった。
憎悪なんて抱いていないつもりだったが、絶望に浸った五年の歳月は存外に大きかったようだ。
少なくとも敵対関係にあたる者には、どこまでも残酷な振る舞いができる。
(もしくは幻創魔術の影響で、俺自身の精神が変質しているのか?)
分からない。
それを確かめる術がないからだ。
過去の俺を思い出すことができても、現在と正確に比べるのは難しい。
具体的にどう変わったか答えを出せないと思う。
ただ、的外れな推論でもないだろう。
幻創魔術は多様な視点を俺にもたらす。
必然的に頭を働かせて想像力を膨らませることが多くなり、考え方が変わりやすい土壌ができていく。
そこに国王との対話で絶望と諦めが介入してきた。
あの出来事は衝撃だった。
俺の中にあった良心が崩れていく音がした。
そうして、己の陰にあった冷酷な一面に気付いたのである。
(幻創魔術は俺の心を映し出すのかもしれないな)
最初は失った目と四肢を補えただけで喜んでいた。
今は他者を拘束して意識を奪い、記憶を根こそぎ吸い出して廃人にしようとしている。
目的のための犠牲を許容するどころか、その犠牲すら楽しんでいる節があった。
そう、俺は復讐をしている。
俺を反逆者に仕立て上げた挙句、時代遅れとけなして排除を企む者達に嫌気が差したのだ。
だからとびきり残酷な方法で報復してみた。
情報収集という名目を打ち立てて実行したのである。
罪悪感は微塵もなかった。




