第11話 幻創術師は本領を発揮する
俺と竜は渓谷の底で高速戦闘を繰り広げる。
互いの剣をぶつけ合いながら攻防を展開した。
一瞬の迷いが命取りになる中、全神経を注ぎ込んで挑んでいる。
本気を出した竜は凄まじい力を発揮する。
目にも留まらぬ速度で連撃を浴びせてくる挙句、その威力が桁違いなのだ。
炎を刃にした剣は圧倒的な熱を放出している。
こうして打ち合っているだけで汗だらけになる始末だった。
俺は魔剣を駆使して対抗する。
悲鳴を上げる肉体を無視して戦いに徹した。
肌が焼けて熱い。
疲労も限界まで蓄積している。
それでも根は上げない。
幻創魔術を用いることで相殺し、常に健全な状態を保っていられている。
それがなければとっくに殺されているだろう。
(とてつもない強さだが、向こうも確実に弱っている。ひたすら攻めるしかない!)
開き切った魔眼は竜に干渉を続けていた。
その存在を歪めて無力な姿にしようとしている。
魔剣よりも有効な攻撃手段であった。
最初は騎士だった竜も、絶え間なく幻想魔術に晒されたことで変化が生じていた。
破損した鎧が赤黒いドレスとなり、煌びやかな宝石の装飾を散りばめている。
特に意識して変貌させたわけではない。
戦闘に不向きな状態を望んだ結果、こんな形になったのだろう。
炎の剣と兜だけは最初のままなので、尚更に奇怪な姿となっていた。
しかし、幻創魔術が効いているのは間違いない。
あとは竜の力を抑え込みながら止めを刺すだけだ。
何も難しい話ではなかった。
魔剣を捻じ込めば事足りるだろう。
いくら高い生命力を誇る竜でも、今の状態では耐えられないはずだ。
俺は魔眼の出力をさらに底上げする。
莫大な負荷に顔を顰めつつ、現実を想像力で上塗りしていく。
左右を挟む岩壁が脈動し、液状化して俺と竜の足元を濡らしていった。
あっという間に膝下の丈まで水位が上がってくる。
当然ながら竜は困惑する。
「な、何だっ!?」
そこから液状化した岩が竜に纏わり付くと、体表を覆うように巻き付いていった。
適度な弾力を持ちながら広がって動きを制限していく。
竜はすぐさま炎の剣で焼き切ろうとするも、大した効果は得られない。
液状化した岩を少し蒸発させただけで、やがて些細な抵抗もできなくなってしまう。
「幻創術は時間経過と共に嵌りやすくなる。お前の負けだ」
俺は息を切らして告げる。
完全に岩に覆われた竜は、人型の像と化して立ち尽くしていた。




