2話 領主様、会議を開きます
館内会議室。
デーモン含む魔族と人間族が住まう村の長が円卓に座り会議が行われた。
領内の運営は主に代表者が集まり協議するのが領主からの命令であった。
インプは漆黒の翼を窮屈そうに折りたたみながら「領主様は?」といい、辺りをキョロキョロと見渡した。
隣に深く腰掛け腕組みをしながらオーガが答える。
「2区のほら、ダギル一家のとこ子供産まれたろ。そのお祝いに出向かれた」
「領主まぢ神、いや魔王すぎる……」
インプが豊満な胸を強く寄せながら悶えてる姿を横目にデーモンがコホンと咳払いをする。
「これより監査対策会議を始めます。司会進行は私デーモンが行います。」
言葉を聞き、注目がデーモンの青い顔に向けられた。
「監査を乗り換えるためには、大きく2つの課題をクリアせねばなりません。1つ目に、領主様への絶対的忠誠を示すこと、2つ目に統治制度の透明化、の2点です。」
「領主様への忠誠は問題ないのでは? この場にあの方へ忠誠のないものは1人としていないと思うが」
「確かに。ここにおるのは領主様に救われ、山より高く、海より深い恩義を持つものばかり」
オーガ、そして隣のピクシーがいう。
言葉を聞き、卓に着く全員が首を大きく縦に振る。
デーモンは「百も承知です」と肯定したがすぐに「しかしながら」と意味深な言葉を続けた。
「厄介なのが魔王軍本部が定める、統治規則第1条『領主は恐怖と畏れを持って配下及び領民を厳しく統治・使役すること』の規定です。規則の第一条とは規則全体の前提及び指針を表すもの。つまり、魔王様は恐怖政治によってしか忠誠は得ることができないと考えておられるです。」
「いくら俺たちが忠義を尽くしていても、魔王様の目にそう映らないと意味がないってことか」
「そのとおり。監査を無事終えるには、領地全員が恐怖により支配されていることを示さなければならないのです。」
「恐怖政治かぁ。具体的にどうやって恐怖を示すのかしら」
「一度我々人間族の家を荒らしたり燃やしたりして恐怖を与えてる感を出すのはいかがだろう。事情を説明すれば村民は理解してくれるかと。しかしながら人間は――」
「ええ、でもそれぐらいしないと魔王様の目は騙せないかもねぇ」
インプ、村長は互いに唸る。
魔族と比べ人間は生命力が弱い。少しの傷や栄養失調などの環境で簡単に死んでしまう。
それでも人間族の村長が村の家を焼くと魔族側では言い辛いことを口にしたのは、紛れもない領主への忠義であるとみなは理解した。
だがそれは通せない。
「それはなしです。監査が終わったあとも領民の生活は続くのです。燃やしてそのあとどうするのですか。寝床は?食料は?領内には老人や女子供も多い、硬い地面の上で寝かせるなんぞ決してさせてはなりません。冷たい地面の辛さは私も知るところです。それに、領主様もきっとそうおっしゃるでしょう」
デーモンがいうと長い沈黙が円卓を包み込む。
それを最初に破ったのは、土木課の長、オーガだ。
「であれば監査前に程よく領内を荒らすのはどうだろう。家はすぐに修理できるよう塀を壊したり、柱は傷つけず壁だけにすれば復旧も早くなる。綺麗な家屋見せて恐怖政治していますは流石に無理がある。多少の犠牲は許容すべきではないか」
「もしドワーフ隊の人員をすべて復旧に充てるとすれば、半月でできますか」
デーモンが問うとオーガは顔をしかめて大きく首を横に振る。
「7日だ」
「え?」
「7日で絶対に元に戻す。俺ら土木部を舐めてもらっては困る」
「最高の答えですオーガ、同種であれば求婚していたところです。であれば、人間族の男性にも復旧作業を依頼しましょう。人間族にも仕事をしてもらい報酬を払う。この機会を利用して経済の活性化も同時に促します」
「だがよデーモン。俺ら土木は7日を約束するが資材がなきゃ仕事ができねぇ」
オーガは大きな笑みを浮かべながら隣の年老いたピクシーに挑発的な目を向けた。
あまりにわざとらしい挑発にピクシーは蓄えた顎髭をさすりながら答える。
「儂らは『森の民』じゃぞ、欲しいだけいくらでも用意してやる」
「さすが資材部の長様だぜ」
「これは同(種であれば求)婚(していたところです)」
「略すな」
「家々の破損及び修繕計画はオーガとピクシーに任せます。2種族で連携を取り合い、直ちに予算のたたき台を作成し、私まで持ってきてください。お金の工面は私がなんとかします。」
ひとまず恐怖政治感の設定については方向性が固まった。
残るは『統治制度の透明化』の方だ。
「『統治制度の透明化』はあたしら事務部の管轄ね」
「アウ……」
未だ曇った顔をしているのは、事務部のインプとグールだ。
とはいえグールは顔が爛れているので表情は変わらないのだが。
「『統治制度の透明化』は、領主様が統治権という強い権限を持つがゆえ、魔王様への謀反を抑止する目的で設置されたものです。したがって決裁等の指示系統を書面で残す必要がある分、追求されると言い訳が効かなくなるのが厄介なところですね」
「現に書類は人間族の決裁判多数、人間族人事の整理、事務の引継ぎ、問題山積みよね」
「アタマ…イタイ…」
この領地は山奥の、立地が良いとはとても言えない場所にあるため、人間族がそもそも少ない。そんな零細領地の略奪を狙う物好きな魔族も少なかった。我々が統治した後も、魔族の数が少なく、とてもではないが運営どころではなかった。いまの安定した統治があるのは人間族の協力があってこそだ。
しかし今回、人間族の起用が大きな裏目に出てしまったのだった。
こんな領地に監査が入るはずがないという私の奢りから生じた問題だ。
私が人間族の起用に反対していれば……。
……。
……。
(いやはや、違いますよね私)
責めるべきは人間族の起用ではない。
人間族を起用して仕事を共有し、軋轢のない統治を目指した領主様の描く理想郷。
その夢に感動し、必ずあの方の側で実現すると誓ったではないか。
もう二度とあんな惨状を繰り返さないために、爪弾き者の居場所を作るために。
この統治体制は決して間違っていない。
だからみな、統治体制に苦言を呈するのではなく、どうすれば守れるのかを考えているではないか。
信じて歩いてきた道程を貫き通すのだ。
そのためにも、魔族と人間族の力が必要だ。
「申し訳無い。知恵を貸していただけないだろうか」
重い頭を下げると右肩にインプの拳が飛んできた。
「当たり前のことに頭下げんじゃないわよ。それに別にあんたのためにやるんじゃない」
「オンギ…報いる…タメ」
言って、インプとグールはああでもないこうでもないと打ち合わせを始めた。
事務系統に手が回せない以上、このふたりだけが頼りだった。
「ハンコ…ト…ショルイ…作りナオス…??」
「グール、あんた頭腐ってんのぉ」
「スデニ…クサッテル…アウ」
「この領内に人間族の決裁判のついた書類がどんだけあると思ってるわけぇ。1月あっても差し替えられないわよ」
提案、議論、却下、提案。
この流れを幾度も繰り返す。
5つ目の却下が2人の間で行われたあと、沈黙の時間が流れた。
時計の秒針の音だけが会議室に響く。
ながい沈黙を破ったのはグールだった。
「ジャア…、イッソ…マゾクが…ニンゲンの名前…ツカッテルコトニ…シチャウ…??」
「あのねぇグール……、あんた… はぁ… 」
インプは深い溜息をついた後、細く長い人差し指をゆっくりとグールに向けた。
「あんた天才すぎ」
「アウ……ホメラレタ」
二人の中で提案が加速する。
「書類を見直して決裁判のある人間をリスト化するわぁ。そんで一時的に名前を借名する旨の説明と連絡ね。借名理由はぁ、そうねぇ、『名前を奪うことで人間族の尊厳を奪うため』とか適当な理由を監査に報告するわぁ」
「オデハ、人事ノホウ…ナントカスル」
課題2つ目、光が見えた。
あとは時間が許すかぎり走るのみだ。
「みなさん感謝します。では監査攻略に向け、よろしくお願いします」
こうして監査対策会議は終わった。
窓の外を見ると太陽はとっくに姿を隠し、領内は闇に包まれていた。
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「女の子であったか、実に愛らしいものであった」
赤ん坊を見ると世代が受け継がれていく神秘と尊さを感じ胸が熱くなる。
私にも子がいればどれだけ幸せなことか。
出産祝いを終えた帰路で、決して叶わない幸せを空想していた。
夜風が心地良い。
今日は監査の通達が来て尋常でないほど取り乱したが、お陰で落ち着くことができた。
軽い足取りで畦道を歩いていると、私を大声で呼ぶ声がした。
振り返ると先程出産祝いをしたダギル家の夫であった。
「そんなに急いでどうしたんだ」
「そ、それが今、どうしてもお知らせしたいことがありまして!!」
「え、なに。2人目??」
荒れた息をと整え、彼はこう言った。
「勇者一行と名乗るものが、この領地に現れたのです!!」




