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3話 領主様、勇者一行が来てます

この付近に勇者一行が現れたと風のうわさがあった。

勇者、戦士、魔法使いで構成される人間族の希望が、

魔族の圧政から解放するために現れたという噂だ。


(まさかこんな辺鄙なところにまでやってくるとは……)


この領地は魔王様の居城に近い場所にある。

しかしそれは地図上(平面上)での話であって、

山々に囲まれているこの領地を目指すのは却って時間と労力を費やす悪手というものだ。


魔王様の居城へ向かうにはもっと平坦な道なんぞいくらでもあったはずだ。

なぜわざわざここへ向かってくるんだ。


本当に勘弁してほしい。

ただでさえ監査でバタバタしているというのに勇者の相手までするなんぞ、

心労で頭がおかしくなってしまう。


そもそも奴らに割く戦力なんぞない。

戦闘になった時点でこちらの負けは見えている。

なんとか自身の土地を持つことができるところまで来たというのに。

やばい、ストレスで叫びそ――


「だあああああああああああああああああ」


出ちゃった。


いやまだ勇者一行と決まった訳じゃない。

勇者を語った馬鹿という可能性もある。

頼むそうであってくれ。


そう祈りながら私は慌てたオーガと合流し、駆けた。


”馬鹿”がいる領民の家の扉を叩くと家主が現れた。

何がなんだか分からないと言うようにひどく狼狽えている。

家主は私の顔を見るや否や「こちらです」と中へと案内してくれた。


寝室の扉を開くと一行はいた。

手前にいた手負いの巨躯の男と目が合うと舌打ちをしながら壁のように立ちはだかる。


「この村も魔族の手中に堕ちていたか」


言うと巨躯の男は私の背丈など優に超える大剣に手をかける。


えぇ……絶対勇者一行じゃあん……。

なにこの血走った目と歴戦感のある雰囲気。

しかも話通じないタイプの一行じゃないか。

ストレスで叫び――


「だあああああああああああああああああ」


また出ちゃった。


「何奴」


「私のセリフだよ。なんでこっちが曲者みたいになってんだよ」


「剣士、よせ」


大男の後ろから低い声が聞こえた。

大男の脇の間から伺うと、床に横たわった男と目が合った。

先の大男よりもずっと小さくずっと細い。

顔も幼さの残るまだ未成熟な人間の男。


しかしながら、眼の前の岩のような男よりもずっと嫌な雰囲気を纏っていた。

背筋が凍るように私の皮膚をズキズキと刺激する。

生物として体が拒絶していた。

この凄まじい嫌悪感を私は知っている――「聖」だ。


すぐに理解した。

この男こそが「勇者」なのだと。


「彼の言う通り。ここは私の領地。暴れても生きては出られないよ」


「剣士、いまは時間が要るの。荒事はよしてお願い……」


勇者の側の女が言った。

横たわる勇者の治療をしているようだった。


「領主様、いまここで殺してしまいましょう」


怪我人の細い男の放つ”気持ち悪さ”に我慢できず、苛立ちを含んだ声でオーガが前に出る。

対峙するように大男がさらに前に出た。


手負いの剣士に女(おそらく魔法使いだろう)、それに瀕死の勇者。

現状、魔王様の首に届き得る唯一の人間族。

一行の首を手土産にすれば監査の件は有耶無耶になるかもしれない。

そればかりか褒美までついてくるだろう。


……。


……。



「この機を逃す手はない。オーガ、ここは私の領地だからね。部外者は排除しないとだね」


「承知ッ!!」


その言葉を待っていたかと言わんばかりにオーガが前進した。

丸太ほどの腕が鞭のようにしなる。

剣士の防御を取った体に触れたと同時、大男が家屋を突き破って吹っ飛んだ。


「まずひとりッ!!」


(やだ、うちのオーガ強すぎ///)


庇って前に出ようとした魔法使いを勇者は制止した。

壁を支えになんとか立ち上がり、手に剣を握る。

オーガが前進する。


「次ィ!!」


勇者はオーガの攻撃に備え、全身に力を込めた。

一瞬勇者がギロリと私を睨みつけた。

その目を見て思わず私は叫んだ。


「オーガ、止まりなさい!」


オーガは大きく腕を振り上げたまま静止した。


「勇者、ひとつお聞きしたい」


「なんだ」


「いま願いが叶うとしたら何を願う」


「世界に平和を持ち帰りたい」


答えを聞いて息を大きく吸い込む。

冷たい空気が肺を通って、熱い息へと変わる。


「よろしい。いまより勇者一行(かれら)を客人として迎える」

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