1話 領主様、監査の通達です
私の朝は一杯の珈琲から始まる。
穏やかな陽射しを浴びた花園は、雨露が宝石のように輝く。
甘美な匂いを感じながら私は最高の朝を珈琲とともに向かえる。
「今日は小鳥たちも機嫌がいいと見えるハハハ」
心地よい小鳥の歌を聞きながらカップに口をつけた時、
遠くの方から慌ただしく翼をバタつかせるブサイクな音が聞こえてきた。
その音は段々と大きくなったかと思えば、”ソレ”は
大きな轟音とともに私の眼の前に墜落してきた。
「領主様、領主様ァ!!」
”ソレ”は血相を変えた側近のデーモンだった。
ただでさえ青い体がいつもにも増して青かった。
いやいつもこんな色合いだった気もする。
「書類のハンコでも押し忘れてたかな?それならば私の机の引き出しにあるから適当に押しておいてくれといつも――」
「カンサが来ます!」
「寒波?ハハハ冬はこの前明けただろう、この寝坊助さんめ」
「か、監査でございます!7日後、魔王様と魔神官が統治状況の監査に来られると、今しがた通達が届きました!!」
監査とな。
たしか配下の魔族や人間属の使役、税の徴収など統治に関するものが、魔王軍本部の定めた規定どおり正確に行われているか、を徹底的に審査することだったか。しかも魔法様が直々に出向かれるものを特別内部監査といい、しくじれば統治権の剥奪、最悪見せしめに打ち首となる通称「魔の監査」と呼ばれるものだったか。
「なぁデーモン」
「はい!!」
「お前からみて”ウチ”ってどうなのかな。乗り切れそうかね?」
尋ねるとデーモンは吹き出した汗を手で拭い答えた。
「打首確定でございます!」
「・・・なぜ、そう考える?」
申し上げます、と声を張り上げ、懐から1枚の紙を取り出し上ずった声で読み上げる。
「人間族、魔族ともに『この土地は住みやすいか』とアンケートしたところ、『住みやすい、どちらかといえば住みやすい』が98%を占めます。これは統治規則第1条、『領主は恐怖と畏れを持って領民を厳しく統治・使役すること』という統治の前提も前提の規則に抵触しております!」
デーモンは続ける。
「あ、あと、人間族に領地内の仕事を手伝ってもらっており! あ、手伝ってくれてるのはこちらも大変助かっているところなのですが! 領内書類に人間族の決裁のハンコがめちゃくちゃ押されてます! 統治規則に則れば領地書類を人間に触れさせることは絶対にありえないこと! ゴミ中のゴミ! その他諸々、なんかもう、ゲロオワってるという評価になります!!」
パニックすぎて後半、側近の言葉遣いではもはやなくなっていた。
当領地随一のブレインであるデーモンがこの取り乱し様、相当不味いらしい。
というか私は打首確定らしい。
「もしかしてすっごいヤベーやつ?」
「すっごいヤベーやつです!」
いつの間にか小鳥の歌は消え、花園の雨露は花たちが泣いているようにみえる。
私は冷めた珈琲を飲み干し、ゆっくりと立ち上がる。
そして、館に向かい全力疾走で駆け出した。
「みんな集合集合っ!! 監査がくるぞォォ!! 隠蔽手伝って!!」
こうして臣民の生活と、私の命を護る戦い(隠蔽工作)が始まった。




