20節 ペステの始まり
またもや静寂が続き、気まずいどころか、チームとしての何かが失われる気がして、内心が焦り始めた頃、
「さて…」
と前置きをし、
「せっかくだし、この組織に名前でもつけようか」
と、ジュリオは明るく言った。
「いいね!」
「私も賛成!」
ナタリアとガブリエルが真っ先にその提案に乗った。
カミロも反対する気配がなかったため、会話はその方向に進んだ。
僕自身は、今までこのグループに名前がなかったことに少し驚いた。
《こういうのは平和なうちに決めておくべきか…》
僕はそう思い、自分を納得させた。
※※※
「皆の頭文字を組み合わせるのはどう?」
ナタリアが最初に自分の案を投げた。
「子どもでもマシな案が出せるぞ」
と、ガブリエルがからかった。
僕自身は、なぜ今この話なのかが分からず、ただ話を聞くことにしていた。
「――でもその前に、他のメンバーとも相談した方が良いんじゃないのか?」
少しの間が経つと、ガブリエルが急に冷静な発言を放った。
「他のメンバー?」
僕は彼に向かって聞いた。
「家にいた三人と俺ら、もう一人は別の都市にいる」
と、ジュリオが説明した。
――全員で七人。
《少ないんだか多いんだか…》
ジュリオの言い方から察するに、別の都市にいる一人は、ロメロのことではないみたいだ。
なぜかナタリアも、その誰かのことを知らなさそうだった。
「でも、あいつらは名前なんて気にしないだろう」
と、ジュリオが気軽に言った。
「俺もそう思う」
とカミロも静かに同意した。
こんな感じで、しばらく話し合ったが、結論は出なかった。
実際、組織名はいつでも変えられるし、活動自体にはあまり影響しないはず。
――しかし、だからって安易に決めていいわけではない。
組織名を聞くだけで、
•それがどんな組織なのか。
•どんな目標を持つのか。
•どれだけの影響力を持つのか。
が分からなきゃいけない。
なので、冗談半分で決めてしまったら、それは組織としての大事なプライドを失うことになる。
《そして、この組織を必要とする人たちへの無礼になる…》
「一言とかだったら良いんじゃないのか?
ほら、無駄に長くても変わらないだろうから」
と、ガブリエルは沈黙の中提案した。
《一言…》
ふと、僕はロメロのくれたあの紙切れ、
そして「ペステ」という言葉を思い出した。
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実は、
「ペステ」は十三年前に王宮を焼き討ちした、歴代最大級の革命組織だった。
それ以来、その名を公共の場で口にすることすら禁じられ、構成員は全員処刑された。
しかし、ロメロは彼らの思想に心から魅了されていた。
そして、国に仕えていた人とは思えないほど、彼は革命に憧れていた。
『君が来るなら、ペステのような大きなグループを作ろう』
最後に会った時、彼はそう言っていた。
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《ペステのようなグループ…》
僕はそれを機に、ある案が思いついた。
――非常にリスキーな案だった。
「あのぉ…」
続く静寂の中、僕は少し小さい声で言った。
「“ペステ”って名前はどうかな…?」
すでにこっちを向いていた彼らは、少し訝しげに僕を見つめた。
「お前…」
カミロは会ってから初めて、愕然した様子を見せた。
他の二人も、何とも言えないような目を合わせ、そして固唾を飲み込んだ。
《流石にダメか……》
そう思ったが、次の瞬間、
――彼ら全員は笑い出した。
ジュリオは腹を抱えて、
ナタリアは口を手で隠して、
ガブリエルは目を閉じながら、
そしてカミロは帽子で目元を隠しながら、
笑い出したのだった。
「――それ、めっちゃ良い案じゃねぇか!」
と、ガブリエルは涙を拭きながら言った。
《何がそんな面白い?》
一瞬そう思ったが、
よく考えてみたら、僕は入団したての未成年。
更に、彼らのことを全然知らない。
そんな状況なのに、僕は彼らに、超有名犯罪組織の名を提案した。
まだ信用しきっていないはずなのに、大人でも言えないようなこと――国家全体を敵に回してしまうようなことを、僕は平気で言ってしまったのだ。
《バカ丸出しじゃねぇか…》
そう思うと、僕は赤面せざるを得なかった。
※※※
いよいよ皆の笑いも静まり、
落ち着いて発言ができる場となった。
「面白いこと言うじゃないか… 俺は賛成だ!」
ジュリオが笑顔で、自分自身を落ち着かせながら言った。
「私の案の方が良かったけど、まあ悪くないわ」
と、ナタリアも賛成の意を示した。
「ハハッ、俺たちはこの腐った体を内側から壊す“疫病”になるんだな」
とジュリオが「決まりだ」の感覚で言った。
それに同意するように、皆も彼を見上げた。
《まあ、なんだかんだ言って…》
――ようやく、心地よい空気になった気がした。
こうして、バカな発言や笑いを積み重ねながら人は仲間となっていく。
これから、この会話をきっかけとし、僕たちは立派な組織となっていく。
《やっぱり、世界は僕の味方なんだ》
僕はそう思い、少しいい気になって、
笑みを浮かべた。
でも、いつものように――、
――僕は間違っていた…
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会話が終わった頃、
「ガタン!!」
と、突然、
部屋の外から金属のような音がした。
「誰かが階段を!?」
ガブリエルがそう言い、皆は警戒心を高めた。
《侵入者?》
僕はそう思い、立ち上がった。
ナタリアはナイフを身構え、他の二人は見たことのない武器を手に持った。
そして、彼らが攻撃しようとしたその時、
部屋唯一の扉が開いた。
「はっ……はっ…ジュニオールと…
ジュリニオールとウンベルトが死んだ……」
汗まみれで息を切らした、4.5コド(約180センチ)を超える大男――ロベルトが、片目を大きく開きながらそこに立っていたのだ。
「何よ…」
そう言い、ナタリアはナイフをしまったが、
「えっ、今なんて…?」
と、少し遅れてから彼の言葉に反応した。
「――今、死んだって!?」
皆の顔から笑みは消え、今まで以上の息苦しい空気がこの小さな部屋に攻め寄った。
そして、皆は改めて、
「この国を変えなければならない」
と感じただろう。
こうして、二人の仲間を失ったその日、
ペステは生まれたのであった。
――この腐った“国”を滅ぼすペステが。




