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ペステ:革命は内側から始まる  作者: fm344
第一章 アファロス:古びた経済の都
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19節 彼は何者?

「で、彼は何者なんだ?」


 と、しばらく沈黙が続いた後、

 帽子の男がようやく口を開いた。


《やっと話したか…》


 下手したら、彼は僕の前での発言を避けているのかもしれないと、疑い始めていた頃だったのだ。


「いい質問だ」


 ジュリオは指鳴らしをすると同時に、その男――そして皆に向けて言った。


「実は、彼――アレハンドロはこのグループにとって超重要な存在なんだ」


 彼は僕と一瞬目を合わせ、僕に何かを伝えるかのように軽く頷いた。

 もちろん、僕はその意図が分からなかったけど。


 ガブリエルと、帽子の男は少し不思議そうにジュリオを見た。

 ナタリアもまだ拗ねた様子を維持していたものの、その目は少しの興味を示していた。



「もっと言えば、彼はここにいる誰よりも悲惨な人生を送ってきたのかもしれない」


 まるで、彼らの高まっていく期待を煽るように、彼は続けた。


《何のことだ…?》

 僕もあまり、この話の行先が分からなかった。


「もったいぶらないで、早く言えよ」


 と、ガブリエルはとうとう痺れを切らし、

 彼に少し強い口調で尋ねた。


「ったく、せっかちなヤツだな…」


 ため息をついてから、彼は少し離れた場所にいた僕の方に向かった。

 僕は何も言わず、ほかの皆と同じ目で彼を見た。


「これから言うことは、紛れもない事実――あのロメロが個人的に教えてくれたことだ…」


 ジュリオはそう言うと、僕の手を掴み、そして立たせた。


《あっ…》

 僕はようやく、彼の意図を理解した。


※※※


 大昔のある詩人が言ったとされている言葉がある。


『過去を語らねば、仲間は生まれず』


 それは確かに名言と言えるけど、見方によっては、そこら辺の素人でも作れそうな“迷言”と言えなくもない。


 その理由は、

 ――過去を知ることで自分の弱みが掴まれるから。


 自分の過去を人に教えることは諸刃の剣であり、それによって敵対してしまうことも珍しくない。


 本当の仲間になる場合は少なく、この詩は極めて限定的なものであると思う。 

 自分の情報を人に教えるのは強く考慮するべきことであるのだ。

 


 だが、

《――ジュリオはそれを完全無視した…》


---


 彼は僕の首元を掴み、それを皆に向けた。


 少しずつ下がっていく折れ曲がった襟に皆の目は食いついた。

 その目は、何か凄く珍しい動物を見る時の子供のものと同じようで興味や関心が丸出し。


 僕はその意図を知ったところで特に抵抗を加えず、彼の好きなようにさせた。

 ――抵抗する理由が見つからなかったからだ。



「アイツ(ロメロ)が言うには…」


 彼はそれを降ろすと同時に、少し微笑んだ。


「…アレハンドロは、コルプス史上最大の大量抹殺事件――“七 · 八事件”の唯一の生存者だ」


 そして、彼は三人に、僕の首元を見せた。


「「の…ノタム…!?」」


 ナタリアとガブリエルは目を半開きにし、腰を抜かした。カミロはそれを一瞬見ると、自分の帽子で視線を遮った。


 ジュリオが彼らに見せたのは、僕の首元にあるノタ厶――地区リーダーしか持っていないノタムだった。

 そして、それを見せ終わったところでジュリオは僕を離し、僕は襟を整えた。


 彼ら三人は、先程同様に唖然として、もうそこにないものを見続けていた。


 何かを言おうとしても言葉が出ない――そう言う状況だったのだろうか。

 彼らはその事件のことを知っていて、それがどれほど重大で悲惨なものかを理解していたのだろう。


 僕自身はもう、その話を聞いても悲しくはならなかった。

 むしろ、その日のことを何も思い出せないせいで、どういう顔をするべきか分からなかった。



「は…ジュリオ、それ、冗談にしてはやりすぎじゃねえか?」


 とガブリエルが少し真面目なトーンで言った。


「いや、こっちも冗談だと言えたら嬉しいくらいだ」


 ジュリオは肩をすくめ、彼を見つめて言った。

 そして、言い足りなかったのか、


「つまり言うと、彼の本当の名前は…」


「待って、ジュリオ。言わないでくれ」


 彼はあの“名前”を言ってしまう所だった。


 別に、こだわりってわけではないが、

 それを他人の口から聞きたくなかったのだ。


 運の良いことに、二度の注意を必要とすることなく、彼はそこでやめてくれた。

 彼は案外優しいのかもしれない。


 しかし、この僕も驚きだ。

 なんとなく予想はしていたけど、ロメロは僕のことを意外と詳しく、ジュリオに教えていたようだ。

 それによって、彼がジュリオを本当に信頼していたことも、良く分かった気がした。



 ジュリオは微笑んでいたが、他の皆はどう反応すればいいのか分からない様子だった。

 ナタリアは先ほどの発言を恥じているようで、顔を赤らめ、男二人は僕をじっと見つめていた。


 こうした反応は当然だろう。

 なにせ、あの事件は、

 人の心を変えた出来事だったのだから。


 それでも、いち早く切り替えをしたのはまさかの彼女――ナタリアだった。


「さっきはごめん…」


 下を向くほどの恥ずかしさを感じていたのだろうか、年下である僕に謝罪をしてくれた。


「気にしてないさ」


 と、少し笑顔で僕は彼女に言った。


《優しいところはありそうだな…》


 と思い、少しほっこりした。


※※※


「さて、アレハンドロのことは話したし、今度は君たちの紹介でもしようか」


 と、少しの間を空けてから、

 ジュリオが場の空気を和らげようと発言した。


 そして、あの部屋の外と同じく、一人一人を指しながら言った。


「まず、ちょっと口の悪い、今の所唯一の女性メンバーはナタリア · パルマ。

そして、何年も洗わずに同じチュニックを使い続けるその男はガブリエル。

隅にいる、あの大きな帽子を被ってる彼はカミロ · オホだ。」


 彼は息継ぎをした。


「――今日から君の先輩かつ重要な仲間たちだ。」


 と、彼は意気揚々と言い終わった。


 彼らの反応は変わらないものの、気まずさの種類が少し変わった気がした。


 その間、

《なるほど…》

 とでも思いながら、僕は彼の言った情報を頭の中でまとめた。


---


 たしかに「オホ」という姓は高層地区のものだった気がするが、どの都市かは思い出せない。

 そしてパルマは低層地区出身で…

 ガブリエルはどこ出身だろう?


 まあ、これらの情報を踏まえて、彼らを再び見てみると、

 まるでこの国の三つの階級――

「プロミネンテ(特権階級)」

「デセント(中間層)」

「プレベジョ(下層民)」

 をそれぞれ象徴しているように見えた。


 しかし、これを知ると、僕はナタリアの今までの態度に少し驚いた。

 本来ならプロミネントに近づくことすら許されてないはずなのに…、彼女はまるでそれを気にしていない。


 違う階級民なのに、ここまで調和(に近いもの)が見れるのは、猫とネズミが共生するくらい珍しいことだ。


 にしても――、

《――もっと紹介する要素あっただろ…》


 と、つい思ってしまった。

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