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ペステ:革命は内側から始まる  作者: fm344
第一章 アファロス:古びた経済の都
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17節 予想以上に十分な成果

「アイツ、ちゃんと傷を残していくタイプか…」


 探偵は自分の左手を見て、そこに大きな切り口があることに気づいた。

 そして彼の――ジュニオールの命が宿っていない目を自分の指で閉じ、


「本当に恐ろしいヤツだった…」


 そして、彼は老人の仮面を顔から取り出した。


《もういらないみたいだ…》


 そう思い、取り外した仮面をラウルの隣に置いた。


※※※


「もしかして、今のって銃声じゃないのか?」


 右目に包帯を巻いたロベルトは、物凄く嫌な予感がしていた。

 そしてそれがいよいよ抑えきれなくなっていた。


「そうだな…」


 あまり外に出さなかったが、ウンベルトもその予感を共有していた。



 一度は愚か、二度三度まで来たら、もはや確信と言ってよいだろう。


《ただの喧嘩のわけがない》


 音がはっきりとは聞こえなかったが、大きさ的に銃のそれとしか考えられない。


「まあ、行ってみて損はないな」


 ウンベルトがそう言い、頬の傷をかいてから、入る準備をした。


---


「中から音が聞こえた気がする…」


 ロベルトは、三人が家に近づいた所で言った。


「音… もしかして、誰かいるのか?」


 ウンベルトはいつも通りの、渋い口調で言った。


「――だったら見に行ったほうが…」


 彼は家に向かおうとしたが、ジュニオールは腕を前に出し、彼を止めた。


「いや、ここは俺が行く」


 彼は少し険しい顔で、前を向きながら言った。


「なんだその自信? 心当たりでもあるのか?」


 ジュニオールは笑ってそれを否定した。


「いや、ただちゃちゃっと終わらせたいだけだ」


 彼はそう言い、ほかの二人より先に家に行った。


 「何かあったら呼ぶから」と、

 彼は言い残し、家に入っていった。


 そして、それ以降、

 彼は帰ってきていない。


---


 二人は何もない廊下を非常にゆっくり、警戒して進んだ。


「何もなさそうだな…」


 ウンベルトはそう思いながらも、手には武器を構えていた。

 

 ――簡易ボウガン。

 それは知り合いに作ってもらった、いわゆるプロトタイプの武器。釘を高速で射出できる。


 二人はその性能を試すために、それを使っていたのだ。

 万が一の備えとして、ずっとそれを持ち歩いていたのだ。


 それを使う機会が来ないことが望みではあったけど。


《バカが、何もやらかしてないと良いが…》


 そう思いながら、ウンベルトはロベルトの前を歩いた。


 

「ウンベルト。何か、変な匂いがしないか?」


 ロベルトは突然止まり、小さい声でつぶやいた。


「……ああ、そうみたいだな」


 彼らが家の奥の部屋に近づけば近づくほど、その匂いは凄まじくなっていた。


「これ、もしかして――」


 ウンベルトが何か言おうとした時、突然大きな音が聞こえた。


 「パンッ!!」と、

 壁越しからでも十分わかる、

 ライオンをも怯えさせるほど、

 強い威力のものだった。



《これは紛れもなく…!!》


「…銃声だ」


 ロベルトも彼も壁に貼り付き、警戒心を強めた。


 ――あの部屋で発生した。

 それがわかってしまっては、どうしても一つの可能性が浮かんでしまった。


「ジュニオールが…」


 ロベルトは寒気を感じ、固唾を飲み込んだ。


「……」


 ウンベルトも同じように、体が震え出すのを感じた。


 なぜなら、

 ――ジュニオールは銃を持っていない。


 彼は武器の使用を拒み、素の強さを求めていたのだ。

 それが命を落とすことに繋がっても。


「行くぞロベルト…」


 彼はただそう言い、自分の予想が間違ってくれるようにと、強く願った。


※※※


 シャツの布を破り、自分の手に巻き付けながら、探偵は先程の状況を振り返っていた。


「にしても、老いたもんだ…」


 探偵は自分が弱くなったと感じ、少し遺憾に思った。


「もう少し鍛えるのも、悪くないだろう…」


 そう言って、出血がおさまった掌を開けたり閉じたりして、思考を回した。

 彼はここ数年で久しぶりにこの程度の怪我をしたのだった。


《…クソ、アイツを思い出しちまう…》


 彼は少し微笑み、立ち上がろうとした。



 ちょうどその時――

 「ドンッ」と、廊下から奇妙な音が聞こえた。


 それは虫やネズミとは言えない、人の足によるものだと彼は予想した。


「なんだ…」と、つぶやき、

 即座に銃を手に取った。


---

 

「造りが弱いな…」


 ウンベルトは床に沈んでしまった足を引き抜き、部屋へ向かった。



 二人とも心臓の激動を抑えられずにいたが、ウンベルトの場合は、それを上手く隠しきれていた。

 一方、ロベルトは汗を垂らし、不安が目元まで現れていた。



 二人が、部屋のすぐ隣に着いた時、ウンベルトは、


「少し待ってくれ。俺が見に行く」


 と言って、扉へ向かった。


 ロベルトは特に彼を止めようとせず、ただその言葉に従った。



 ウンベルトは一歩ずつあの部屋へと近づき、

 閉まっていた扉の前で立ち止まって、

 深呼吸をした。


 そして、ロベルトと目を合わせてから扉を蹴った。



 「パキッ!!」という音と共に扉は開き、

 彼は数発を連射した。


 そしてそれが空振ったと分かると、彼は姿勢を低くして中に入った。



《は…》


 彼はジュニオールの死体を見て、一瞬、

 油断をしてしまった。


 そして後ろを振り向いた瞬間、ある男の影が、

 扉の前に写っていた。


「パンッ!!」

  

 再び大きな音が鳴り響き、壁に大きな穴が開いた。


「しくじったか…」


 と、探偵が言うとともに、部屋中は煙で覆われ始め、ウンベルトはその中で動きだした。


《煙幕…!!》


 その煙幕による探偵の一次的な混乱を活用して、ウンベルトも発射した。


 一発。

 二発。


 二発目が探偵の膝に当たり、探偵は膝つく。


 ウンベルトはそれに気づき、彼の前へと移動し、その頭を狙った。


 一発。


 それは見事に額に的中した…したが、反応が全くなかった。


《まさか!?》


 何かに気づいたと同時に、


「ウンベルト、大丈夫か!!」


 と、廊下からロベルトが声をかけ、ウンベルトは素早く振り向いた。


「逃げろ、ロベル――」


「――パンッ!!」


 銃声が、ウンベルトの言葉を遮り、ウンベルトは地面に倒れる。


 

 探偵は背後から現れ、ウンベルトの前にあった死体を見た。


「見事だったな。お前と私だけだったら、紛れもなくお前が勝っていた」


 そう言いながら、ラウルの死体に刺さった釘を抜き取った。



「ロベルト、ジュリオに――!!」


 ウンベルトは彼の言葉に耳を貸さず、ただやるべきことをやろうとしたが、今回も遮られた。


「おい、ウンベルト!!」


 ウンベルトは探偵に踏まれた顔を頑張って上げ、


「お前も死ぬぞ!! 逃げろ!!」


 と、大いに叫び、探偵にいっそう強く顔を踏まれた。


 

 ロベルトは彼の言葉を聞いて、

 下を向いてから、

 黙って走り出した。


※※※

 

「お前はアイツ(ジュニオール)と違って、随分合理的だな」


 探偵が痛む手で銃を取りながら言った。


「だからアイツより弱いんだよ」


 ウンベルトは何の抵抗もせず、ただ横になって、ジュニオールとラウルの死体を確認した。


 状況がなんとなく分かり、

 少し悔しい顔をした。


 しかし、守れたものは守り抜いたとも確信していた。


「にしても…お前みたいな大物が来ていたなんてね」


 ウンベルトは少し視線を上げて言った。


《いつの間に…》


 探偵は自分のノタムを隠しきれなかったことを少し反省したが、それでも彼に銃を向き続けた。


「王冠ノタムが、こんなところで何の用だ?」


 ウンベルトは脇腹を手で触り、銃の穴を確かめた。そして笑みを浮かべた。



 探偵は無言で彼を見続け、少し遠ざかるロベルトの気配を感じ、銃を強く握りしめた。


「時間稼ぎはよせ」


 そう言ってから、彼の後頭部と首の間に銃を向けた。


「一応聞いとくが、仲間の居場所を教えてくれたら、病院に連れてやっても良いんだぞ」


 ウンベルトはその非常に間抜けな質問に小声で笑った。笑うごとに腹の痛みが増していったにも関わらず。


「この腐った国で生き続けるためにか……?

はっ、冗談じゃない!」


 彼は口から血が滲み出るのを感じつつ、笑顔をやめなかった。


「ふん。そうか…」


 探偵はその覚悟に敬意を示し、銃を彼の三つ編みにぐいと突きつけた。


 そして、

 「パンッ!!」と言う銃声と共に、

 ウンベルトはこの世を絶った。


---


 探偵は飛び散った血を袖で拭き、銃口をポケットにしまった。


《アイツも今のうちに…》


 彼はロベルトの所へ向かおうとしたが、何かが自分の足を引っ張っていることに気づいた。


「何…」


 彼はそれを見て、言葉を失った。


 今、

 仕留めたはずの男が彼の足を掴んでいたからだ。


《まだ息の根が…》


 それでも、探偵は歩こうとしたが、

 その時、もう一つの足も引っ張られると感じた。


 彼はそれを必死で振り払おうとしたが、先程膝を撃たれたせいで、抵抗ができなくなっていた。


 そして、

「ドタンッ!!」と、大きな音と共に、

 探偵は床に倒れた。


 強い衝撃に少し目を瞑り、それを開けた時、

 ウンベルトが自分の前にいた。


《なんだ……死んでいるじゃないか》


 探偵は驚きと共に、一人で笑い出し、

 腕で顔を覆った。


「まあ、そっちは目的じゃないし…」


 とささやき、深呼吸をした。


※※※


 ロベルトは遠くから銃声を聞いた。


「クソ…」


 彼は周囲の目を無視し、ただ走り続けていた。

 泣く暇もなく、ただ自分の腕を必死で掻いた。


「いつもより…痒い…」


 そう言いながら、橋を渡り、ある人の家に向かった。


 仲間の死に悲しみを感じながらも、それ以上に恐怖が彼を突き動かしたのだった。


---


「さて、後始末はどうするか…」



 その頃、家に一人残った探偵は、床に倒れたままつぶやいた。


 自分の周りの死体を見て、それが中々面倒くさくなることを悟った。


 ――悟ったが、


「でも、予想以上に十分な成果が得られたな」


 と思い、例の紙切れを眺めた。



 すると、突然、

「ブブブブブ…」

 と、ポケットから何かが鳴り出す音がした。


《こんな時に…》


 彼はそう言い、まだ世間に知られていない道具――


 ――“携帯電話”を取り出した。


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