2-1 機会があればだれでも頑張れるほど、人間は強くない
翌日、私は憤懣やるたかない表情で空を仰いでいた。
(甘味が……甘味が足りない!)
この王子の国は、国力そのものは高い方だが、明らかに嗜好品が不足している。
私の住む国を挟んで砂糖の生産国があるためだろう、高い関税を払わないと、砂糖と茶葉が手に入らないのだ。
(お肉も、そりゃ好きだけどさ……。やっぱり私はケーキがほしいの! 血管に砂糖水が流れてないと嫌なのよ!)
私は元の世界では甘いサイダーを水代わりに飲んでいた。
時には『口にする液体は、全てサイダー』という時期もあったほどだ。夏の暑い日はいつも弟に買いに行かせて、私はクーラーの前でゲームをするのが日課だった。
「ゼフィーラ様、おはようございます」
「ああ、おはよう……って、なに!?」
私は朝食後にのんびりくつろいでいたら、そう突然私の部屋に騎士団長の男がやってきた。
見ると明らかに『稽古時の服装』をしている。
その騎士団長は満面の笑みで答える。
「ゼフィーラ様。あなたにはこれから、しっかりと剣技の練習をしていただきます。さあ、このお召物に着替えて外の訓練場にお願いします」
……ああ、これは確か『剣術修行』をやる時のイベントボイスだ。
そう思いながら、私は嫌そうな表情を見せる。
「……なんで私がそんなことを……?」
「ラミントン王子からの命令です。……あなたのことを最高の魔法剣士に育て上げよ、それが彼女の希望だ……と」
はあ?
何言ってるんだ、この男は。
いつどこで、私がそんな希望を出した?
……だが、ここでサボると後で王子が何か言ってきそうだ。
しょうがないので私は、服を着替えて訓練場に向かった。
(はあ……面倒くさいなあ……)
訓練場は、そこから少し離れたところにある。
正直私は、習い事に行くまでの道中すら面倒くさがる癖がある。
(よく、ママに怒られたものね……)
幼少期、私は漫画家になりたくて絵画教室に通わせてもらったことがある。
しかし寒い日や暑い日にわざわざ教室に行くのが面倒になったため、次第に行くのが嫌になり、サボりがちになった。
それに加えて、課題としてデッサンを毎週宿題にされていたのだが、面倒で弟に絵を描かせていたのがバレて、辞めることになったのを思い出した。
「さあ、頑張りますぞ、ゼフィーラ様! たっぷりと能力値を上げていきましょう!」
「はい……」
そういうと、騎士団長は私の前に数本の薬瓶を出した。
「これは飲むと『スタミナ』が完全回復します。これを使って、どんどん鍛錬をしてくださいね!」
「はい……」
この世界では鍛錬をするたびに『スタミナ』を消費する。そして減ったスタミナは時間経過か、このアイテムを使うことで取り戻すことが出来るのだ。
さらに騎士団長は、赤色の瓶も数本取り出す。
「それとこれは『力のしずく』です。ちょっと飲んでみてください」
「え? うん……」
確か、これは飲むとステータスが上がるアイテムだ。
私は飲むと、確かに腕に力がついたような気がした。
「これも10本あります。訓練が終わったら、これを全部飲んでいただいて、それで今日は訓練を終わりにしましょう」
「はあ……」
「さあ、それでは訓練をしましょう。まずは素振り100回!」
そういいながらも、私は剣を握りながら思った。
……重い。ブンブンと剣を振りながらも、私の頭の中は『どうやってサボるか』ばかり考えていた。
(……やっぱり、面倒ね……そうだ!)
そう思いながら、私は10回目くらいで一度剣を止めて尋ねる。
「ねえ、団長?」
「なんでしょう?」
「私の剣の握り方って、これであっている?」
「あ、いえ……こうですね」
そういいながら、団長は剣の握り方を見せてくれた。
小指に力を込めて親指や人差し指をふんわりと握るそのやり方を、私はわざと無視してみた。
「こう?」
「……うーん……。ちょっと、お手を拝借しますね?」
そういって団長は私の手を触る。
(よし!)
その瞬間、バチン! と『怠惰の手』が起動した。
すると団長は急にため息を吐いて呟く。
「はあ……」
「あら、どうしたの、団長? お疲れじゃないですか?」
「あ、いえ……。すみません……ちょっと少しふらついたみたいです……」
流石に勤勉な騎士団長だ。
「怠惰の手」を使っても、最低限の礼節を崩さないようだ。
そこで私は助け船を出す。
「お疲れみたいね。……私は一人で練習しているから、よかったらあなたも少し休んだら?」
「……すみません、そうさせていただきます」
そういうと、騎士団長は去っていった。
(よし、これでサボれるかな……)
訓練場は幸い、私の貸し切りだ。
だが、私は目の前に置かれた大量の『回復薬』と『力のしずく』を見ながら思う。
いくらなんでも、これが一本も使われずに余ってたら、流石にサボったことがバレるだろう。そうしたら、流石のラミントン王子も怒るだろう。かといって、こっそり捨ててしまったら、最悪婚約破棄もあり得る。
……『婚約破棄』は現実的に考えれば難しいが、訓練が嫌でサボったことで捨てられたのであれば、文句も付けられない。
(はあ……面倒ね……)
普段だったら弟に代わりに全部やらせるところだが、あいにくここにはいない。
そんな風に思っていると、近くにいた物売り……どうやら家畜の餌を売っているようだ……の少年がこちらを覗いていることに気が付いた。見た感じ、剣士に憧れる少年といったいでたちだ。
……そうだ。ひょっとしたら、彼は利用できるかもしれない。そう思い私は尋ねた。




