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1-4 弟が不憫に感じるが、姉とはそういうものだ

そして数日後。

私は輿入れのために立派な馬車に乗せられて、街道を進んでいた。

王子の住む国は、屋敷から馬車で安全な道を選んで進むと、1週間ほどかけた場所にある。


(なんか、使用人たち……随分名残を惜しんでいたわね)



『ゼフィーラ』は、元々優しい性格が災いして、使用人からもどこか軽んじられていたという設定だったはずだ。


だが、今朝彼らが私に見せた態度を見るに、とてもそうは思えない。なにが原因か少し考えようとしたが、面倒なのでやめた。



(……はあ……にしても、ラミントン王子か……正直、もっと軽い王子様と結婚出来ればよかったな……)



ラミントン王子は、優秀な兄と比較されることによって、酷い劣等感を抱えていた。


そんな中、婚約者である私『ゼフィーラ』の復讐を手伝い、自らの手を汚していく。これによって『ゼフィーラだけが、自分を一人の人間として必要としている』という心地よさに依存するようになっていく。


だが、その中で私との絆を深める中でトラウマを克服して、本当の恋仲になるというストーリーだ。



(バカらしい。なんで配偶者にトラウマケアのカウンセラー役を押し付けるのよ。そういうのが好きな女なら喜ぶんだろうけどさ……。トラウマの解消なら自力でやってほしいものよね)



私は乙女ゲームの主人公のような『優しい女の子』ではない。

誰かの世話をすることに喜びを感じることはないし、気を遣えるような器用さもない。……そんな性格だから、ニートになったのだろうが。


(かなり依存気質の強い王子様だったわよね、ラミントンは……。はあ、憂鬱だなあ……)


正直結婚するならキスもデートも求めてこない、無関心な男がよかった。私に愛情表現はしなくていいから、黙ってお金だけ入れて『放っておいてくれる』ような男性。


(そうね……。よくある『お前とは形式上だけの結婚だ』的な無関心な王子とか、理想ね。そういう奴に生活と身の安全の保障だけされながら、毎日お菓子作りだけやっていればよかったんだけどなあ……)



「姫様、到着しましたよ」


そんな風に思っていると、馬車はどうやらラミントン王子の屋敷についたようだ。



(大きい屋敷ね……)


私が住む屋敷よりも二回りほど大きく、この国の経済状況を物語っているように感じた。

だが逆に言えば、それだけ王子に負わされる責務も重いのだろう。



(私がラミントン王子に転生していたら……過労で一カ月で死んでたわね、きっと)



そう思いながら、私は馬車の外の景色を眺めていると、御者が不思議そうに尋ねる。



「あ、あの……降りないんですか?」

「え? ……ああ、ごめんなさい」



なんと! 私に自分で馬車のドアを開けろということか。

元の世界では、いつもめしつかいに車のドアを開けさせていたので、ついいつもの癖が出た。


私は馬車のドアを開けると、すでに暗くなった空を見ながら服の裾を汚さないように降り立った。




「ゼフィーラ姫! お初にお目にかかります」

「はじめまして、ラミントン王子」



そして私は歓迎の挨拶を受けながら、王子の私室に案内された。


(やっぱり、顔だけは素敵よね、この王子様……)


ラミントン王子は鬱ゲーかつ作業ゲーとはいえど、乙女ゲームのメインキャラだ。だから容姿については申し分ない。



「ここに来るまで大変だったのではないですか? お疲れ様です……」

「え、あ、そうですね……」



……ダメだ。私はどうしても女子高育ちということもあり、めしつかいや父さん以外の男性と会話するのが得意ではない。それに加えて、元々コミュ障ということもあり王子の語りかけにも生返事をするのが精一杯だった。



「今回の結婚は、あなたの国との関係を解消するための政略結婚ですが……私はあなたのことを精一杯愛することを誓います」


そう王子は非の打ちどころのない笑顔を見せてくれた。……まあ、これは本心というよりは『兄ならこうする』という考えからやっているに過ぎないことは分かっているが。


「ああ、はあ……」


だが、いずれにせよ気を遣われているのに思うように言葉が出てこない。

……このあたり、本編のゼフィーラのように『普通の女の子』だったら、スラスラと王子を慕う言葉が出てくるのだろうが、残念ながらそれはできない。


「……やっぱり、私と結婚するのは嫌でしたか?」

「え? あの、その……」



そうだ、この王子は結構面倒くさいメンヘラタイプだ。

だから自分に好意を持たれないことを嫌う。その癖自信がないからそれをはっきり口にできないという性格だった。


……まったく、面倒くさい。世の女はこんな男が好きなのか?



「あ、いえ……すみません、私は男性……いえ、人と話すのが苦手で……」

「そうなんですか?」

「は、はい……。どうも慣れなくて……」


そういうと、少し考えたのちラミントン王子は笑って答える。



「そうだ、では私のことを婚約者ではなく、親しい身内のように思っていただければいがかでしょう? ……それではダメですか?」

「え?」


そういえば、ラミントン王子は16歳の設定で元の世界の弟より年下だ。

つーか、こんな幼い王子に国の全権を押し付けるなよ、国民は。


もっと言えば、こんな子どもに自分の復讐の片棒を担がせて人殺しなんかさせんなよ、本編のゼフィーラはさ……。



(けど……確かに、この王子は背は高いけど、顔は丸っこいし、上目づかいでこっちのことを気にかけてくれるし……。どっか哀灯に似てるわよね……)


そんな風に考えると、彼がめしつかいのように感じた。

……つまり、従順で私の命令には絶対服従する、可愛い手下のように。


それを思い出した私は、頷いて答える。


「ええ、分かりました、王子。……これからは王子を私の身近な人と同様に扱います。それでいいですか?」

「ええ、喜んで」



そう王子は笑ってくれた。

……すると、急にお腹がすいてきた。そういえばお昼から何も食べてなかったな。

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