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1-3 なんで、憎しみを抱えるためにスマホ見てるの?

「いたた……何するのよ!」

「あ、あわわ……す、すみません、サヴァラン様!」



明らかに今のはサヴァラン王女側の過失だろう。

だが、そんなことを理解できるような知性を持ち合わせているようなら、今私に詰め寄っていないだろう。



「あなた……何やったか分かってるの?」


そう、サヴァラン王女はワインでびしょぬれになったドレスを見せつけながら、氷のような目をメイドのルリジューズに向ける。


彼女はゲームの中では意外と珍しい「本物の悪役令嬢」だ。


『実はいい人』でも『単なる冷徹な合理主義者』でも『復讐に生きる女』でもない。

気に入らないことがあったらすぐに粛清するタイプで、個人の感情を領地の存続よりも優先させる。


そのような性格であるが故、作中では多くの人の恨みを買う筋書きだ。

もっとも最後は、彼ら使用人に裏切られることによって『ゼフィーラ』は復讐を遂げさせるという筋書きになっている。



「あ、あの、その……」

「私のこのドレス……一体いくらすると思ってるの? 貧乏なあなたに払える額じゃないこと、分かってるのかしら?」

「ええ、それは……」



そこまで言うのを見て私は思い出した。



(似たような展開が、確かあったわね……)



ゲームではこの後の展開として、サヴァラン王女はドレスの弁済のために娼館に働くようにメイドに叫んだはずだ。当然その理不尽に使用人たちが反発するが、逆に反対した執事の一人を惨殺する。


これによって、使用人たちからの憎しみを決定的なものにする……という展開だった。



(はあ……人が死んだり、憎み合ったり……なんて面倒くさい展開なのよ……そうだ!)


そう思った私は、自身の懐からハンカチを取り出し、立ち上がる。



「このドレスの分、しっかりと弁済していただきますわ? ただ、あなたの顔は見たくないし……内職で稼ぐにも無理があるわね……」

「そ、そんな……」

「……そうね。あなたはまあまあ顔がいいし……。ちょうどよかった。あなたにはもっといい仕事を案内してあげるわね?」



……サヴァラン王女の怒りはますます高まっているのが分かる。

そう思った私は、少し強引に彼女の身体に触れる。



「お姉さま、酷い汚れですね。気休めに過ぎないかもしれませんが、これを……」

「なによ、ゼフィーラ?」



そして彼女の服にハンカチが触れた瞬間、以前のような「バチン!」という音がした。



「え……な、なに、今の?」


そうサヴァラン王女は驚いた表情を見せたが、周囲は反応しない。

どうやら、このスキルが発動したときの音は私とかけられたモノだけが聞こえるのだろう。

……そして数秒後。



「……はああああああ……」

「さ、サヴァラン様? どうされたのですか?」

「なんかもう……怒るのも面倒だから、もういいわ」


そういいながら、サヴァラン王女はけだるげな表情で席に戻った。

……よし、作戦成功だ。私が服をぬぐうふりをして発動した『怠惰の手』が決まったようだ。



「え……それじゃあ……」

「あなた一人をクビにするにしても、手続きとか面倒だし……。やっぱり、さっきのことは不問にするわ。けど、後で綺麗に洗濯だけはしといてね?」

「は、はい!」

「それと、ご飯はもういいわ。下げて頂戴?」



そういうと、サヴァラン王女はそのまま席を立った。

……恐らく『怠惰の手』の効果だろう、眠そうにしながら彼女は部屋から出ていった。



「あ。あの……ゼフィーラ様?」


その様子を見ながら、私はメリルにニヤリと笑いかけた。



(今日のデザート、お姉さまの分も私にくれるわよね?)



というアイコンタクトだったが、彼女は理解できないのかおどおどするばかりだ。

まったく、面倒くさい。


「あ、あの……」

「フフ、デザートはまだかしら?」

「あ、今すぐ!」


そういうと、彼女は理解してくれたらしくナイフでケーキを切り始めた。

その様子を見ながら、私はサヴァラン王女の怒りっぷりに疑問を感じていた。


(なんでこうみんな、怒ったり憎んだりするのが好きなのかなあ……)



元の世界でもみんなそうだった。

わざわざSNSで自分が怒ったり憎んだりするような発言を発掘しては文句を付ける。


そして不満を高めた後に自分の代わりに誰かが『悪い人』に怒鳴り散らすのを見て溜飲を下げ、また明日同じことを繰り返す。そんな何のメリットもないマッチポンプを欠かさず続けている人もいる。



だがそんなことをするのは、私のような面倒くさがりのクソニートには理解できない。

ゴロゴロしながら自堕落にお菓子を食べたり、ケーキを作ったりするほうが楽しいに決まってる。



(……けどまあ……めしつかいは例外ね。もし、さっきみたく私のドレスにジュースをこぼしたのだとしたら……あいつに朝日を拝ませるつもりはないけどね、ふふふ)



そう苦笑しながらも、私はデザートが切り分けられるのを心待ちにしながら眺めていた。





ーーーーー



それからしばらくして、ここは使用人たちの控室。


「なあ、見たか? 今朝のやりとり……」

「ああ。ゼフィーラ様が何か耳打ちしたら、それだけであのサヴァランが引き下がったぜ……?」


当然だが、使用人から嫌われている彼女は周囲からは呼び捨てにされている。

……もし、今回ゼフィーラが止めずにルリジューズを娼館送りにしていたら、こんな嫌われ方では済まなかっただろうが。



「あの鬼のサヴァランがな……何言ったんだろう? ……つーか、ゼフィーラ様って大人しいだけの方だと思ってたけど、本当は優秀なのを隠してたんだろうな……」

「ええ。それに見た? あの女が去ったあとの素敵な笑顔! 恩に着せる様子もなく、ただニコニコと笑っていたわよね? ……昨日あれだけのことをされたのに、それを態度に出さずに、逆に私たちを気遣ってくださるなんて……」

「あれはまさに噂に聞いた『慈愛の聖女』よ! そう思わない?」

「ああ! ……ラミントン様が羨ましいな……」



彼らの視点ではゼフィーラが『慈愛の聖女』に見えたのだろう、そのように感激するような声が響いていた。

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