1-2 ゼフィーラは雑談が出来ない人です
翌日。
(はあ……やっぱり、この世界でも私は頑張れないなあ……)
結局私は昨夜5分で寝落ちしてしまい、やったことといえば、自身の能力に『怠惰の手』というスキル名を付けたことくらいだ。
前世で怠け者だった私が、たかが転生したくらいで心機一転努力家になれるわけがない。
その程度でに人間が変われるんなら苦労はない。
ぐうたら舐めんな。
……そう思いながら私は欠伸をかみ殺しつつ食卓に座る。
「おはようございます、ルリジューズ」
「お、おはよう……ございます……」
そう私が声をかけると、メイドのルリジューズはびくりと体を震わせた。
よく見ると、周囲に居る執事や下男達も私のほうを見ながら、恐ろし気な表情を見せていた。
耳をすませると『ゼフィーラ様……気の毒に……』『けど、全然平気なふりをして……』『気丈な方だ……』と、私に対する同情的な声が聞こえてきた。
(ああ、そうか……。昨日私は凌辱されたことになってるのよね……)
昨夜、あれだけ大声を出したのだから、使用人は皆知っているわけか。
実際には、私のスキル『怠惰の手』によって事なきを得たのだが、彼らはそのことを知らない。そのため、私が平然とここにいることが驚きなのだろう。
そしてしばらくすると、急に使用人たちは全員ビクリと身体を震わせ、私語を辞めた。
「おはよう、みなさん」
「「「「「おはようございます!」」」」」
異母姉である『サヴァラン王女』がやってきたのだ。
彼女はこの国の第一王女ということもあり、絶対的な権力を持っている。そのため、彼女の機嫌を損ねたら※首が飛ぶからだ。
(※この場合の首が飛ぶとは、決して比喩ではない)
彼女は私のほうを見るなり、嫌味たっぷりに笑みを浮かべてきた。
……はあ、正直こういう顔の相手と会話をするのは面倒だ。そう思った私は、適当に相槌を撃つことにした。
「あら、おはよう、可愛い妹ゼフィーラ?」
「おはようございます、親愛なるお姉さま」
「昨日は、ずいぶん大きな声でうなされていたわね? ……よく眠れたかしら?」
「ああ、まあ。寝すぎて気持ち悪いくらいには」
そういって私は顔を見せた。
正直なところ、昨日は寝る前に水を飲みすぎて少しむくんでいる。
だがサヴァラン王女はその顔を見るなり、
「……へ、へえ……」
サヴァラン王女は言葉を失った。
(あれ……? あ、そうか……)
適当に返事をしていたが、彼女の目線からしたら私は、
「あれだけ酷い悲鳴を上げながら犯されていたのに、今は表情一つ変えていない、恐ろしい胆力の女」
と思われているのか。
……だが、あれこれ弁解するのも面倒だ。
そう思っていると、サヴァラン王女は嫌味な笑みを浮かべて尋ねてきあt。
「ところで、輿入れは今日の午後からの出発ですわね?」
「そうでしたね」
「例の『愚弟』ラミントン様との結婚なんて、まったく素敵ですわね~?」
無論、自分より先に結婚が決まった自分への嫉妬もあるのだろう。
だが、ラミントンを『愚弟』というのは、確かに間違いではない。
(ま、どの世界も『弟』ってのは上の子より愚かなものだものね……)
ラミントン男爵には優秀な兄がおり、彼は常に後塵を排していた。
それにもかかわらず、兄王子は流行り病により死んでしまった。それにより彼が王位継承者となってしまい、兄王子が抱えていた莫大な量の仕事を回されてしまう。
ただでさえ仕事量が多いことに加え、周囲からの好奇の目とプレッシャーにさいなまれ、ノイローゼ気味になりながらも必死で国務を行っている……という設定だったことを思いだした。
「あんな王子様との結婚なんて、ついてますわね、ゼフィーラ? まったく。あのようなお方と結婚するくらいなら、私は一生独身でも良いですわ?」
「ええ、そうですね」
彼女の嫌味を聞くのも面倒で、そう私が適当に相槌を打ちながら食事をする。
そして私の目線はすでに、机の中央にあるおいしそうなケーキを向いていた。あれはゲームの中でもいつも美味しそうに置いてあったものだ。
(はやく、デザート食べたいな……私、何切食べられるかな……)
さすがの私も、他の人が食事をすませていないのにデザートを自分だけ食べるような真似はしない。……だから、さっさとサヴァラン王女も食事をすませて、デザートを食べたいし、レシピも教えてもらいたい。
「それでね、ゼフィーラ? 私も実は……」
「ええ、はい。このスパイスは香り高くて良いですね」
「あと、あなたも本当に暇よね? 昨日は……」
「そうですね、大変でした。すみません、ジュースをもう一杯」
私は基本的に雑談は苦手で、興味がない話題には気のない相槌を打つ性格だ。
そのせいで元の世界では友達も恋人も出来なかった。
そんな風に考えながら、サヴァラン王女に適当に相槌を打っていると、突然彼女はバン! と叩いてこちらにつかつかと歩み寄ってきた。
「ねえ、ゼフィーラ? さっきから話聞いていますの?」
そして、そう私に対して批判的な目を向けながら近づく。
……だが、その瞬間。
「きゃあ!」
「いた!」
私がお代わりしたジュースを持ってきたメイドのルリジューズとぶつかり、ワインがサヴァラン王女のドレスにこぼれてしまった。




