第38話 『群雄割拠』
〜前回の仮面ライダーラグナロクは〜
絶対悪 アフリマンの影を払った代償は大きく、黒瀬廻の心身には拭えぬ疲労が刻まれていた。
更なる戦いに備え、氷室と水崎は古の神域へと挑む。自らの無力さと向き合い、愛する者を守る「盾」となる覚悟を決めた時、二人の女神は最高神の神威をその身に宿した。
一方、黒瀬は氷室千鶴との対話の中で、自らの魂が底なしの「虚色」であることを告げられる。
仲間たちが次々と「極致」へと至る中、その背中を見つめる炎堂武尊と草壁美土里の拳には、静かな、しかし激しい熱が灯り始めていた。
抜けるような青空の下、若葉を揺らす6月の風が、木漏れ日を公園のベンチに躍らせていた。
「……あー、平和。平和すぎて、なんか逆に落ち着かねえな」
炎堂が、背もたれに大きく身体を預けて伸びをした。その足元には、数分前まで全員で盛り上がっていたバドミントンのラケットが転がっている。
「炎堂、それは言わない約束よ。今日は『イザナギ』はお休み。ただの高校生として過ごせって、朝日奈さんも言ってたでしょ」
水崎が、水筒から冷えた麦茶を紙コップに注ぎながら苦笑する。隣では、氷室が「はい、黒瀬くん」と、少し照れくさそうに日陰で涼む黒瀬にコップを差し出した。
「……あぁ、悪い。……美味いな」
黒瀬は、受け取った茶を一口啜り、ふぅと息を吐く。その瞳には、戦場の鋭さはなく、ただ穏やかに揺れる木々を見つめる静かな光だけがあった。
少し離れた切り株では、涼風が参考書を広げ、休日の公園という喧騒の中でも平然と数式を解いている。そして永倉は黒瀬の左肩に寄り掛かり、目を瞑っていた。
神話の力も、邪神の咆哮も、ここにはない。
バドミントンのシャトルを追いかけ、喉を鳴らして茶を飲み、他愛もない会話に笑う。
けれど、炎堂は知っていた。
氷室と水崎の宝珠が放つ、以前とは違う圧倒的な神威の残滓を。そして、隣で茶を啜る黒瀬の肩に、かつてはなかった「何か」が、薄く、しかし確実に影を落としていることを。
「……なぁ、黒瀬」
炎堂が、不意に、けれど真っ直ぐに問いかけた。
「お前、……俺らのこと、置いていくなよ」
「……急にどうしたんだ?」
黒瀬は、左肩に預けられた永倉の重みを感じながら、視線だけを炎堂に向けた。
「別に急でも何でもねえよ。ずっと、思ってたことだ」
炎堂は、ラケットのガットを親指で弾いた。
「氷室と水崎が『最高神』に認められた。あいつらの背中を見て、素直にスゲェと思ったよ。……けど、それと同時に、俺の中にあった『熱』が、ただの焦りに変わったのが分かったんだ」
炎堂の言葉に、涼風は解いていた数式の手を止める。切り株の向こうから、冷徹な、けれどどこか寂しげな視線が炎堂に注がれた。
「確かにそうだな。正直、俺もかなり焦ってる。今の俺たちでは、完全にお前ら三人の足手纏いだ」
「炎堂…」
「涼風…」
「「急にどうしたの、気持ちのわるい」」
男二人の急な自虐に、思わず水崎と氷室は辛辣な言葉を発してしまう。これには炎堂も涼風も「何でだよ!!」や「おい」などとツッコミが出てしまう。
「いやだって、そんな萎れた状態になってる炎堂なんて、シンプルに気持ちわるいでしょ?」
「涼風も。あんたは何があっても常に前を向いて、私たちを前に進ませてくれた。そんな貴方がこの期に及んで今さら挫けるとか、、気色悪いわよ」
褒めているのか貶しているのか分からない反応に炎堂たちは一瞬、キレが生じるが直ぐに気を落ち着かせる。
「… お前らなぁ……人の決意を気色悪いとか言うなよな」
炎堂は頭を掻き、毒気を抜かれたように笑った。涼風も「全く、手厳しいな」と、文句を垂れるが、その口元にはわずかな苦笑が浮かんでいる。
「あー、なんか悩んでたのが馬鹿らしくなってきたな。もうこの際だからハッキリ言いたいこと言わせて貰うけど、良いよな?」
炎堂は5人の顔を見て訊くと、全員が頷いたのを確認する。永倉だけ、起こされたことに多少の不満を抱いているようだった。それを黒瀬は左手で永倉の頭を撫でながら怒りを収めさせながら「それで、どうしたんだ?」と訊く。
「ああ、氷室と水崎がこの前、自分たちの属性の最高神の力を手に入れるのに成功しただろ。だから今度は俺も、その力を手に入れたいんだ」
宣言通り、ハッキリと、真っすぐな瞳に、真っすぐで真っ当なことを炎堂は言う。
「どうして、、そう思ったんだ?ただ力を手に入れたいという理由だけじゃ、最高神は決して力を貸してはくれないぞ」
「理由ならもちろんあるさ。お前たちの力になりたい、それにこれ以上、あいつ等の、ゾロアスターの好きにさせてたら、。俺はもう、目の前で人が死ぬところなんか見たくねえんだ」
炎堂をはじめ、その場にいる6人は魂掠聖典のことを思い出す。
「確かに、これ以上の被害は御免だな。あれよりも前から決まり掛けてはいたことだが、結局、朝日奈さんはアレを機に氷室にこれから先の戦いでの記憶阻害は不要だと判断したしな」
「うん。人命が無くなった以上、その記憶を身内から無くすのは倫理に反することだからって、」
「そうか、そういうことだったんだな」
黒瀬は、静かに頷いた。
なぜかこの二人が話を始めると、自然な流れで沈んだ空気ができあがってしまう。それを炎堂はすぐに察したのか、パンパンと景気よく手を叩きながら、わざとらしく声を張り上げた。
「おーい! 空気が重くなってるぞー! せっかくの休日に、そんな顔してんなって!」
炎堂は、自分の中にある焦燥を一度だけ深く飲み込み、歯を見せて笑った。
「さっき水崎が言ってたけど、今日は折角の休みなんだ。思いっきり燥ごうぜ!!」
炎堂に手首を掴まれた黒瀬は、そのままの勢いでラケットを持たされる。
「どうだ、黒瀬。握るのは何ヶ月振りだろ?」
「まあ、ここ最近は魔剣か日本刀しか握ってないからな」
物騒なこと言うなよ、と炎堂は小声でツッコむ。
炎堂は新しいシャトルを手に取り、ショートサーブの構えからミニゲームが始まる。その様子を他の面々は微笑ましく眺める。
あのクリスマスの日から、黒瀬のことをずっと信じ続けていたのは、何気もない炎堂だ。永倉の件で、黒瀬が暴走した時にも、どんなにボロボロになっても立ち続けてきたのも炎堂だ。そんな二人が、今ではまたあの時のようにバドミントンをしている。そんな時間が続けば良いのに…。
そうもいかないのが、この神々の戦いなのだ。
「「「!!!!!!」」」
黒瀬をはじめ、六人は直ぐにゾロアスターの神力を感じ取る。
「休暇は終わりみたいだな」
「いや、中断だろ。手っ取り早く片付ければ良い話だ」
「炎堂の言う通りだな、神力の気配から察するに、相手は超強化を与えられた邪神たちだが、今の俺たちなら、そんな苦戦を強いられるような戦いになるとは思えな…い…」
涼風の声が小さくなりつつ途切れた理由は、みんなが理解していた。邪神たちが現世に現れた、その直後に更なる強大な気配が出現した。その気配は、今まで戦ってきた邪神を大きく上回り、文字通り、五感に直接『死』を叩きつけてくるほどに禍々しいものだった。
「……廻、これって……」
永倉は震える口調で黒瀬の顔を覗き見る。
「ああ、間違いない。しばらく見ないと思ったら、アフリマンの手で強化されていたんだな。ヴリトラにビアー、そしてキルケーとファフニールの奴ら、幹部全員が最上級の超強化を迎えやがった」
六人は直ぐに片付けをし、転移之渦でイザナギのメインホールに移動する。
☆ ☆ ☆
「おやおや、みんな来るの早くない?てっきり休暇で気が緩んでると思っていたのに」
鳴上の片時も崩れないお調子具合に、黒瀬たちは肩に入った力が拍子抜けする。
「少しは緊張感を持ってくださいよ、鳴上さん」
「颯は緊張し過ぎなんだよ。ほら、もっと力を抜いて。ヒーヒーフー、ヒーヒーフー、」
「なんでラマーズ呼吸法なんですか!!」
涼風と鳴上の場違いなお巫山戯を他所に、朝日奈と草壁、そして黒瀬たちは状況確認を急いでいた。
「まあ、あの二人は置いておいて。黒瀬くん、この状況をどう考える?」
朝日奈からの問い。おそらく考えていることは同じだろうなと、黒瀬は読んでいた。だがそれでも訊いてくるということは、このやり方には朝日奈は反対なのだろうなと、黒瀬は同じことを考えていた。
「……神力の気配からして、邪神は9箇所の場に現れる。そのうち4箇所には、いずれ各幹部が一体ずつ置かれるはずだ。残りの5箇所は幹部が来ないといえど、その実力はアフリマンの現世再臨を機に、今までとは比較にならないものとなっているはずだ」
その見事なまでに分析された結論は、鳴上でさえも沈黙させた。だが、なにも黒瀬としても重い空気にしたい訳ではない。今、口から出る戦い方は、彼等を信じているからこそのものなのだ。
「炎堂と草壁さんは、最高神のもとに向かってくれ。俺以外の6人は自分の属性に合わせた場所に、残りの3箇所は俺が相手取る」
黒瀬の言葉が落ちた瞬間、メインホールに冷ややかな静寂が走った。
真っ先に声を荒らげたのは、やはり炎堂だった。
「――ふざけんな、黒瀬! 3箇所同時なんて、いくらお前でもキャパ超えてんだろ! しかも俺と草壁さんには戦うなっつうのかよ!」
「……炎堂。勘違いするな」
黒瀬は、感情を排した声で炎堂の熱を遮った。
「お前が自分で言ったんだろ。俺たちの足手纏いになりたくないって、目の前で人の命が失うところを二度と見たくないって」
炎堂は何も言えずにいた。
「この状況下だからハッキリ言わせてもらうぞ。今のお前では足手纏いにすらなれない」
「ーーっ、なら、なんで涼風や永倉たちは良いんだよ!? 俺より強いからか!?」
炎堂の叫びが、高い天井に跳ね返る。だが黒瀬は、微動だにせずその視線を受け止めた。
「……いいや。下手をすれば俺と氷室、水崎を除いた四人は、この戦いで命を落とすだろうな」
あまりに淡々とした死の宣告に、ホールが凍りつく。
「なら、なんで――」
「お前が強いからだよ、炎堂」
先ほど「足手纏い」と切り捨てた口で、黒瀬は確かにそう言った。
「どういう意味だよ」と、炎堂が戸惑いを剥き出しにして問う。
「お前の精神の強靭さは、ここにいる全員が知っている。強くなりたいというお前の願いは、この場の誰よりも純粋で、真っ直ぐだ。……その魂の純度は、必ず最高神に響く」
黒瀬は、全員の顔を見渡した。誰もが、黒瀬の言葉に静かに、しかし深く頷いている。
黒瀬は一歩踏み出し、炎堂の胸に、その拳を強く当てた。
「お前なら、最短最速で俺たちの元へ、最高戦力として帰還できる。……やれるだろ、炎堂」
一瞬の沈黙。炎堂の瞳に宿っていた焦燥の火が、黒瀬の拳の熱を受け取り、揺るぎない覚悟の炎へと変わる。
「……〜〜っ、応!! あったりまえだ!!!速攻で戻って来てやらァァ!!」
炎堂の吠え声が、ホールの空気を震わせた。
黒瀬は拳を引き、朝日奈に向き直る。
「じゃあ、どこに誰を配置するかは任せます」
「やれやれ、結果としての責任は俺にあるって訳かい。まあそれも年上としての責務だな」
朝日奈は炎堂、草壁、黒瀬以外にそれぞれの配置場所について指示を出す。
「じゃあ、みんな気を付けて。……いいか? 自分の命を最優先に行動しろ。目の前の命を護るのが俺たちの務めだが、俺たちが倒れれば、その先の命を救う術がなくなる。……それだけは忘れるな」
強く頼りになる返事と共に涼風たちがホールを後にしようとした時、黒瀬が思い出したように、しかし重く、釘を刺すような声で忠告を付け加えた。
「……そうだ、一つ言っておく。邪神たちは確かに強くなっている。でも、いきなり超強化を使うのは避けてくれ」
その言葉に、足を止めた面々が振り返る。
「神力の消耗が激しすぎる。……どれだけの長期戦になるか、今の段階では予測がつかないからな」
「ああ…。分かっているさ、ルドラ単体でも勝てるほどに強くなったと見せつけてやるよ」
涼風が代表して頷き、仲間たちを促すように歩き出す。鳴上、氷室、水崎、そして黒瀬の隣にいた永倉も、一度だけ強く黒瀬の手を握ってから、自分の持ち場へと走り出した。
最後に残ったのは、黒瀬と、これから神域へ向かう炎堂・草壁の二人。黒瀬は二人に各々の最高神の居場所を伝える。
「火の神の名は、火之迦具土神土の神の名は大山津見神だ。ヒノカグツチは静岡県の秋葉山本宮秋葉神社、オオヤマツミは愛媛県の大山祇神社だ。……どちらも、並の覚悟じゃ門前払いを食らうだろう、覚悟して行け」
「おう!!」
「ええ、そっちは頼んだわよ」
☆ ☆ ☆
二人が黒瀬から、それぞれの行く先の説明を受けている頃、氷室たちは転移之渦で既に現場に着いており戦っていた。
それぞれの配置は、
東京 新宿駅周辺
黒瀬廻vsモルペウス&テュール
神奈川 横浜みなとみらい
朝日奈煌成vsフィアナ騎士団&アテナ
大阪 道頓堀・心斎橋
鳴上雷牙vsアレス&ディオスクーロイ
北海道 札幌・大通公園
氷室希愛vsラクタヴィージャ&ハスター
京都 清水・祇園界隈
永倉月夜vsザハーク&クトゥグア
福岡 博多・中洲エリア
涼風颯vsポダルゲー&グレンデル
兵庫 神戸・メリケンパーク
水崎シズクvsガルグイユ&ギガース
「あとは神力から察するに静岡と愛媛にエリス、ファスティトカロン、ヘルメース、イカロスが配置されているみたいだな」
黒瀬はモルペウスたちの方に手を翳し円を描く。すると転移之渦が展開され、そこから強制送還された四体の邪神が降りてくる。
「我々を一人で相手しようとは…。ラグナロク、貴様、舐めているのか!!」
軍神テュールは黒瀬に対して怒りの声を荒げる。が、黒瀬は宛ら暖簾に腕押しのように気怠げに答える。
「舐めるもなにも…。 お前らじゃ俺の足止めすらできやしねえよ」
“ラグナロク、ローディング”
「変身」
“仮面ライダーラグナロク”
ラグナロクは魔剣ダーインスレイヴをその手に携え、一気に斬りかかる。
☆ ☆ ☆
「くっ、」
(まさかのラクタヴィージャにハスターとはね。)
フレイヤに変身していた氷室は、既に戦闘に移っており、ラクタヴィージャの鮮血による分身能力とハスターの巻き起こす旋風に細心の注意を払いながら戦っていた。
「風は別に良いけど、ラクタヴィージャは私と相性最っ悪じゃんか!!」
風属性は水属性には強いが、冰属性には弱い。その点で考えればフレイヤにとって、ハスターなどは恐れる相手ではなかった。だが、もう一体のラクタヴィージャの方は攻撃をする度に舞う鮮血をフレイヤの能力で細胞レベルまで凍死させる必要があった。
だがしかし、その吹雪をハスターが圧倒的な旋風で撒き散らす。一つの弱点を、圧倒的な利点でゾロアスターは埋めてきたのだ。
☆ ☆ ☆
一方その頃、京都ではエレボスに変身した永倉が復活したザハークとクトゥグアを相手していた。
(ザハークとクトゥグアか、この前戦ったときよりも、明らかに周囲の水分の吸収範囲が広がってる。コンマ一秒でも触れられたら…僕は確実に死ぬ)
エレボスは黒鎌アダマスを使い、ザハークの手をいなしたり、自ら攻撃を躱わしていた。
(対して、クトゥグアの方はザハークの枯渇の能力に合わせて火の使い手。ザハークに触れられなくても、周囲の温度が上がるから、汗が止まらない。思考も鈍る…)
「……っとに、最悪だよ」
☆ ☆ ☆
また、福岡の方ではルドラに変身した涼風がポダルゲーとグレンデルと戦っていた。
「くそっ、受け流しきれない…、!」
(ポダルゲーのスピード撹乱、途中での攻撃に注意を向けながらのグレンデルの巨軀から生まれる超パワーの拳にも注意しなきゃいけないとわ…)
ルドラは超強化を施せる覚醒之聖堂を取り出す。が、先ほどの黒瀬の言葉が思い返される。
「……そうだよな、絶望なんかすんのは、俺らしくはない。こんな奴ら、数瞬の間に斃してやる」
☆ ☆ ☆
そして、兵庫ではナーイアスに変身した水崎がガルグイユとギガースと戦っていた。
「なんて水圧、それに、希愛に聞いた時よりも火力が上がってる…」
ガルグイユは火を吹き、水で洪水をも起こすと言われた怪獣。そしてギガースはグレンデルをも上回る巨軀を持っている。
ナーイアスの放つ鉄砲水の水圧は決して弱くはない。だが、ガルグイユは超強化を得たことで、火と水の並列使用を可能とした。火でナーイアスの水の威力を軽減させつつ、自身の鉄砲水を喰らわす。その隙にギガースの拳。ナーイアスは徐々に追い詰められていた。
☆ ☆ ☆
そして、インドラに変身した鳴上は大阪の方でアレスとディオスクーロイと戦っていた。
「やれやれ、実質不死身の双子を相手しつつ、俺の弱点でもある火力の低さに合わせて頑丈な戦の神の両名を相手にするなんて思わなかったよ」
(聞いた話じゃ、こうして全国各地で戦うのは実質初めてで、一回だけ3箇所に別れて戦ったことはあるらしいけど、)
「一人で戦うっていうのは、こんなにも淋しいものなんだね」
(特に俺にとっては、脚が負傷するまでの勝負…。治癒ができる氷室はいない)
「……スピード、雷の神の名の下に、超絶短期決戦で迅速に祓うよ」
☆ ☆ ☆
最後に残るのは、唯一、黒瀬の居る東京に一番近い神奈川でアラマズドに変身してフィアナ騎士団とアテナを相手取る朝日奈だ。
知恵と戦争を司るアテナの下に戦うフィアナ騎士団を相手に、アラマズドは劣勢になりながらも戦っていた。
「まったく、去年の会長仕事もそうだが、やはり面倒ごとは避けたいものだな」
(どこも死と隣り合わせだが、数というものが一番恐ろしい。隠し切ってるつもりだったんだろうが、騎士団どもの各神力の数を完全に隠すのは無理だったみたいだな)
アラマズドは他の場所に比べて微弱ながらも神力の数が多かった神奈川を捉えて、自らそこを選んだ。それは黒瀬のことをギリギリまで殺そうとしたせめてもの償いのつもりだった。
(ここなら、俺が直ぐに黒瀬くんのもとに駆けつけることができる。いくら強くても、彼はまだ高校生なんだ…)
☆ ☆ ☆
――静岡県、秋葉山本宮秋葉神社
紅虎から降りた炎堂が目を開けた瞬間、視界に飛び込んできたのは、赤々と燃え盛るような圧倒的な霊気だった。
(ここが……火之迦具土神の神域……!)
「、、、いいじゃねえか、熱けりゃ熱いほどやる気が溢れてくるもんだぜ!!」
炎堂は左手に右拳をぶつけた後、鳥居の前で90度に礼をする。
「失礼しやす!!!」
――愛媛県、大山祇神社
同時に、瀬戸内海に浮かぶ島へと灰熊を使い、降り立った草壁は、静寂に包まれた厳かな空気に息を呑んでいた。
「ここに、大山津見神が…」
草壁は覚悟を決めて、本殿に向かっていく。
☆ ☆ ☆
変身してから、数分後、絶対攻略を駆使しながらラグナロクは戦っていた。
(一体一体が特別強力な訳ではないが、やはり纏めて屠るのは難しいか。ここは…)
“デストロイ、ローディング”
「変身」
“仮面ライダーラグナロク WITH デストロイ”
デストロイフォームに変身したラグナロクはまず標的を軍神と殺戮神に限定する。
ラグナロクはその強大な力を誇った水色の神力の拳を何発もテュールとエリスに喰らわせる。だが、他の四体の邪神も黙ってはいない。だが、そこはラグナロク。対策もある。
“バニッシュ、力の解放、ローディング”
“破壊ノ消滅”
破壊の力を纏った禍々しい触手が四体の邪神を少しながらも自身から距離を取らせ、その触手で強引に拘束する。
「お前らの相手も直ぐにしてやるよ」
ラグナロクはドライバーから消滅之宝珠を取り外し、破壊之宝珠をただ戻すのではなく、二回起動した。
“デストロイ、力の解放、ローディング”
(できればアフリマンとの最終決戦までには、この手札は見せたくなかったが、あいつらの援護に向かうためには仕方ない)
“破壊ノ衝動!!”
「――吹き飛べ」
新宿の街を震わせる、文字通り次元の違う「破壊の衝動」の奔流。
テュールとエリス、そして拘束されていた四体すらもまとめて巻き込む、超絶威力の衝撃波が新宿駅周辺を完全に呑み込んでいく――。
「なっ、なんだ、いまのは、」
モルペウスは唖然としていた。
ラグナロクはゆっくりと姿勢と共に地面から拳を持ち上げ、周囲に目をやる。
「さて、次はどいつだ?」
☆ ☆ ☆
黒瀬が新宿で規格外の「衝動」を爆発させているその瞬間も、北と西の古都では、容赦のない「環境の罠」が二人のライダーの肉体を確実に蝕んでいた。
札幌――。
ハスターの巻き起こす風が、凍結しきれなかったラクタヴィージャの鮮血を霧状にして大通公園に撒き散らし、続々と分身が増えていく。
「くっ……! どこに避けても、血の霧が肌に……!」
防戦一方のフレイヤは、細胞レベルの凍死を間に合わせるべく吹雪を出力し続けるが、その冷気すらも風に流され、逆に自身の体力を急速に奪っていった。
その「呼吸すらままならない絶望」は、京都の地でも全く同じだった。
クトゥグアの放つ超高熱が周囲の水分を蒸発させ、逃げ場のない熱波となってエレボスを包み込む.
(汗が、止まらない……。視界が、滲む……!)
脱水による意識の混濁。ザハークの手を黒鎌アダマスでいなすエレボスの動きが、ほんの数ミリ、確実に鈍り始めていた. 「触れられたら死ぬ」という極限状態の中、立ち上る陽炎の向こうで、邪神たちが歪んだ嘲笑を浮かべる。
☆ ☆ ☆
環境という逃げ場のない罠に蝕まれる者がいれば、終わりなき「手数」と「物量」の暴力に防戦一方となる者たちもいた。
福岡――。
ルドラのいなしを完全に上回る速度で残像を残すポダルゲー。
「……っ、くそ、」
その「速度とパワーの連打」という絶望は、兵庫の地でも全く同じ構図でナーイアスを追い詰めていた。ルドラと同じく、手数でガードを崩され、質量で叩き潰される防戦の連鎖。
大阪と神奈川では、自身の不得手な点と数で押され、徐々ではあるが、イザナギは追い詰められていた。
☆ ☆ ☆
――静岡県、秋葉山本宮秋葉神社
鳥居をくぐり、燃え盛るような熱気が渦巻く参道を突き進んだ炎堂は、ついに開けた本殿の前へと辿り着いた。
だが、そこに待ち受けていたのは、おぞましい邪神の気配などではなく、ただ純粋な「圧倒的な強者」の存在感だった。
「――よお、来るのは分かってたから待っていたぜ」
頭上から響いた、どこか楽しげで、それでいて地響きのように芯の太い声。
炎堂がハッとして見上げると、本殿の屋根の上に、一人の男が腰掛けていた。
男は右膝の上に肘を乗せ、そこに右手の頬杖をついた不敵な姿勢で、眼下の炎堂をねめつけている。その佇まいは、周囲を威圧する神の威光そのものだった。
「……あんたが、火之迦具土神か」
「おう、そうだ。呼びにくいだろうし、ヒノカグツチで構わねえよ」
予想外にもヒノカグツチの口調は物腰柔らかく、サッと屋根から飛び降り、石畳の通路のど真ん中に着地した。炎堂は素早く身構える。
「そう警戒するな。何もオレはツゲノイナギの奴らみたいに派手な攻撃とかはするつもりはねえよ」
「……? じゃあ、俺らに力を貸してくれるってことか?」
「いいや、もちろんタダとは言わねえ。オレはお前の心の熱さに関しては十二分に知っているつもりだ。オレがお前に唯一求めるものは、お前の覚悟だ」
炎堂は構えを下ろしながら「俺の覚悟…」と答える。
「そうだ、聞かせてみろ。お前が今よりも強くなるための力を欲する理由を、その覚悟を」
☆ ☆ ☆
――愛媛県、大山祇神社。
本殿へと向かう一歩を踏み出した瞬間、草壁美土里の身体を、凄まじい「自重」が襲った。
「――っ、く……! 何、これ……!」
思わず膝をつきそうになり、美土里はヨルズの鎧の中で歯を食いしばる。
自身の固有能力である『重力可侵』対象に重力を掛けるその力を、彼女は誰よりも熟知しているはずだった。だが、今この場に満ちているのは、神の術式としての重力などではない。
本殿の奥――そこに佇む、大山津見神
一言も発さず、ただ厳格に腕を組み、目を閉じているだけの男神。その圧倒的な存在感、大地そのものが発する「威圧感」だけで、草壁の感覚は完全に支配されていた。
(――っ、あ、足が……動かない……!?)
一歩を踏み出そうとした瞬間、まるで全身に鉛を流し込まれたかのような錯覚に襲われ、膝が激しく鳴動する。
自身の固有能力である『重力可侵』。対象に重力を掛けることが出来るその力を、いとも簡単に凌駕する「異常さ」を草壁は本能的に理解し、拒絶していた。
(違う……! これ、実際に重力を掛けられてるんじゃない……! ただの気配だけで、私の脳が、身体が、“重力がかかっている”って錯覚して勝手に潰されかけているんだ……!?)
「どうした? 私に何か用でもあるのではないのか?」
「……っ、ええ、その通りよ」
☆ ☆ ☆
「さて、次はどいつだ? 来ないのなら、こっちから行くぞ」
‘‘バニッシュ、ローディング‘‘
「変身」
‘‘仮面ライダーラグナロク WITH バニッシュ‘‘
バニッシュフォームに変身したラグナロクはモルペウスの振りかざす金棒も、イカロスの放つ風の斬撃も、他2人の攻撃も全てをバニッシュの力で消滅、吸収、貯蓄する。
するとラグナロクは左手側に❘時空之巻物が螺旋を描いて出現させる。そこから、狂気の刃ーー魔剣ダーインスレイヴの柄を掴みだす。引き抜かれた刃は、ラグナロクの頭上を薙ぐようにダイナミックな半円を描いて風を斬り裂いた。
「さて、貯蓄はもう充分だ」
ラグナロクは最初にイカロスに目を付ける。その身体から発せられる覇気にイカロスは前にラグナロクに斃された時のことを思い出したのか、逃げられる余裕はあるはずなのに、その場から動くことができなかった
「ああ…ああ…やめろ、くるな…」
一回、たった一回だけ瞬いた一瞬の間にラグナロクはイカロスの首に魔剣をひと斬り入れていた。
「え…?」
(なんだ…?なにが…斬られたのか?)
斬られたためか、イカロスの身体は塵となり消えた。
☆ ☆ ☆
新宿でラグナロクが善戦しているその頃
札幌ーー。
「……っ、」
(私の力は、超強化だけじゃないから!!)
‘‘アポロン、ローディング。仮面ライダーフレイヤ WITH アポロン‘‘
フレイヤがアポロンフォームに変貌すると同時に、その左手には白く美しい冰弓アルテミスが握られた。
「まずはハスターを潰す!!」
(確かに通常の吹雪なら、この強風には弾き返されてしまう。でもアルテミスから放たれる冰の矢は、イカロスの風の斬撃すら射抜き墜とした!)
‘‘導軌ノ刻、冰矢ノ聖刃‘‘
「なっ!?しまっ!!」
アルテミスから放たれた冰の矢は見事にハスターの身体を貫き、射墜とした。
それと同時刻に、
京都ーー。
クトゥグアの超高熱とザハークの脱水症状により、意識の混濁寸前まで追い詰められていたエレボス。だが、
「鏖だ」
“ジェノサイド、ローディング。仮面ライダーエレボス WITH ジェノサイド”
ジェノサイドの能力で分身を出したエレボス。生み出された分身はダメージはおろか、五感を持たない。そのため、この環境下の影響を一切受けつけない。
「おいおい、俺らと相性最悪じゃねえか!」
「まあね、」
(漸く隙を見せたな、ザハーク)
エレボスは虐殺之宝珠を黒鎌に装填しながら、ザハークの懐に向かって飛び込む。エレボスの分身たちがクトゥグアを相手しつつ、残りの分身はザハークをその場に取り押さえる。
“祓魔ノ刻”
「闇に沈め」
“虐殺ノ一閃”
無数に増えた斬撃がザハークの身体を細切れにし、爆散した。
北海道と京都で、東京に次ぐ勝利の活路が見え出したのだ。
ーー「「さて、次はどいつ(だ)?」」ーー
その光は、各地で泥をすする仲間たちの闘志へ瞬く間に伝播する。
福岡で、兵庫で、大阪で、神奈川で――死線を踏み越えた戦士たちが、同時に次なるフォームの宝珠を掴み、獰猛に、あるいは静かに口元を歪めた。
ーーーーーーーーーー
【仮面ライダーラグナロクに関する現在公開可能な情報】
使用中のフォームの宝珠を力の解放することで、ゲームでいうバフを掛けることができる。その威力は通常技「○○ノ滅波」の3倍となる。
使用技:破壊ノ衝動
ーーーーーーーーーー
次回予告
日本各地で勃発する、ゾロアスターとの総力戦。
仲間たちが限界を超えてもなお、活路を開く中、炎堂と草壁は、さらなる強さを求めて古の神域へと足を踏み入れる。
立ち塞がるのは、ヒノカグツチとオオヤマツミ
全員が倒れる前に、二人は戻ることができるのか!?
そんな中、黒瀬の持つ最狂の力がもう一つ顕現し、また一歩虚色へと踏み込むことになる…
第39話:獄炎の咆哮/沃土の凱歌
仮面ライダーラグナロク第38話『群雄割拠』を読んで頂きありがとうございます。柊叶です。
前回に引き続き、制作にかなりの時間を要しましたが、なんとか完成しました。(37話が3/27だから、ほぼ2ヶ月!?)理由としましては、力の欲する理由、あと読んだの通り尺的に収まらないな、どうする?と悩みに悩んだ結果、「じゃあ実質前編ってことにしよう」ってことで一気に書き上がりました!
次回は、サブタイトルの通り炎堂と草壁のお披露目回となることでしょう。また次のお話でお会いしましょう。
柊叶




