第6章 未来への懸念
陽の宮の書斎で、国王は頭を抱えていた。
「報告には目を通していたが、根本的な解決は難しい、という事か。」
「父上、これは世界的に起きている事なので、シーシェルだけ対処しても、いつかは、焼石に水、という事になります。」
私はそう言うしかなかった。
「ヴァシリスもパトリックも疲れた顔をしているぞ。今日もヒーリングだったと聞いた。お前たちも無理しているのだろう。」
ラングドン兄上が気遣ってくれた。
「ラングドン兄上、今日は、ヴァシリスとアリエッタが東海岸側の領海を覆う保護カーテンの修復を兼ねて、張り巡らしたのです。私も、東海岸側の浜辺から土地のヒーリングをしましたが、我が国領土の、三分の一にあたります。ヴァシリスがしたのは、保護カーテンを張り直し、その後、領海内全ての、重金属や砕かれた樹脂製品の浄化です。命がある方がおかしいくらい、パワーを使ったはず。」パトリック兄上が、報告している。
「パトリック兄上、そのくらいは日常的にできないと、超特級ヒーラーとしての義務だから当たり前の事です。それでも、領海中の魚全てを浄化できたわけではない。先に、領海内の海水、岩、砂などからの汚染物質の除去を優先したから、一部の魚が残ってしまった。魚の内臓に含まれたものは、漁場毎に上級ヒーラー達に、巡回させ、浄化している。」と私も説明する。
「ヴァシリス、感謝する。我が国は、水産業が主だから、食物になる魚や海洋生物が汚染されると
民の命にも関わってくるからな。」
ラングドン兄上も、国の未来を憂う。
「パトリックは、陸地から海に流れ込む水に化学物質が含まれないような、肥料の開発を、更に進めていると聞いたが、進展はどうだ?」
ラングドン兄上が、パトリック兄上の研究について尋ねている。
「シーシェルでは、昔から、化学物質に対する危機感があり、オーガニック栽培が主です。一時期、化学物質を主にする研究も盛んになったそうですが、農地や漁場を守ることが優先になり、現在、我が国で使用される化学物質はごく僅か。ただ害虫駆除や、農産物の収穫量を増やす為にも、肥料や薬品も欠かせませんから、現在、森林保護研究所で、開発中で、試験的に使用を始めています。」
「パトリック、引き続き、進めてくれ。それから、農家の反応はどうだ?」
「非常に協力的です。ラングドン兄上の政策も、各貴族達が、それぞれの領土で、確実に実行し、税負担も減らした事が、功を奏しているかと。」
「ありがとう。という事は、父上がずっと懸念し続けておられる問題は、海、という事だな。しかし、こればかりは、ヴァシリス頼みしか、ないと言う事か。」
父上が口を開く。
「先日の国際・全海洋保護会議では、シーシェルが非常に注目を浴びた。海洋生物の漁獲量とその品質、つまり安全性の高さ、さらに海洋生物の保護が徹底しており、非常に高い評化を得た。
さらに、止まらない温暖化の中で、異変を回避出来ているのが、我が国だけだった。」
「他の国では、どうなっているのですか?」
パトリック兄上が尋ねている。
「魔法が使えるユーラシア大陸、北側のブリテン島から北極にかけてのエリアなどは、70%くらいまでは、対処できているそうだ。しかし環太平洋エリアでは、会議に参加していないチャンシア国と、クレミール国からの汚染が激しいと、各国から、非難の声が上がっていた。」
「世界の海に、使い捨ての樹脂製品が流れ込む、タンカーの座礁や、油田の整備不良、そのほとんどが、大国の2国だからな。水に溶け込む、空気に溶け込む、という事から、話しをしなくては、ならないのか?」
「知っていても、垂れ流しをすれば、海が責任をとってくれると、思っているんだろうな。」
「それに、温暖化の問題の根源が、陸地で起きている事も、海に対して無関心になるのだろう。」
「いま、南側の氷山の溶け方が激しい。ヒーリングで海水温を下げ、氷山を増やしても、3か月も持たないのが現状だ。」
「それを、ヴァシリスとアリエッタで、全てしているのだろう?ヴァシリスはともかく、アリエッタは大丈夫か?」
「最近、ヒーリングの回数が増えていて、今日も、終わった瞬間に意識を失った。体温が低下し、温泉で体を温めて、いま離宮で休ませている。」
「お前たちには、負担をかけているな。」
「それが役目だから、体調には、より気をつけるようにする。騎士団や海洋軍、研究所の海洋ヒーラーたちも、ヒーリングの後は、完全にパワーが戻るまで休養、休暇を必須にしている。
もし年頃の女性に良い食べ物や薬があるなら、教えてもらえたら、助かる。」
「ソニアにも聞いてみるよ。懐妊中だから、体調には気をつけている。アリエッタも、いずれは、出産することになるから、体調には気をつけてやれよ。」
「パトリック兄上、助かる。」
「ヴァシリス、パトリック、妃から、ソニアとアリエッタに、滋養のよいものを預かっている。うちも2人目を懐妊中だから、母上が気遣ってくれて、たくさんもらったので、彼女達にも持って帰ってくれると、母上も妃も喜ぶはずだ。。」
「兄上、ありがたき。母上にもセレスティーナ妃殿下にも、よろしくお伝えください。」
「お前たちが、仲が良くて助かる。しかし、困ったな。世界規模で起きている事を、我が国だけ守っていても、いずれ限界がくるという事になる。」
父上の心配は最もだった。
「環境問題の解決策を、とにかく打ち出していこうと思っている。小さな事でも、一つずつ、試して、環境を維持していく事を、我が国から発信していくつもりだ。」
「ラングドン兄上、いま、海洋研究所で、魚類の汚染物質を浄化するシステムも開発中だ。」
「樹脂製品の垂れ流しを防ぐものも、プロジェクトを進めている。もうしばらく時間をください。」
「よし、では、皆、諦めずに研究と対処を進めていくぞ。」
父上は、私っアズラエルに残れと言い、ラングドン兄上とパトリック兄上が、先に帰って行った。
父上の話は意外な内容だった。
「2人とも、オランが巫女として、目覚めた事、気づいていたか?」
「「ええっ?」」
「やはり、知らなかったか。」
「陛下、まさか母上は、陛下の巫女なのですか?」
「アズラエル、そうだ。」
その時、書斎の扉がノックされた。
「ユリシーズ海洋大将がお見えです。」
「通せ。」
ユリシーズ殿が、書斎に入ってきた。父上とユリシーズ殿が頷いて、話は続く。
「父上、では、ミカエラードの母君は、お具合が悪いとか?」
アリエッタの母であるセレステは、父上の巫女で、オランの実の姉だ。聞いてるしりから、巫女部屋から、母君が出てきた。にっこりしてくれた。
「先日、ヴァシリスとアリエッタの様子を聞くために、オランをここに呼んだのだ。セレステもいたし、オランはユリシーズが連れてきた。話している最中に、私とオランに光の調和が起きてしまった。」
母君こと、セレステが説明してくれた。
オランは11歳の時、セレステが13歳の時に、父上と光の調和をしていたらしいが、巫女教育が終わったあと、オランだけ、巫女の力が消えた、と言うか、休止状態だった。
その時のご神託では、オランの巫女の力が、再び目覚めるのは、姉妹であるセレステの巫女の力が消える可能性がある場合、と言う内容だった。私は、以前、聞いた記憶がある。
「父上は、母上が巫女である事を、ご存じだったのですか?」
「ガブリエル家の女性を妻に迎える場合は、あらかじめ、そう言う話は聞いていた。巫女に関する話しは、全て国家機密に関わるからな。巫女の、力が消えていたので、お前には話してなかったが、覚醒した時点で、アズラエルにも協力してもらわなくてはならない事がでてくるから、今日は呼んだ。」
アズラエルの衝撃が大きいのはわかる。
アリエッタの警護だけでも、大変なわけで、更に自分の母が、巫女と聞かされたのだから、驚かない方がおかしい。
「母君、今回、ご神託はあったのですか?」
私は母君に尋ねた。
「それが、来たる未来に備えるため、としか。アリエッタにも、ご神託は降りてないでしょう?」
「最近のアリエッタへのご神託は、ヒーリングが必要な、海の事ばかりしかないですね。今も眠ったままですし。」
父上が、つぎの説明に入った。
「で、だ、ヴァシリス、いま、我が国には、巫女が3人いる。警護の事もあり、ユリシーズが動きやすいように、海洋大将にした。屋敷も、お前の離宮エリアだし、海洋軍も海洋騎士団も動かせる立場だ。で、ヴァシリスは海洋騎士団長で、アズラエルを副団長にする。アズラエル、いいな。」
「はっ。」
ユリシーズが続ける。
「アズラエル、オランを守るべき詳細は、後から説明するが、お前は、アリエッタ嬢と母を守ることになる。すでにダニエルが、母殿と妹君を守ってきたように、お前も警護対象が増える、と言う事だ。王宮にいるときは、アラン兄上が陛下についているし、親衛隊もいるから、セレステ殿とオランは、陛下の警護に任せられるが、海洋離宮エリアでは、海洋騎士団を頼るしかない。オランについては、基本的には、陛下、夫と息子、乳兄弟のヴァシリス殿下の対処となる。アズラエル、肝に命じるのだ。いいな。」
「はっ、はい!」
「殿下は、巫女の扱いをご存知ですから、アズラエルには、私から話します。」
私は頷いた。確かに、みんなの前で聞くには、辛い内容もある。
「で、ヴァシリス、オランは基本的に海洋離宮エリアでの生活になる。私への連絡が間に合わない時は、ユリシーズと其方が聞いて、判断するのだ。いいな。」
これには驚いた。
「父上、それは、、。オランは、父上の巫女ではありませんか?国王の巫女へのご神託を、私が預かるなど、、王太子を差し置いて、ありえません。」
「だから、このメンバーを呼んでいる。セレステは、それがご神託だと、言っている。」
「ち、父上、ちょっと待っていただきたい。ならば、オランを月の宮に置けば、」
「アリエッタを見れるのは、オランしかないだろう。あと2年半だ。アリエッタが其方の妻になれば、其方が全て対処できるが、今はダメだ。それを許せば、お前が、なし崩しになるだろう?」
「それは、わかっています。父上のご許可があったとしても、今の私には、きっと無理です。」
「そうだろうな。婚約者と夫では立場が違うからな。」
「アリエッタの20歳の誕生日に、婚姻の式をあげるように、マースにも伝えた。
で、オランにおりたご神託は、ユリシーズとヴァシリスに任せる。いいな。」
「婿様、もし、もし、私の身に危険が迫った場合は、オランを陛下に預けてください。これは約束を。いま、ガブリエルの剣は、夫マースと、アーサー・ガブリエルが持っていますので、ご采配を願います。」
「母君、承知した。」
なんかとんでもない事が起きる前触れなのか、巫女が3人って、どうなってるんだ。
一つだけ、ほっとしたのは、私とアリエッタとの婚姻の日が、2年半後に、決まったと言う事だけだった。
ヴァシリスの乳母、オランが、国王の巫女として、再度覚醒しました。この国に、異変が起きるのでしょうか?
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