第6章 一瞬の覚醒
目を覚ましたアリエッタが、私の名を呼んだ。
さすがに。まずいと思った。
「ヴァシリスさま、眠いです。疲れてしまいました。」
「今日のヒーリングが疲れただろうから、もう少し、休みなさい。」
「ヴァシリスさま、私、ヴァシリスさまの婚約者ですよね?時々、忘れそうになるのです。でも、忘れません。」
「わかった。それでいい。もう少し眠りなさい。」
「はい、、、ヴァシリスさま、おやすみのキスは?」
アリエッタは、寝ぼけているか、はっきり思い出したか、どちらかしかないが。
額に口づけた。
「ヴァシリスさま、好きです。、、、おやすみなさい。」
アリエッタは、すやすやと眠り始めた。
多分、しばらく起きないだろう。
仕方ない。
このまま研究所には、置いておけない。
隠しトンネルを通って、離宮に連れて帰った。
今日は、オランがいる日だったはず。
研究所からの隠し通路から僕の部屋に着き、アリエッタを寝台に寝かせてから、オランを呼びに行こうとしたら、通路で出会った。
「坊っちゃま、どうかなさいましたか? 」
「アリエッタを連れて帰ってきた。氷山のヒーリングの帰り道、海の中で、眠りだして起きなくて。一回起きて、僕の名を呼んで、婚約者かと聞いて、また眠った。多分2、3日は、起きないだろう。服を着替えさせてもらえるか?ダニエルを先に帰していたから、ミカエラード家にも連れ帰れずに、すまない。」
「坊っちゃま、外に出るよりは、こちらが一番安全です。研究所に一人では、置いとけないでしょう?姫さまを巫女部屋に移しますか?」
「そうだな。今はまだ私の部屋には置けないから、巫女部屋に連れていく。着替えの準備を。」
アリエッタを巫女部屋に運び、オランに任せて、部屋を出た。
アリエッタは、2日間、眠り続けた。
目を覚ました時、アリエッタは、少しだけ目覚めた時に私と話した内容を忘れていた。
「やっと目覚めたか?」
「先生、申し訳ありません。」
「いや、研究所のヒーリングが続いていたから、疲れたのだろう。それに、其方はわかっているとは思うが、警護が必要な、国家機密の王家の巫女だから。」
「このお部屋は、、」
「私の海の離宮だ。万が一のための、其方の為の巫女の部屋だ。」
アリエッタはにっこり笑った。
「ありがとうございます。海洋騎士団長である殿下の離宮で、先生のお側が、一番安全ですね。」
「まあ、そう言われたら、そうだな。」
私の感情的には、一番、危険だとも思うが。
「体調はどうだ。」いつもの癖で、アリエッタの額にや首に手を当ててしまった。
悲鳴をあげられても、文句を言えないようなことをしてしまった。アリエッタは、平気な顔をしていた。
「すまない、令嬢に失礼な事を、、謝る。」
「えっ?何がですか?」
「すまない、その、触れて、、」
「だから、昨日、えと、何日寝てましたっけ?最後のヒーリングの時に、お話ししましたが、先生は大丈夫です。気持ち悪くないですから。」
そう言う問題ではないだろう。私のアリエッタ、と言いたくなったが、もう、この問題に触れるのはやめにした。
今も、アリエッタは、寝着のままだし、羽毛掛けから顔や腕を出して、普通に会話している。
「あの、、先生、、」
「ん?」
「私、巫女なんですが、どなたの巫女か、まだわからないのですか?」
また核心をついてくる。クロノス殿はどんなブラインドをかけたのだ?
「私も、聞いてない。もし、わかっていたら、ラングドン兄上か、パトリック兄上のところに連れて行かれるから。まだ、わからないのだろうな。」
「私、、ヴァシリス先生ならいいのにと思います。」
「なっ、何を言っているのだ。」
「だって、先生は、海神の騎士でしょう。ダニエルお兄様とも親友ですし、アーサー様とも騎士仲間ですし、パーシー様や、アズラエル様も、仲良しだし。私は、王宮より、海洋研究所が好きです。先生の離宮に巫女部屋もありますし。」
「まあ、それが良いなら、クロノス殿とポセイドン殿に祈れば良い。」
「そうします、祈ればいいのですね。」
「そろそろ、起きられそうか?まだ眠気があるか?」
「大丈夫です。」
アリエッタが起き上がろうとしたので、制した。
「アリエッタ、とりあえず言っておくが、其方は公爵令嬢だ。しかも、まだ未婚だ。男と二人きりで同じ部屋で、その寝着姿を見せるものでない。いいな。」
「先生、そのくらいわかっています。他の殿方なら、目を覚ました時点で、叫んで、この辺りにあるもを投げてから、逃げます。」
「普通は、逃げ切れないぞ。」
「ヒーリングパワーをぶつけます。」
「その手があったか。しかし、パワーがない時は、どうする?」
「たぶん、そんな時は、先生がずっと一緒にいてくださる、ような、気がしますが、、いてくださらないのでしょうか?」
アリエッタは、意外と冷静だった。ツッコミどころが、笑えるが。信頼して、嫌われてないだけでも、ホッとする。
「わかった。其方のことは守るから、とにかく気をつけなさい。無防備すぎるぞ。オランを呼ぶから、待ってなさい。」
私は、急いで巫女部屋を出て、オランに頼んだ。
「坊っちゃま、お顔が赤いですよ。」
「いや、アリエッタが、余計なことを言うからだ。それに寝着姿を見るのはまずいだろう。」
「はいはい、一緒にお食事されるように、準備しておりますから、先にダイニングでお待ちください。」
私は、急いでダイニングに向かった。
アリエッタは着替えをしながら、オランと話す。
「ねえ、オランおばさま、ヴァシリス先生って、素敵ね。」
「姫さまは、お好きなのですか?」
「う〜ん、気持ち悪くないし、安心するの。そうね、ダニエルお兄様より、好きかも?でも、未婚の王子様は、先生だけだから、本当は、婚約者がいらっしゃるのではなくて?」
「いらっしゃらないですよ。女性を寄せ付けない方ですからね。」
「たしかに。いつも近くにいるのは、私だけね。特級ヒーラーが少ないから、仕方ないわ。」
「そうです。だから、姫さまは、坊っちゃまの役に立ってあげてくださいませ。お一人で頑張っておられますから。」
「ねえ、オランおばさま、私、誰の巫女になるのかしら。ヴァシリス先生の巫女になりたいの。」
「姫さま、そのお話しは、外では、口に出してはなりませんよ。」
「わかっているわ。セレステお母様にひどく叱られるから、言わないけど。オランおばさまや、ヴァシリス先生なら、安心して話せるでしょう。」
「坊っちゃまの巫女になりたいのなら、クロノス様にお祈りをたくさんなさるしかないですよ。さっ、これで、美しくなられましたよ。」
「ありがとう、オランおばさま。それにしても私は幼い時から、コバルトブルーのドレスばかりね。」
「お嫌いですか?」
「いいえ、海の中にいるみたいで、大好きよ。ヴァシリス先生の瞳みたい、ふふっ。お腹空きました。」
「では、ダイニングに参りましょう。
それから、姫さま、何度も言いますが、姫さまが、誰の巫女か決まるまでは、坊っちゃまが、国王陛下から、後見人として姫さまを守るように命をうけておられますが、離宮に巫女部屋があるのも機密ですよ、、」
「国家機密ね。大丈夫。誰にもいわないわ。それに、ヴァシリス先生がいらっしゃるところなのだから、バレたら、未婚の御令嬢達から、きっと嫉妬で殺されてしまうわ。だから、秘密にしないと。。ねえ、オランおばさま。お腹が空きました。」
アリエッタが、また僕の瞳色のドレスで、ダイニングに駆け込んできた、
「先生、ありがとうございました。たくさん寝たら、お腹が空きました。」
「2日以上、眠っていたから、たくさん食べなさい。」
「はい。。あの、先生、巫女部屋には、私のドレスがたくさんあるのですが、、、準備がいいですね。」
「ミカエラード公爵家から、預かっている。緊急時は、公爵家より、この離宮が一番近い。研究所から、隠し通路があるから、誰にも見られずに、保護できる。」
「隠し通路があるなんて、すごいですね。やっぱり、先生の巫女になりたいです。」
「アリエッタ、巫女と言う言葉を出すなと。」
「はあい、、」
生返事をしていると思ったら、海神の果樹園から分けてもらってきた、さくらんぼを手にしていた。この光景、久しぶりに見たな、つい目尻が下がってしまう。
なんだかんだと、アリエッタも17歳になったのか。あまり色々な人間と関わっていないから、ピュアなままだが、幼いようで、聡明に成長している。来年は、成人になるのか。
しかし、クロノス殿は、どうなさりたいのだろうか。アリエッタが思い出したり、忘れたり、、。これ以上、引き離されたら、私も荒れ狂うだろう。
朝食が済んで、アリエッタが、離宮を見たいと言うので、案内していたら、濃いグリーンの扉の前で立ち止まった。
ここは、3年後、アリエッタの部屋になるが、2人の婚約式の肖像画をかけてあるので、見せられない。
「先生、この部屋は。」
「未来の妃の部屋だ。だから、今は、誰もはいれない。」
「先生のお妃さま。。きっと、お幸せですね。」
「何故だ?」
「だって、もう準備されてるのですもの。女性なら、きっと嬉しいはずです。」
「後から作るのが大変だから、最初から作ることになっているだけだ。特に他意はない。」
「そうなんですね。私も、巫女部屋をいただきましたから、嬉しいです。」
「それは、良かった。そろそろ、ダニエルが来る頃だな。」
「お兄様、わざわざ来なくてもいいのに?オランおばさまがいらっしゃるし。あの、お兄様が来るまで、浜辺に出てもいいですか?」
「構わない。」
私は、アリエッタに甘い、と自覚しているが、オランが下を向いて、笑っているのが見えた。
アリエッタが、思い出したり、忘れたり。
どうなるのでしょう。
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