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巫女は海を守りたい〜愛が溢れるヒーラー物語  作者: 紫陽花
第6章 海洋生物研究所
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第6章 海洋研究所での高度課程

海洋研究所の会議室


月一の各研究チームからの報告会。


「ヴァシリス所長、海水の温度が、今年も下がりません。」


「3か月前に、ヒーリングで、南の氷山を増やした経過はどうなっているのだ。」


「それが、ヒーリング前の状態に戻りました。」


「3か月でか?」


「はい」


「了解した。今週中に、ヒーリングに出向く。ダニエル、すまんが、アリエッタに予定を入れてくれないか。」


「承知しました。所長に合わせるように、指示しておきます。」


「で、海洋汚染チームはどうだ?」


「季節風の風向きが変わって、東側から、プラスチック製品が、かなり流れてきています。」


「東側からか、チャンシア側からだな。チャンシアは、いま経済成長が著しい分、ゴミを垂れ流ししている。世界海洋会議で、問題になっているが、当事者は、聞く耳持たず。領海付近でのヒーリングカーテンは、稼働しているのか?」


「はい。ただ、流れ着く量が多いと、ヒーリングカーテンが崩れやすく、巡回回数を増やして、補修しています。」


「汚染チームの、ヒーリングパワーは、問題ないか?体調を崩している研究員はいないか?」


「はい、今のところは、問題ありません。」


「では、そのまま、警戒体制をキープしてほしい。問題のある領海付近は、巡視艇を増やして行くように。いいな。」



海洋生物研究所所長になって一年が過ぎたが、海水温の上昇と、海洋汚染の問題は、益々悪化する一途を辿っていた。


海水温の研究は、アカデミーの高度課程からの、研究テーマで、ダニエルと共に研究チームを編成し、取り組んでいる。

シーシェルの領海付近までは、ヒーリングで、海水温を季節に合わせて、上昇を防いでいるが、公海から他国では、国の季節まで変わり始めていると報告がある。


更に、海洋汚染は、アーサー、母上とオランを中心に、調査チームができていて、汚染で弱った海洋生物の保護と治療活動を広げている。


アリエッタが17歳になり、成績も良く、最終学年を飛び級して、高度課程に入った。

警護の事も踏まえて、出来る限り、私とダニエルで、気をつけていた。

高度課程は、海洋研究所での研究に参加するので、アリエッタの専攻科目を前から知っていた僕は、ダニエルの意見もあり、担当を自分にしてしまった。


ダニエル曰く、「クロノス殿の采配で、妹は、所長を所長としか見てないのだから、指導教官と、生徒という形で、面倒を見れば良いだけですよ。ましてや、アカデミーの学生で、特級ヒーラーは、アリエッタだけ。研究所にも、手があいてる特級ヒーラーはアリエッタだけ。他の特級ヒーラーは、騎士団にしかいないので、ヒーリング能力の高さからも、所長付きになって当たり前で、誰も不思議には思わない。」という。

アーサーも同じ意見だったし、母上にも聞いてみたけれど、問題なしと言われて、そうしている。

文句があれば、クロノス殿から、呼び出しがあるだろう。


南の氷山を増やす日になった。

アリエッタは、まだアカデミーの学生なので、海洋研究所の隣の学生寮にいる。

海洋研究所の集合場所で待っていると、アリエッタが走ってきた。


アカデミーの制服の紺色のワンピースに、私の貴色のリボンがウエストに巻かれている。


髪を後ろにひとまとめにして、私が贈った髪留めをして、私が贈った、貴色のペンダントをしているが、クロノス殿のブラインドがあろうが無かろうが、コバルトブルーなのだから、全身、あなた色です状態で、普通は気づくだろう?と思うのだが、全くもって、鈍感と言うか。


「あっ、先生、おはようございます。遅れて申し訳ありません。」


「おはよう。私が早く着いただけだ。遅れてないから、気を使わないように。」


「は、はいっ。」


「では、行こうか。今日は、大変とは思うが、よろしく頼む。」


「はっ、はい、ヴァシリス先生、よろしくお願いします。」


はあ、、気が滅入る。先生と呼ぶな。

まあ、無理だな。先生でなければ、殿下か所長としか、呼ぶしかなくなる。

前は、婚約者だったから、「ヴァシリスさま」で許されていたのだから。


海洋研究所の地下に降りて、ヒーリングに出る海水路への扉をあける。

ここは、私のエネルギーでしか開かない。

すでにクールが待っていた。


シースーツ装備にし、クールに乗り、アリエッタに手を出すと、エスコートのように、私の手をとり、「よろしくお願いします」と、クールに同乗する。


「クール、行くぞっ。」


アリエッタは、同乗を嫌がらないのが不思議だ。

幼い頃から、私以外の男は、絶対に嫌がっていた。今でも、研究所内で、アリエッタに好意を持つ男性所員に、声をかけられそうになるだけで、逃げ回っているし、アリエッタから、近寄る事はない。

本当に私を忘れていたら、3歳しか違わない男が側にいるだけで、アリエッタの口癖「気持ち悪いから嫌です」と言うはず。

兄のダニエルが、馬に同乗しようとしても、一人で平気だと、アレックスに乗っているらしい。アーサーも嫌がられてはいないが、やっぱりアレックスに一人で乗っていると、よく聞く。


「アリエッタ、今日は遠いから、クーポを呼ぶか

?」と、聞いてみたら「えっ?先生はご迷惑ですか?」と、聞いてくる。


「年頃の公爵令嬢だ、同乗も気を使うだろう?」


「やっぱり、お嫌ですか?」


「いや、私は構わないが。他の所員とは同乗してないと聞いてな。」


「あ、、あの気持ち悪いのです。」

やはり、出た、気持ち悪い、だ。


「すまない、やっぱり、クーポを」


「先生、ち、違います。先生はいいのです。先生は、色々と教えて頂けますし、その、、あの、、、」 


「なんだ?気をつかわずに言いなさい。」


「はい。あの、殿下は、女性嫌いと、お聞きしたのです。」


「?」絶句した。


「王太子殿下も、パトリック殿下も成人なさって、すぐにご結婚なさったのに、殿下は成人して数年経つのに、婚約者もいらっしゃらないし、女性が面倒だと、そう言う噂が、、」


「はっはっ、確かに女性は面倒だ。研究している方が、建設的だな。だが、其方も、もうすぐ成人ではないのか?ミカエラード公爵令嬢としては、そろそろ政略結婚の話も出ているのではないのか。」


無いのがわかって聞いている私は、ずるい男だ。


「ほとんど無いのです。少しはありますが、気持ち悪いから嫌だと、お父様にお伝えすると、断ってくださるので。」


「でも、いつかは、嫁がねばならぬだろう。ダニエルも妻を娶っている。女性は、婚期が遅くなるのは、あまり良くない。」


「先生は意地悪ですね。ご自分だけ独身で、私には、早く政略結婚をしろと?でも、気持ち悪い男性は嫌なのです。」


後ろから見ていても、アリエッタの頬が膨らんでいる。怒っている。久しぶりに見た。可愛さは変わらない。


「話を聞いていると、全て、気持ち悪い男だと、聞こえるぞ。気持ち悪くない男など、どこかにいるのか?」


「だから、だから、せ、、先生は、気持ち悪くないです。」


「ありがとう。嫌われてなかったのか。」


「嫌いではありません。先生は、騎士なのですよね?アカデミーの御令嬢たちは、騎士が好きですから。」


「アリエッタも騎士なら好きか?」


「騎士なら誰でも、と言うわけではありません。私、私、きっと運命の方がいるのです。」


「そうか、出会えると良いな。」


「夢に見るのですが、お顔が、見えない方なのです。でも、、マリンサンド?先生はマリンサンドをお使いですか?」


「何故、知っている?」


「どこかで、、夢かしら?、、懐かしい香なんです。思い出せなくて、ごめんなさい。」


アリエッタが、全てを忘れるわけがないと思っていた。少し、ほっとしていた。


「アリエッタ、氷山まで、まだしばらくかかる。アカデミーの課題で疲れているだろう。眠くなったら、眠りなさい。」


「はっはい、ありがとうございます。」


しばらくして、大人しくなったと思ったら、本当に眠っていた。私の胸に背中を預けて、ぐっすりだった。落ちないように、軽く抱き止め、南の氷山に向かっていく。


今年の誕生日は、祝ってやれなかった。代わりに、アカデミーを飛び級させた。だが、その日は、一日中、アリエッタからもらったペンダントが光っていた。


南の氷山に着いて、かなりのヒーリングエネルギーを使った。一年で溶ける氷山の量が、3か月で溶けたのだ、元通りに凍らせる。。

アリエッタのヒーリングパワーは上がっている。もちろん私も、かなり上がっているから、氷山を凍らせ増やす事自体は、難しくはないが、3か月に一回では、頻度が高すぎる。このヒーリングは、私と巫女でしかできない。

アリエッタには、研究所の業務範囲と言ってあるが、実質、ご神託レベルのヒーリングだ。


ヒーリングが終わった帰り道、アリエッタがつぶやいている。


「先生とヒーリングをすると、何故かスッキリします。パワーの混じり方が気持ちよくて、綺麗なヒーリングになりますね。」


「ありがとう。其方のエネルギーが美しいからだと考えている。」


アリエッタがはにかんだ。

「先生は、超特級ヒーラーですから、パワーは無限大でしょう?きっとすごいのですよ。あっ、ここを北に行くと、、、」


「どうした?」


「何かあったような、、」


さくらんぼ園がある。やっぱり、深いところで、気がついているのだ。

行ってみようかと、さりげなく、北上し、さくらんぼ園についた。


人魚の門番は、顔見知りだ。もちろん、顔パスだから、中に入って、アリエッタは、狂喜乱舞し、さくらんぼの食べ放題をしていた。

少し土産に包んでもらって、帰途についた。


帰り道は、アリエッタが饒舌だった。

自分で、私に慣れすぎている事が不思議に思わないのかと、こっちが心配になったが、最後の方は、私の胸にもたれて、また居眠りをしていた。

いつまでも幼い、と苦笑した時だった。

「ヴァシリスさま、、」と、寝言を言った。


私は、さすがに驚いた。

クロノス殿の心配が、逆に理解できた一瞬だった。アリエッタは、よくわからないけれど、私だけには、警戒せず、さくらんぼ園の場所も、感覚的にわかっていた。


海洋研究所の海水路に着いた時、アリエッタはまだ眠っていた。

このまま、離宮に連れて帰りたかったが、ダメだ。

起こしても起きない。さすがに困ったが、所長室に連れてあがり、長椅子に寝かせた。起きるまで、側にいるくらいは、許されるだろう。


アリエッタが起きたのは、夜だった。

仕事の合間に、何回か起こしたけれど、どうにも起きない。ヒーリングの疲れだった。


ダニエルもアーサーも、今日は、私がアリエッタと一緒なので、安心して、早く帰ったはずだ。

外が真っ暗になり、月が出た。さすがにまずいと思って、起こそうと、アリエッタの顔を覗き込んだら、パチっと目を開いて、僕の目をじっと見つめてくる。お互いに目が離せなくなってしまった。

身動きもせず、しばらく見つめあった後、アリエッタがはっきりと言った。


「ヴァシリス、さま、、。」

そして、アリエッタは、手を伸ばして、わたしの頬に触れた。


私は心の中で、クロノス殿に叫んだ。


クロノス殿、どうなさるおつもりだ。まだ3年残っている。


離されても、2人の絆は繋がっています。

読んでいただき、ありがとうございます。

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