第5章 未来に向けて
陽の宮の父上の執務室に、ユリシーズと行くと、怯むようなメンバーが待っていた。
父上である国王、巫女のセレステ、アラン国務大臣、マース軍事大臣、ガブリエル卿が、集まっていた。
それにユリシーズ親衛隊隊長を加えると、父上の一番の側近だ。
「ヴァシリス、よく来た。アリエッタは、どうだった?」
「今日は、わがままを通していただき、ありがとうございました。アリエッタは、今日だけ、記憶を取り戻し、婚約指輪を渡す事ができました。父君、母君、感謝しています。いま、月の宮に、預けてきました。母上とオランと一緒です。」
「で、なぜ、アリエッタの意識は今日だけなのだ?何がどうなっている。」
僕は、ポセイドンから聞いた事を話した。
「では、今のヴァシリスの力だけでは、海や国を守れない未来が来る、と言うなのか?」
「しかし、世界の海とシーシェルだけなら、今の殿下の力で、守れるはず。」
「アランの言う通りだ。」
「それが、まだ、足りないそうです。ポセイドン殿でも、救いきれないと。だから、海洋生物研究所の力も高めよ、と。それと、アリエッタが、恋愛感情をまだ抑えきれないので、ご神託を見落とさない練習のために、これからの4年、また同じように、僕と婚約者であるという記憶にブラインドをおろすとの事でした。それは、アリエッタの安全のために、と言う事も含めてだそうです。ポセイドン殿が、チャンシアを非常に気にしているので、まさかとは思うのですが。」
周りが、凄いため息をついた。
「殿下も、すでに成人しておられるのに、お辛いでしょう。」
「最初から、アリエッタが20歳になるまで、待たなくてはならないのは、わかっていたのだ。ただ、ここから4年は、、更に力をつけねばならない、努力しかありません。
あ、それで、海神の騎士たちの婚姻を、父上達から、打診をお願いしたいのです。私とアリエッタの婚姻が、まだ4年先だから、みんな、気を遣って、親である皆に話していないのではないかと。相手の年齢の事もあるので。」
父君のマースと、アラン、ガブリエル卿が、一斉に驚いた。
「愚息は、相手はいないと。」
皆、口を揃えて言う。
「やっぱり、、いないのではなくて、相手の御令嬢を何年も待たせる気だ。みんな、アカデミーの3年生くらいから付き合いはじめているから、すでに5年は、付き合っている。ダニエル、アーサーも、アズラエルは、もう婚姻可能だ。
パーシーだけは、相手が年下だから、あと2年待つ事になるけど。」
「海神の騎士の事だ、将来的に活躍してもらいたいから、王命で、決めてしまう方が、良さそうか?ヴァシリス、相手を知ってるなら、ここで言いなさい。」
「わかりました。
ダニエルは、前王妃様の孫娘で、ご実家のハプストン公爵家の次女、マリー嬢、18歳。
アーサーは、ザドキエル将軍の外孫で、母上の妹の嫁いだ先、モスリン侯爵家のデージー嬢、20歳。
アズラエルは、パトリック兄上のソニア妃の妹で、マウニー辺境伯の娘、リリィ嬢、20歳。
パーシーは、アーサーの妹でアリエッタの同級で親友のハニエル嬢、16歳だ。
全員、海洋生物ヒーラーで、ハニエルはまだアカデミーだけど、あとの3人は、アカデミー高度研究科を卒業し、すでに海洋生物研究所に勤務していています。」
さすがに、父親全員が、それぞれの理由で固まっている。
「うちは、早く決めておいて良かった。其方らが慌てふためくなど、笑えるな。」
父上が、苦笑している。
「陛下、笑い事では、ありません。ガブリエル卿、うちの愚息が、申し訳ない。」
「いや、ユリシーズ殿に続いて、ウリエル家とご縁があるのは、ありがたい。こちらこそ。うちの愚息こそ、王妃様の妹君の令嬢とは、、、」
「わかった、皆、少し落ち着くのだ。今、ヴァシリスから聞いて、問題がある相手はあるか?」
皆が首を横に振っている。
「私が聞いても、問題がありそうな婚姻はないだろう。王家が仲立ちするので、早く縁を結んで息子達の暮らしを安定させてはどうだ。」
「父上、少なくとも、騎士の皆にも聞いて。」
「ヴァシリス、それが、心配だから、お前が相談にきたのだろう?婚姻と言うのはな、縁があるうちに、結んでしまう方が良いのだ。男は多少、後でも構わないが、女性は、相手がいて遅くなると、男性側の誠意が伝わらなくなる。其方は3歳から決めておいて、何を言っておる。」
「だから、辛いのではないですか。20年も待つのですよ。わかっていても、今日も、どれだけ、堪えたか。目の前に好きな女がいるのです、それも、年々美しく成長し、さらわれないか、他所の男に言い寄られたり傷つけられたりしないか、16歳で、あのように愛らしいと、自分のものにしたくなる、いつまでも兄のふりはできませぬ。」
抑えていたつもりだったのに、アリエッタと離れた直後で、感情を抑えきれなかった。
父上の雷が落ちた。
「ヴァシリスっ、マースの前だ、控えなさいっ。」
「うっ」しまった、父上ならまだしも、アリエッタの父君の前だった。
僕はマース殿に跪いて、謝った。
「父君の大切な令嬢に、婚約者とは言え、大変な暴言を、お許しください。」
マース殿が、凄い勢いで、笑い出した。
「婿殿、良かった、安心しました。いやあ、良かった。」
「……父君、お怒りでは?」
「怒るなんて、とんでもない。婿殿から、本音が聞けて良かった。実は、アリエッタの父親としては、ずっと心配しておりました。何年経っても、あのようなお転婆娘です。婿殿は、王子としてお育ちですから、我慢強く、真面目なご性格です。ご神託への義務感から、娘との結婚を我慢して受け入れて下さってるのではないかと、セレステとも、ずっと心配していたのです。ですから、殿下が、娘を前にして、女性として見ていただき、堪えらなくてはならぬほど愛情を感じてくださるとは、心底安心しました。」
「父君。。」
母君も、慰めてくれる。
「そうですよ。婿様、あのような娘を、妹ではなく、ひとりの女性として、大切に思ってくださって、感謝しております。
今日、4年ぶりに神殿の跳びが開き、夫と中に入りましたが、呆れてしまいました。」
「ついでなので、今、話しておきます。
神殿の悲愛の聖母子像を、アリエッタが壊したみたいで、胸にあるロザリオが割れて、彫像が血を流したように。で、そこに毛布があり、彫像の側で眠っていたようでして、破れかけた巫女装束も数枚あり、あの子に一体何があったのかと。」
「あの、悲愛の聖母子像が壊れて、血が流れたのか?ヴァシリス、アリエッタは大丈夫だったのだな?」
父上が驚いている。
「父上、私から説明します。神殿から出られなくなったアリエッタが、、あの像は、実は、月の宮への僕の部屋に繋がる通路を開く鍵だったのですが、6年前から開かなくなりました。
アリエッタは、像が壊れるほど叩き続け、その血は、アリエッタが流したものです。で、これを私に作るために、巫女装束から、糸を引き抜いたと、話してくれました。」
僕は胸のペンダントを見せた。
「アリエッタはそこまで、殿下の事を。」
父君が驚いている。
「だから、クロノス殿が、アリエッタが私よりも、ご神託を優先できる冷静さを身につけるために、私と引き離したのです。それに、私も、トライデントで神殿の壁を何度も破ろうとして、ポセイドン殿に、お叱りを受けています。」
「お前たちは、そこまで思い合っていたのか。」
僕は、手を握りしめた。
「年々、思いは募るばかりです。だから、だから、親友たちには、早く幸せになってほしいのです。友が苦しむ必要はありません。」
「わかった。アラン、明日の朝一番で、相手の屋敷に、王命で、夫妻と娘を呼び出せ。其方らも、息子をつれて、王宮の謁見室に。
承諾を取り、婚姻は年内に行うように王命を出す。」
「陛下、ありがたき。」
僕は、ほっとした。僕とアリエッタのせいで、親友であり騎士仲間である皆の婚姻を後回しになんてできなかった。
「では、陛下、ガブリエル卿、ハニエル嬢は、成人まで、まだ2年あります。それまでは、うちのパーシーに、巫女の護衛を。」
「アラン、それは助かるが、護衛が1人では、アリエッタと共にいるハニエル嬢も護衛が必要だ。」
「陛下、アリエッタの事は、殿下に嫁ぐまでは、やはり兄であるダニエルに警護させます。ダニエルもそのつもりで、相手がいないと、言い切ったはず。アリエッタを守るのは、ミカエラード家の使命です。」
「いや、それならば、ガブリエル家は巫女の剣、使命も重い。アーサーにも警護を。」
「其方ら、いま、息子達の婚姻を了解したであろう。あと2年は、パーシーは警護専任にして、ダニエルとアーサーが交代ではどうだ。
残りの2年は、アリエッタもハニエルも、高度研究過程になる。講義より、海洋生物研究所での実技や研究が増えるだろう。できるだけ、ヴァシリスの近くでアリエッタを学ばせてはどうだ。研究所に隣接した場所に、海洋騎士団の本拠地があるのだから、警護はしやすいだろう。」
皆が頷いている。
父上が、折衷案を出したのが、ありがたかった。
2年後にはなるが、アリエッタの高度研究過程を、海洋生物研究所でできれば、婚約者と言う事は伏せていても、危険は回避しやすくなる。
海洋ヒーラーのパワーの底上げについては、後日相談することになり、
海神の騎士達の婚姻を優先させることになって、父親達は、急いで屋敷に帰って行った。
父上の書斎には、父上と僕だけが残った。
離宮に一人で帰るのも、虚しいと思ってしまう。親衛隊の騎士寮に泊まって帰ろうと思っていた。
「ヴァシリス、離宮に帰るのか?」
「いえ、親衛隊の騎士寮に泊まろうかと。」
「陽の宮の浴室を新しくしてな。温泉が、また出たのだ。湯浴みせぬか?男が泊まる部屋ならある。どうだ。」
「父上が、お疲れでなければ。」
「大丈夫だ。今日は、月の宮には行けぬ。アンジェラが、アリエッタが来るのを楽しみにしていたからな。」
「では、お言葉に甘えて。」
陽の宮の温泉は、野趣溢れるものだった。月の宮は、母上か主なので、もちろん、厳重なセキュリティがあるが、陽の宮は、男ばかりなので、温泉が湧き出たまま、使わない分は、濾過して、川に流れるようになっていた。
「これは、凄いですね。」
「パトリックの離宮も、掘削したら、湧き出している。お前の離宮も、掘ってみるか。」
「あれば、ほしいです。アリエッタが、すくに海に入るので、温泉があれば、湯浴みも楽になりそうです。」
「離宮もほぼ完成だから、掘ってみるように手配してやろう。」
「ありがとうございます。。。父上、先程は、マース殿の前で、不埒な失言を、申し訳ありません。」
「まあ、マースもセレステも、怒っていなかったから、気に病むな。1日1日を積み重ねられるわけでなく、4年も先延ばしでは、辛くもなるだろう。ラングドンやパトリックは、18で式をあげ、ラングドンは19で、父親になったからな。」
「兄上には、世継ぎをもうけなくてはなりませんから、早い方がいいです。僕は役割が違いますから。ただ、今日は、アリエッタを返したくなかったです。」
「よく、踏ん張った。あと2年は、パーシー達に任せて、高度過程は、周りをうまく巻き込んで、研究所のレベルをあげておけ。」
「そうします。」
「お前たちは、神がかりだから、親が許可しても、クロノス殿から、許可が出ないと身動きがつかんから、仕方なかろう。」
「わかっていますが。ポセイドン殿とシェル様の1000年は、すごいと思いました。」
「そのペンダントか?アリエッタが、像を叩き壊したのは。」
僕は頷いた。アリエッタを月の宮に送ってから、ほとんど光りっぱなしだ。
「アリエッタは、この6年、どんなに苦しかったのだろうと。」
「お前が、陽の宮に来てから、ほとんど、光っているが、、」
僕は頷いた。父上が、大きなため息をついた。
「そうか。。それはそうと、ラングドンのところは、2人目を懐妊した。パトリックのところも、ソニアが懐妊している。」
「兄上たち。凄いなあ。僕の婚姻が遅くても、世継ぎは安泰ですね。」
「そうだ。だが、巫女は、ハニエルかアリエッタが産むことになるだろう。」
「父上、僕とアリエッタに期待してはいけませんよ。まだまだ先の話です。」
「そうだった。お前も、もう19か。お前とアリエッタが落ち着いたら、私とアンジェラは、引退しようと考えている。」
「父上、早すぎませんか?」
「息子が3人、嫁がいて、世継ぎがいたら、もう任せてもいいだろう。未来に何が起きるかはわからんが、お前たちがいれば、心強い。」
「では、父上が隠居できるように、僕は、パワーアップします。ダニエル達の婚姻、よろしくお願いします。」
「うむ、気楽にやれ、ヴァシリス。待った分の幸せは、後からたくさんやってくる。信じろ。」
「はい!」
結婚適齢期になってきました。
読んでいただき、ありがとうございます。




