第5章 アリエッタの目覚め
やっと、アリエッタが目覚めた。
恋焦がれる、というよりも、
ホッとした、というのが正直なところだ。
父上と母上、アリエッタと僕の4人で夕食をとるのも、2年ぶりだ。
アリエッタの前には、食事のはじめから、さくらんぼが出されていた。
「アリエルちゃん、背が伸びてるわ。2年前のお部屋着の丈が短くなって、びっくりしたの。明日から忙しくなるわ。」
「浴室で、前は背が届かなかったところで、足がつくようになっていて、びっくりしました。」
「僕も、運んだ時に、成長してるとわかった。髪も伸びてるし。手足も伸びてる。」
体重は言わなかった。増えたのはわかったけれど、お姫様抱っこしても、まだ軽い。
アリエッタがさくらんぼを摘んで、口に放り込んでいる。久しぶりの光景だ。可愛い。(また可愛いと思ってしまった。僕のこの性格も、成長してないな。)
「顔立ちも、少女らしくなってきたな。アリエッタ、とても美人になってるぞ。」
「お義父さま、ありがとうございますっ。」
「アリエッタ、ヴァシリスの巫女とは言え、ヒーリングエネルギーを全てヴァシリスのために使い果たし、2年も眠るのは辛かっただろう。礼を言うぞ。2年前は、話す間も無く、眠りに入ってしまったからな。」
「お義父さま。グリーンヒーラーとして、ヴァシリス様を助けるのも、巫女の役目です。お役に立てて、幸せです。」
「感謝している、アリエッタ。」
父上の礼に、アリエッタが恥ずかしそうに、笑った。
湯浴みのあと、王宮の医師が来て、アリエッタの診察をしたが、異常はなく、年齢通りの成長もしている、と、報告があり、父上も母上も僕も、かなり安堵した。
食事も、以前のアリエッタより、よく食べていた。
夕食が済み、あれこれ話していると、アリエッタがあくびをした。
「2年も寝ていて、まだ眠いのか?」
「たくさん寝ていたわけではないのです。」
確かに、僕のペンダントは、よく光っていたから、起きていたと言えば、起きていた事になるな。
「ヴァシリス、早く日常生活に戻してやりなさい。子供は寝る時間だ。」
「そうね、2人とも、早く寝なさい。」
父上におやすみの挨拶をして
母上が、アリエッタの寝着の着替えについてきてくれた。
アリエッタが自分の部屋で、寝着に着替えて、おやすみの挨拶に、出てきていた。
「エドワードが、まだ一緒でいいって。アリエルちゃん、今日はヴァシリスと一緒に、良い夢を見るのよ。」
アリエッタの顔が、バァっと明るくなった。
「母上、さすがに、、」
僕も、騎士団に入ってこの2年で、更に背は伸びたし、身体全体がでかくなってきた。
見た目が15歳くらいに見えるとよく言われる。海神の騎士達が5人揃っていると、年齢差がないように、見えるらしい。すでにラングドン兄上を追い越して、体格は、山林ヒーラーのパトリック兄上と変わらない。
「ヴァシリスは、まだ10歳だから、構わないわ。それに、毎日、こっちにいないでしょう?」
「いえ、、アリエッタがいるなら、毎日、帰ってきます。アカデミー入学まで、1カ月くらいですし。」
「あらっ、やっぱり、ヴァシリスだって、一緒に居たいのでしょう?」
「うっ、、、」
母上には敵わない。
「ほら、子供は早く寝なさい。」
「では、お言葉に甘えて。」
「アンジェラおかあさま、おやすみなさい。」
寝台の上に座ったアリエッタが、クジラのぬいぐるみを触っている。
「ずっと眠ったままかと思っていたけど、身体は動かなくても、昼の時間は起きていたんだな。」
「気づいてらしたのですか?
ヴァシリス様の目覚めと共に、眠られるまで。」
「心が繋がっていたから、ずっと共にいて、僕だけを、守ってくれていた。身体も動かせず、声も出せず、目も開けられない、苦しかっただろう。」
アリエッタは首を横に振った。
「ヴァシリス様を感じ取れなくなるよりは、安心できました。ヴァシリス様の周りの景色は、ご神託のように、見えていたから。」
「しかし、2年は、長すぎるだろう。」
「ヴァシリス様の姿を、騎士団での姿を、側にいれたから、ずっと見られました。カッコ良かったです。さっきの騎士服を初めて着て、お義父様から、騎士の称号を授与された時も。」
「あの時、ものすごい勢いで光らせただろう。やりすぎたぞ。」
「だって、カッコ良かったから、興奮しました。」
「全く、、あれは、恥ずかしかった。」
年少優秀騎士は親衛隊ジュニアだから、騎士服が、親衛隊の朱赤色になり、襟周りの縁取りが、親衛隊は金色で、ジュニアは、全て黒になる。
騎士の称号授与式は、アリエッタが眠ってから、騎士団でのゴタゴタが落ち着いた1カ月後に、騎士団本部で行われた。
国王から、称号を得、剣を授かる。
剣は、もちろん、クロノスとポセイドンの加護がある剣だったが、授与式まで、僕の剣も、ダニエル、アーサー、パーシー、アズラエルの剣は、何故か、見た目が、元に戻った普通の剣のままだった。
授与式で、国王の祝福を得た途端に、4人の剣の鞘がコバルトブルーに光り出して、その場は、凄い歓声が起きて大変だった。
最後に僕が、祝福を受けた時には、半分はアリエッタのせいだが、僕ごと光り出して、僕の剣の鞘は銀色に輝き、5人が渦潮と光に包まれて、コバルトブルーの光が降り注ぎ、《海神の王子》《海神の騎士達》と、呼ばれる事になったわけだ。
アリエッタがクスクス笑っている。
「ヴァシリス様が、もっとカッコ良くなるようにってお祈りしたら、あんな風になってしまいました。」
「そういう事に、力を使うから、目覚めが遅くなったんじゃないのか?どれだけ心配したか、わかっているのか。」
「わかっています。毎日、何回も、愛していると、愛おしいと、いつも一緒だとか、名を呼ばれて、幸せでした。」
「わかっているなら、いい。」
恥ずかしいから、わざわざ説明するな。
眠り姫になる前の、乙女の恥じらいは、消えたのか?
「今日も、迎えに来てくださった時、あの騎士服でしたが、カッコ良かったです。」
「わざわざ今日見なくても、毎日見ていたのだろう?」
「はい、特等席で。王宮に戻られた時とか、御令嬢がうっとりと、ヴァシリス様を見ていたのも、特等席で見ました。うふっ。」
「何がおかしい?」
「周りの御令嬢の視線はわかってるのに、目もくれずに、通り過ぎる姿が、またカッコよくて。だって、ほかの女性は、一切、見なかったのですもの。私だけ、見て下さってるって。」
「で、あんなに貴石を光らせていたのか?
この2年、アリエッタが側にいて、僕を監視しているのと同じではないか。」
「ずっと一緒でしたっ!」
「まあいい。離れているよりは、眠ってからの方が安心できたな。」
「私もです。」
アリエッタはクジラのぬいぐるみを抱きしめている。
「アリエッタ、まだそのクジラは必要か?」
こくこくと頷いている。
ハグしたかったけれど、クジラに邪魔された。
「明日、またゆっくり話そう。」
アリエッタの額におやすみの口づけをして、手を繋いで眠った。
「あっ、」
「なんだ?眠いなら、早く寝ろっ。」
「海を出してください。」
「叱られたいのか。目覚めたのだから、海くらい自分で出せるだろう。どんだけパワーがあるか、自覚しろっ。」
「うひゃっ、そうでした。海を。」
一瞬で、寝室が海に包まれて、潮騒が聞こえてくる。
心の中で、ポセイドンとクロノスに伝えた。
アリエッタを返してくださって、感謝します。
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翌朝、目が覚めたら、アリエッタが側にいた。
手を繋いだまま眠っていた。
おおっ、凄いっ、と驚いた。
2人が、大の字で眠る幼児からは、卒業したみたいだ。まだ兄妹感覚だけど、これでいい。
アリエッタが、ぱちっと目を開けた。
「あっ、目があいた、お兄様がいる。おおっ〜っ、きゃっ〜、目があきました。」
奇声を発して、喜んでいる。
母上が、寝室のドアから顔を出している。
「ヴァシリス、大丈夫?」
寝台の上で、トランポリンみたいに飛び跳ねるアリエッタを見て、理解してくれたらしたい。
「目覚めの歓喜ね。」
「そうみたいです。母上、やっぱり7歳ですね。」
「そのようね。アリエルちゃん、絶好調ね。」
「そろそろ、起きます。」
「さくらんぼ、準備させるわね。」
「母上、ありがとうございます。」
「あ、アンジェラおかあさま、目が覚めました。今朝は、起きました。」
アリエッタは、素足で寝台を飛び降り、母上に抱きついている。
これが、日常の幸せなんだ。
「アリエルちゃん、お着替えしましょうね。」
「はあい、おかあさま。」
アリエッタは、思い出したように、寝台に小走りで戻って、僕の頬にチュッとした。
「おはようございます。ヴァシリスさまっ。」
そして、素足で部屋を出て行った。
背が伸びても、この性格は変わらなかったか。
あとでセレステ母君に、こっぴどく叱られても、僕は知らないぞ。
朝食には、父上と母上がいて、ここでも日常の幸せを感じていた。
「ヴァシリス、アカデミー入学までは、特に大きな国務もないし、騎士団も、急ぎはないだろう。入学準備くらいだから、ゆっくりすれば良い。」
「アリエッタの背が伸びたので、そろそろ乗馬の練習をと思っているのですが。騎士団では、キロンばかりで、アレックスも、あまり、走らせてなくて。」
「アレックスに乗れるのですか?」
「乗馬は練習しかないからな。」
アリエッタが、目をキラキラさせている。
この2年、全てが止まっていたから、特に、体は動かしたいだろう。
「そうだな。マースかユリシーズを呼ぶか。」
「ミカエラードの父君は、アズラエルとパーシーの鍛練の最後の仕上げで、かなりご多忙かと。」
「そうだったな。ではユリシーズとオランを呼ぼう。」
「助かります。」
「アリエルちゃんのドレスの丈を直したいし、新しく作りたいから、オランがいると助かるわ。」
「ユリシーズも、来月の騎士団の入団式まで、少し時間はとれるだろう。」
母上が、侍女長のナリスに、ユリシーズ夫妻に連絡を、と指示している。
アリエッタが、両手にさくらんぼを持っていた。
美少女アリエッタが目覚め、戻ってきました。
読んでいただき、ありがとうございます。




