第5章 穏やかな前進
アリエッタが眠り姫になってから、一年が経過していた。
週に一回、王宮泊まりになる日に、月の宮の僕のクロゼットから、アリエッタのいる神殿まで、隠し通路から逢いに行った。
アリエッタの部屋に行って、顔を見て、独り言を話して、額におやすみの口づけをして、帰ってくるだけだったけれど、2人のペンダントは光っていたから、きっと気持ちはつながっているはずだった。
毎朝、毎夜、アリエッタに話しかけていた。ペンダントが光るだけが、望みだった。
こればかりは、信じるしかなかった。
時々、胸が痛くなるほど苦しくなったけれど、アリエッタが目覚めるまでに、するべき事に目を向けた。
この間、シーシェルは安泰だった。他国との衝突もなく、平和な国づくりが進み、国は豊かで、民は幸せだった。
その間、
僕たち《海神の騎士たち》は、国王から、騎士団入団式から一ヶ月後には、騎士の称号を授かり、海洋ヒーラーを中心とした騎士団を作り上げる日々に没頭していた。
年少優秀騎士達から、海洋ヒーラーを全員を第三団騎士団の中心においた、彼らは将来は、親衛隊か上官・教官になる騎士達だ。全員、第三騎士団の上層部になる。
もちろん僕らも一緒にだ。
騎士としての鍛練と同時に、海でのヒーリングパワーを使って、攻撃や防御の練習をして、近衛騎士団第三団は、海洋騎士団と名称もかわり、強い騎士団になっていた。
同時に海洋軍から、ヒーリングエネルギーの多い者を集めて、ヒーリング部隊として、演習を続けていた。
いずれは、海洋騎士団と合流して、新しい国を守る要となる準備を進めていた。
騎士2年目には、海洋騎士団を基本にして、近衛騎士団全ての体制を変えた。父上、マース、アラン、ユリシーズが中心となった。
第一騎士団を王太子騎士団に、
第二騎士団を森林騎士団として、それぞれに特化した強みと守りを持つ鍛練を展開していた。
アリエッタはまだ目覚めなかった。
神殿には、変わらず通い続けた。
毎朝、毎夜、アリエッタに話し続けた。
いつも一緒にいる気持ちは、変わらなかった。
騎士になり2年が経った。
ダニエルが13歳になり、アカデミー入学が近づいていた。
アーサーが12歳、パーシー12歳、アズラエルが11歳、僕は10歳。
ダニエル以外は、王宮の教育部の試験を受けて合格しないと、前倒し入学はできない。
アーサーと僕は、3カ月前に試験を受けて合格し、ダニエルと共にアカデミーに入ることになっていた。
あとは、パーシーとアズラエルだ。
2人の騎士としての能力は、申し分なく親衛隊として活躍できると、アランやユリシーズ、騎士団本部から、太鼓判を押されていたので、後はアカデミー入学の為の試験だけだった。
僕は、アカデミー入学をあと1カ月先に控え、
陽の宮で、父上と、兄上たちと、ダニエル、アーサーも交えて、王太子騎士団と森林騎士団の、構成を相談していた。
扉の外から連絡があった。
「第三海洋騎士団より、パーシー・ウリエルと、アズラエル・ウリエルが、ヴァシリス殿下をお訪ねに。」
父上が、ニッと笑った。
「構わぬ、通せ。」
「失礼いたします。海洋騎士団、パーシー・ウリエル、参りました。」
「同じく、アズラエル・ウリエル、参りました。」
パーシーが、飛び込んできて、僕に抱きつく。
「ヴァシリス、合格したぞ、一緒にアカデミーにいける。」
アランが雷を落とした。
「パーシー・ウリエル、陛下と王太子殿下の御前である。お前という奴はっ。」
「ち、父上、おられたのですか?」
「ここは、陛下の書斎だ。私がいておかしいかっ。」
「アラン、そう怒るな。パーシーの性格は直らん。」
「陛下、申し訳ありません。」
アランが謝っている。
「パーシーは、ベリーズによく似ているな。」
ラングドン兄上が笑っている。
「ラングドン兄上、似ているのですか?」
「瓜二つだ。体型から、表現力が素直で、すぐ顔に出るが、強い。まあ中身は、そのうちアランのようになってくれるだろう。」
「パーシー、アズラエル、合格したんだな。」
僕は、ほっとした。
「やっと受かった。心配をかけた。」
アズラエルが頭を下げている。
「これで、5人揃っていけるな。」
ダニエルが笑顔だ。
父上が兄上たちに話している。
「ラングドン、パトリック、この5人が海洋騎士団の中核だ。この一年、お前たちの騎士団の鍛練も引き受けてくれていた。特に、王太子騎士団は、かなり強くなり、私も安心している。」
「海神の騎士達、王太子騎士団と森林騎士団の鍛練、感謝している。この2年で、私たちと年齢の近い騎士が育ち、アカデミーでの護衛も、層が厚くなっている。大変とは思うが、ヴァシリスを支え、海洋を守ってほしい。」
「「「「「はっ!王太子殿下」」」」
「君達の存在が、森林騎士団にも、よい影響を与えている、また合同の鍛練で、騎士達の強さがどんどん進化している。感謝している。アカデミーでも、よろしく頼む。」
「「「「「はっ! パトリック王子殿下」」」」
「アカデミーには、ラングドンもパトリックもいる。みなで、楽しく学べ。」
「ユリシーズ、これで、王子3人がアカデミーに在学だな。アカデミーの護衛の強化を、アランと固めてくれ。」
「はっ、アカデミーでは、殿下と年齢が近い者がおりますし、年少優秀騎士のほとんどが、アカデミーにおりますので、安心です。アカデミー卒業の優秀騎士は、親衛隊に配属予定ですから、
親衛隊も騎士数が増え、陛下の警護も、安心していただけます。」
「うむ。若手の騎士層が厚くなっているから安心だな。」
「アランも、やっと、公爵として、落ち着いて政務に身が入るだろう。親衛隊はユリシーズに任せれば良い。」
「陛下、ありがたきご配慮。」
アランが珍しく、ほっとした表情をしている。
「お前たちがアカデミーにいる間に、国づくりを更に進めておく。安心せよ。」
父上もにこやかだ、
「では、今日は、これで終了だ。」
兄上たちは、アカデミーの寮にもどり、みんなそれぞれに屋敷に帰って行った。
平和が続いているなあ、と、しみじみ思う。
「ヴァシリス、今日は月の宮に泊まるのか?」
「父上、今日はそのつもりです。」
「久しぶりに、獅子の湯に入るか。」
「はいっ!」
父上と一緒に、月の宮に帰った。
母上と会うのは、一週間ぶりだ。
「まあ、エドワード、おかえりなさいませ。ヴァシリスも、おかえりなさい。ヴァシリスは、また背が伸びたのね。その優秀騎士の騎士服、カッコイイわね。」
「母上は、ほめ上手ですね。」
「エドワードとヴァシリスは、よく似ているから。」
父上が、嬉しそうだ。
「アンジェラ、今日はゆっくりできる。」
話している時に、僕の剣が、ドクンと震えて光った。首のペンダントも光り始め、光が強くなっていく。父上と母上も、僕の剣をみている。
アリエッタだ。
「父上、母上、アリエッタが目覚めます。神殿に行きたいのですが。」
「ヴァシリス、早く、行きなさい。」
「ヴァシリス、アリエルちゃん、連れてきなさい。」
「わかりました。ではっ。」
僕は、自分の部屋に飛び込んだ。
――――――――
「アンジェラ、ミカエラードへの隠し通路は、陽の宮からだろう?」
「陽の宮の通路は、セレステ用みたい。ヴァシリスの部屋から、神殿への隠し通路があったのよ。セレステも、知らない道が。2年前に、ヴァシリスが死にかけた時に、アリエルちゃんが見つけたんだけど。あの2人しか知らないわ。」
「何かあるたびに、驚くな。ヴァシリスと神殿は直通なのか?ポセイドン殿かクロノス殿が作ったんだろう。」
「私も、そう思うわ。アリエルちゃんの部屋着を用意しなくちゃ。」
「アンジェラ、私の部屋着は?」
「ちゃんと準備しています。ヴァシリスと湯浴みをするのでしょう?」
「そのつもりだ。」
「エドワード、今夜は賑やかになるわね。嬉しいっ。」
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僕は2年間、毎週、通い続けた隠し通路を、全速力で走った。2年前より、走るのも早くなった気がする。
悲愛の聖母の前に出て、奥の壁を触り、王家の紋章が金色に浮き出る時間も、待ち遠しかった。
扉が開いて、中に飛び込んで、アリエッタの寝台に近づく。
アリエッタは、僕の寝着を手に眠っていた。
アリエッタの真珠の首飾りが、光り続けている。
「アリエッタ、目を覚ますんだ。」
アリエッタのまつ毛が、震えている。
「アリエッタ、起きて。僕だ。」
アリエッタの頬を両手ではさんだ。
目が、開いた。
僕を見つめている。
夢の中で見続けた、この瞳。
「ヴァシリス、さ、ま、、」
僕は、アリエッタの背中に手を置いて、抱き起こしながら、抱きしめた。
「アリエッタ、長すぎるぞ。2年だ。2年待った。」
「ヴァシリスさま。やっと、戻れました。」
もう一度、アリエッタの目を見つめる。
アリエッタの深い緑の瞳に、コバルトブルーが映っていた。
アリエッタの手が僕の頬に触れる。
「ほんとのヴァシリスさま。夢ではないのですね。」
「そうだ、夢ではない。目覚めたんだ。」
「ヴァシリスさま。また素敵になられました。騎士服姿。」
「起きて早々、それか?」
「騎士の称号授与式のその騎士服で、迎えに来てくださるかと。」
アリエッタが、僕の騎士服を触っている。
「アリエッタ、、月の宮に連れて行きたいのだが。いいか?」
「はい。」
アリエッタをお姫様抱っこして、神殿に戻ると
クロノス様とポセイドン様が、いた。
僕は、アリエッタをお姫様抱っこしたまま、跪いた。
「やっと、目覚めたな。」
「2人とも、よく2年耐えて、待った。」
「アリエッタを返してくださり、ありがとうございます。何とか耐えられました。」
「よく耐えた。それは我らが一番よくわかっておる。」
「その褒美に、アリエッタの力もパワーアップしている。ヴァシリス、頼んだぞ。」
クロノス様の言葉に驚いた。
「はい。ありがとうございます。」
「ヴァシリス、共にゆっくりするがよい。」
アリエッタを連れて、月の宮に戻る隠し通過を歩く。
アリエッタが、ずっと僕の顔を見続けている。
「ヴァシリスさま、背が伸びました?」
「アリエッタも眠っていたのに、背が伸びて、手足がすらっと綺麗だ。髪も伸びている。」
今の僕たちは、10歳と7歳。まだ子供だ、笑える。
アリエッタを月の宮に連れて帰ると、母上が大騒ぎだった。
「まあ、アリエルちゃん、やっと目覚めたの、ね。2年も辛かったでしょう。ヴァシリスを助けてくれて、本当にありがとう。アリエルちゃん、ありがとう。」
「アンジェラおかあさま、私は、ヴァシリス様をお助けできて、幸せでした。
毎朝、毎夜、ヴァシリス様が、一日もかかさず、声をかけてくださって、週に一回は、会いに来てくださったので、安心して待てました。」
「ヴァシリスって、毎週、神殿に行ってたの?」
「はい、この2年、ずっと、来てくださいました。嬉しかったです。」
「アンジェラ、先に、アリエッタとゆっくり湯浴みをしてはどうだ?」
父上が、終わりそうにない再会に、湯浴みを提案した。
「そうね。アリエルちゃん、立てるかしら?」
僕がアリエッタをおろしてみると、以外にも立てたし、歩けた。
「アリエッタ、痛いところは、ないか?」
「はい。大丈夫ですぅ。」
ずっと長年寝たまま、というより、一晩寝ていた時間がたまたま長かった、というような感じだ。
リハビリを覚悟していたので、かなりホッとした。
「アリエルちゃん、湯浴みしましょうね。ナリスに手伝ってもらって。」
「はい、おかあさま。湯浴み、嬉しいです。」
僕は、アリエッタが目覚めて、とにかく、ホッとした。いつ目覚めるのか、さすがに2年は長かった。
やっとアリエッタが目覚めて、ホッとしました。
読んでいただき、ありがとうございます。




