第5章 少年たち
王妃は息子が瀕死だと、一目で理解した。
治療室の隣に王がいるらしい。王に会わねば。
隣室に入ると、王とアラン、ユリシーズ、オラン、マース、セレステがいた。他に少年が4人いたけれど、エドワードに話しをしなくては。
「あなた、エドワード、ヴァシリスが、何故?」
エドワードに抱きしめられた。周りに人がいるが、エドワードは離す気がないみたいだ。
「アンジェラ、落ち着け。ヴァシリスは死なないから、回復を待つんだ。必ず助けるから。」
「エドワード、何故、何故、何故あんな姿に。朝、入団式に送り出したところよ。元気だったのよ。」
「済まない、アンジェラ、想定外の事が重なって起きた。」
「ヴァシリスの顔とわからないほど、あの子が、あんなに殴られなくてはならない事って、何なの?あの子は王子よ。護衛が全ている騎士団で、誰も助けなかったの?
治療室の床が、血の海だった。アリエルちゃんのドレスも、すぐにヴァシリスの血に染まっていってるわ。
あなた、今日、ずっと、騎士団にいたのでしょう?何故、助けてくれなかったの?毒を受けてまだ3日しか経ってないのよ。エドワード、説明してちょうだい。また囮にしたの?何の?何故?ヴァシリスに何かあれば、あなたの命はないって、私は言ったわよね。」
アンジェラの体から、青い光が浮き出てきている。
「アンジェラ、説明するから、落ち着いてくれ。頼む。今日の事は、クロノスの加護で起きた事だ。」
「クロノス様の?ヴァシリスは大丈夫なの?」
「絶対に死なない。身体も元に治るから、信じろ。」
「わかったわ。」
アンジェラは、部屋の奥に座っている4人の少年達が、手を縛られ、椅子に縛られている事に気がついた。
「この子たちが、何かしたの?」
マースが口を開いた。
「私の息子、アランの息子、ユリシーズの息子、ガブリエルの息子だ。ヴァシリスと一緒に入団した。」
アランが続けた。
「これから、話す内容が理解できなければ、ここで消すつもりで、拘束している。」
「あなた達、自分の息子を殺すつもり?オラン、セレステ、何とか言って。みんなおかしくなってるわよ。」
「アンジェラ、ヴァシリスとアリエッタを守るためなの。この子達が、あの二人を守れるかどうかで、未来は変わってくる。」
「セレステ、あなたヴァシリスとアリエッタの為に、息子を殺すつもりなの?」
「覚悟はしているわ。成り行き次第では。」
「オランっ、あなたは、あなたは?」
「覚悟しているから、ここにいるのよ。そのために、坊っちゃまがあのような姿に。」
「アンジェラ、とにかく説明するから、話を全て聞いてからだ。頼む。」
「わかったわ。」
「ダニエル、アーサー、パーシー、アズラエル、お前たちも、しっかり聞いておきなさい。」
4人の少年達は頷いた。
セレステがまず話した。
「明け方にご神託があり、マースとすぐに陽の宮に駆けつけたわ。
陛下は、今日の予定を全て変更して、騎士団に向かわれたの。
ヴァシリス様の未来を固める大切な日というご神託だった。この子達にも関係があった。ただ、ヴァシリス様自らの判断で、行動することが1番大切だったから、陛下もアラン達も、絶対に、手を出してはならないというご神託だったの。」
「理解したわ。、それが大前提なのね。」
アランが、今日、騎士団の入団式で起きた事を
整理して話してくれた。
「全て、入団式の後の体力試験の中で起きた事なのですね。」
ユリシーズが頷いて、口を開く。
「今日、陛下の警護にあたる10人の親衛隊以外の全ての親衛隊と騎士団には、ヴァシリス殿下を狙うものがあれば、斬り捨てよと、指示は出していましたが、最優先はヴァシリス殿下の意志を尊重せよと。」
「では、ヴァシリスの意志で、騎士団の助けを拒んだと言う事?」
「そうです。しかし、兄上と私だけは、殿下の生死に関わるときは、必ず助ける約束はしていました。」
「ありがとう、アラン、ユリシーズ。
で、今頃、何故、謀反が?」
「20年前に、アンジェラを襲ったランドルフにつかえていたダンドル家の生き残りだった。」
「ランドルフは、先王が断絶にしたと。」
「そうだ、あの時、アンジェラを襲った貴族家は、全て断絶していた。ただ、ダンドルは、その場にいなかったのだ。だから、父上、つまり先王は断絶にしなかった。」
王妃は頷く。何もおかしな内容ではない。
「王妃様。話が込み入りますが、ダンドルの嫡男とランドルフ夫人のマーガレットは、恋仲だったのを、高位のランドルフが、マーガレットを奪い妻にした。ダンドルは奪われた恋人と奪ったランドルフの護衛になるしかなかったようです。
そして、生まれたランドルフの嫡男が、アカデミー時代のアンジェラ様を襲い、その時、マーガレットは、忘れられないダンドルの男子を産んだところで、嫡男の連座になりランドルフとマーガレットは消され、ランドルフ家は絶えました。
ダンドルは、マーガレットの忘れ形見である自分の息子を引き取り、ひっそり育てたのです。ダンドルは位が低いものの、騎士の家柄、騎士団の本部で仕事を続けていたので、本部も全く気付いていませんでした。」
「その息子が成人して、大商人の婿に入ったが、商人が嫌で、海洋軍にはいり、軍内で兵を数人殺して、軍法会議にかけられる前に脱走し、それを父親のダンドルが、入団式に手引きしたのです。」
「逆恨みではないですか。ヴァシリスには何の関係もないわ。」
「だが、ダンドルは、マーガレットを消した先王と、その原因となった私とアンジェラにも恨みが残り、貴族として生きられなかった息子は、その息子であるヴァシリスに逆恨みをした。」
「私がアカデミーで襲われた遺恨がまだ残っていたのですね。あの時、マースとアランは、全力で守ってくれたのに。エドワードも私も死を覚悟して、騎乗のまま、崖から川に飛び降りたのに、まだ追っ手がいた。どれだけ人が死ねば済むのかと思ったわ。なのにまだ残っていたのね。」
「そうだ。それをヴァシリスは、見習い騎士の立場で、全てを受け入れ、20歳のダンドルと戦った。立場は見習いだが、行動は、紛れもない王子としてのものだった。」
「殿下は、守ろうとする騎士団を制し、一人で立ち向かわれた。それが騎士というものです。同時に、守られている王子として戦えば、勝って当たり前になる。一対一で勝たねば、決闘や仇討ちにはならないのです。王子であればあるほど、正々堂々とした言動が望まれます。」
「アンジェラ、ヴァシリスは国を守る根幹となる、ラングドンは国務と政務をする王太子になる。騎士団と軍を率いるのはヴァシリスだ。だから、騎士団全員の前で、率いるに相応しいと見せなくてはならない。それがクロノスの神託だった。
海洋軍では、3日前のチャンシアの侵略で、すでにザドキエル大将以下全軍、全兵士に、その力を見せつけた。
次は近衛騎士団だった。
ただ、今回は、ヴァシリスには何も伝えてはならなかった。ヴァシリスの行動如何によっては、先が変わってしまう。だが、ヴァシリスは、無意識のうちに、使命を理解し、クロノスが望む行動をした。立派な行動だった。誇りに思う。」
「エドワード、わかってはいますが、私は誇りより、無事でいてほしい。」
「他国に奪われる前に自害を選ぶ其方が、そんな事を言うのか?3日前のご神託では、私の前で、迷わずに自害する其方を見たぞ。」
少年達が息をのむのが聞こえた。
「意味がちがいます。」
「意味は同じだ。王家としての振る舞いの意味は同じだ。」
「そう言う意味では、同じだけれど。
その時、ヴァシリスは怪我をしてなかったのですね。」
「そうだ。それから、ダンドルが雇った傭兵が我々に切り込み乱戦になった。そこにいる少年達が、ヴァシリスに加勢し、騎士団での初陣を飾った。」
「それが、何故、ジプラー侯爵の息子から、酷い仕打ちを受けたのですか?ジプラー家は、王家を信奉している貴族のはず。」
ユリシーズが説明を引き受けた。
「ジプラーの息子は、年少優秀騎士になった経緯が不自然で、品格もなければ態度も悪く、この一年、優秀騎士達の中が二つに分断していて、本部の諜報部が調べていました。今日、やっと上がってきた報告では、周りを脅かし、金をばら撒き、不正で勝ち抜き、優秀騎士になっていました。周りの騎士も、街で乱暴を働くような取り巻きで、実力で優秀騎士になった者達と相反していたと言うのが実情でした。ただ、明確な証拠が不十分でした。」
「先程、ジプラー侯爵を呼び、事情をききました。侯爵が王家を信奉し、王太子様命と言う人物でして、常に、王太子と息子を比較して育てたために、息子がグレて、王子嫌いになったようです。侯爵としては、王子嫌いの息子を更に嫌い、息子は更に王子を嫌うと言う話でした。ジプラー侯爵は、息子の責任を負って、息子共々、一族の断絶を希望しています。」
「その親子の、とばっちりをヴァシリスが受けたの?そんな馬鹿息子のために?」
また王妃の身体から、青い光が出はじめた。
「王妃さま。我々は、ヴァシリス殿下の近くにいました。
殿下は、馬鹿な臣下を受けいれるのも王子の役目だとおっしゃった。我々が、今日その場で動き、証拠を固めるまで、殴られ、蹴り上げられ、あのようなお姿に。そして、そのような者の相手をするのは、第三王子で十分だと、王太子やパトリック王子には近づけさせないと。
不敬罪で、侯爵家全てを、断絶できる証拠ができるまで、殴り続けられました。
最後には、相手の希望を、聞き入れた剣の真剣試合でも、殺せたのに殺さずに怪我だけで。
最後の最後まで、王子として立派な行動を。
その後も、騎士寮を騒がせないように、するべき事を全て終えてから、王宮の医務室に。」
王妃の目から涙が溢れている。
「ユリシーズ、オラン、あなた達は、酷すぎるわ。鬼よ。そこまで、私のヴァシリスを立派に、育てるなんて、許せない。こんなにも、素晴らしい子に育ててくれたなんて、許せないわ。
ユリシーズもオランも、、、あなた達。あなた達から、1人息子を引き離して、どれだけ苦しい思いをして、育ててくれたの。。ありがとう。ユリシーズ、オラン。」
王妃は、ユリシーズとオランに跪いた。
オランが王妃に駆け寄り抱きしめる。
「アンジェラ。あなたの苦しみは私の苦しみよ。坊っちゃまを、育てられなかったあなたの苦しみは、私が一番知っているわ。」
オランの目から、涙がこぼれ落ちる。
王妃がセレステを見上げる。
「セレステも、ありがとう。生まれたばかりのアリエルちゃんをヴァシリスに託してくれて。
あなただって、自分で育てたかったはずよ。」
セレステが王妃にかけよる。
「私も、オランと同じ気持ちよ。アリエッタは、ヴァシリス様の巫女。ヴァシリス様の元でしか幸せになれない。幼いヴァシリス様の苦悩も、私は知っているわ。今日のご神託で、私は、クロノス様を恨んでしまいそうになったけれど、ヴァシリス様にも、アリエッタにも必要な日だった。
アリエッタなら、命をかけて、ヴァシリス様を守るわ。大丈夫よ。」
3人が、抱き合って、これまでの苦労を思い、涙を流していた。
「ユリシーズ、オラン、マース、セレステ、私からも礼を言う。ヴァシリスは、この国と世界の海を守るために生まれてきた。其方らに預けて、間違いなかった。
そしてアラン、全てを見据え、よく耐えて息子と巫女を見守ってきてくれた。礼を言う。
ヴァシリスは、今日、心のままに命をかけて、シーシェルの騎士団を率いる力を見せた。
私は、今日、騎士団と海洋軍の全権を引き継ぐ王命証と王子の指輪を、ヴァシリスに託した。
ヴァシリスの行動は、現役の騎士はもちろんの事、見習い騎士達には、伝説になっただろう。」
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「さて、少年達よ。今の話で、ある程度、疑問が解けたはずだが、どうだ?」
みんなが頷いている。
「其方らには、知りたいことがあるはずだ。全て話すつもりだ。」
セレステが王に言った。
「クロノス様が、先に隣室に、くるようにと。」
「先に、隣室の様子を、自分達の目でみよ。」
少年達は、拘束を解かれ、隣室の医務室に、皆と共に移動した。
セレステが扉を開けると、
そこは海になり、潮騒が聞こえていた。
王に続いて、皆が入る。
アーサーとダニエルが息をのんだ。
「悲愛の聖母、、犠牲の神の息子、、、」ダニエルが跪く。
「神殿の彫像だ、、」アーサーが跪く。
2人の呟きに、王とマース、セレステが驚く。
「ポセイダルゴ様だ。」
アズラエルとパーシーが、同時に跪いた。
「違う、聖母じゃなくて、アリエッタだ。」
「ポセイダルゴ様じゃなくて、ヴァシリスだ。」
「でも、成人している。、今じゃない。」
皆の前にあった?いた?のは、
血まみれの床にある治療台で、成人したアリエッタの膝枕で横抱きにされた成人したヴァシリスだった。
身体にかけた白い布が外れかけて、口から、左脇腹と背中から、血を流している。
ヴァシリスを抱きしめたアリエッタの目から、グリーンのキラキラした涙が流れ、ヴァシリスの身体に流れ続けている。二人とも意識がないようだ。
《皆の者よ、今、巫女が海の王子を癒している。しばし待て。》
前を見ると、大海神ポセイドンが立っていた。
《少年達よ、心準備は良いか?》
4人の少年達が、黙って頷いた。
《では、皆、来るが良い。》
ポセイドンが、金色に煌めくトライデントを一振りした。
一瞬のうちに、全員が、ミカエラード家にある神殿に移動していた。
祭壇の奥には、医務室で見たアリエッタとヴァシリスの姿にそっくりな「悲愛の聖母」の彫像があった。
祭壇の前に、巨大なクロノスが立っていた。
その横に、ヴァシリスとアリエッタを抱き抱えたポセイドンが、座っていた。
《さて、エドワード王、久しぶりじゃが、どこから、何を進めるかな。》
「クロノス殿、少年達から。」
《少年達よ、其方らは今日、不思議な1日をすごし、ここにおる。
シーシェルの巫女の話を知らなかった者は手を上げよ、、、、うむ、皆、知っておるな。大人の方が驚いておるな。
では、少年達よ、自らの使命を申してみよ。まずアーサー・ガブリエルよ。》
「はいっ、クロノス様、僕の使命は、ガブリエルの剣として、巫女を守り、巫女が守る海の王子を守る事。アリエッタ姫と、更に次代の巫女も守り、海を守ることです。」
《よし、アーサー、理解できているようだ。
では、ダニエル・ミカエラード、其方の使命は?》
「はいっ、ミカエラード家の巫女、つまり母上と妹を守り、アリエッタが守る王子を守り助け、海を守ることです。」
《ダニエル、其方も理解できておるな。次、パーシー・ウリエルはどうだ?》
「はいっ、父上の後を継ぎ、海の王子と巫女が、シーシェルと海を守れるように、王太子、第二王子を守りつつ、海の王子を守ることです。」
《よしよし、アランの息子も理解できているな。では、アズラエル・ウリエルはどうだ。》
「はいっ、海の王子の兄弟として、弟ヴァシリスと姫の愛を守り、志を貫けるように助けて、共に海を守っていくことです。」
《アズラエルも、しかと理解しているな。
と言う事だ、エドワード王たちよ。》
「しかし、誰も息子達には、話しておらず、何故。」
《少年達は、個々に、生まれた意味について、気付いて行った。其方らの生きる後ろ姿を見てな。後で、子らと語らうがよい。》
「はっ。しかと心に留めてまいります。」
《すでに少年達は、覚悟ができている。まさかこんなに早く、少年達とヴァシリスが縁を結ぶとは意外であったが、それだけヴァシリスが命をかけたという事だ。少年達に、剣を授けるゆえ、親も立ち会うようにな。
そろそろヴァシリスと巫女も目覚めるであろう。ポセイドン、二人はどうじゃ。》
《父上、完全では、ありませんが、そろそろ回復してきました。》
《では、目覚めさせよう。天の神、海の神の庇護をうけた王子ヴァシリス、天界の加護を得た巫女アリエッタ、目覚めるがよい。》
クロノスの手から、金色と赤色の光が溢れ、ポセイドンの腕の中にいたヴァシリスとアリエッタを包み、光が煌めき、ポセイドンの腕の中で二人は目覚めた。
「海の父上、、ここは、神殿ですか?」
《ヴァシリス、アリエッタ、よく耐えた。巫女の力で癒され、回復したぞ。起き上がるがよい。》
「ヴァシリスさま、お傷は?お顔の腫れが少し引きましが、まだ腫れています。痛みはいかがですか。」
アリエッタがヴァシリスの顔にそっと触れる。
「アリエッタ、ありがとう。苦しみが消えた。楽になっているよ。」
「ヴァシリスさま、もう無茶はなさらないでください。私、私、ヴァシリス様を失うかと。」
アリエッタが、ヴァシリスにしがみつく。
「其方を置いて、死んだりはせぬ。」
「あんなになるまで、お一人で背負わないでください。いつも一緒と言われたのに。。ヴァシリス様が殴られているのを、ずっとご神託でみなくてはならなかったのです。生きた心地がしませんでした。」
「だから、ペンダントが光っていたのか。心はつながっていると、誓ったではないか。」
「私のペンダントも、光っていました。」
ヴァシリスがアリエッタを固く抱き止める。
「んん、んんん、コホンっ、そろそろ良いか、ヴァシリス?アリエッタ?」
「そのお声は、父上?
えっ?えっっっっ〜〜、何でみんなここにいるのですか〜〜」
少年達は、海の王子と天界の巫女の甘いやり取りを、目の置き場がなく、目を見開いてしっかりと見ていた。
ヴァシリスに仲間が増えました、
読んでいただき、ありがとうございます。




