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巫女は海を守りたい〜愛が溢れるヒーラー物語  作者: 紫陽花
第5章 次の新しい道 婚約のあと
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第5章 最後の日 大人の恋

人払いされたダイニングで、朝食を取りながら、母上が説明してくれた。


「あなたとアリエルちゃんの婚約が成立したから、二人の肖像画を残すから、宮廷画家が来るのよ。」


「ええっ?何で?」


「何でそんなに驚くの?あなたの部屋にもあなたが生まれた時の可愛い絵があるでしょう?節目節目には絵を残すのが、王家のしきたりだから。」


「婚姻の時だけじゃないんですか?恥ずかしいです、母上。」


「ダメよ。エドワードから王命よ。」


「そんなことで、父上も王命を出さなくても、、」


「ラングドンもパトリックも、祝賀会の前に、婚約者と下書きを描いてもらってるの。」


「兄上たち、先に終わってるんですか?」


「そうよ。ラングドンは特に王太子になったから、大事な節目でしょう。

あなたは、婚約と巫女を得、初陣を済ませた大切な節目なのよ。次は騎士の称号を得た時よ。」


僕が騎士になる前から、肖像画の方が、先に決まっているなんて。更にため息が出た。


「また正装するんですか?服も血まみれですけど。」


「昨日の祝賀の会に宮廷画家に来てもらっていたの。だから、ある程度、デッサンはできてるんですって。正装も、あらかじめ衣装を見せてあるから、着なくて大丈夫よ。あとは、ポーズを決めるだけよ。それに正装は、まだ予備があるわよ。あんな血まみれで記念に置いとけないわ。」

もう一着あったんだ。


「きゅうていがが?」とアリエッタが興味津々だ。


「宮廷がか、よ。あなた達の婚約の記念に肖像画を描いてもらうのよ。ほら、中広間や、回廊や階段の踊り場に、大きな絵が飾ってあるでしょう。ヴァシリスのお部屋にも、小さな頃の絵があったでしょう。」


「あっ、はい。それに、月の宮の入り口に、お義父さまとおかあさまの婚姻式の絵がありました。素敵です。」


「そうよ。あなた達も、あの絵みたいに描いてもらうのよ。どんなポーズがいいかしらねえ。もちろん、王立アカデミーの卒業式も、婚姻式も赤ちゃんが生まれた時も、描いてもらいますからね。」

うっ、更に予定が決まっているのか?僕は辞退したい。どんなにデカい絵か、みんなわかってない。


「おかあさま、素敵です。嬉しいです。」


アリエッタが嫌がらないのが不思議だった。

僕はまた、ため息が出た。王子は面倒くさい。


「で、ヴァシリスは、何の相談だったの?」


「最近、アリエッタと同じ夢を見ることが増えてきて。ご神託というほど、衝撃的でもないし、即危機的とも、言い難い感じの夢ですが、同じ時に見てるから、意味があると思います。」


僕は今朝方、見た夢を話した。


「確かに、予知夢って感じはするわね。」


「明日から、アリエッタとは別々に生活するので、見た夢をノートに書き残そうと思って。。」


「これから婚姻まで長いから、書き残す方がいいわね。ノートもペンも特別なものにして、誰にも見つからないようにしないと。

アリエルちゃんは、ここか、ミカエラード家かガブリエル家だから、盗み見られる心配はあまりないけど、ヴァシリスは寮でしょう。絶対に隠さないとね。」


「そうなんです。」


「そう言うこともあるかと思って、騎士寮のあなたの部屋の壁に、隠し場所を作らせたわ。見た目は、みんなと同じよ。特に新しく見えるとかではないから、安心して。明日、ユリシーズから使い方を聞いてちょうだい。」


「そんな準備が?」


「エドワードが騎士寮に入った時も、そうしたらしいわ。国王に何かあった時のために、王太子の証や、王子の指輪とか、王命の証を、あなた達は、いつもいる場所に置いておかなくてはならないものがあるのよ。その隠し場所よ。だから心配しないで大丈夫よ。ノートとペンは、夕方には渡すわ。」


「ありがとうございます。」


「さっ、2人で海に行きたいんでしょう?隠し部屋から2人で行っていいわ。

昨日の今日で、この国は、今、一番安全だから、護衛なしでいいわよ。何かあれば、ポセイダルゴ様や天海の神々が守ってくださるわ。

さっさと、肖像画を終わらせましょう。」



朝食後、僕たちは、月の宮の、王妃の謁見の間で、宮廷画家にあった。


「ヴァシリス王子殿下、お久しぶりでございます。なんと麗しい王子にご成長され、喜びに打ち震えております。」


「ジョージ、久方ぶりだ。元気そうでなにより。まだまだ未熟で、大して成長はしてないから、むやみに誉めないでくれ。」


「まあ、ご謙虚さも、殿下の徳にございます。

腕がなります。またご婚約者様も、まだ幼いとお聞きしておりましたが、類まれなる美しさと可憐さを持ち合わせたアリエッタ嬢を、描かせていただけるとは、宮廷画家の誉れにございます。」  


「さっ、ジョージ、二人も忙しいし、アリエルちゃんは、静養中だから、あまり無理をさせたくないわ。頑張って描いてね。」

母上が、僕にウインクした。


「王妃さま。そうでした。昨日はあれから大変でございましたから。では、ポーズをいかが致しましょうか。昨日、お二人ご一緒のところを拝見して、殿下が跪いてアリエッタ嬢の手を取られたところか、エスコート姿か、王太子殿下のように、お二人が並んでいらっしゃるお姿か。」


「第三王子だから、堅苦しいより、愛が溢れる感じが良いのだけど。」


「では、やはり、婚約の申込みのあのお姿を。ため息が止まらない、お二人のお姿でしたから。」


「そうよね。ヴァシリス、昨日みたいに、アリエルちゃんの前に跪いて、手を差し出してみて。アリエルちゃんは、昨日、ヴァシリスから婚約の申込みを受けた時を思い出して、手を出して重ねてくれるかしら。」


またやるのか、恥ずかしいなあ。

と、思ったけれど、アリエッタの前に跪いたら、気持ちが変わった。昨日は溺愛王子の役割をして、あの後から、死にかけ、周りに助けられながらも、国を守り、生死に関わる場を二人で越えたことを思い出した。

胸が熱くなってきた。昨日は国を守らねば、と必死だった。

アリエッタも、僕が死にかけて、クロノス様が見せた光景を回避した事を思い出しているのがわかった。

それを越えて生きる婚約の誓いだった。

昨日より、今の方が、真剣だ。胸が苦しくなるくらい、恥ずかしいけれど、これまでにない、熱っぽい視線で、アリエッタを見つめているのがわかる。

アリエッタも、昨日よりも、その誓いの大切さを噛み締めているようで、全身が震えて目が潤んでいる。

アリエッタが、僕の視線を一度も外さずに僕の手をとった。


白昼夢だろうか、未来か?

成人した美しいアリエッタの花嫁姿、僕の手を取り、海辺の教会で、見つめ合っている。この国に海辺の教会なんてあったっけ?

アリエッタと僕の指には、ポセイダルゴ様にもらったあの貝殻リングがある。あれって結婚指輪だったのか?ずっとつけ続けるんだ。外す理由はないけど。

僕が、アリエッタのベールをあげようとしている。ベールをあげたら、誓いの口づけを。

教会の鐘が鳴っている。

この深い緑の瞳を見つめ続けてきた。その瞳の中にコバルトブルーの僕の瞳が映っていた。アリエッタが生まれた時から、そうだった。

アリエッタの唇が「ずっと一緒に、もう二度と、離れません。」と動いた気がする。

僕もそう思っていた。

「もう二度と二度と絶対に離さない。どれだけ苦しかったことか。」

僕は、アリエッタの手を引いて一気に引き寄せ、強く強く抱きしめた。


えっ?何が?何が、そんなに苦しかったんだ?


「ヴァシリスさま、くっ苦しいです。」


アリエッタの声が聞こえて、我にかえった。


「えっ?」

アリエッタが、小さくなってる。

僕は、教会で、成長したアリエッタを抱きしめていたはずなのに。ここはどこだ?周りを見渡すと、母上と宮廷画家が立ち尽くし、侍女たちが、崩れ落ちていた。


「ヴァシリス、大丈夫?」

母上の声がする。 


「アリエッタ、今までどこにいた?」


「うみべのきょうかいで、私、花嫁姿で、ヴァシリスさまがいて、、、」


「婚姻式だったよな?」


「はい。」


僕はまだアリエッタを抱きしめていた。少し手を緩めて、アリエッタをみた。


母上が僕たちに近づいてきた。

「あなた達、大丈夫?」


「母上、また夢を見たようです。」


「すごかったのよ。謁見室が、海になっちゃって。教会の鐘の音は聞こえてくるし、、あなた達の熱気もすごくて、侍女達は、また失神しちゃったわ。」


「母上、申し訳ありません。跪いたところまでは、覚えているのですが、そこから、、アリエッタも同じ夢を。」


「わかったわ。

ジョージ、ここまでにしたいのだけど、絵は描けそうかしら?」


「はいっ!感激いたしました。お二人の未来への愛を、必ずや、絵に込めて仕上げてまいります。」


宮廷画家のジョージは、涙を浮かべ、興奮しながら、帰って行った。



母上は、失神している侍女達を放置して、早く部屋に戻れと言っている。

母上の私室まで戻って、母上は二人の話を聞いて、全く同じ夢だと納得してくれた。


「母上、その夢の間、侍女が倒れるほど、僕は何かやらかしましたか?」


「そうとも言えないわ。ただ、あなた達が見つめ合う姿が、尋常じゃなかったのよ。いつもみたいに、周りが冷やかしてすむような感じじゃなくて。昨日の祝賀会より、凄みがあると言うか、もう絶対に離さない離れないって、胸が苦しくなるほど伝わってきたのよ。どんなに苦しかったんだろうって思って、私は涙が出そうになってた。」


「僕も、婚姻式なのに、苦しかった気持ちがすごくて」


「わたしも、すごく苦しかったのです。だから、もう離れないって、強く強く思っていて。」


「ヴァシリス、アリエルちゃん、今はまだわからないけど、ノートに書いておくのよ。ノートは、あとで、すごいのをあげるから待っていてね。

さっ、肖像画も終わったし、あとは自由にしていいから。ヴァシリスは、騎士団の荷物、準備できてるの?」 


「はい。荷造りは済んでいます。ノートを入れるだけです。」


「わかったわ。じゃあ、夕食までに帰ってらっしゃいね。」


「承知しました。」


*・゜゜・*:.。..。.:*・・*:.。. .。.:*・゜゜・*


僕たちは、僕の部屋の隠し部屋から、隠し通路を使って、ずっと通い続けていたいつもの浜辺に出た。


波打ち際で、僕は寝っ転がった。

アリエッタは、僕の側に、横座りしている。


「なんだか、ずっと来てなかったみたいです。」


「そうだな。離宮の海岸に行ったりしてたから、、懐かしく感じるな。」


「ヴァシリスさま。この一週間、何年も過ぎたみたいに大変でした。私も、頭が混乱してばかりで、やっと今日、いつもと同じように感じましたが、やっぱり、いつもとは違います。」


「アリエッタが、巫女の覚醒をして、初めてのご神託をもらってから、大変だった。」


「お誕生日も一緒にいてくださったし、、」


「ドタバタしてるうちに、気がついたら、僕の巫女になってるし、神様にも会ったし、剣もすごい事になるし、死にかけたし。」


「怖かったです。色々と。でも、ヴァシリスさまの、婚約者になりました。」


「そうだ。昨日は、襲撃に備えて、計画通りするために、婚約もそのついでみたいだったけど、さっき、肖像画のポーズで、跪いたら、なんというか、本気になってしまっていた。そうしたら、婚姻式の真っ最中だった。」


「ヴァシリスさま。私、嬉しかったです。あれが未来なら、私、嬉しくて。。このリング、してましたよね。」


「見えたか?」


「はい。やっぱり、同じものを見てたんだ。」


でも、あの感情は、苦しくて苦しくて、だから、とても苦しい事を越えてから、やっと、起きるんだろう。

僕はアリエッタに向き合って座った。


「アリエッタ、これからも色々なことが起きるだろう。苦しい事もいっぱいだろう。だが、必ず、今日見た婚姻式まで、二人で辿り着こう。」


「はい。必ず、あの日に、あの場所に、ヴァシリスさまの側まで、たどり着きます。」


「アリエッタ、今日は朝から、急に大人っぽくなってるけど、無理してないか?一週間前まで、寝台で、びっくり踊りとか、していたぞ。」


アリエッタは、クスクスと笑った。


「何だか、わかってきたのです。ずっとヴァシリスさまが、言ってくださっていた事が。急に、意味がわかるようになった感じです。

昨夜は、お母様にも、ものすごく叱られましたし、実際にクロノス様の光景を見て、どれだけ恐かったか。あの触れられた気持ち悪さは、死にたくなるような惨さで、自分を守らなくては、ヴァシリスさまに合わせる顔がないと、気づきました。

何より、ヴァシリスさまが、どれだけ大切な方か、わかったのです。」


「今までだって、わかってただろう?」


「心から離れたくない、とは思っていたのですが、少し違うのです。私が生まれて間もない頃、ヴァシリスさまと、光の調和をしました。あの記憶が、昨日の夜中に、夢で急に蘇ってきて。蘇ったのか、初めて知ったのか、それも微妙ですが、はっきり自覚しました。」


「あの日の記憶を見たのか?」


「はい。昨夜の夢の中で。

あれは、お義父さまの書斎でした。あのお部屋の長椅子で。ヴァシリスさまの瞳を見て、私がヴァシリスさまの指を握ったら。」 


「そうだ。」


「私、ヴァシリスさまの前に、ラングドン様やパトリック様と会っていたのですが、すごく泣き叫んで、お二人を、追い出したみたいな感じでした。

だから、最後に、ヴァシリスさまと目が合った時、あの時、私、その、もっと先に、深い緑のドレスを着て、海が見えるガラス張りのお部屋で、、」


「それも、見たのかっ。」


「はい。」

顔が桜色だ。最後まで見ていたら、頬は染まるだろう。


「アリエッタ、頬が桜色になってるけど、何を見た。隠さないで言ってほしい。」


「あの、あの時、成人されたヴァシリスさまを見て、狼狽えました。

昨夜、お母様から、叱られた時、この国の王子殿下である事を知りなさいと。気軽に会える方ではないと、その方が、私の為に毒を受けて守ってくださる事が、どれだけ大変な事かと。

5歳の私から見たヴァシリスさまは、誰よりも素晴らしく素敵な方です。

でも20歳の私から見た23歳のヴァシリス様は、雲の上のような方で、今よりももっと素敵で、私はどれだけお慕いしているか、自分でよくわかりました。そのヴァシリスさまが、私を見つめて、とても美しい大きな真珠の首飾りをつけてくださって、、」


そうか、僕は自分の視線だから、アリエッタしか見えなかったけど、アリエッタの視線からは、成人している僕しか見えないんだ。


「僕は、君に、愛している、と言った。」


「はい。」 


アリエッタが、大人の女性の表情をしていた。目を潤ませ、頬を染めて、5歳の顔じゃなかった。


「ヴァシリスさまは、ご存知だったのですね。ずっとずっと、私より大人で、いつも守ってくださっていて、今まで言われた事で、わからなかったことが、朝起きたら、全部、理解できたのです。まだ5歳ですが、少なくとも、あの夢の中では、成人していました。その気持ちを、一回知ると、5歳と20歳が、ごちゃ混ぜになってしまって。」 


「僕は、3歳で、20歳のアリエッタを知った。もちろんアリエッタが感じたように、20歳の君を見た時は23歳の男だった。だから、早く大人になりたくて、でも子供は子供だぞ。15年、年相応に生きて進むしかない。」


「はい、わかっています。」


「で、謁見室で絵を描いてもらっていたのに、大人になった僕たちが、自らの婚姻式を、白昼夢で見てしまったわけだ。アリエッタ、確かにこれは苦しくなるな。」


「はい。私は、やっと今日、ヴァシリスさまを、心の底から、お慕いしていることを知ることが出来たのに、明日から、離れ離れなんですね。」


「そうだ。でも知らないより、知ってる方が、踏ん張れると思っている。」


「だから、この一週間、ヴァシリスさまが、どれだけ私を大切にして下さっていたか、私、幸せです。苦しくても、頑張れます。」


波飛沫が飛んできた。

海を見ると、クールとクーポだった。

おいでおいでをしている。

僕たちは、海に入った。


クールたちに連れられて、海の庭にきた。今日は綺麗な花がたくさん咲きみだれている。


白い大きな渦巻きだ。きっとポセイダルゴ様だ。


「ヴァシリス、アリエッタ、やっと来たな。ずっと浜辺で、恋を語り合うつもりだったのか?」


「いえ、そんな、昨日のお礼も申し上げたかったですし。

ポセイダルゴ様、昨日はありがとうございました。シーシェルと海を守ることが出来ました。」


「其方らの力だ。よく頑張った。で、今日はな、父上と母上を紹介する。」


「ポセイドン様と、、あっ、もしかして。」


海の中で、とても大きな白波が立ち、金銀の光が降り注いで、ポセイドン様が、姿を現した。

とても美しい女神様が、一緒だった。


「「ポセイドン様 」」

僕たちは、ポセイドン様に跪いた。


「ヴァシリス、アリエッタ、昨日はよく頑張った。よく守ってくれた。おかげで海も被害はなかった。感謝する。

で、だ、ヴァシリスは知っているだろうが、我の妻を紹介する。」


アリエッタが目を丸くしている。

そうだ、アリエッタに説明するのを忘れていた。


「我の妻、お告げの女神シェルだ。シーシェルの始まりの姫だ。」


「ポセイドン様、シェル様。ご婚姻、おめでとうございます。」


「シーシェルの巫女物語のお姫様ですか?」


「アリエッタ、クロノス様から説明するように言われていたのに、忘れていた。すまない。」


「ヴァシリス、良い良い、ずっと大変だったのだ。我が説明してやろう。」


アリエッタの感動が半端なく、また5歳児に逆戻りだ。

ポセイドン様が、アリエッタに説明して下さった。


「なんて、すごいお話なんでしょう。1000年も、思い合うなんて、、それにしても、美男美女。海の王様と女神さま。このお2人を引き裂こうなんて、ゼウス様は無茶苦茶です。ヴァシリスさまを灰にしようとなさったり。でも、ポセイドン様とシェル様がお幸せで良かったです。」


アリエッタは、二人を見て、うっとりしながら、思い出して、怒っている。


「ヴァシリス、アリエッタ、其方らは、明日から別々の日々になるのだな。」


「はい、覚悟はしています。海と国を守るには、力をつけなくてはなりませんから。それにアリエッタが、未来の記憶を少し思い出してくれたので、同じ視点で話せるようになりました。きっとクロノス様の、ご加護ですね。」


「思い合う者同士、気持ちが通じて良かったですね。シーシェルのために、ヴァシリスとアリエッタが努力してくれること、とても嬉しいです。」


女神のシェル様は、美しすぎる。神様が取り合いする意味もわかる気がする。ポセイドンを見上げる眼差しに愛が溢れている。


「ヴァシリス、アリエッタ、我らの婚姻の祝いじゃ。其方らを、しばし、15年先の姿にしてやろう。海の中だけだ。日が暮れる時には、また子供に戻るが、大人の恋を語り合うがよい。ハメを外しすぎるなよ。ではまたな。」


また渦巻きが起こり、神様たちは消えた。


「アリエッタ、ポセイドン様が、、」

なんか声がおかしい。低くなってる。

アリエッタが、僕を見てるけど、顔が赤い。

アリエッタが、大人になってる。


「アリエッタ、もしかして、大人になったか?」


「ヴァシリスさまも、あの麗しさが、ダダ漏れです。お髭まで、、」

びっくりして、顎を触ると、ひっ髭が生えてる。


ポセイダルゴ様が、僕たちを、少しの間、大人にしてくれた。


「アリエッタ、踊ろう。」


何故か踊りたくなった。アリエッタを引き寄せて、踊り出した。

昨日のダンスと、全く違った。大人は、こうやって踊るんだ。


「私、20歳に見えますか?」


「綺麗だ。眩しいくらい。美しく成長している。

誰にも見せたくない。何が何でも、絶対に、離したくなくなった。」


「まあっ。ヴァシリスさまは、大人になると、口説き方が、お上手です。」


「其方しか、口説かない。」


「………」


「どうした?」


「あまり見ないでください。お顔が近いと、本当に失神しそうです。」


「そんなに、いい男に見えるのか?」


「はいっ、、お義父さまよりも、もっと、、」


「それは困ったな。アカデミーや海洋研究所で、女性に追いかけられると言うことではないか。」


「それは、嫌です。」


「お互い様だ。アリエッタのその美しさは、周りの男が、放っておかないだろう。」


「誰一人、寄せ付けません。」


「私が守る。」


「ヴァシリスさま、大人になると、安心感が変わるような気がします。」


「そうだな。意思表示がはっきりできるからか。子供では、ままならぬことも多いからな。

アリエッタ、私たちは、大人になっても、この海をヒーリングで癒しているはずだ。きっと毎日毎日、海に出るのだろう。」


「一緒に。」


「そうだ。もう少し沖まで行ってみよう。」


クールに二人乗りして、沖の色々な海を見てまわった。途中で、西の海に、ポセイダルゴ様の、さくらんぼ園があり、門番の人魚が入れてくれた。

アリエッタも、さすがにマナーよく、品よく、しかし、すごい勢いで、さくらんぼを頂いていた。大人になっても、やはりさくらんぼ好きは、変わらなかったな。離宮の沖に、シーシェルでも育つさくらんぼ園を作らねば。


さくらんぼ園を出て、氷の海を周り、ペンギンのコロニーで子育て中の親子を見た。アリエッタは氷の下に生きるクリオネと言う生物に大感動していた。遠い海に生きる生き物をたくさん見て、小さな島国の暖かい海に戻ってくる。


「ヴァシリスさまの銀色の髪と、その瞳は、どう見ても、ポセイドン一族にしか見えませんね。皆さん、ご挨拶していきます。」


「自分でも、シーシェルの王子より、海の方が合ってると思っているからな。」

どこを泳いでも、海の生き物たちが、手やヒレを振り歓迎してくれていた。


アリエッタの海色の髪が、海の流れにサラサラと流れるように煌いている。

海神の庭に戻ってきた時は、夕暮れ間近だった。

庭の光る石に腰かけて、海に入ってくる太陽をみていると、アリエッタが、ポツリと言う。


「ポセイダルゴ様も、ポセイドン様も、とびきり見目麗しい神様ですから、、

ヴァシリスさまが、素敵すぎて、、」


「どうした?」


「素敵過ぎて、どこかに取られてしまいそう。」


僕は自分が、どれだけモテるか女に追いかけられるかはわからないが、興味がないものはない。


「どこにもいかぬ。見たのだろう。其方と初めて会った、3歳の僕が見たことを。

他の女には、全く興味はない。

アリエッタ、約束したぞ。誓ったぞ。

其方こそ、私の心を忘れるな。」


「ヴァシリスさま。私の心を、捧げます。」


太陽が海に入りかけている。水平線に沈むまでが、残された時間だ。


僕は、アリエッタを引き寄せて、頬から顎に手のひらをあて、包み込むように顎を少しあげて、アリエッタを見つめた。アリエッタの瞳の中に、コバルトブルーの瞳が映っている。


アリエッタが少し震えて、そっと目を閉じた。

そして、ゆっくりと、大切に大人の口づけをした。

今度こそ、しっかりと優しく抱きしめた。


どのくらい、そうしていたのだろう。

周りが暗くなりかけて、気がついた。

太陽が、ほとんど海に入っている。


「15年後、また口づけをする。覚えていてくれ。」


「はい。。」


「魔法が解けるまでに、浜辺に帰ろう。」


僕はトライデントを出して、一振りした。

浜辺に戻った僕たちは、子供に戻っていた。



大人の恋の時間は、あっというまに過ぎてしまいます。

読んでいただき、ありがとうございます。

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