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巫女は海を守りたい〜愛が溢れるヒーラー物語  作者: 紫陽花
第5章 次の新しい道 婚約のあと
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第5章 戦いの後遺症

海の中で、アリエッタと遊んでいる夢を見ていた。


腕に重さを感じて、目が覚めた。何時だろう。

王宮の鐘堂の鐘が、昼からの9つを鳴らしている。

8つくらいに寝たはずだから、眠りに入ってすぐだ。


腕にアリエッタがしがみついている。

クジラのぬいぐるみにくっついていたはずなのに。暗闇で、目を凝らしてみると、アリエッタの瞳が僕を見ていた。


「眠れないのか。」


「人が、消えていくのが、浮かんで、、、」


やっぱり、アリエッタもだ。

まだ5歳。僕でも父上とユリシーズが対応してくれて、何とか心を保っている。

父上たちを起こそうか迷ったけれど、僕は、今は、大丈夫だ。

僕で向き合えるか、やってみて、ダメだったら、母上に。。

僕は起き上がって、灯りをつけた。

ソファに座った。


「アリエッタは、今、どんな気持ちなんだ?」


「私、いつも、お魚さんたちを、たくさん助けているのに、、あの黒い船には、たくさん人がいたのですよね?」


「あれだけの艦隊だから、人がいなかったという事はないな。」


「あの船の中の人、全部、私が消したのですね。」

アリエッタが、ぎゅっと僕の腕を握っている。


「僕も一緒に、だ。クロノス様の裁きを受けてもらうために、天界に送った。」


「私、ヒーラーなのに、人殺しなんですね。」


「理由がある。侵略されたんだ。」


「でも、何もされてなかった、、」


「される前に、こちらが消した。攻撃を待っていたら、大変な被害がでていた。」


「でも、もし攻撃してこなかったら?私が黒い船のご神託をみたから、、もし黙っていたら、人が消えずにすんだかも。。」


「アリエッタ、それは違う。ご神託は、神様が、僕達を守るために、見せてくれるものだ。それを知って、みんなを守るのが、僕たちの役目なんだよ。」


「人を消すのが役目ですか?」


「この国を守るのが、役目だ。シャチ事件の時もそうだっただろう?」


「でも、あの時は、人はいなかったから。」


「クーボやクールが一回死んだ。アリエッタは、命懸けで、海に飛び込んだじゃないか。あの時はポセイダルゴ様の力で、生き返ったけれど、人は消えたら、二度と戻れないんだ。」


「でも、昨日、ヴァシリス様と私は、生き返りました。」


「あれは、神様が助けて下さったからだ。」


「じゃあ、他の人も、助けてあげれば。」


「チャンシアの人が生き返ったら、また攻撃しに来るんだよ。」


「私、人を消すのは、嫌。」


「僕だって嫌だ。だけど今日は、やらなきゃ、国が滅んでいた。」


「そんなの、そうなってみないと、わからないです。」


「アリエッタは、たくさん大切な人たちや民や生き物味が死んでからでないと、納得できないのか?

じゃあ、ご神託を無視していたら、一番先に死んだのは、僕だけど、それで良かったんだね。」


アリエッタが息をのんだ。

そう、ご神託は、僕が毒で殺されるところから始まっていた。


「未然にわかって、準備していても、僕の体には毒が残っていた。解毒緩和薬がなかったら、今、僕はここにはいない。もう死んでたはずだ。

アリエッタは、黒い船に乗せられて、チャンシアの奴隷になっていた。わかっているだろう?」


「でも、たくさん人を消して、、、」


「今は、まだ、みんなが生き残れる選択肢はない。これから、みんなが死ななくていい世界を変えていく事は、出来るかもしれないけど。

今日は、僕は、シーシェルが滅ぶのは見たくなかったから、戦った。人をたくさん消した事が、平気なわけじゃない。僕が手をくだした。

だけど、今は、誰かが守らないと、ダメなんだ。

アリエッタ、ちょっと難しいかもしれないけど、

この不毛な会話は、終わりがない。どこかで納得して、未来につなげるしかない。

戦争に答えはない。戦争自体が、それぞれの言い分を押し付けあってるだけだから。

誰かが力でねじ伏せようとしてきたら、ねじ伏せられるか、反撃するしかない。対話で済めばいいけど、対話する気がないところは、武力行使に出てくるわけだから。

アリエッタの気持ちは、わかってる。

だけど、少なくとも、今日は、チャンシアを消さなければ、僕達は、死んでいた。」


「守るために、消すしかないのですか。」 


「そう言う場合もある。今回はそうだった。

王宮に戻ってきてから、アリエッタは先に、ここに帰ってきただろう? 

あのあと、僕は、父上と、パニエールの一族を消してきた。」


「えっ?ヴァシリスさま、、」

アリエッタの顔色が変わった。


「最後に、パニエールに寝返っていた間諜と、イライザを、この手で、目の前で消してきた。」


「イッ、イライザまで、消したのですか?」


「当たり前だ。シャチ事件の時に、君を狙ったのもパニエールだっだ。証拠はあった。

その僕は、ここに戻ってきて、みんなと楽しく夕食をとり、君に口づけした。

僕を蔑むならそうしろ。僕の手が汚れている事に変わりはない。そんな僕に触れられたくないなら、自分の部屋に戻ってくれ。

今日は、そうするしかなかった。

僕だって、楽しくてしているわけではない。

ずっと海で遊んでいたいよ。だけど、みんなが安心できる海と国を守るには、今日みたいな事も、避けられない場合もあるんだ。

いつか、戦争が無くなれば、こんな事もなくなる。そうなってほしいし、そうなるように、僕の力を使って努力するつもりだ。

だけど、世界中の戦争を今すぐ無くすことはできないだろう?

海の汚染を一日で、きれいにできないだろう?

今だって、どこかの海で、クジラやシャチが汚染されて死んでいってる。小さな魚たちが、ゴミのように捨てられている。

すぐに救いたいけど、すぐにできるのか?

なあ、アリエッタ、君は、今すぐ、全ての海の生き物を助けられるのか。

同じ事なんだよ。

クロノス様が言ってたよな。

人の命は短い。穏やかに笑顔で生きられるように、力を尽くせと。

今日は、シーシェル全員は助けたけれど、他は助けなかった。

それは悔しいし、自分の力の無さを嫌というほど、噛み締めている。

でも、少なくとも、シーシェルの民は守れた。

アリエッタを失わずにすんだ。

それでも、君は、人を消した僕や自分自身を許せないのか。」


アリエッタは唇を噛んで、黙っている。


「僕はたくさん人を消した。君よりたくさんだ。嫌なら、僕から離れてくれ。アリエッタが僕を嫌になった時は、婚約解消する約束だ。

僕は、この国の王子だ。海と国を守るために、生まれてきた。守るために、すべきことがあれば、何回でもやる。」


アリエッタが手を握りしめて、体を震わせている。いろんな事に怒っている。迷っている。

もっと優しく言うべきだった。

だけど、アリエッタは、物事を追求し始めると、止まらない性格だ。まだ幼くても、理解している。ごまかしてもバレる。そして正義感が強い。生き物や命を愛する博愛をもつからこそ、全てを救うのが、アリエッタだ。

僕も同じような性格だった。

だけど、今日、僕は、手を汚す事を選んだ。


このままでは、アリエッタと心が離れてしまいそうだ。

父上と母上を呼んだ方がいい、わかっているのに、足が動かない。逆に僕は、アリエッタに近づいた。

自分から壊すな、このままアリエッタに詰め寄れば、壊れてしまう。わかっているけど、アリエッタにわかってほしい。


「アリエッタ、どっちか選べ。

人を消した僕の手を取るのか、振り払うのか。

今日、起きた事実は変わらない。

これからも、人を消したこの手で、僕は君に触れるだろう。君が生きていてくれて良かったと思って、触れる。それが嫌なら、永遠に振り払え。」


アリエッタが後退りする。

僕は、もう、一歩踏み込む。

アリエッタの頬に触れた。

アリエッタが顔を背ける。

もう片方の手で、反対の頬に触れ、両手で包み込んだ。

僕は、まっすぐにアリエッタを見つめた。

アリエッタが、僕の目を怒りに満ちた目で見返してくる。

命の大切さはわかっている。

でも、全てを救うのは、少なくとも今は無理だ。僕は、諦めるしかないのか。



その時、部屋が海になった。


《愛しあう二人よ。何をしている。そなたらに海を、国を守れと言ったが、もう信頼が崩れたのか。》


ポセイドンの声だった。

《其方らの力で、今日、シーシェルの民と海が守られた。何が不服だ。アリエッタ。》


「人を消すのは、間違っています。」


《そうだな。アリエッタの言う事は合っている。では、アリエッタに聞く。ヴァシリスは間違っているのか?》


「それは、でも、全て消さなくても、残してあげられる命もあったかと?」


《確かに、その考え方も間違ってはいない。

誰を残したかったのだ。

そして、アリエッタ、ご神託を黙っていれば、チャンシアの人は死ななかったと言っていたな。》


「私が見て、教えたから、人がたくさん死にました。」


《わかった。では、ご神託がなかったら、どうなっていたか、見せてやろう。しっかりと見て、考えるがよい。父上!巫女に全てを教えてください。》


《ポセイドン、わかった。全て見せよう。

アリエッタ、ご神託がなかったら、其方から巫女の力を奪っていたら、どうなっていたか、知りたいか?》


「クロノス様、知りたいです。私が知らない方が、人が死ななくてすむならば、、」


《アリエッタ、では見るがよい。》


クロノス様が、僕の瞳の中に、映し出した。アリエッタがご神託を、黙っていたら、もしくは、見なかった時のシーシェルを。


☆*:.。. .。.:*☆


大広間で、アリエッタと踊っているところから始まった。数時間前の事だから、思い出すのも早い。

アリエッタが幸せそうな表情だ。

踊り終わって、2曲目に、イライザが僕に近づいて、僕はアリエッタの手を離し、嫌々イライザの手をとり、ダンスを始めている。


どこかのご令嬢が、アリエッタを庭園に誘っている。アリエッタは、にこやかにおしゃべりをしながらバルコニーから庭に出ていく。

アリエッタの姿が見えなくなって、僕はイライザに短剣で、刺された。

崩れ落ちる中で、アリエッタの名を叫ぼうとするが、声が出ない。


アリエッタが、白いバラの咲くところまで来たときに、一緒にいたご令嬢の顔が歪んで高笑いをした。どこからともなく出てきた2人の男に、アリエッタは薬を嗅がされ、倒れ抱えられていく。

王宮の外にあった目立たない馬車に乗せられた。

大広間では、護衛の騎士たちが僕に駆け寄るが、僕は瞬時に毒がまわり、すでに息絶えていた。

護衛が立ち尽くし、大広間が騒ぎになっていく。


アリエッタは馬車で運ばれて、海の入江まで運ばれた。今日、母上たちが連れて行かれた入江だ。

入江には、チャンシアの潜水艦が停泊し、アリエッタは、潜水艦に乗せられた。

なかには、パニエール大公と、イライザと、チャンシアの兵がいた。


潜水艦はすぐに出港し、どんどん潜行していく。気がついたアリエッタは、潜水艦の中の小さな牢に入れられていた。


アリエッタを乗せた潜水艦が、沖の潜水艦と合流し、チャンシアの潜水艦は、10艦となり、シーシェルの海岸線に向けて、魚雷を発射し始めた。海岸線は次々と砕け散り、海岸沿いで生息していた海の生き物は、小さなものは一瞬で砕け散り、クジラやシャチは、腹を見せて浮いている。

美しかった珊瑚礁は、バラバラになり、海の底に砂のように散っていく。


攻撃に気がついた海洋軍の潜水艦や戦艦が出撃して行くが、後手にまわってしまい、次々に撃沈されて、潜水艦の中の兵達が、海に投げ出され、次々に魚雷に吹き飛ばされ、海が赤黒く染まっていく。


そして、シーシェルの海洋軍は全滅した。

8艦のチャンシアの潜水艦全てが、海岸に突っ込んで大地に乗り上げてきた。

僕らの離宮が建つ場所は、すでに破壊され、なくなっていた。

中から、兵士や馬が出てきて、王都に向かって進軍していく。

指揮官が叫んでいる。

「男は殺せ、若い女は生きたまま、連れて帰れ。皇帝様から褒美が出るぞ。」


その後、潜水艦全てが自爆し、大地もろとも砕け散った。草原も林も、焼け野原となり、そこに生きる人や生き物も、一瞬で命を落とした。


さらに、沖から、戦艦が一隻、岸に向かってくる。船の底には、牢屋があった。


場面が変わった。王宮の広間だ。

騎士団も王も、戦っているが、チャンシアの騎馬隊の方が多く見える。

騎士達が、女性達に逃げるように、王宮の逃げ道を指示しているが、チャンシアの騎馬隊が馬のまま、大広間で暴れて、乱戦になっている。

美しかった大広間の床が、人が倒れ、赤い液体が溢れ流れていく。

騎士団が、チャンシアの兵を次々と斬っていく。王も騎士も男はみな戦っている。しかしチャンシアの兵士は数人で、シーシェルの騎士を囲み、長い槍で刺しはじめた。

チャンシアの兵は、逃げる女性達を捕まえ縄で縛り上げ、馬に2人ずつ乗せて、走り去っていく。

王妃が、捕まりそうだ。王が応戦しているが、10人の兵士に囲まれている。

王が槍で2人に刺されたが、まだ応戦している。

更に3人の兵が槍で同時に王を刺した。王が膝をついた。

それを見て、王妃が短剣で自らの胸を刺した。王まで這って近づいて、王の腕の中で2人は息絶えた。

ユリシーズとオランの姿があった。ユリシーズも多くの兵に囲まれて、刺されていく。オランが連れ去られそうになるが、剣を取り、ユリシーズに近づいた。ユリシーズに何か言っている。

オランが剣を振り回して、兵を散らした時だった。ユリシーズがオランを抱きしめて、オランの背中から、青い炎を出した剣で刺した。剣はユリシーズの心臓まで貫いただろう。2人は、笑顔で抱き合ったまま、倒れ動かなくなった。どくどくと、床に赤いものが流れていく。


その後ろで、セレステがマースに叫んでいる。マースがセレステを抱きしめ口づけをしながら、セレステの首に剣をあて引いた。

セレステを床にそっと横たえて、マースは兵の中に飛び込んで消えた。

王宮に残っていた女性達は、連れ去られていく。


岸についた戦艦に若い令嬢たちが、積み込まれていく。戦艦は、2艦の潜水艦に守られながら、出港した。そうして、シーシェルは消えた。

戦艦の中の牢では、見張りの目を盗んで、御令嬢たちが、互いに刺し違えながら、命が消えていった。


また場面が変わった。

チャンシアの皇帝だろうか。シーシェルの王よりもずっと年上に見えた。

皇帝の側で、パニエール大公とイライザが笑っている。

その前に、とても薄く肌が透けてみえる夜着を着せられたアリエッタが跪かされていた。

アリエッタが2人の侍女に押さえつけられている。

皇帝の手が、アリエッタの顎を掴み、顔をあげさせた。もう片方の手で、アリエッタの首筋に手を触れながら、アリエッタの夜着に手をかけた。


「いやっ〜〜〜〜!やめて。やめて、お願い、やめて、やめてっ、離して、いやっ、お願いだから、いやっ、いやっ、やめてっ。」


僕は、アリエッタの叫び声で、我にかえった。

アリエッタの目が見開いたままだ。

恐怖を通り越した、虚な目をしている。


「アリエッタ、しっかりしろ。目を覚ますんだ。アリエッタ。起きろっ!」


アリエッタが、僕を見た。

「ヴァシリスさま、助けて、助けて、お願い、、助けて、助けてっ。」


「アリエッタ、見たものは、起こっていない事だ。アリエッタが、ご神託を教えてくれたから、あのようにならずに、すんだ。

みんな無事だ。みんな生きている。」


「クロノス様、幼いアリエッタに、全部見せるなんて、あまりにもひどすぎます。」

僕は、クロノス様に、くってかかった。


《見せなければ、わからない事もある。アリエッタのご神託が、シーシェルを救うものだと、わかってもらわねばならない。

セレステにも、ご神託を無視した時の未来を見せたことはある。巫女が通らねばならぬ道だ。》


クロノス様は、アリエッタに向いた。


《アリエッタ、其方がご神託を無視した時の未来を見せた。もし、今回、なんとか防げても、

チャンシアの者が、一人でも生きて国に帰れば、しばらく時間を置いて、この未来が起きる。

今日、シーシェルが全軍、全騎士団をかけて戦略を練り、戦ったのは、これを防ぐためだった。

ヴァシリスを拒むのも、受け入れるのも、其方の好きにせよ。我々は、其方らの決意と祈りは、何とかしてやれるが、何も頼まれなければ、助けられない。よく考え、ヴァシリスと話し合いなさい。もし、其方が、何も見たくない答えを出すならば、シーシェルの巫女をやめたいなら、それは叶える。》


そしてクロノスもポセイドンも海も消えた。




恐ろしすぎる未来は現実になるのでしょうか。


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