第5章 戦いのあと それぞれの準備
大広間に足止めしていた貴族たちを解放して、
僕達は陽の宮にいた。
「みなご苦労であった。皆の力で、シーシェルを守り切れた。死傷者ゼロ、土地も海も、全てが守られた。」
父上は更に続けた。
「まず、謀叛はパニエール一族全てのものを処罰対象とする。姻戚でチャンシアと関わるものも全てだ、証拠は全て押さえた。
すでに神殿警護隊と、親衛隊が、パニエール一族を包囲、捉えたものもいる。今夜中に、遺恨を残さぬように、全て消してしまう。」
「父上、イライザは?」
「騎士団の地下牢にいる。
当然、王子とその婚約者を狙えば、死刑は免れぬ。それから、チャンシアにいるパニエールの次女も、いずれこの世を去るだろう。戦争とは、そういうものだ。」
「孫殿、シーシェルが救われました。孫殿とアリエッタ嬢のヒーリングがなければ、今頃、シーシェルは乗っ取られて、どれだけの命が奪われていたことか。そんな輩は、敵として排除するしかないのですぞ。」
「はい、おじいさま。」
「それから、ヴァシリスとアリエッタのことだが、ヴァシリスは、明後日が、騎士団入団式だ。《解毒剤の効果があり、予定通り、入団する》という事にしたいが、ヴァシリス、体調は大丈夫か?」
「身体の怠さと一部痺れ感がありますが、明日一日ありますし。とりあえず騎士団に入団しないと、先に進めないので。行きます。」
「よし、わかった、しかし無理はするな。体調はユリシーズの管理下におくので、隠さずに相談するように。」
「かしこまりました。父上。」
「ユリシーズ、頼んだぞ。」
「はっ、陛下。」
「で、アリエッタだが、神殿の神事で、マースとセレステが見届けたが、ヴァシリスの巫女と決まったので、巫女教育に入る事になる。
前々から、ミカエラード家に戻る予定をしていたが、確実になった。
もちろん、月の宮もガブリエル家も、アリエッタの教育の場ではあるが、アリエッタの警護は更に強化することが必須である。
皆とも話し合った結果、アリエッタは毒に倒れて静養、と言う形にして、アカデミー入学までの8年間、できる限り周りの目から隠したい。プレップスクールは不参加だ。」
僕は、これまでに歴代の巫女が、覚醒してから、世間から隠されるようにして、巫女教育を受けながら育てられてきたのを聞いていたし、プレップスクールで狙われる心配を考えれば、それをのむしかないとわかっていたが、隠す、と言われると、軟禁に近いと思ってしまう。
父上が続ける。
「今日の祝賀会では、皆もわかってくれているが、ラングドンよりも、ヴァシリスとアリエッタが、より目立つように仕向けた。巫女であるアリエッタの保護が優先だったからだ。
ヴァシリスの愛妃になる、という事を、パニエールの襲撃を逆に利用し、ヴァシリスの言動から、ヴァシリスの婚約者への想いは一途で、唯一無二であり、揺らがないという事を、貴族たちの目に焼き付けた。
よほど、馬鹿でない限り、将来、ヴァシリスが海洋軍と騎士団を率いる事はわかったはずだ。
そのヴァシリスを、ラングドンとパトリックが守り、ヴァシリスが兄のために海を守る、という形も、王子達の兄弟の信頼を見て、未来のシーシェルを理解したはずだ。
それをしっかり見せ、大公であっても、今の王家に逆らえば、死罪になる、という事も見せた。
これで、貴族たちの動きも、落ち着いて行くだろう。
だから、しばらくの間は、王子達も巫女も、底力をつける事に専念してほしいと考えている。
ヴァシリスとアリエッタは、やっと落ち着いて、本来の勉強と、未来の準備ができるから、しっかりやるように。
これからが正念場だぞ。泣き言は聞かぬから、そのつもりで臨め。」
「はい、父上。」
「かしこまりました。お義父さま。」
「よし。
それで、父君、アラン、ユリシーズ、マース、
今日の戦いで、みんなもわかったと思うが、海洋ヒーラーの力を使えば、戦が変わる。
海洋ヒーラーも人間だから、無敵ではないが、ヴァシリスは無敵だ。ヴァシリスが無敵の間に、これからのシーシェルの戦い方を、新しく作り直していきたいと思っている。
潜水艦を作るより、海洋ヒーラーや、森林保護ヒーラーの力や結束力を高め、海や土地を保護して、豊かな国づくりをしたい。
いずれは、海洋軍のヒーラー部隊が、軍の中心になるだろう。戦艦の開発も大切だが、大量破壊兵器は人命を奪う。兵器を増やすよりも、ヒーリング能力の研究や、自然の保護に力を注げる国を目指したい。
みな、力を貸してほしい。」
「陛下のおっしゃる通りですな。
時代が変わっていく今、騎士や兵士の命を守る軍になるのは、大いに結構な事だ。
本日、海洋軍は、新鋭潜水艦を含め、10艦を出したが、一発の魚雷も使わずに終わった。
兵達が、残念がるかと予想していたが、帰還したあと、みんな歓喜に満ちていた。死傷者を出さずに勝利したと、本気で喜んでおった。みな家族がいる。殺さねば殺される、それが戦争だと訓練を受けて、強くなった兵士達だ。
だが、死にたくなければ、殺したくない、と言う気持ちは、まともな人間ならば当たり前の気持ちだ。
殺し合う時代は終わったと、つくづく感じた。
命を守る海洋軍でありたい。組織改革を検討したいですな。
ウリエル殿、ミカエラード殿のご協力をお願いできるかな。」
「ザドキエル大将、我がウリエル家は、王太子の剣となる。もちろんご協力させていただきたい。」
「ザドキエル大将、我がミカエラード家も同じ思いです。ヴァシリス殿下の剣となる、神殿警護隊全ての一族の願いとなるでしょう。軍閥が一つになる時ですな。」
「父上、ならば、マウニー辺境伯にも、お願いなさるのですね。」
「ヴァシリス、よく気がついた。マウニーだけではなく、辺境伯全てに、これからの騎士団と軍の統一に参加してもらうようにしたい。
ヴァシリス、それには、其方のヒーリングの力を中心に置く事になる、いくら天海の庇護があるとは言え、万一、それが無くても、騎士団の頂点に立てる程度の力はつけておけ。アリエッタもだ。巫女として、ヒーラーとして、伴侶として、ヴァシリスを支え、共に戦う力を、しっかりと身につけるのだぞ。よいな。皆も、協力を頼む。」
「 「 「 「 「 はっ 」 」 」 」 」
「あとは、王妃とオラン、二人にも海洋ヒーラーとしての力を貸してほしい。
海洋研究所のサポートを頼む。詳細は、後日、話し合いたい。」
「陛下、承知いたしました。」
母上とオランが嬉しそうだ。
「アラン、ユリシーズ、ヴァシリスを頼む。死ななければ良いので、鍛え上げてくれ。」
「「はっ。」」
アランとユリシーズが厳しい顔をしている。
父上、死ななければって、死ぬ寸前までしごけと?僕は、騎士団に行くのが、ちょっとだけ嫌になってしまった、ちょっとだけだ。
「陛下、それでは、海洋軍の地獄のキャンプにも、孫殿に参加していただこう。」
「ザドキエル大将、それは、よい考えだ。しっかり叩き上げてくれ、死なないように。」
「賜った!」
「ちょ、ちょっと、父上、おじいさま、僕はヒーラーです。軍人ではないのですよ。」
「騎士になるのだ、軍人にもなって構わない。」
いや、なってもいい?んじゃなくて、ならなくてもいいんだっ。
「父上っ、トライデントを活かすために、海洋ヒーラー部隊ができるのですよね。」
「そうだ。無敵のトライデントを持つシーシェルの象徴が、ヘナチョコでは困るからな。ポセイドンにも頼んで、鍛えてもらおうと思っていたところだ。」
僕は、ブータレてしまった。
ポセイドンがどれだけ強いか、みんな知ってないだろっ!
毎日、死んでるんだ。死ななかったけど。
そこで、可愛い声が上がった。
「ヴァシリス様、私も強くなります。
お義父さまっ、私も剣と騎馬での特訓を、受けたく思います。巫女として神殿に籠る大切さは、わかっておりますが、ヒーラーとして、ヴァシリス様の妻として、有事の際には、共に戦います。ヴァシリス様の足手まといにならぬように、鍛えてくださいませ。ヴァシリス様から、アレックスに乗ることは、お許しいただきました。」
「よくぞ申した、アリエッタ。父が鍛錬するゆえ、安心せよ。」
マース殿が、やる気満々だ。
「アッ、アリエッタ、そこまでしなくても、僕が守るから。」
「ヴァシリス様は、いつも守ってくださっています。でも私も強くなりたいのです。ヴァシリス様のお側で、民を、海の生き物を守るために。
弱いままでは、海に出ても、指揮をとるヴァシリスの隣の座は、他の強い騎士や軍人に取られてしまいます。それは嫌なのです。い、いつも、お側にいたいから、、、それにヴァシリス様のために、自分の身を守る事くらいは、、、」
凄い勢いで鍛えたいと言ったわりには、最後のほうは、頬を染めて、俯いてしまった。
僕の側にいたいから、、と。
みんなが、甘〜い、と言う顔で、僕とアリエッタを見ている。
「ヴァシリス殿下、アリエッタの鍛錬は、父である私が責任を持って致しますので、ご安心を。」
「マース殿、いや、父君、アリエッタをよろしく頼みます。」
「アリエッタ、やるからには、弱音を吐くなよ。そのかわり、アレックスは譲ろう。」
「ヴァシリスさま。ありがとうございます。努力いたします。」
「では、皆のもの。本日は大儀であった。しばし休養を取れ。
それぞれに素案ができたら、報告をあげてくれ。
では、今日はこれまでだ。
アラン、ユリシーズ、ヴァシリスは残ってくれ。
みな、下がってよい。よく休め。」
みんなが下がって、残った僕達に父上は、怖い顔をして、口を開いた。
「さて、今夜中に、パニエールの始末をつけたい。ヴァシリス、お前はまだ子供だ。だが、命を狙われた当事者であり、王子だ。自分で、始末をつけなさい。」
「イライザですか?」
「そうだ。お前が今日消した9艦の潜水艦と戦艦には、侵略者だが、人も乗っていた。」
「わかっています。」
「今後、巫女を傷つける者も、同じ処分だ。わかったな。必要な時に必要な対処をしないと、それが後で膨れ上がる。中途半端な感情に左右されるな。」
「わかりました。」
「ユリシーズ、ヴァシリスについてやってくれ。イライザは最後だ。先にパニエールの屋敷と、姻戚連中の屋敷も消しに行く。」
父上はアランと、僕とユリシーズは、夕暮れから闇の間を抜けて、陽の宮をでた。
僕はキロンに騎乗していた。アレックスはアリエッタのお守りになるからだ。
パニエールの姻戚の屋敷に向かいながら、ユリシーズが、色々話してくれた。
「ユリシーズと僕だけで、護衛はないのか。」
「坊っちゃま、ヒーリングパワーを使う時は、一瞬で目標は消滅します。散歩のように出て、サラッと消して、すぐに帰れます。護衛なしでも問題ありません。」
「ヒーリングパワーは、確かに戦いではないからなんだな。」
「そうです。ヒーリングパワーは、片道、一方向だけですから。だから、今日、もし坊っちゃまのパワーが明確になっていれば、海洋軍の配備は、最小限になり、坊っちゃまと姫様だけで、カタをつけ、何事もなかったような一日になっていたはずです。」
「おじいさまが、戦い方が変わる、と言ったのは、そう言う意味だったのか。」
「天海の神々の庇護を得、その力を宿す剣は、無敵です。」
「僕一人が、人殺しになるのか。」
「坊っちゃま、そうではありません。その答えは、騎士団で、きっと見つかります。
戦争と言う名で、平気で命を奪う戦いは、無くすべきです。」
「僕もそう思っている。」
「神々の采配の中で、人の生死や生き方はそれぞれです。しかし、神々から力を授かると言うことは、人知を超えて、この世界を守る使命を授かったと言うことです。
陛下が、坊っちゃまの力を悪用されると思いますか?」
「父上は、そんな事はなさらない。
そうか、だから、クロノス様やポセイドン様、ポセイダルゴ様は、いつも相談しなさいって、言ってくれるんだ。」
「そうです。神々と人間の世界をつなぐ神の子、一人に押し付けはしないですよ。
しかし、国を売ったパニエールの一族は、戦争以前の問題です。もっと時代が変われば、対処も変わるでしょうが、今は排除しかないでしょう。」
「そうだな。パニエールを残せば、またチャンシアが来る。必ず来るだろう。ユリシーズ、ありがとう。」
僕とユリシーズは、パニエールの姻戚の屋敷に来た。すでに親衛隊が包囲していた。中の者は、捕縛されているようだ。
「坊っちゃま、よろしいですか?」
ユリシーズが、青い炎が燃える剣を出した。
僕も頷いて、剣を抜くと、やはり刀身が青白い炎に包まれ、稲光りが走っている。
僕は、剣を構えると、自然に言葉が、普通の声で出た。
「この国を売り害そうとしたパニエール一族よ。一人残らず、神の元で裁かれるがいい。二度と、その魂がシーシェルには戻れぬように。」
「二度とシーシェルに戻るな」
僕とユリシーズは顔を見合わせ、同時に剣を横なぎに振るった。
青白い炎と銀色の稲光りが屋敷を囲むようにはしり、大きく燃え上がって、一瞬で消えた。同時に少し離れた場所で、人のような形で、稲光りが3つ燃えて消えた。そこには、屋敷も塀もなく、木々と草が残っているだけだった。
「坊っちゃま、お疲れさまです。全て終わりました。」
「あっけないな。。ユリシーズ、離れたところで、小さな炎が上がったけど、あれは何か失敗したのか?」
「あれは、坊っちゃまの稲光りのパワーで、他の場所に隠れていた者を感知して、一緒に含めて消したのでしょう。普通は、こちらが意識した場所しか消えませんから。」
「パニエールの一族と言ったからかも?確かに、害そうとするものを、ポセイダルゴ様は、いつも感知しているから、どこにいてもわかるんだね。」
「それが、神々の力です。さっ、戻りましょう。王宮の親衛隊の本部の地下の牢に、イライザがいます。」
王宮に急いで戻り、地下牢に行った。
父上とアランと護衛が一人いた。
牢には、主犯格のものばかり、パニエールの側近とイライザがいた。
僕が牢に近づくと、
「なぜ、生きているのだ」と口々に驚いている。
「生きていて、悪かったな。パニエールの犬ども。」
「ヴァシリス、あなた、何故、私を選ばなかったの?私はあなたの妃になると、お父様から聞いていたのに。あんな女を。」
僕は目が点になった。誰の話だ。
「イライザ、僕の最愛のアリエッタを、あの女呼ばわりするな。それに、僕とアリエッタの婚姻は、生まれる前から、神々の元で決まっていた。其方に入る隙間は一切無かった。」
「私は大公の娘よ。あなたに相応しいわ。私は王妃になるために生まれてきたのよ。ブランドンとパトリックを消せば、ヴァシリス、あなたが王になるのよ。」
聞きたくもない話しも、この声も、耳障りだ。
僕は剣を抜いた。
「パニエールの犬、腐った心の持ち主達よ。一人残らず、神の元で裁かれるがいい。二度と、その魂がシーシェルには戻れぬように。」
剣を一振りする時、また青白い炎が辺りに走り、稲光りがして、銀白色の光が満ち、消えた。
「えっ!やはりっ!」
アランの声に僕は、振り向いた。
アランの近くにいた親衛隊の一人が、炎に包まれて消えた。
「やはりそうか」
父上が呟いて、アランも頷いている。
「なぜ?僕、罪がない者を間違えて消したのですか?」
「ヴァシリス、間違えてないから、安心しろ。親衛隊に間諜がいるのではないかと、前々から、アランとユリシーズで、探っていたのだ。」
「親衛隊に間諜が?」
「そうだ。間違いなかったな。
基本的にヒーリングは、害を排除し、命を守り癒す。だから、ヒーリングでは命は奪わない。しかし害そうとする魂を持つ者は、ヒーリング対象から除外される。我らヒーラーが持つ剣も、誰彼構わず消すわけではない。
お前のヒーリングもそうだ。ただし、お前の剣は、神々の選別が付加されている。お前が唱える言葉に、神々が選別しているのだ。だからお前が味方と思っていても、剣を振う基準に神々が反応すると、見た目は親衛隊でも、中身が裏切り者であれば、消える事になる。それを確かめたかったから、お前を、ここに連れてきたのだ。」
「父上は知っていたのですか?」
「セレステから聞いた。ご神託だ。」
「では、さっきパニエールの姻戚の屋敷で、屋敷から離れていた場所で、3人が炎で消えたのも」
「そうだ。ユリシーズが、パニエールの間諜ではないかと、目をつけていた家だった。表向きは、全くパニエールと関わりがなかったし、証拠もなかった。」
僕は、大きく息を吐いた。
「父上、僕は、何という、、」
「無敵だ。天海の神々の子、、とも言うが、、」
「これでは、プチ魔王じゃなくて、大魔王です。」
僕は、誰もいなくなった牢を見つめ、崩れて膝をついてしまった。この力、怖い。
「自覚してるならよい。だから、鍛錬せよ。
感情で剣を振り回すな。神々が、お前を選んだ。間違いはない。お前の魂を心を愛を知って、お前は庇護されたのだ。自信を持て。
だが、害するものを消すたびに、心が汚れてしまうように思う時がある。それに飲み込まれるな。ヴァシリス、強くなれ。
これで、後始末は終わった。ご苦労だった。
明日はゆっくり休め。よいな。」
「肝に命じます。」
父上とアランが牢を出て、ユリシーズと僕だけになった。涙が溢れてきた。
「ユリシーズ、僕は悪魔みたいだ。たくさん人を消した。」
胃から、気持ち悪いものが込み上げてきた。
たくさん吐いてしまった。こんな事、初めてだ。
惨めだ。
「坊っちゃま、それは違います。坊っちゃまは、今日、シーシェルを救いました。
坊っちゃまの力が無ければ、シーシェルは滅びる道を辿るくらいの侵略でした。土地も海も破壊され、どれだけの兵と民が死に、残ったものが蹂躙され、全ての女性は、自害するか、拉致されるかしか道がなかった。
履き違えてはなりません。
誰も死ななかったから、あまりにも、あっけなく勝負がついたから、坊っちゃまは、地獄を見ずに済んだから、勘違いしているだけです。
神々は、坊っちゃまを悪魔にするために、その剣を遣わせたのではないでしょう。何と言われましたか?
ゼウスを坊っちゃまの光に閉じ込め、クロノスの炎は、正しく使うために、坊っちゃまの剣に宿った。ポセイドンの海の力も、同じです。
間違えてはいません。その気概を忘れてはならないのです。
陛下はお厳しい。坊っちゃまを甘やかしはしない。それは、国を託す思いからです。」
「だって、国は、ラングドン兄上が、、」
僕はまた吐いた。ユリシーズが背中を撫でてくれている。
「国の統治と政務は王太子です。しかし、国が存続するために根幹を守るのは、神々の剣と巫女を授かった、ヴァシリス殿下、お一人です。」
「そんなの、無茶だ。僕は、僕は、、」
僕は、涙と吐瀉物で汚れた顔のまま、ユリシーズを見上げた。
「それを、昨日、神殿で、灰になりながら、神と巫女に誓われたのではないのですか?」
また涙が出てきた。
「ユリシーズ、わかっているけど、苦しい。」
「殿下、騎士団では、いずれ人を、生身の人間を、己れの剣で斬り捨てます。斬り殺します。
一人、斬るだけでも、今の殿下のように苦しくなります。まともな人間なら、当たり前の感情です。
国を王を守るために命掛けで、人を斬り続けます。誰かがしなくては、王を失う。王妃様を失う。ヴァシリス殿下のように国を守る王子を、命をかけて守らねば、国が滅びます。
坊っちゃま、私は、殿下を守るためならば、命をかけて、戦います。私が死んで、殿下が生き残るならば、私は喜んで命を捧げます。
私では、潜水艦を10艦も消せない。だけど、それができる殿下を守るために、私の命ですむならば、私は自分の命など、惜しくはない。」
「ユリシーズが死んだらオランが悲しむ。」
「殿下を守れないような私を、オランは愛してくれませんよ。」
「ユリシーズ、そんな事はない、オランは、オランは、、」
何が何だかわからない。もう涙が止まらない。
ユリシーズが抱き止めて、背中を軽く叩いてくれる。
「私が死んで、殿下が生き残れば、愛するオランはわかってくれます。また生まれ変わってから一緒になります。そのくらい、オランはわかっています。
坊っちゃま、、、坊っちゃまと姫さまも、誓われたでしょう?」
「誓った。。何回も。」
「坊っちゃま、初めて、人の命を奪ったのです。それも8歳で。今の坊っちゃまは、精神的な衝撃があって当たり前です。前に進むか止めるかの分かれ道です。
人を消す、という事は、あまりにも精神的な衝撃が大きいから、騎士団の入団は10歳から、更に騎士として活躍できるのは、普通は16歳から。それまでは騎士見習いです。
16歳以下で、精神力が強く優秀な者は、12歳から騎士になれます。
12歳までに、初陣を飾り、無事に人を斬り殺し、精神を病まないものが、親衛隊と上官になる資格を得ます。」
「ユリシーズとアランは早かったのだな?」
「もちろん、それより早かったです。兄上は、軍閥ウリエル家の後継ぎです。初陣は11歳でした。私も兄に負けたくなくて、10歳で初陣を。マース殿も11歳ですよ。」
「父上の周りは、みんなそうだったんだ。」
「坊っちゃまの祖父殿 ザドキエル大将は、10歳で初陣、騎士の称号を10歳で得て、アカデミーも10歳から前倒し入学です。」
「ユリシーズ、すまない、泣いてる場合じゃなかった。みんな乗り越えてきたのに、僕だけ、脱落できない。」
「殿下、今日くらいは、良いのでよ。
あの潜水艦に乗艦していた大量の人を消したのです。今日くらいは、強がってはだめです。苦しくて当たり前だから。その、、、」
ユリシーズが口籠っている。
「ユリシーズ、聞いた方がいいことなら、教えて、、」
「その、、、実は陛下も、騎士の称号をお持ちです。」
僕は、涙が吹っ飛んでしまった。
「ちっ、父上も騎士団に?」
「坊っちゃまと同じ8歳で入団されて、陛下は、兄アランとマース殿と同じ学年で、幼い頃から、悪ガキで3人つるんでましたから、一緒に騎士団に入って、11歳で初陣を。陛下には、ご兄弟がなかったので、強くなりたいとのお気持ちが強かったかと。」
「だから、父上は、あんなに厳しいんだ。」
「そうです。3人の王子様の中で、巫女を得ると言う、陛下と同じ道を歩むのが、坊っちゃまだとわかってからは、、兄もマース殿も、私も厳しすぎると、何度も陛下に話しましたが。」
「ユリシーズだけじゃなくて、アランもマース殿も、僕を、庇ってくれていたんだ。」
「陛下は、死ななければ良い、と。それだけ、坊っちゃまを守りたかったのだと思います。」
「父上に嫌われてると思った事はなかったし、愛されていると、思っていたけど、、、厳しいのは厳しかったから。でも、海を守るなら、厳しいのも、当たり前だと思ってたし。。ユリシーズ、ありがとう。この世に戦争がある限り、今日みたいな事は避けられないのは、納得した。
すぐには、難しいかもしれないけど、戦争がなくなれば、人はみんな生きられる。そうなるように、頑張ってみる。」
「急がずに、時代の流れを見て、ですよ。まだ8歳に、なったばかりですからね。」
「わかった、ユリシーズ。」
「では、行きましょうか。」
「ユリシーズ、あの、牢の床に吐いてしまった。ユリシーズの服も汚してしまって、、ごめん。」
「坊っちゃま、提案があります。
騎士団ならば、自分で吐いたものは、床を水洗いして床掃除しないと、仕事は終わりません。見習いは、泣きながら吐きながら、床掃除をしますし、吐いた服、上官の服を汚したら、夜中であろうが、洗って乾くまで、部屋に戻れません、、」
「ひっっ、わかった。服は洗って返すから脱いでくれたら、、、」
「坊っちゃま、最後まで聞いてくださいよ。今日はまだ騎士団に入ってないので、服は、脱いで、燃やしてしまいましょう。床も、海を出せば、すぐに洗えるでしょう?」
「ユリシーズ、それは、ズルと言うか、、」
「持ってる力は使いましょう。」
ユリシーズが笑って、来ていたシャツを脱いで、床に投げ捨てた。
「人を斬った時に来ていた服は、血まみれになり、洗濯しても取れないものは、騎士団でも処分します。ヒーリングで色々と消した時も、あまり残したくないので、みんな良くしていますよ。さっ脱いでください。」
僕とユリシーズは、上半身裸で、汚してしまったシャツを、剣を出して燃やして消してしまった。
床は、海を出して消したら、綺麗になっていた。
「ユリシーズ、甘やかしてくれて、ありがとう。」
「陛下がアランと先に戻られたのは、こうなるとわかってらしたからですよ。」
「えっ?父上も初陣のあと、吐いたのか?」
「それは、陛下にお尋ねください。騎士には騎士の約束がありますからっ」
ユリシーズが、ニッと笑った。
僕は、ユリシーズに守られて、裸のまま、キロンと一緒に陽の宮に帰った。
ユリシーズは、笑顔を残して、上半身裸のまま、親衛隊まで戻って行った。
キロンを厩舎に戻すと、父上がライアンにブラシをかけていた。
「ヴァシリス、ご苦労だった。気分はどうだ。少しはマシか。」
父上は僕が上半身、裸なのを見て、気がついたみたいだ。
「父上、、お恥ずかしいですが、後から、胸が悪くなってきて、たくさん吐いてしまいました。」
「たくさん吐いたんだな。。良かった。。」
「えっ?怒らないのですか?」
「ヴァシリス、今日、私たちは、どれだけ消した。潜水艦の中は見えないからまだましだが、屋敷と牢は、人が消えるのを見ただろう。
人を消して、斬り殺して、平気な奴は、逆に危ない。お前が、気分が悪くなって、良かったと、ほっとしている。」
「父上、、、僕は、僕は、、」
また涙が出てきた。父上が抱きしめてくれた。
「まともな人間なら、国の民を守る人間なら、他国であろうが敵であろうが、人を消して、平気なはずがない。私は、今日のお前が、1番心配だった。
自分が殺されかけて、アリエッタやアンジェラやオランが狙われて、お前の身近な大切な人ばかりが狙われて、そして反撃し、後始末をする時に、どんな感情になるのか、信じていても、怖かった。この国の守りを託すお前が、狂った精神を持ってしまったら、と。
この経験をもっと、先延ばしにしてやりたかったのに、8歳で初陣が来てしまった。」
「父上、大丈夫です。僕には、父上や母上や、ユリシーズやオラン、アランや、マース殿や、おじいさまがいるから。そしてアリエッタのために、国のために生きるから、大丈夫です。」
「ヴァシリス、今夜は、一緒に湯浴みするか。
このまま、月の宮の獅子の浴室に行くぞ。」




