第5章 反撃
海洋軍と、騎士団の護衛の見守る浜辺で、僕はクールに、アリエッはクーポに飛び乗った。
海に入ると、僕とアリエッタは、水を得た魚だった。
腰の剣を抜いて、鞘をアリエッタに投げた。
僕が剣を一振りすると、海色のトライデントに変化した。前のより大きくなってるけど、色が銀じゃなくなってる。総じて派手だ。すでに軽く稲光りが出てるんだけど。これ、引っ込められないのかなあ。
アリエッタが受け取った鞘は、貝殻色に輝く盾になった。遠目でみたら、巨大な真珠玉か月を持ってるみたいに見えるかもな?
浜辺にいる、海洋軍の士官や兵士達から、どよめきがあがる。
「アリエッタ、全て、何もなかったことにする。行くぞ。」
「ヴァシリスさま、分かりました。」
「クール、クーポ、海溝まで潜るぞ。」
浜辺のみんなに手を振って、潜り始める。
僕達は、どんどん深く潜っていく。
近くにシーシェルの潜水艦が、岩場に隠れて待機しているのが見えるたびに、僕達が海中にいる事を確認できるように、近寄って、合図をして進んだ。
シーシェルの潜水艦は全部で10艦も出ていた。
僕らが失敗したら、全軍を上げて、国をかけた戦争になる。
シーシェルの領海ギリギリまで来た時に、チャンシアの潜水艦を察知した気がした。
まさかバレてると思ってないんだろう。意外と深度が浅い。数を数えたら4艦。やっぱりパニエール用に一艦、別行動だ。でも、もっと居るような気もしたが、公海まで見に行っている時間がない。
僕らは、海溝深く潜っているから、絶対に見つからない。装備がないから、僕達は、海の生き物としか見えてないはずだろう。
僕は右腕の腕輪に触れた。
「海の父上、もう一艦の場所、分かりますか?」
《我が海の息子よ。岬の内側に停泊している。》
「いつもの浜辺の軍港の岬の反対側の入江?」
《そうだ》
「アリエッタ、こっちの4艦と、母上たちの1艦で連絡を取られると困る。分断するには、グリーン光でできるか?」
「はい。では、光のカーテンみたいにしてみます。」
「アリエッタはここで、光のカーテンを作って維持してくれるか。あちらの様子を見てくる。クーポ、アリエッタを頼む。」
「お任せを」
僕は、海溝にいるアリエッタが、オーロラのようにグリーンカーテンを出すのを見てから、岬の入江に向かった。
入江に潜水艦が浮上して停泊している。
ハッチが開いていた。
少し離れたところに馬車が乗り捨てられていた。
よく見ると、母上とオランが、縄で縛られて、ぐったりして、船員に運ばれている。
ユリシーズが、母上とオランに前もって解毒薬を飲んでもらうと言ってたから、気絶したふりのはずだ。
父上たちはどこだ?
入江の崖の上を見上げたら、少しだけ父上の姿が見えた。
良かった、ちゃんと追いついたんだ。よく考えたら。あの親衛隊と神殿警護隊が、遅れを取るはずがないっ。絶対にない。
僕は入江の反対側までまわり、トライデントを回した。海の天気はよく変わる。軽い嵐を呼んでみた。黒い雲が現れて、雨がポツポツ降り出した。
天気が変わったのが、僕の仕業だと気がついたみたいで、父上とユリシーズが、崖から海を覗くのが見えたので、少しだけ、頭を出した。
あっ、気がついた。トライデントをもう一振りして、雨と風を強くした。
父上が手を上げた。
僕は、また入江側に移動して、潜水艦を見ると、
ハッチから、パニエール大公が顔を出してるのが見えた。思わず呟いた。
「エロジジイめ」
ちょっと言葉使いが悪いのを反省する。
潜水艦のハッチが閉められ、入江から岩礁の間をゆっくりと進み出した。
岩礁を抜けるまでは、潜行できない。
父上達は、騎馬で崖の上から、駆け下りてくるはずだ。浅瀬の方が、戦いやすい。
僕は、合図に、トライデントで、稲光りを一個、空に向けて出した。父上達が、入江側の崖の上に回ってきた。
「クール行くぞ。船尾のプロペラを叩き切るから、後ろに回ってほしい」
「お任せを」
瞬殺と言うのはこういうことかもしれない。
シャチが潜水艦の横を撫でるように泳いでいるようにしか見えない感じで近づき、振り向き様に、僕は、船尾のプロペラめがけて、トライデントを振り下ろした。魚の尾鰭が取れたみたいな潜水艦は、もう前にも後ろにも進めない。
崖の上から、騎馬隊が凄い勢いで駆けてくる。
僕は更に、艦の先方向に逆戻りしながら、潜水艦の上3分の1を、トライデントで削ぎ取った。蓋のない容器と同じだ。
父上とユリシーズとマース殿が同時に、浮かんでいるだけの潜水艦に飛び込んだ。中で、爆発が二回起きた。そこに母上とオランがいるはずだ。
そう考えてるうちに、母上を横抱きにした父上がライアンを駆って浜辺に飛び移っていた。少し離れた場所から、ユリシーズがオランを抱き上げ
て、馬ごと海に飛び込み。浅瀬から浜辺に戻っていく。
マース殿が、パニエールを艦から引き摺り出して、浜辺に放り投げている。マース殿は、いつもは物腰の柔らかい方だが、すごい戦い方だった。父上のアカデミー時代の護衛だったから、やっぱりすごいんだ。
逃げた乗組員を、親衛隊と神殿警護隊がどんどん倒して行く。
波打ち際に仁王立ちしている父上の王剣が朱色に輝きはじめ、オレンジの光が潜水艦を乗組員毎、包んでいく。
父上のヒーリング光は、僕と同じオレンジヒーリングと聞いていたけど、見るのは初めてだった。
僕もあんな風に光を出しているんだ。
あの光は、父上の怒りMAXだと、わかる。
オレンジ色が、更に濃い色になり、周辺まで朱色に染まって、父上が王剣を振り抜いた。
金の光が鋭く光って、黒い船は跡形もなく消え、何もない海の入江だけが、元のまま存在していた。
父上は、さらに砂浜に転がっているパニエール大公に近づいた。
父上と、マース殿と、ユリシーズが、3人で囲んでいる。
誰が、やるんだろうかと思って見ていたら、
3人が剣を振り上げた。
父上の王剣は朱色に燃え、、
マース殿の剣は銀色に煌めき、
ユリシーズの剣は、青い炎だった。
3人の口が動いているけれど、何を言ったかはわからない。
でも、同時に剣を振り下ろし、雷のように光ったのが見えた。光が消えた後には、砂浜だけで、何もなかった。
僕は、クールに乗ったまま浜辺に近づいた。
父上が、ニコニコしている。
「ヴァシリス、みんな無事だ。怪我もない。
残りの4艦を頼む。我々は保護者見学だ。」
「うっ、わかりました。こちらの1艦と、沖の4艦の通信妨害を、アリエッタがしています。
沖に向かいます。」
と方向転換したら、僕の目の前に、音もなく、海洋軍の潜水艦が浮上していた。
ハッチから、おじいさまの顔が見えている。
「孫殿。いよいよですな。」
「おじいさまっ!今から沖の潜水艦を始末してきます。」
「陛下、乗艦ください。早く乗り込まないと、孫殿の勇姿を見逃しますぞ。」
潜水艦を入江につけて、みんなが乗り込んでいる。馬を残すので、数人は残されたが、上官はみんな乗り込んだようだ。母上とオランも、めちゃくちゃ元気で、また潜水艦に乗り込んでいる。母上は、僕に手を振る余裕だ。
「ヴァシリス、全て、跡形もなく、だ。
それから、4艦以外に、後方支援がいるかもしれん。必ず確認しなさい。」
「父上、承知しました。公海先まで確認します。では行きますっ。」
みんなを乗せた潜水艦のハッチが閉まり、入江をでて、潜行を開始したのを見て、僕はアリエッタのところへ急いだ。
右の腕に手を触れて、聞いてみた。
「海の父上、チャンシアの潜水艦や戦艦は4艦だけですか?もっとたくさん来ている気がします。」
《息子よ、そなたの勘は正しい。4艦は領海に侵入し始めた。公海に、潜水艦5艦と、最後尾に、漁船のふりをした指令戦艦が1艦いる。》
「父上、ありがとうございます。」
僕はアリエッタのところまで戻った。
「アリエッタ、パワーは大丈夫か?」
「ヴァシリス様、全然大丈夫みたいです。おかあさまとオランは」
「無事救出して、パニエールも、逃亡用の潜水艦も消えたよ。」
「よかったです。じゃあ、あとはこっちですね。ヴァシリスさま、4艦だけじゃない気がしていて。」
「アリエッタも気がついたか。いま、ポセイダルゴ様に聞いたら、公海に潜水艦が5艦と、指令戦艦が1艦いるらしい。
公海で、ヒーリング光は目立つから、こちらの領海まで、沖から追い込むか。」
「最後尾の戦艦なら、クジラの群れで追い込めます。」
「同時に、敵艦隊のいる公海付近に高波の嵐を起こそう。流され、避難したら、領海だった、でいいわけだから。
しかし、海岸線に魚藍は打ち込まれたくないし。 」
「グリーンカーテンを岸側に張ると、岸を守れないでしょうか。」
「そうだな。魚雷一発でも、海岸線が崩壊してしまうから、打ち込まれそうな場所に、魚雷を止めるパワーネットを張ってみる。グリーンカーテンの網版だ。僕は、それを出してから、沖にむかう。
アリエッタ、姿を見られないように、気をつけて。」
「はいっ、では沖で。」
アリエッタはクーポを連れて、全速力で公海に向かった。
僕は、魚雷が万が一爆発しても、岸に影響がない距離に、防御ネットをオレンジパワーで作り出した。
このネットの後ろにいれば、シーシェルの潜水艦は敵には見えなくなる。
それから、海溝を辿って、沖の5艦の場所を特定に急いだ。
見つけた。あれだ。潜水艦の周りに、他国籍の漁船がいないかどうかも確認した。
潜水艦があるエリア全体を対象エリアにして、トライデントを振り回し、船が遭難寸前のレベルの嵐を呼んだ。
黒い雲が立ち込め、雨が降り出した、雷鳴が轟き、潜水艦が木の葉に見えるような高波を出した。強風にあおられた波が、微妙に領海に向けて船を運んでくる。
潜水艦の位置が近くなってきた。もう少しで、全ての潜水艦がシーシェルの領海に入り、
9艦が僕がイメージする射程範囲に入る。
その後ろから、クジラの大群が、漁船らしき戦艦を押してきている。
アリエッタは、クーポに体をピッタリとつけて、クジラのフリをして、大群の先頭で、波乗りしているように、戦艦を追い込んでくる。
アリエッタ、凄いな。マナーは5歳レベルでめちゃくちゃな割に、海に出ると、大人と変わらない動きとパワーだ。
多分、敵の指令戦艦は、クジラを避けているだけ、くらいにしか思ってないだろう。
僕の後ろには、海洋軍の潜水艦10艦が、潜行して控えている。そのうちの1艦は、おじいさまが、引き連れた保護者見学会だ。
向こうの潜水艦にこちらが見つからないように、海洋軍の潜水艦に、さらに光の反射ベールをかけた。
この反射ベールで、海の風景を海中に出せば、その奥や後ろや下の景色は隠れてしまう。こちらからは丸見えだけど、向こうからは見えない。
指令戦艦が、完全に領海に侵入したのが見えた。アリエッタは、公海にいる船から、シーシェルの領海内で起きている事が見えないように、辺り一帯の領海線に、大規模なグリーンカーテンをかけている。
さあ、これで、全て消してしまえる。
先頭の潜水艦の前に、僕は躍り出た。
シャチにしか見えないか。海の亡霊くらいにしか見えてないだろう。
それは甘かった。先頭の潜水艦から、魚雷が4発発射された。間近で見ると、やっぱり恐怖だ。
トライデントに気持ちを込めた。
《侵略は許さない。大切な人を奪わせない。民を傷つけるな。海を殺戮の場にするな。海に迷惑をかけるな。》
言いたい事は山ほどあるけど。
《シーシェルの女性に、二度と手を出すな!》
アリエッタが、僕の側に戻ってきた。
二人で顔を見て、頷いた。
トライデントがオレンジに光りだし、アリエッタの盾はグリーンに光りだした。どんどん光が溜まって、火花が散り始める。
「もう二度と来るなっ、チャンシアよ。」
僕は叫んで、トライデントを潜水艦に向けた。
グリーンとオレンジの光が混じり合い、コバルトブルーの光が辺りにあふれ、海色しか見えなくなった。海の中で、ザブンザブンとコバルトブルーの波が立ち、海が2つに割れ、潜水艦の艦隊全て挟んで、両側に海の壁ができている。潜水艦は空宙に浮かんでいるみたいに見える。魚雷も宙に浮いて止まっている。
破壊とか爆破にはなってない。失敗したか?
そうだ「来るな」と言ったけど、消えろ、とまだ言ってなかった。神様の力は、神様への祈りと願いだ、だから、言葉はきちんと使わなくてはならないのだな。
「この海にいるチャンシアたちよ。一人残らず、神の元で裁かれるがいい。二度と、その魂がシーシェルには戻れぬように」っと、軽く呟いた。
空間に銀色の光が流れ込み、強く光って、光が消えたら何もなかった。空間に海水が押し寄せてきて、いつもの海になった。
僕とアリエッタの目の前を、小さな魚達が、ワイワイと、胸ビレを振りながら、泳ぎ過ぎて行った。
「ヴァシリスさま。消えましたよ。全部。」
「僕も見たけど、やっぱり消えたな。」
僕は腕輪に聞いてみた。
「父上、チャンシアは消えましたか。」
《よくやった、もう何も残ってはいない。あとは天界のクロノス様が裁く。》
「海の父上、ありがとうございました。」
僕とアリエッタは、光で作ったカーテンやベール、ネットなどを一旦消して、浮上した。
僕たちが浮上すると、全潜水艦が、浮上して、みんなハッチから顔をだして、手を振ってくれた。
僕たちも、たくさん手を振りかえした。
アリエッタを手伝ってくれたクジラの大群が、僕たちの周りで、遊び始めた。大ジャンプ大会だ。
「みんな、ありがとう。誰も傷付かなくて、よかった。クールもクーポもありがとう。」
「ヴァシリスさま、私たち、帰らないとダメなんですよね。」
「今日は、公務だからな。それに、僕たち、危篤状態で、王宮で、貴族みんなが、缶詰になっているよ。」
「あっ、死にかけてたの、忘れてました。」
「じゃあ、とりあえず、みんなと同じ場所に帰ろう。入江に馬が集められているから。」
海洋軍の潜水艦と、地上の海洋軍の連絡部隊も、それぞれの秘密の軍港に戻って行った。
おじいさまの指令艦は、入江で父上たちを下ろして、海に潜って行く。
僕達も入江まで戻って、クールとクーポを海に返した。
父上たちは、親衛隊の護衛ですでに騎馬を出していた、王宮に戻ってすることが、山ほどある。
僕とアリエッタは、神殿警護隊の護衛で、父上たちに続いた。
王宮に戻った父上は、
王妃を取り戻したこと、
パニエールがチャンシアと通じて、女性を売り、謀叛を起こしたこと、僕とアリエッタは危篤が続いている事だけを簡単に説明し、パニエールに関係があったものは、その場で捕縛し、それ意外の貴族は、解放したらしい。
襲撃は襲撃にならずに、無事に全てを守り切れた。




