第4章 襲撃の前日 神殿へ
海の中にいた。
かなり離れたところで、トライデントがぐるぐる回っている。
僕は叫んだ。
「許さないっ」
その瞬間、トライデントから、稲光りが走り、
周りの海中が、冷たい銀色に光り、
地響きがして、トライデントの向こうに見えていた、いくつかあった黒い細長い棒みたいなものが、かき消すように消えるのを見た。
「ヴァシリスさま、ヴァシリスさまっ」
「う〜ん、、」
誰かに呼ばれている。揺さぶられていた。
あけたくない目を開けると、アリエッタの顔があった。僕の横にペタンと座っている。
「ヴァシリスさま、大丈夫?」
「アリエッタか、僕は今、海の中にいたんだけど、、」半分、夢うつつだ。
「お部屋も海の中です。急に海になりました。」
「えっ?」
僕は飛び起きた。
海の中じゃなくて、僕の部屋が、海水で満ちていた。
「アリエッタは大丈夫か?」
「私も、夢の中で、海の中にいました。トライデントがクルクル回っていて。でも、急にヴァシリス様が、怒って。目が覚めたら、お部屋が海でした。」
「同じ夢を見ていたのか?」
「同じみたいです。夢で、黒い船が消えました。」
やっぱり同じ夢だな。多分、明日に起きる事なんだ。
「ヴァシリスさま、もしかしたら、私はヴァシリス様の巫女ですか?」
アリエッタが同じ夢を見た事で、気づいたみたいだ。
「まだわからないよ。
最近は、ヒーリングのキラキラも一緒にしているし、婚約も明日だから、いつも一緒にいるから、同じ夢を見ただけかも知れないよ。」
ちょっと誤魔化した。僕の巫女だと、僕から言ってはいけないと、セレステから固く言われているから。
「私は、ヴァシリス様の巫女だと思います。」
「アリエッタ、それはセレステとよく話した方がいいよ。大切な事だからね。」
「は〜い、、お腹が、すきました。」
「そうだな、まずは、この海を消さないと。」
「私、消したいっ。消す消すっ。」
扉がノックされた。
「ヴァシリス、アリエルちゃん、何かした?」
母上が扉をあけて、部屋をのぞく。
「あっ、やっぱり。ここも海ね。少し前に、月の宮の中が、全部、海の中になっちゃったのよ。原因は、ここね。」
「えっ?この月の宮、全部ですか?」
「そうなのよ。ヴァシリス、悪戯?無意識?」
「同じ夢を見てました。ヴァシリス様が、黒い船を消した夢。」
アリエッタが説明している。
「無意識です。夢の中で、戦ってましたから。」
母上の後ろから、オランも顔を出した。 二人とも笑っている。同じ夢、と言う話しで理解したみたいだ。
「ねえ、ヴァシリス、それって明日の事でしょう?2人で同じ夢みたの?」
「う〜ん。そうみたいです。」
「わかったわ。ひとまず、海を消してね。」
「わかりました、母上。」
「私が消しますぅ。」
アリエッタが、貝殻のリングを手で包んで
「この海、消えるっ」と言うと、一瞬で、本当に消えた。
この貝殻リングをペアでつけ始めて、状況によっては、僕でもアリエッタでも、どっちでも色々できる事がふえている。
セレステに相談したいけれど、その時間すらないから、後回しになっていたけど。
母上の部屋で、侍女の声がしている。
「海が、全部、消えました。」
「ヴァシリス、アリエルちゃん、朝食がまだでしょう?と言うか、もうすぐランチだから、とりあえず、ダイニングにいるわ。」
昼?そんなに寝たんだ。
僕とアリエッタは、寝着の上から、その辺りにあった部屋着を着て、急いで、ダイニングに向かった。
「父上、母上、オラン、おはようございます。」
「ヴァシリス、起き抜けのボサボサヘアでも、麗しさ全開ね。」
「えっ?髪、ですか?」
そう言えば、整えるのを忘れていた。寝坊もしてしてしまった。王子としては落第だ。
「ヴァシリスさま、髪が、あっちこっち向いてます。」
アリエッタが僕の髪の毛を引っ張って笑っている。
「アリエッタだって、寝癖で、ボサボサじゃないか。」
アリエッタが、抗議のために、頬を膨らましている。いつものように、頬を押したら、アリエッタが小さく、プッと、息を吐いた。
「坊っちゃまも姫さまも、ランチが済んだら、一度、湯浴みをなさってくださいまし。昨夜は遅くて、そのままお休みになってますから、いいですね。」
「わかった。」
「はぁーい。」
アリエッタが、右手でスープを飲みながら、左手で、さくらんぼに手を伸ばしている。
僕は、黙ってアリエッタの左手を掴んで、睨んだ。
「ごめんなさい。お行儀、、でした。」
「わかってるならいい。」
その瞬間に、アリエッタが、悪戯に笑って、わざと、さくらんぼを僕の頬にぶつけた。カチンときた。
「アリエッタ、何度も言わせるな。マナーが悪すぎる。父上も母上もいらっしゃる前で、何をしている。そなた、妃になる覚悟があるのか。そのさくらんぼを渡せ。」
「いやですっ」と、椅子の上に立ち上がって、アッカンベーをした。
「女の子らしくならなくてもいいって、言いました。」
「それとこれとは別だ。王宮では、マナーを守れっ。」
僕は本気でアリエッタの両手首を掴んで、
さくらんぼを取り上げた。
「痛っ、ヴァシリスさまなんて、大っ嫌い。」
アリエッタが、僕を睨みつけている。
「だめだ、さくらんぼの食べ方は悪い、椅子の上には立ち上がる、僕の妃になるなら、もう少しはマナーをわきまえろっ。」
「さくらんぼは、いくらでもくださるって言ったのにぃっ。」
母上が、何とも言えない笑顔で、僕達をみている。
父上が、コホンと咳払いした。
「2人の甘い世界に入っているところ、邪魔して悪いが、」
「うぅっ、、は、はい、父上、何でしょうか。」
「アンジェラから聞いたが、同じ夢を見たのか?」
「はい。先程、明日の夢です。」
「ヴァシリス様と、同じ夢ですぅ、私、ヴァシリス様の巫女ですぅ、ウフッ、良かったですぅ。」
「アリエッタ、それは、セレステに聞いてみよう。我々には、わからぬのだ。セレステと話しをするまで、焦るでない。よいな、アリエッタ。」
「はいっ、お義父さま。」
「ヴァシリス、今日は、ゆっくり過ごしてほしかったが、夢の件がある。
セレステに伝えておくので、2人で、ミカエラード家に行って来なさい。明日は、婚約内定発表もあるから、ミカエラード公爵にも、きちんと挨拶してこい。アリエッタのお転婆はまだしも、お前は王子だ。マナーは絶対だからな。」
「はい、父上。」
また僕が叱られてしまった。父上と母上の前で、口喧嘩は、王子のマナーとしてよろしくないのは、わかっていたのに、最近のアリエッタには振り回されている。
僕が、甘いんだろうな。しっかりしなくては。
「ヴァシリス、正装しなくていいから、、オランに選んでもらって。」
「はい、母上。」
「それからヴァシリス、巫女の剣をもて。ミカエラード家にある神殿に入れば、何か起きて、剣が必要になるはずだ。私の時も、目を瞠るような事になっていたから。」
「はいっ」
「では、坊っちゃま、姫さま、順番に湯浴みをして、ご準備いたしましょう。」
僕たちは、オランに促されて、ダイニングを出た。
湯浴みを終え、オランが選んでくれた王子らしい服装になり、巫女の剣をもち、月の宮の正面エントランスに行くと、アランが、アレックスを連れて、親衛隊が待っていてくれた。
「えっ?アラン?父上の警護は。」
「はっ、本日、陛下は、月の宮の書斎で王妃様と執務をなさるので、警護が一箇所になりますから、人数に余裕があります。
ユリシーズは、騎士団の調整をしております。」
「では、よろしく頼む。」
「はっ」
騎士達の返事も一糸乱れずだ。
父上の親衛隊の警護は、さすがに畏れ多い。
騎士団中の選りすぐりの凄い騎士達だ。
僕のようなまだ未熟な王子が、警護してもらう事さえ、恥ずかしい。
「ヴァシリスさまっ、参りました。」
アリエッタがオランに連れられて、エントランスに着いた。今日も妖精のような、コバルトブルーに白と銀色のリボンがついている、ふわふわワンピースだ。
僕は、先にアレックスに飛び乗り、アリエッタに手を差し出した。アリエッタの出した手を見て、前向きに乗りたいのだとわかった。頷くと、手を掴んで、周りにバレないように、すごく頑張って、引っ張りあげた。
瞬間、アリエッタは、前向きにアレックスに跨っていた。
後ろに控えた親衛隊から、「ほうっ」と、小さな声が聞こえた。
何か失敗したのかと、アランを見た。
アランが笑いながら教えてくれた。
「殿下、お見事です。女性を無事に美しく同乗させるための技能は、騎士団入団後に習得しますが、すでに、身につけておられるのですな。」
「アラン、アリエッタが身軽なだけなのだ。」
ちょっと照れてしまった。
「では、殿下、ミカエラード公爵家まで、急ぎましょう。」
「アレックスっ、行くぞっ。」
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ミカエラード公爵家は、王宮から直線距離では近いが、馬や馬車だと、あちこちの宮や貴族の屋敷を抜けていくので、騎乗で10分くらいだ。馬車だと20分はかかる。
公爵家に着くと、先触れがあったのだろう。
アリエッタの父君のマース殿と母のセレステが、侍従を連れて迎えに出てくれていた。
僕はアレックスから降りて、アリエッタを抱き上げながら下ろした。
「ヴァシリス殿下、わざわざお越し頂き、感謝いたします。」
「出迎え、感謝する。」
「お父様、お母様、ただいま、戻りました。」
僕たちは、公爵家の中に入った。
アランと親衛隊の数人も中に付き添い、残りは外の警護らしい。
マース殿が、どんどん奥に向かって歩いていく。
いくつもの扉を抜けて、真っ白の扉の前についた。扉の真ん中に、金色の王家の紋章がある。
これは何だろう。神殿があるとは聞いていたが、王家の紋章つきとは。王宮では、見た事がない。
アランが「では、我々はここで待機いたす。
マース殿、殿下をお願いする。」と言って、僕を扉へ促した。アランは、普通にしているから、この場所を知っているんだ。
「殿下、どうぞ、扉の中へ。 アリエッタ、セレステ入りなさい」
「お母様、ここに入るの初めてです。」とアリエッタがセレステに話している。
マース殿が、白い扉を開けると、白い廊下があった。僕たちが入ると、扉がすっとしまった。
勝手にしまったみたいだ。
少し進むと、廊下は行き止まりになり、廊下の両側に部屋があるのか、扉がある。右側は真っ白のドアだ。どこかでみた紋章だと思ったら、ガブリエル家の紋章だった。
左側は金色のドアで、また王家の紋章が、扉全体に同じ金色で描かれている。
「マース様。アリエッタと着替えてまいります。
アリエッタ、こちらに来なさい。」
一瞬、アリエッタと目が合ったが、セレステに引っ張られて、廊下の右側の白い扉の部屋に入って行った。
「殿下は、こちらです。」
マース殿が、金色の扉を指差した。
「ヴァシリス殿下、殿下の手で扉を開けていただけますか。この扉は、巫女を得る次の王だけが開けられる神の選別の扉です。王家の方々でも開けられません。この扉が最後に開いたのは、現エドワード王が、セレステを得た22年前です。」
僕はゴクリと喉がなった。
「マース殿、開かなかったら、巫女を得られないと言う事ですね。」
「ヴァシリス殿下、今朝、アリエッタと同じ夢を見られたと、陛下からご連絡があり、お越しいただきました。
巫女の歴史書では、王が13歳から20歳くらいで、この扉の選別が起きておりました。
殿下のご年齢では、かなり早いので、もしかしたら、今日、開かなくても、先に開く場合もあります。
殿下とアリエッタについては、光の調和の時期も早すぎ、婚姻も含めて、前例がない事ばかりで、我々としても、試してみるしかないのです。」
「そう言う事なのか。わかった。」
でも扉が開かなければ、神の選別では、不合格になる、と言う事ではないか。一回開かなければ、数年後に開くとは思えない。
「殿下、大丈夫ですか?」
「マース殿、やるしかない。」
僕は深呼吸した。
こころの中で、ポセイダルゴ様に祈った。
《海の父上、どうか、巫女を私に。僕の全てを差し出し、巫女を守り、この国を守り、全ての海を守ります。》
僕は、両手を広げて、金色の扉につけた。
扉はびくともしない。
僕は集中した。
アリエッタを、兄上たちの巫女にはしたくない。
光の調和もあった。ずっと、共に歩んできたつもりだ。明日も、国を救わなくてはならない。
それに、僕はアリエッタを愛している。
巫女を僕に与えてください。
体からオレンジの光が出て、全身がオレンジキラキラに包まれていくのがわかる。そのオレンジ光が扉全体に、どんどん吸い込まれていく。
体の力が全て抜き出されるように、扉にパワーが取られていく。苦しくなってきたが、止めるわけにはいかない。
《息子よ、海の息子よ、巫女の剣を抜くのだ。》
海の父の声が心臓から聞こえた。
僕は、巫女の剣を抜いた。
コバルトブルーに輝く刀身が、扉に引き寄せられていく感じがした。
僕は、剣をしっかり構えて、祈った。
「神よ、神よ。巫女を愛し守る責務と栄誉をお与えください。開けっ!」
無我夢中で、全力をこめて、剣を一振りした。
扉が金色の光を放ち、王家の紋章が、浮き上がってくる。金色だった紋章がコバルトブルーに輝く。
目を開けていられないくらいの眩さだ。
次に、扉全体が、コバルトブルーに染まっていく。扉は海の水のように揺らめいている。王家の紋章がもう一度、金色に浮かび上がって、トライデントの紋章に変化した。
辺り一面に銀白色の光が強く光って、光が消えた。
扉が、ギギッ、ギギッ、と音を立てながら開いていく。
神殿の中は、金色だった。
巫女の神殿に入ります。
読んでいただき、ありがとうございます。




