第4章 アリエッタの誕生日 大人の愛 幼い愛
愛が溢れていきます。
「オラン、どうしましょう。」
「アンジェラ、、このワンピースドレスを。」
「えっ?これを?」
「そう。あなたが、後にも先にも一度だけ、陛下と遠乗りした時のドレスよ。陛下がプレゼントしてくださった陛下の瞳色のドレス。
あれから、一回も着ていないでしょう?」
「オラン、よく覚えていたわね。」
「アンジェラが、一番楽しい思い出だったと、自分で言ってたじゃない。そのあとは、すぐ懐妊して、出産、しばらくして、また懐妊して、先王が亡くなられて、陛下と会う事が叶わないほど陛下がお忙しくて、やっと喪があけたら、また懐妊して、、。
アンジェラ、今から陛下との、恋をやり直しなさい。今なら、素直になれるでしょう。」
「オラン、ありがとう。あなたは、ずっと私を支えてくれていたわ。今もよ。」
「さっ、素足で、サンダルを履くのよ。」
「まあ、アリエルちゃんみたいよ。」
「そうよ。20歳の頃に戻りなさい。
アンジェラ、あなたは、まだまだ若いわ。あの頃の美しさに、出産して、さらに美しくなってるのよ。自信を持って、陛下に甘えなさい。それでいいんだから。」
「オラン、ありがとう。」
侍女のナリスが先触れにきた。
「王妃様、陛下が、陽の宮を騎乗で出発されたと、連絡がありました。」
「ナリス、お飲み物の準備はできていますか?」
「はい、オラン様。ランチボックスに。」
「ありがとう、ナリス、今日はピクニックの準備ばかりねっ。」
「オラン様がお戻りくださって、月の宮が、王妃さまが、明るくなられて、侍女一同、感謝しております。」
「いいのよ。アンジェラが元気なら、この宮は安泰よ。」
可愛いワンピースドレスを着たアンジェラが部屋から出ると、侍女たちが、口々にアンジェラに「お綺麗です。」と声をかけている。
月の宮のエントランスに着くと、すでにエドワード王が、漆黒の愛馬に騎乗し、私服の親衛隊10騎を後ろに控えて待っていた。
エントランスに現れた王妃の姿を見て、王は破顔した。
「まあ、エドワード。」
王妃もまた、王の普段着に喜びが浮かぶ。
「アンジェラ、おいで」
白い麻のシャツのそでを少し腕まくりしている。鍛えているが、すらっと美しく伸びた腕が、王妃の腕を掴むやいなや、王妃を軽々と引き上げて、横座りに同乗させた。
王妃の腹に手をまわし、腰をしっかりと引き寄せて、「痛くないか?」と聞く。
「は、はい、エドワード。」
「ライアン、行くぞっ」
王の愛馬ライアンが、疾走準備にはいっている。
「王妃さま。これでよろしかったかな?」
王の胸元のシャツのボタンが2つ止められずに、少し肌が見えている。王妃の頬が、そこに引き寄せられる。
「あ、あの。」
かなりのスピードで疾走しているので、周りの護衛には、話し声は聞こえないだろう。
「どうした?これでは不満か?」
「いえっ、あの、お姿が凛々しすぎて、私、」
「ほうっ、凛々しいと言ってくれるのか。
昨日は、平手打ちに、えらい言われようであったが。
其方は、15年前のままに美しい。そのドレス、まだ持っていてくれたのか。」
「覚えていてくださったのですか?」
「忘れるはずがなかろう。結婚しても、国務に忙しくて、其方を構ってやれなかった。
どうしても、其方と遠出したくて、このドレスを贈って、騎乗で王宮を抜け出した。」
「どうした、泣いているのか。」
「ごめんなさい。お召し物を濡らしてしまいそうです。」
「構わぬ。其方の涙は、私のものだ。
あの日、親衛隊に見つけられて、短い時間で連れ戻されたが、また、連れ出す、と私は約束していたのに、あれから15年も放置してしまっていた。
すまなかった。アンジェラ。」
「陛下、覚えて下さっていただけで、もう十分です。ずっとお慕いしてきて、この思いが忘れさられてしまったと、思っておりましたから。」
「お前を忘れたことなど、一日もない。
月の宮まで、こんなに近いのに、これほど遠い場所はなかった。これまでの私は、あの閉じられた扉を開く勇気がなかった。行けば、子作りの用しかないように思われるのが苦しくてな。
あの扉を夜以外に開けようとすると、臣下から、呆けた王だと言われそうで、怖かったのだ。」
「エドワード、私はずっとずっと、お待ちするしかなかったのに。」
「でも、昨日は来てくれたではないか。有無を言わさず、陽の宮に、乗り込んで来てくれたではないか。」
王妃が両腕で、王の腹まわりにしがみつき、嗚咽を堪えるように、王の胸に顔を埋める。
「アンジェラ、愛している。」
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「アリエッタ、今日はいつもと反対側の浜辺に行こう。」
アレックスに2人乗りで、海岸線に向かって駆ける。
「違う浜辺ですか?」
「そうだ、海洋研究所に近い浜だ。
僕達の離宮を建てる予定の浜辺だ。」
「浜辺に離宮ができるのですか。」
「そうだ。15年後に、アリエッタが僕の妻になったら住む場所だ。」
「まあ、すごい」
アリエッタが僕の腕の中で、僕を見上げる。
アレックスの走りに合わせて、アリエッタの首元の真珠が揺れて、煌めいている。
「一緒に、海を守って、一緒に住もう。」
「はい、ヴァシリスさま。」
しばらく海を見ながら、浜辺を駆けた。
アリエッタが、海の香りを吸い込んで、笑っている。
「アリエッタ、着いた、ここだ。」
アリエッタをアレックスから下ろして、僕もおりた。ランチボックスを受け取ると、護衛は、散らばって、どこにいるかわからなくなった。
ユリシーズは僕達が見える少し離れた場所にいる。
「お腹、すきました。」
「アリエッタは、もっと食べないとダメだよ。
たくさん食べて、早く大きくなってくれ。」
「ヴァシリスさまが、急に大きくなったから、私の背が届かなくなったのです。」
頬を膨らませている。
アリエッタは、文句があるときは、口を尖らせるより、頬を膨らませる。
膨らんだ頬を、指で軽く押すと、アリエッタは、吹き出している。いつもの癖だ。
ブランケットを敷こうすると、アリエッタが手伝い始めた。
ランチボックスから、食器と水筒を出している。
サンダルを脱いで、ブランケットにペタリと座った。
僕も乗馬ブーツを脱いで、座った。
「はい、どうぞ。」
「今日は、アリエッタが全部してくれるのか」
「5歳になったので、少し大人になりました。
だから、女の子らしくするのです。」
「嬉しいな、アリエッタ。でも、無理に女の子らしくならなくてもいい。海洋ヒーラーは、男女関係なく、海に出る。強くないと、海で戦えないぞ。」
「ヴァシリスさま。強くなって、良いのですか?
女性らしくならなくてもいいのですか。」
「今日のダンスの時、十分に女性らしく綺麗だった。それで十分だよ。」
「では、では、ヴァシリスさま、アレックスを下さい。私も馬に乗れるようになりたいのです。」
「僕と一緒に乗るのは嫌か?」
「ううん、それは好き。でも、離れたら、一緒に乗れません。だから、ヴァシリス様に会いたくなったら、アレックスに乗って、会いに行きたいのです。」
海色の目から、真珠の涙がこぼれそうだ。
アリエッタ、泣くな。
サンドイッチを持ったまま、俯いてしまった。
「アリエッタ。。ありがとう。その気持ちが嬉しい。
まず、ランチを食べてしまおう。
アレックスに乗りたいなら、その小さな体ではダメだ。せめて、身長がもう少し伸びないと、1人では、乗れないぞ。」
「わかりました。」
アリエッタが、涙を引っ込めた。目をうるうるさせて、サンドイッチを食べている。
僕の方が泣きたくなってきた。
早く大人になりたい。
父上に、時間をかけるしかないと言われたから、わかっているけど、こんなアリエッタをあと15年も、手放しておけと?
アリエッタが、いつものように、サンドイッチから苦手なピクルスを引っ張り出して、僕に差し出した。
「アリエッタ、こっちにおいで。」
僕は、僕の足の間に座らせた。アリエッタの背中が僕の胸に、もたれてくる。
「アリエッタ、ピクルスも食べないと、大きくなれないよ。」
「……」
「アリエッタ、来週から、僕はいなくなる。誰がアリエッタのピクルスを食べるんだ。
もう5歳になったんだよ。」
アリエッタの肩が震えている。
何回も、来週からいなくなる、と、一昨日から、言い続けている。僕は悪魔か。
僕だって子供だぞ。嫌いなものは嫌いだ。
アリエッタが、ピクルスを口にして、飲み込んだ。アリエッタが、ピクルスを食べた。絶対に嫌いだったのに。
前を向いたまま「ピクルス食べた。」と呟いた。
「よし、アリエッタ、アレックスはアリエッタも乗っていい。クーポにのれるんだから、きっと練習すれば、アレックスにも乗れる。
少しずつ、乗馬の練習ができるように、オランに頼んでおくから。
そのかわり、強くなれ。強くなるんだ。
僕は、もっと強くなるから。
強くなって、アカデミーに入るんだ。
そして、もっと強くなって、海洋生物研究所に来るんだ。
僕は走り続けるから、アリエッタ、追いかけてくるんだ。追いかけて会いに来てくれ。」
サンドイッチを全部食べたアリエッタが、僕に向き合った。
「約束して、ヴァシリスさま。必ず待ってて。」
「僕は、できない約束はしない。待ってるから。」
「知ってる。だから、約束。ポセイダルゴ様に誓って。」
僕は、剣を持って、波打ち際まで歩いた。
アリエッタもついてきた。
2人で膝まで海に入って、右腕を押さえて、
僕は叫んだ。
「父上、海の神よ。僕はアリエッタに誓う。どうか聞いていてほしい。」
海がさざめいて、クールとクーポが沖にきている。
「海の神よ、
僕はもっと強くなる。走り続ける。
アリエッタが追い続けるに相応しい男になる。
必ず、走り続ける。
アリエッタを幸せにするために。
絶対に挫折なんかしない。
アリエッタ、
15年後、必ずここで、お前に求婚する。忘れるな。必ずここまで来るんだ。」
「ポセイダルゴさま。
私も強くなります。ピクルスも食べて、大きくなります。
ヴァシリス様を追い続けられるように、
必ず着いて行けるように、強くなります。
アカデミーに入って、
海洋生物研究所に入って、15年たったら、ここにきます。
私は、ヴァシリス様の妻になり、この場所で暮らします。」
剣が鞘ごと光りだした。
右腕に腕輪が現れ、光っている。
アリエッタとここで生きる。そう決めた。
アリエッタが、グリーン色に包まれている手を僕にだした。
自分の手をみたら、オレンジ色に包まれていた。
もうこれにも慣れた。
アリエッタに鞘を渡せと言うことか。
剣を抜いたら、トライデントだった。
鞘をアリエッタに渡すと、鞘が、金色になり、金の粉が溢れて、鞘が消えていく。金色の粉は、辺り一面の浜辺に、降り注いでいく。
僕は、トライデントを海に突き立てた。
海が光り輝き、地響きがして、海と浜辺の地形が変わっていく。
なんとなく、離宮の地盤が作られているような気がした。
沖で、クーボとクールがジャンプをしている。
クジラやシャチがどんどん増えて、大ジャンプを繰り返しながら、沖に消えていった。
我にかえると、トライデントは、剣に戻り、浜辺に打ち上げられていた。
アリエッタが僕の手を握っていた。
「ダンスするか」
「はい。」
僕は、アリエッタを引き寄せて、ダンスをはじめた。
素足のまま、波打ち際で、陽が傾きかけるまで、踊っていた。
アリエッタは陽の光を浴びて、キラキラして、ずっと笑っていた。
「いつか、ここに住むのですね。」
「そうだ、また、ここで、ダンスしよう。」
「約束っ。」
「アリエッタ、いつから、そんなに約束が好きになった?」
「5歳になったから。」
「いくつでも、約束してやる。」
もうヤケクソだ。何とでもなれ。これからの15年が、苦しい事なんて、わかってる。
2人の約束、叶うのはいつ。
読んでいただき、ありがとうございます。




