第4章 アリエッタの誕生日 遠出
父上と母上の特訓を受けて、汗だくで部屋に戻って、それぞれに簡単に湯浴みをしたら、もうランチタイムだった。
「ヴァシリス、お昼からどうするの?
アリエルちゃんと、デートするの?」
母上が扉の外から、大きな声で聞いてくる。
「母上、待ってください。着替えたら、そちらに行きます。」
母上が昨日、弾けてから、これまでの王妃様はどこかに飛んで行ってしまった。
でも、今の母上が好きだ。
しかし、朝から、父上と母上のダンスを見せつけられて、僕は頭の中が、ちょっと弾けてしまった。愛って、あんな風に溢れるものなんだ。
昨夜のポセイダルゴ様の母上への愛にも、熱を感じたけど、父上も父上ですごかった。
僕も、あんな風に、アリエッタを愛せるのだろうか。
ぶつぶつと考えながら、母上への続きの間への扉を開けると、何かに抱きつかれた。
下を見ると、アリエッタが抱きついている。
「うっ、アリエッタ、どうした?」
「ヴァシリスさま、ありがとうございます。」
少し離れて、僕の前で、クルクルっと回る。
「ヴァシリスさま、お誕生日に、たくさんのドレスをありがとうございます。オランが、持ってきてくれました。」
「あっそうだった。アリエッタ、よく似合っているよ。気に入ったか?」
「はいっ、ぜんぶ、ぜーんぶ、ヴァシリス様色ですぅっ。大好きっ。」
僕は、恥ずかしい王子だ。僕の特権で、アリエッタがこれから着るドレス、下着から正装、小物に至るまで、全ての基本色を僕の瞳色にしてしまった。もちろん、白や黒、ほかの色も使うが、最低でも差し色に、僕の瞳色が使われてる。
離れてしまうから、この誕生日に、オランに頼んで、セレステと相談してもらって、全て新調した。
まあ、母上も同じ事をしていたみたいで、月の宮にあるアリエッタのために準備したものは、僕の瞳色だった。
僕の瞳色と言っても、コバルトブルーに様々な海色が混じるので、それらの色に、アリエッタの瞳色の深いグリーンを入れて、生地を選んでもらった。あとは、僕のヒーリング色のオレンジが追加されている。
ちょっとやりすぎかと思ってたけれど、
母上は、ブランドン兄上にも、パトリック兄上にも、瞳色を基本に、お相手のお母様も呼んで、ドレスをそれ相応に、新調させたらしい。
これに近衛騎士団の騎士服が同じだから、警護対象は、いやでも周りにわかる。
昨日、そう、まだ昨日の事なのに、海の父上に会ってから、色んな事を考えるのをやめてしまった。
なるようにしかならないし、実際に、なっている。想定外の事も起きるし、それでも何とかなっている。
「ヴァシリスさま、ランチのあと、海に行きたいです。」
「アリエッタの誕生日だからね。アリエッタ、海でランチしないか?」
「お外でランチできるのですか?」
「オラン、簡単でいいので、サンドイッチとさくらんぼを、準備できるだろうか。」
「ランチがサンドイッチですので、お包みするだけですから。すぐにご用意いたします。
ユリシーズが、アレックスとキロンも連れてきています。陽の宮の厩舎に。」
「では、父上の厩舎まで行ってくる。
アリエッタ、アレックスを連れてくるから、少し待っていて。」
「はいっ。準備して、お待ちします。」
「母上、アリエッタと海で、ゆっくりしてきます。」
「楽しんでらっしゃい。オランは連れて行っちゃダメよ。海洋生物保護院の改装準備の打ち合わせがあるから。」
「保護院も、ヒーラーが足りなくて、老朽化していたので、母上とオランが動いてくださって、ありがとうございます。」
「ゆくゆくは、ヴァシリスとアリエルちゃんに引き継ぐのだから、ちょうど良かったのよ。」
「では、厩舎に行って、アリエッタを迎えに戻ります。」
月の宮から陽の宮への廊下を抜けて、父上の厩舎に行くと、ユリシーズがキロンの調教を終えたところだった。
厩舎の奥に、騎士団と親衛隊の詰所があり、騎士団の厩舎はその後ろにある。
「殿下、デートですね?」
ニコニコ笑って聞かれた。
「忙しいのに、すまない。アリエッタを連れて、海でランチをして、海岸線を少し走って、夜までに帰るつもりだが、出られそうか。」
「すぐに出られますよ。朝からダンスの練習で、陛下に扱かれたとか、、」
「父上のダンスは、熱気にあてられるからキツイ。でもユリシーズがアリエッタに教えてくれてたんだね。アリエッタの仕上がりがよくて、午前中で開放された。ありがとう、ユリシーズ。」
「姫様にせがまれました。殿下とちゃんと踊りたいと、昨年から、頑張っておられましたからね。
では、護衛を連れて参ります。」
厩舎に入ると、アレックスとキロンが、挨拶してくる。今日は白馬のアレックスだ。
キロンは来週から、過酷になるから覚悟だぞ。
アレックスに2人用の鞍をつけて、僕の剣もくくりつけた。
厩舎を出ると、第三騎士団の護衛が8人、私服で、既に馬の準備をしていた。
「ユリシーズ、多くないか。公務ではないぞ。」
「あれが、落ち着くまでは、、、隠密で警護します。先に殿下に、私ともう一人が付きます。後の7人は離れて警護しますので。」
「わかった、ありがとう。」
8人の護衛は、僕の顔を見て黙って頷いた。
僕も頷いて、アレックスに乗る。
「行こう、ユリシーズ。」
月の宮の前に着くと、母上と、オランに付き添われて、アリエッタが待っていた、
先程の普段着のワンピースに、麦わら帽子をかぶって、素足にサンダルをはいていた。
オランが、ユリシーズの後ろにいる護衛にランチボックスを渡した。
「アリエッタ、おいで。」
背伸びしながら、僕に手を伸ばしたアリエッタの手首を片手でつかみ、思いっきり引き上げ、反対の手で腰を抱き上げて、僕の前の鞍にのせた。
最近、やっと自力でアリエッタを乗せられるようになってきた。鍛錬って大事だと思う。
「楽しんでらっしゃい。ポセイダルゴ様によろしくね。」
母上が、手を振って送り出してくれた。
「アレックス、行くぞっ。」
アレックスは、海に続く雑木林を目指して走り出した。ユリシーズが併走する。
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「オラン、あの子、何であんなにカッコいいのかしら。」
アンジェラは、月の宮の、王妃の書斎で、海洋生物保護院の設計図を見ながら、ため息をついている。
「アンジェラ、ヴァシリスさまに、恋をしそうな勢いね。」
「もちろん、エドワードもカッコいいのよ。あなたのユリシーズだって、惚れ惚れするようないい男だし。」
「まあ、アンジェラの気持ちがわからないではないけれど。私も今でも、ユリシーズが騎士服を着て騎乗していると、ドキッとすることはあるし。」
「でしょう?でしょう?ユリシーズがオランに求婚したあの夜会で、何人が倒れたと思っているのよ。
あの近衛騎士団の正装の騎士服で、ウリエル家の男子は男の中の男と言われ、しかも女性に靡かないウリエル家のユリシーズが、あなたに跪いたのよ。
私たちの、学年から下のアカデミーに行ってた御令嬢たちが、ユリシーズに群がっていたのは、社交界でも有名だったわ。
誰もあなたが、ユリシーズのお相手だとは思ってもいなかったし。
あなたがユリシーズが好きなのを知っていたのは、私だけだったから。ああ、思い出しても、赤面しちゃうわ。」
「アンジェラ、昨日から、おかしいわよ。
陛下を跪かせたアンジェラが、何を言ってるのよ。」
「ヴァシリスの事があって、ポセイダルゴ様の事を思い出したり、陛下の若い頃を思い出したり、オランも一緒にいてくれるようになって、なんだか、青春時代に戻ったみたいなのよ。
それに、私、オラン、あなたが羨ましいわ。」
「何で?何を?」
「だって、オランはあのヴァシリスを見ることができるのよ。」
「アンジェラ、ちょっと落ち着きないよ。乳母だから、仕方ないでしょう。」
「でも、ヴァシリスは特別なのよ。やっぱりまだ自覚してないわよね、」
「まあね。あの特別感は、陛下に魅力を上乗せしているみたいだし。」
「さっき、アリエルちゃんを馬に乗せた時、見た?見た?」
「見たわよ。一緒にいたじゃない。」
「ああ、もうっ、なんでもない白い麻のシャツを着て、少し腕まくりしているだけなのよ。ボタンを一つ留めてなかったけど、
アリエルちゃんを引っ張り上げる時の、あの笑顔が、素敵すぎるわっ。首からの筋肉が、がっしりしていて。」
「どの笑顔が素敵過ぎるんだ?」
「あっ、陛下っ、」
オランが立ち上がるのを制して、エドワード王が書斎に入ってきた。
「まあ、エッ、エドワード。」
「真面目に仕事をしているかと思って来てみたら、ヴァシリスの褒めちぎり会をしているのか?」
「あなた、いつから聞いてたの?」
「白い麻のシャツ、からだ。」
「もう、やだっ。」
「オラン、アンジェラは大丈夫なのか?昨日から、怒ったり泣いたり、甘えたり、おかしくなってるようだが。」
「はい。かなりおかしいですわ。」
「どうすれば良い?、オラン、教えてくれないか。」
「聞いてる私の方が恥ずかしくなりそうですが、アンジェラは、いま、ちょっと、色々と変化が多くて、18歳くらいの乙女に逆もどり状態です。
陛下も、白い麻のシャツをお召しになって、
袖を少し腕まくりしていただいて、胸のボタンをちょっと外して、少しばかり筋肉を見せて、騎乗で、アンジェラ様を抱き上げて、同乗させてあげてくださいまし。
お子様の恋物語に恋をして、ときめいておられるので、その熱気をさまさないと、仕事になりません。」
「ヴァシリスとアリエッタを見て、熱くなっているのか?」
「そうです。ユリシーズと私の話まで、引っ張り出されて、さすがに一緒にいると、恥ずかしくなってまいります。」
「すまぬ、オラン。其方がいてくれるから、アンジェラも、思う事を口にできるのであろうが。。。」
「ヴァシリス坊っちゃまが騎士団に行かれるまで、あまり時間がございませんので、仕事が片付かなくて。
少しアンジェラをお願いできれば、助かります。」
「わかった。では、半日、アンジェラを連れて出る。
アンジェラ、それでは、仕事が手につかぬであろう。少し、遠出するか?」
「えっ?でも馬車はいやです。」
「騎乗で、二人乗りだ。久しぶりに駆けよう。
ただ、私の馬は漆黒だが、良いのか。白馬は王子と妃用だからな。」
「はっはい。馬の色は問いませんっ。」
「護衛の都合がつけば、すぐに出られるから、準備しておくように。」
「オラン、助かった。礼を言う。
「陛下、こちらも助かります。」
「ただ、オラン、、」
「はい?」
「ユリシーズがオランに求婚した時は、私も感動した。あんなに、いい男は久々に見たからな。
ヴァシリスがあんな色気がダダ漏れなのは、ユリシーズに預けたからではないか、と思っているのだが。」
「陛下っ、陛下も、熱気を冷ましてきてくださいましっ。」
「オラン、頬が赤く染まっておるぞ。では、すぐに迎えにくるっ、よいな、アンジェラ。」
「きゃ〜〜、オラン、エドワードと遠乗りよ。何を着ようかしら。。どうしましょう。」
「アンジェラ、落ち着いて。陛下もあなたもおかしくなってるわよ。」
「オランも顔が赤いわね。」
「ナリス、アンジェラのお出かけ準備を。服は私が選びます。」
みんなに愛が広がります。
読んでいただき、ありがとうございます。




