第4章 アリエッタの誕生日 ダンス1
朝食を終えて、父上と母上、僕とアリエッタは、陽の宮と月の宮の間にある中広間へ移動した。
中広間と言っても、王妃が、私的な茶会や夜会を開く場所なので、100人は入れる広間だ。その奥 に、王妃の謁見室がある。
王宮の広間は500人以上入れる大広間があるが、国王主催の夜会は、そちらで開かれる。
侍女たちが、急いで楽器を準備している。
母上の侍女の中には、楽師もいるので、すぐにダンスが始められる。
「さあ、まずは、ヴァシリスとアリエッタ、どのくらい踊れるのか、見せなさい。」
「はいっ父上、母上、レッスン、よろしくお願いします。」
「アリエッタ、ワルツは習ったんだな?」
「はい、ヴァシリスさま。いつもダンスの先生と練習してました。他の男子に触られるのが嫌で。ユリシーズも練習してくれてます。」
「僕は、大丈夫なのか?」
そういえば、昨日、父上の書斎で、アリエッタが涙ながらに、プレップスクールで、他の男子が嫌だと言っていたな。同じ年頃の男子に拒否感があるのかな。確かに、僕も、年齢が近い御令嬢は避けまくっているが、、、
「はいっ、ヴァシリス様は、、すっす、き、だから。」
おぉっ、アリエッタが、また頬を染めている。
「お前たち、見つめ合ってないで、さっさと踊れっ!」
父上がしびれを切らしたみたいだ。
母上が「可愛いわねえ」と笑っている。
「アリエッタ、初めての手合わせだから、ゆっくり踊ろう。」
アリエッタが頷く。
僕は、腰を折り、アリエッタに手を出しながら、緊張しつつ、大好きなアリエッタに微笑んで、言った。
「アリエッタ嬢、一曲、お願いしたい。」
アリエッタが微笑んで、僕の手に、華奢な手をのせた。僕は、広間の中央までアリエッタをエスコートし、アリエッタの腰に手を軽く添えて、
一歩を踏み出した。
楽師の演奏が始まった。
アリエッタは、意外にも、というか、あのお転婆の割に、ちゃんと踊れていた。
今朝、寝台で、びっくり踊りをしていたアリエッタとは思えなかった。
ユリシーズとオランが、僕の知らないうちに特訓してくれたのかもしれない。
「アリエッタ、下は見ないで、僕を見て。」
「はい、、」
「アリエッタ、もう少し、背中を反らせて、」
「ヴァシリスさま、後ろに倒れそうな気がして、、」
「すまない、僕のホールドが弱かった。」
僕は、アリエッタの腰を、ぎゅっと引き寄せ、アリエッタを引いて、踏み出す。
距離が近くなり、アリエッタが頬を染め、顔を俯き気味にする。
「アリエッタ、僕を見て、」
「あの、、」
「アリエッタ、僕だけを見て、僕の瞳だけを、見つめて、」
アリエッタの首が更に赤く染まっていく。
恥ずかしいのか。僕だって、恥ずかしい。
だけど、僕は、今を大事にしたいんだ。
もうすぐ、アリエッタは、側からいなくなる。
だから、今だけ、今しかないから。
アリエッタを支えて、くるっとターンする。
「そうだ、浜辺で、くるくる回ったみたいに、、アリエッタ、綺麗だ。」
「ヴァシリスさま。」
アリエッタが僕を見つめ始めると、さらに踊りやすくなった。くるくる回る。アリエッタのワンピースの裾が広がっている。
胸元の真珠が、回るたびに揺れてコバルトブルーに光る。
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「はあぁ、ため息が出ちゃうわ。
エドワード、あの二人、どうなっているの?今日、初めてパートナーとして踊るって言ってたわよ。いつの間、あんなに踊れるように、、」
「息が合いすぎてるな。
あの二人を見るといつも思うが、8歳と5歳だろう。
あれが、天界から授かった巫女と、海神の王子なのか。確かに絵になるし、我が息子ながら、ため息がでるな。」
「息子なのに、うっとりしちゃうわ。見てるこっちまで、ドキドキするのよ。」
「アンジェラ、君が8歳の時も、あんな風に見えたぞ。13歳の時も、誰よりも愛らしかった。18歳の結婚式のダンスの時は、もっと美しかった。」
「まあ、あなた。」
*・゜゜・*:.。..。.:*・''・*:.。. .。.:*・゜゜・*
曲が終わった。
僕は、お互いに礼をして、僕は、腰を落として、アリエッタの手の甲に、そっと唇をふれた。
周りがシーンとしている。
下手だったのか、何がまずかった?
侍女たちは、俯いている。
母上を見ると、母上も頬を赤らめて、両手で頬を押さえていた。
父上を見ると、にっこり、微笑んでくれた。
「素晴らしいダンスを見せてもらった、ヴァシリス、アリエッタ。」
「えっ?酷くなかったのですか?」
「初めて組んだとは思えぬほど、息がピッタリ合っていて、アリエッタが美しく輝いていた。ヴァシリスのリードが良かったのだろう。
パートナーを美しく見せるのは、男の役目だからな。」
「でも、みんな下をむいてるから、下手だったのかと。父上、本当のことを、、、」
「はっはっはっはっ、本当に良かった。
楽師たちも侍女たちも、失神寸前だぞ。よく見てみろ。全くお前は、、アンジェラまで、夢見る顔をしているではないか。」
えっ?みんな失神寸前?
そして、父上は片眉をあげて、ニヤりとした。
「ヴァシリス、お前たちは、いつまで、手を繋いでいるのだ。」
えっ?僕とアリエッタは、手を繋いだまま、広間のど真ん中にいた。
うぅっ、やってしまった。次のカップルに場所を譲らないといけなかった。それを含めてマナーだ。
「さて、ヴァシリス、とても良かったが、後少し、直せば、完璧になる。
その完璧を今から見せてやるから、よく見ておきなさい。アリエッタ、アンジェラの動きをよく見ておきなさい。」
「「はいっ」」
父上は、母上に跪いて、母上を見上げて、手を差し出した。
「アンジェラ王妃よ、私に、あなたと踊る名誉をお与えください。」
母上が父上を見つめて、これまた見た事がないような微笑みで、頷いた。そして手を父上の手に重ねた。
周りが息をのんだ。僕もアリエッタも息をのんだ。
何だろう、胸がドキドキするような、見たこともない一枚の絵画を見ているようだった。
楽師が音を奏で始める。
流れるような動きで、父上が立ち上がり、母上の腰に手を回し、母上は、父上に体を預けていく。
目が離せない。でも見ていると、ドキドキしてくる。でも見たくなる。
二人が並ぶと、いつもは、父上は背が高いから、母上の顔が父上の首あたりになるのに、ダンスをしていると父上と母上の顔の距離が近い。父上が母上の耳元で何か囁いている。
父上が母上を見る目が、なんかものすごく熱い。
母上が溶けてしまいそうな表情だ。
それでも目線が離れない。
ターンする時だけ母上の視線が外れるが、父上は母上を見つめ続けている、だから、母上がターンを終える前に、視線が戻って見つめ合っている。すごい。
広間に、キラキラと黄金の花びらが舞っているように見える。
僕たちは、手を繋いだままだった。僕もアリエッタの手も汗ばんでいる。アリエッタが僕の手をぎゅっと握っている。アリエッタにも、わかるんだ。
どれだけ時間が経ったのかわからないけど、音楽が終わった。見てはいけないような、目が離せないダンスが、終わった。
父上が跪き、母上の手の甲を恭しく少し持ち上げ、ゆっくりと唇を押しつけて、母上を見上げた。
その瞬間だった。控えていた若い侍女たちが、数人、崩れ落ちた。僕は手を下にひっぱられて、横を見ると、アリエッタが真っ赤な顔をして、フロアにペタンと座り込んでいた。
月の宮側で控えていた侍女たちが、走って広間に入ってきて、倒れた侍女を介抱している。
立ち上がった父上が、母上をつれて、こちらに近づいてくる。
「父上、こちらに来ないでくださいっ」
「ヴァシリス、顔が赤いぞ。」
「まあ、アリエルちゃん、座り込んでしまったのね。」
「はっ母上、いっ今のは何ですか?」
「ダンスよ、ワルツっ。」
「むぅっ、父上も母上も反則ですっ。よくわからないけど、これは、反則ですっ。」
「何が反則だ。これが、最愛の女性と踊るダンスだ。ヴァシリスたちも、これに近かったから、もう少しだけ、練習すれば、こうなるから心配するな。」
「ヴァシリス、陛下の色気って、凄かったでしょう?あなたの、お、と、う、さ、ま、よ。」
「はっ母上、やめてください。こんなの子供に見せるものじゃないですっ。僕達は、僕達の踊り方で問題ないですからっ。」
僕はアリエッタを振り返った。
「アリエッタ、大丈夫か?」
「ヴァシリスさま、はあっ。私も、おかあさまみたいに踊りたいです。おとぎの国のお姫様みたいっ。」
アリエッタが、まさか、大魔王の色気に落ちるとは思わなかった。
「さっ、ヴァシリスは、アンジェラと練習しなさい。私はアリエッタを教えるから。さっ、アリエッタ嬢、お手を、、」
父上は、アリエッタに手を差し出している。
「ちっ、父上、アリエッタに触っちゃダメだっ。」
アリエッタは、頬を赤らめたまま、すでに、大魔王の手をとっていた。
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