第4章 波乱の幕開け3
「ねえ、アリエルちゃん、アリエルちゃんは、ヴァシリスの瞳が大好きでしょう?」
「はい、大好きです。おかあさま。」
母上は、うんうんと、喜んでいる。
この二人の嫁姑問題は、心配しなくて、良さそうだ。
「アリエルちゃんは、ポセイダルゴ様の瞳を見たことあるわよね?」
「はい。ポセイダルゴ様の瞳って。海の水。」
「何色かしら?」
「う〜ん。色々で、透明かも?」
母上は頭を抱えていた。
「なぜ、あなた達には透明なの?」
「母上、アリエッタの瞳は、夕暮れから夜の海の色です。だから、、、」
「アンジェラ、2人の瞳は、朝の海と夜の海、まるで海だから、ポセイダルゴ様の色をもらっているような気がしているの。
それから、姫様と坊っちゃまが二人一緒にいると、海の潮騒の音が聞こえる気がするの。アンジェラは聞こえない?」
「オランも感じてたの?私、この子達をこの部屋に連れてきてから、ずっと波の音が聴こえていて。さっき、取り乱したから、頭が疲れているのかと思ったんだけど。」
「オランは、潮騒が聞こえるのか?」
「坊っちゃまと姫様をお預かりしてから、ずっとです。」
「オラン、もしかして、オランも、海洋生物ヒーラーなのか?」
「はい。そうですよ。だから、アンジェラと仲良しになったのです。」
「なぜ、言わなかった?」
「日々のお役目には関係ないから、言う必要がなくて。姫さまが、ヤドカリやナマコを持って帰ってきて、浴室にばら撒いた時くらいは、侍女達が気味悪がるので、平気で触りますけど。その程度ですし。」
母上とアンジェラは、強者だった。
「母上、僕もアリエッタも、海で、ポセイダルゴ様に祈ると、会えています。
僕はシャチを、アリエッタはクジラを海での乗り物代わりにいただきました。
今、アリエッタがつけているペンダントは、ポセイダルゴ様の海の庭で、僕が好きなのを選ばせてもらったものです。
僕の剣は、海の中でトライデントになりました。
これって、母上とアリエッタと僕だけに起きている事ですか?」
「ヴァシリス、そこまで、ポセイダルゴ様と仲良しなのね。
オランは、海亀と仲良しだったわよね。オランはアカデミーで、研究熱心だったから、気になる事があれば、質問しまくってたじゃない。」
「ええ、タールーン様に、よく背中に乗せてもらいましたよ。
だって、アンジェラと一緒に海に行くと、ポセイダルゴ様がアンジェラを連れて行くから、タールーン様が、いつも私をあちこち、見学させてくれてたわ。知らない事は、全部、見せてもらって覚えましたよ。」
「オランは、あの海亀を知ってたんだ。」
もう僕は、何も驚かなくなってきた。
父上は王だ。王として、僕を導いてくれてる。
でも、母上とオランは、海人状態だ。
海で、遊び回っていたのは、僕とアリエッタだけだと思っていたけど、一番身近なところに、一番、話がわかる人間がいたなんて。
「でも、ヴァシリスが、ポセイダルゴ様と、意思疎通ができてるなら、安心したわ。
ねえ、ヴァシリス、その貝、開けてみて、私では、どんなにしても、開かないのよ。」
母上って、こんな雰囲気だったろうか?
もっと王妃然としていて、、
「どしたの?ヴァシリス?」
母上を見つめ過ぎたのを見つかった。
「い、いえ、なんか母上のイメージが、、違った気がして。」
「うふふっ。さっき、陛下の前で取り乱した、と言うか、ブチ切れたでしょう?
あれで、吹っ切れたのよ。
王妃はこうでなくては、王妃はこうあらねば、王妃と言うものは、ってずっと言われてきたから、
自分と言うものなんて、私らしさなんて、
海に置き忘れてきたかと思ってた。
そう、本当の私は、海にいた私かもしれない。
今、思えば、ポセイダルゴ様と一緒に遊んでいた方が、ずっと楽しかった。
ヴァシリスやアリエルちゃんにはわかるでしょう?海に入ると、陸に戻るのが嫌になるのよ。」
思わず頷いてしまった。
「だからね、ヴァシリスやアリエルちゃんには、好きに生きてほしいなあって。
それはそうと、その貝、どう?」
今の母上、僕は大好きだ。
アリエッタが興味津々で、貝を見ている。
僕は箱から貝を出した。何も起こらない。
力を入れて見たけど、開かない。
アリエッタが、手を出してきた。
アリエッタが触ったけど、開かない。
「ヴァシリスさま。中にポセイダルゴ様がいます。」
「えぇっ?アリエッタ、中が見えるのか?」
「見えないけど、たぶん、ポセイダルゴ様。」
「わかった。アリエッタ、僕が貝の下をもつから、アリエッタは、貝の上を撫でてくれるか。」
アリエッタはコクンと頷いて、手を出してきた。
二人同時に貝に触ると、やっぱりだ。
貝殻に、グリーンキラキラとオレンジキラキラが吸い取られて、貝の口が銀色の光を放ち始めた。
部屋中が、強い銀色の光に包まれ、真珠貝の口がパカリ、と開き、銀色の光は消えた。
うそだろ。
貝の中には、コバルトブルーに煌めく、大きな貴石が入っていた。部屋の天井まで、海の水で満たされて、揺れているような感覚がする。
「ポセイダルゴ様の瞳」母上が呟く。
「海の中、、」オランが部屋を見回す。
アリエッタが、僕の袖を引っ張っている。
「どうした、アリエッタ。」
「ヴァシリスさま、お部屋の扉が、、」
振り向くと、
僕の部屋の扉の隙間から、銀色の光が漏れ出て光っている。すぐにわかった。巫女の剣だ。
僕は貝殻ごと、アリエッタに預けて、僕の剣を取りに行った。扉を開けて、部屋に入ると、剣は銀色に光り輝いている。
剣を手に取り、母上達がいる部屋に戻る。
母上とオランの顔を見た。
二人とも、頷いている。
僕は、巫女の剣を鞘から抜いた。
アリエッタが、剣に浮き上がるトライデントの紋章を指差している。
息をするように紋章がドクンドクンと震えている。
僕は、一瞬迷ったけれど、心に響く感覚を優先した。
銀色に光る剣を、アリエッタが持っているポセイダルゴ様の貴石に突き刺さした。アリエッタの体が飛んでいきそうになり、急いで、片手で引き寄せた。
その瞬間、剣は、眩い光を放ち、僕とアリエッタを包み込み、海の光景が流れ込んでくる。
ポセイダルゴ様の海の庭、海の宮、たくさんの魚たち、氷の海、砂漠のような海、珊瑚礁の花畑、鯨の大群、泳ぎ戯れる人魚たち、僕の手をとるアリエッタの花嫁姿、ん?、全ての海が剣を通して、僕達に流れ込んでくる。アリエッタが僕と同じように感じ取っているのもわかる。
どのくらいの時間だったのか、わからないけれど、気がついたら、海は消えていた。
手の中の剣は、コバルトブルーに輝き、アリエッタの手には、真珠貝のように淡く白く眩く輝く鞘があった。
みんなで顔を見合わせた。
安全なのは、わかったけれど、しばらく放心状態だった。
まだまだ秘密がありました。
読んでいただき、ありがとうございます。




