第4章 波乱の幕開け2
懐かしい僕の部屋から、母上の部屋に戻った。
「母上、何から何まで、ご用意くださって、ありがとうございます。」
「うふふっ、これでも母ですよ。オランに聞いて準備してきたから、気にしないでいいのよ。」
お茶の用意ができている。
アリエッタの部屋の扉が開いて、部屋着になったアリエッタとオランが出てきた。
アリエッタは、僕を見ると、小走りで近寄って、黙って僕の膝をよじのぼり、僕の膝にちょこんと座った。
さっきから、かなり甘えん坊に戻ってしまった。
アリエッタは、コバルトブルーの部屋着を着ていた。
「母上、アリエッタの服も?」
「もちろんよ。だってお妃教育なんて、家庭教師をつけるより、私が直々教える方が早いじゃない。ここで暮らせばいいのよっ。」
「母上、それは、お妃教育というより、アリエッタを娘のように、溺愛したいだけでは?」
「あら、エドワードと違って、ヴァシリス、あなたは、物分かりがいいわね。」
「いくら母上でも、アリエッタは渡しませんよ。」
母上が笑いだした。
「ヴァシリス、本当にアリエルちゃんを溺愛してるのねえ。それはわかったけど、ヴァシリスは、来週から、騎士団でしょう?アリエルちゃんは連れて行けないのよ。」
「うぐっ、、」
「ヴァシリス、オランとセレステと私で、アリエルちゃんを守るから、任せてちょうだい。」
頼むしかないのはわかっている。
今更ながらに、アリエッタと離れる事が、苦しい事だと、わかってきた。
お茶を飲みながら、オランと母上は、楽しそうに話しはじめた。
「ねえ、アリエルちゃん、お妃教育の時は、ここに泊まってくれるかしら。」
「お、おうひさま、あの」
「アリエルちゃん、これから先、ヴァシリスのお妃さまになるのだから、私のことは、お母様と呼んでほしいのだけど。」
「お、か、あ、さ、ま」
「そうよ、お母様よ。嬉しいわ。」
「おかあさま。私は、ヴァシリスさまのお妃さまになれますか?」
「もちろんよ、あなた以外に、ヴァシリスのお嫁さんになる人はいないわ。
アリエルちゃん、今度の祝賀の儀で、王妃令を出しますから、安心してちょうだい。」
「おかあさま。ありがとうございます。うふっ。」
アリエッタが、少し元気になってきた。
僕の膝から滑り降りて、部屋の中のものを見て回っている。
母上は、さっき、父上に手を上げるくらい、怒って切れた。
もう、自分の思う通りにするだろう。
僕の部屋を見た時、僕は思った。
子供部屋の時間が、僕の3歳で、止まっていた。
母上が、父上に僕を取り上げられ、連れ去られたのは、間違いない事実。
国を揺るがす事情があったにせよ、息子を奪われたら、ああ、そうですか、という親はいない。
母上は、奪われる苦しみを知っている。
アリエッタは、必ず守ってくれる。
「ヴァシリス、エドワードが、ほとんどあなた達の事は話してくれないから、聞きたい事があったのだけど。」
「母上、なんでしょう。その、父上から口止めされてない事なら、お話しできます。」
「大丈夫。政治的なことには、口出ししないわ。
あなたもアリエルちゃんも、海洋生物ヒーラーだから、海に入るのは、何の問題もないと思うけれど、、ポセイダルゴ様に会ったのよね?」
「えっ?なぜ、母上が。」
「私、あなたが生まれた時、海洋生物ヒーラーだと、すぐにわかったの。
王家では、王子が、超特級ヒーラーとして生まれてくるから、そこから、国の根幹を考えていく事になるわ。
妃が、特級ヒーラーから選ばれるのは、超特級ヒーラーの王子が必要だからなのよ。
今まで、王家には、海洋生物超特級ヒーラーは生まれなかった。歴代王に海洋生物ヒーラーがいなかったから。
私は、父も母も海洋生物特級ヒーラーだったから、3歳の頃から、お妃候補に決まっていたの。
お父様は、海洋軍を束ねる准将で、お母様は、海洋生物研究では世界的に有名な研究者だった。
私は、あなた達みたいに、幼い頃から、浜辺で遊んで育ってきたし、ポセイダルゴ様にも会ってるのよ。
そして、8歳の誕生日に、海の底に遊びに行って、授かったものがあるのよ。」
母が言うには、
遊びに行った気分だったが、周りはそれどころではなかったらしい。
母は陸での誕生会を抜け出して、1人で海に遊びに行ったらしい。
海が呼ぶ感覚がすると、海に行きたくなる。
それは、僕にもよくわかる。
その日も、どんどん沖まで泳ぎ潜ったらしい。
気がついたら、海底の広い庭に迷い込んでいた。
そこで、ポセイダルゴ様に会って、一緒に遊んだのだと。
「楽しくてね。その頃、ポセイダルゴ様は、王子だと言ってた。まだ海の王になる前ね。
で、私、海神の妃にならないかって、聞かれたの。
婚約者がいるからダメだって、断ったわ。
婚約者を好きか?って聞かれたから、まだ一回しか会ってないから、よくわからないけど、
シーシェルには、海を守る強いヒーラーが必要だから、と答えた記憶があるの。
そしたら、貝をもらったのよ。ちょっと待ってね。」
母上は、サクサクと話すが、要するに、父上との婚約中に、海の王子に求婚されている。
それを、簡単に蹴って、陸に返してもらったわけだ。
これが、アリエッタだったら、と思うと、僕はゾッとした。
一時期、アリエッタは人魚の王子に恋をしていた。誘われたら、ついて行ったかもしれない。
母上は、寝台の後ろにある、隠し扉を開き、
ゴソゴソしながら、一つの箱を出して、
僕にサラッと渡す。
こわごわ箱をあけたら、、僕の両手より大きな真珠貝のような貝が入っていた。
「ポセイダルゴ様は言ったわ。
その婚姻から逃れたければ、これを海に投げ入れよ。運命に従うならば、これを息子に授けよ。って。」
母上は、サバサバした感じで話していく。
「まだ結婚まで10年もあるし、息子って言われても、ピンとこなかったわ。
息子が生まれるのかと聞いたら、三叉の矛の紋章を持つ息子に授けよって。
それから、ポセイダルゴ様の海獣にのせてもらって、浜辺に戻ったんだけど。
エドワード様の婚約者が海に攫われたって、海洋軍の護衛艦が出ていて、大騒ぎだったの。
お父様が指揮をとり、探し回られていたわけ。
でも、護衛艦に保護されたわけではなくて、
誰も気がつかない間に、ポセイダルゴ様が、浜辺に返してくれたみたい。
もうそのあとは、散々叱られて、家に監禁されたわ。でも、この貝の事は、言わなかった。
仲良しだった、オランだけには話していたけど、オランも口が堅いから、ずっとこの秘密は、秘密のままだった。」
母上とオランが顔を見合わせて、笑っている。
「ヴァシリスがオランのところに行ってからは、オランが時々、ヴァシリスの様子を教えてくれていたし、海にも良く行ってるのを聞いて、あまり心配してなかったの。
それと、あなたが、トライデントの紋章を持つ息子と言うのは、生まれた時にわかっていたわ。
だから、あなたを手元で育てたかったの。」
「母上、父上には話してないのですよね?」
「当たり前でしょう。ポセイダルゴ様と2人っきりで海の中でデートして、求婚されたなんて、いくら断ったとは言え、過ちはないけど、デートを破廉恥と言うなら、言えるわけないじゃない。
その上、ポセイダルゴ様のトライデントを持つ子が生まれたなんて、過ちはなくても、エドワードは疑うわ。そう言う、恋の秘密は、口に出さないものよ。」
「でも母上は、なぜ、僕がそうだと、わかったのですか?」
「あなたの瞳。ポセイダルゴ様の瞳と同じ色よ。
自分で会っていて、気がつかなかったの?」
「ポセイダルゴ様の瞳を気にしたことがなくて。色を見たことがあるような、ないような、、」
オランが、つぶやいた。
「もしかして、同じ色が見つめ合うと、色が消えてしまうのでは?」
「オラン、そうかもしれないわね。
だって、普通は、ヴァシリスの瞳を見て、忘れる人がいる?
引き込まれそうな海の色よ。それも一色じゃなくて、何色もの色が、海面で煌めいているような、そんな瞳、誰もいないわ。御令嬢たちが、この瞳にうっとりして、失神してるくらいなんだから。
私だって、生まれたヴァシリスをみて、卒倒しそうだったもの。
だから、ヴァシリスに見つめられると、ヴァシリスの後ろにポセイダルゴ様がいるような錯覚を起こすのよ。」
「はっ母上、母上は、僕を見ると、ポセイダルゴ様が見えるのですか?」
「そこまで、はっきりしないけど、ヴァシリスの瞳の奥に、ポセイダルゴ様の瞳があるようには見えてるわ。」
僕は、とんでもない事に気がついてしまった。
父上には、巫女がいる。いくら極秘でも、父上を支える巫女がいる。
そして、母上には、母上と僕とアリエッタを守る海神がいる。
どうなってるんだ、うちの家族。
色々な秘密が出てきますが、幸せに向かってほしいですね。
読んでいただき、ありがとうございます。




