第4章 波乱の幕開け1
「何故、こうなった。セレステどうする?」
アンジェラがヴァシリス達を連れて、月の宮に戻って行ったあと、書斎では、王が困り果てていた。
「エドワード様、
5年前、アリエッタとヴァシリス殿下に
光の調和が起きた時、ヴァシリス殿下は、まだ王妃様の元で養育されておられ、王妃様から奪ってしまった形ですから。」
「セレステとて、生まれたばかりのアリエッタを手放しているではないか。」
「陛下、王妃様は、世継ぎを産むのが最大のお役目です。王子を3人も産んで、ひとりも手元におけないのは、女性として、辛く苦しいものです。
私は、巫女として、陛下と共にあらねばならず、アリエッタは育てられません。
私自身が巫女として育てられているので、優先順位が、陛下しかないのです。
それが普通に思える私自身が、歪んでいるかもしれませんが。
でも、アリエッタが巫女の覚醒をすれば、これからは、師として、母として共に過ごせます。
すでに来週から、私は、アリエッタやオランと共に、日々を過ごせます。
王妃様には、その時間が全く無いのです。
陛下が、アンジェラ様を深く愛しておられるのは存じております。
そのお気持ちを、アンジェラ様に尽くしてお伝えするべきです。
先程、ヴァシリス殿下とアリエッタは、言葉を尽くして、王妃様のお心を動かしたではありませんか。」
「セレステ、ありがとう。アンジェラとは、話しをする。」
「アラン、ユリシーズ、アンジェラは、警護の話をしておったが、あれは引かぬぞ。できるか?
王妃の警護が減るのも困るのだが。」
「今の状況で、一番狙われるのは、ヴァシリス殿下とアリエッタ様です。王妃様の視点は間違っておりませんし、王妃様の母としての思いを無下に却下なさると、陛下とのお気持ちが離れてしまいます。」
「それは良くないな。アラン、月の宮の親衛隊を第三騎士団に少し移して、王子妃候補の護衛としてほしい。」
「御意っ、それから一つ、ご提案ですが、アリエッタ様は、来週から、ミカエラード家に戻られ、ガブリエル家にも滞在されます。すでに、アリエッタ様の警護は強化して、ミカエラード家とガブリエル家、我がウリエル家からも、騎士を出しています。
そこで、お妃教育は、月の宮で、特別に王妃様にお任せすれば、王妃様とアリエッタ様を同時に警護でき、更に強固な警護となります。」
「アラン、それは良い。私から、王妃に頼む。」
「陛下、ヴァシリス殿下は、来週から、海洋軍にも参加されます。私を含め、第三騎士団から海洋ヒーラーの能力があるものは、共に参ります。
海洋軍の上官以上は、全員、貴族で海洋ヒーラーです。
今は、兼務でかまわないので、もっと臨機応変に動ける隊を作っては?
いずれ、ヴァシリス様は、海洋軍を率いる立場になります。第三騎士団自体が、特化して行かないと、ヴァシリス様を守りきれなくなります。」
「ユリシーズ、確かに、それもあるな。
ヴァシリスの行動範囲が広がっていくから、今の第三騎士団だけに負担がかかる。
今しばらくは、やりくりできるだろうが、ヴァシリスが王宮を離れる頃には、体制を整えておいてやりたい。
アラン、ユリシーズ、また仕事が増えるが、宜しく頼む。」
「陛下、では、ひとまず、王太子の祝賀の儀の体制を詰めて行きます。もう日がありません。
それから、この祝賀の儀の件も、王妃様にご説明されては。いつまでも蚊帳の外より、王妃様のご協力があれば、守りやすくなります。」
「アンジェラとは、きちんと話さねばならない。私も覚悟を決めねばならぬな。
ヴァシリスとアリエッタのあの信頼関係が羨ましくなってきた。」
「アラン、ユリシーズ、セレステ、感謝している。」
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僕は、アリエッタを片手で抱っこしながら、空いている片方の手を、母上に引かれていた。
陽の宮から繋がっている廊下は、月の宮の謁見室の横にたどり着く。
普通は、さっき馬車で乗り付けたところが、月の宮の正面だ。
陽の宮からの渡り廊下は、本来は父上しか使えない。今日は、母上が乗り込んだ事になる。だから、側近や侍女たちが、慌てていたのだ。
渡り廊下から、謁見室の後ろ側に、まだ廊下があり、通り抜けたところに、
煌びやかな大きな扉があった。後宮の入り口だ。屈強な護衛が2人いる。
侍女頭が、開けなさい、というと、透き通るようなベルの音がして、内側から、扉が開いた。
僕達が扉をくぐり抜けると、背後の扉は、ピタリと閉じた。オランによると、この扉は、内側からしか開かず、この宮がどんなな攻撃でも、開かない要塞になっているらしい。
王妃と子供たちを守る最後の砦だそうだ。
母上のお部屋に行くために、扉を抜けていく。
それぞれの扉の前後に、部屋がたくさんある。
なんとなく懐かしいような、見覚えがあった。
5番目の扉を抜けると、母上の私室に着いた。
「さっ、オランも入って。久しぶりでしょう。
ここからは、無礼講よ。」
「アンジェラ、わかりましたわ。」
母上の私室に入って、僕はアリエッタをソファに下ろした。
僕の、袖を握って離さない。
「オラン、まずは、どうしましょう。」
「アンジェラ、まずは、お部屋着に着替えて、
くつろぎましょう。みんな正装のままでは、
できる話も出来ないでしょう?」
「そうね、オランのお部屋着もあるのよ。うふふっ。」
「えっ?アンジェラ、うそでしょう?まだ置いてあったの?」
「アリエッタがヴァシリスのお嫁さんになるんだから、オランも、また、ここに来てくれるかな?と思って、準備していたのよ。
もちろん、昔のお部屋着も、おいてあるわよ。だって、あの日、東宮にヴァシリスをお勉強に連れて行ったまま、帰って来なくなったのだもの。」
「そうでしたね。アンジェラに説明する暇さえ、与えてもらえかったから。」
「オラン、あなたのお部屋を、アリエッタとあなたのお部屋にしたわ。お着替えして。
ナリス、オランとアリエッタを案内してくれる。
それから、お茶の用意をしてお願い。」
ナリスと呼ばれた侍女頭が、侍女たちに指示を出している。
オランがアリエッタに
「さ、姫さま、お着替えしましょう。」手を取りに来たが、アリエッタがまだ僕の袖を握っている。
「まあ、オラン、いつもこんななの?」
「離すのが、大変なのよ。さっ姫さま。お着替えが済んだら、また坊っちゃまと一緒ですよ。」
アリエッタが僕を見た。
「着替えておいで。僕はここにいるから。」
アリエッタがやっとオランについて行った。
母上が、僕の前にきた。
「ヴァシリス、先程は、取り乱して、ごめんなさい。」
「母上、、僕の事で、ご心配をおかけして、申し訳ありませんでした。」
「ヴァシリス、抱きしめてもいい?」
僕が頷くや否や、母上は僕をぎゅっと抱きしめた。
「あれから、5年も経つのね。大きく立派になって。元気に育ってくれて、ありがとう。」
「母上、、、」
そうだ、僕はこの香りを知っている。母上の香りだ。海の優しい香りだ。
母上の瞳も、この部屋も、、覚えている。
僕はアリエッタに出会った日に、オランとユリシーズに連れられて東宮に帰った?はずだった。
その前は、どこにいた?
「ヴァシリス、あなたの部屋よ。着替えてらっしゃい。」
母は、アリエッタとオランが入った扉の隣りの扉を指差した。
僕は、その扉を開けた。一瞬でよみがえる記憶。僕の部屋だった。
小さい頃、時々、夢の中でみた部屋は、実際にあった。
母上を振り返る。
「ヴァシリス、思い出したのね。今のあなたが着られるものを置いてあるわ。」
「着替えます。」
僕は後ろ手に扉を閉めて、僕の部屋に踏みこんだ。
僕の机、椅子、母上が読んでくれた絵本や騎士物語が本棚に並んでいる。小さなおもちゃの剣や盾。貝殻や、海の魚の模型がたくさんある。
壁には、母上に抱っこされている僕の肖像画がかけられていた。
クロゼットを開けると、幼い頃の服が、きちんと並んでいた。小さな小さな布の靴。母上の刺繍だ。
もう一つのクロゼットを開けると、今の僕にピッタリの服がかけられていた。
下着も部屋着も、、そして兄上の祝賀の儀で着る王子の正装が、準備されていた。
母上は、ずっと僕を心配して、ずっと、準備し続けてくれていたんだ。
僕は、幸せだ。
オランやユリシーズも、自分の息子のように大切にしてくれて、父上も母上も、僕を愛してくれている。
とりあえず着替えた。守護の剣を剣たてに置いて、母上の部屋に戻った。
ヴァシリスのお母様との思い出がよみがえります。
読んでいただきありがとうございます。




