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第4章 婚約内定5

陽の宮の扉が、激しくたたかれた。

「アンジェラ王妃様が、向かっておられます。

後宮面談中に、急にこちらにいらっしゃるとのことで、オラン夫人とアリエッタ嬢を連れて、向かっておられます。」


「何があった?」

父上と僕は顔を見合わせた。まさかアリエッタが不合格になったのか?

父上がセレステに頷くと、セレステは巫女部屋に素早く入った。


僕は急に不安が込み上げてきた。

何もおこらないはずだった。まさか巫女の事がばれた?いや、アリエッタは絶対に話さないはずだ。


「王妃様がお着きです。」

扉の外から護衛の声が聞こえた。先触れに間髪おかずに、着いている。よほど急いだのだ。


「入れ」と父上が言う前に、扉がバン!と開いた。

アリエッタは泣き腫らした顔で、王妃様に抱っこされている。後ろにオランがいる。オランは、何も言うなと、小さく顔を横に振った。


「陛下、お人払いを」 


「アンジェラ、どうした?」


王妃様が周りを見渡して、

「アランもいるのね。ユリシーズも、ヴァシリスも。すでに人払いもして、何の密談かしら。」


母上が怖い。


「エドワード様、あなた、あなたは、ワタクシの息子と娘を殺す気ですの?」

第一声だった。


「アンジェラ、どうしたのだ。ひとまず落ち着きなさい。座って、アリエッタをこちらに。」


「ダメです。アリエルちゃんは、私の娘です。

陛下には渡しません。」


父上が、オランに救いを求める顔をした。

オランが口を開く。


「アンジェラ様。順を追ってお話ししないと、陛下も、返答にお困りです。」


「アンジェラ、アリエッタの後宮面談をしていたのだろう?何か粗相があったのか?」


「ひどいのは、陛下です。ヴァシリスもヴァシリスですっ。」


「えっ?」

僕も怒られている?


「アリエルちゃんは、素晴らしい妃になります。何一つ文句はありません。こんな素晴らしい子を、妃に迎えられるなんて。

アリエルちゃんには、私から、ヴァシリスのお妃になってほしいとお願いしましたっ。本当は、妃より、私の娘にしたいくらいです。ヴァシリスの妃にはもったいない。」


「へっ???」

なんか話がおかしい。僕ではダメだと聞こえた。


「問題は陛下とヴァシリスにあります。

まず、あなた、エドワード様、ヴァシリスを近衛騎士団に入れると?海洋軍に入れると?

ワタクシの大切な息子を殺す気ですかっ?まだ8歳ですよ。」


父上の眉が少しだけ動いた。


「アンジェラ、それは国務だ。悪いが、其方には口出しできない。」


「口出ししているのではありませんっ。

息子が、いつ死ぬかわからない事を、ヴァシリスの実の母のワタクシに黙っているつもりだったのですかっ。」


母上が本気で怒っている。


「3人の王子を産んで、3番目のヴァシリスくらいは、自分で育てたかった。あなたは、そうして良いと約束してくださった。

なのに、ヴァシリスが3歳の時、有無を言わさずにヴァシリスを取り上げましたよね。泣いて縋ったワタクシに、あなたは理由も言わず、謝りもしなかった。

所詮、子育ては、王妃には叶わぬ事。

一番の親友のオランに預けて、ヴァシリスの成長を楽しみにしていました。

その妃が、アリエルちゃんなら、娘ができたみたいに嬉しかったのです。

幼い二人、アリエルちゃんはまだ5歳。

慈しんでゆっくりと、娘として妃として育てたいと、楽しみにしておりました。

それが、ヴァシリスを騎士団に、海洋軍に入れ、王太子になるラングドンのために、命をかけよ、と。

更に、ヴァシリスの妃になるアリエルちゃんまで、ヴァシリスのために、海に出る覚悟をして、、、アリエルちゃんは、私に言ったのですよ。『ヴァシリスに命を捧げ海を守る』と。

5歳の少女に言わせる言葉ですか?

ヴァシリスっ、あなたもあなたです。アリエルちゃんを洗脳したのですかっ?それなら、母は許しませんよ。

アランもユリシーズも知っていて、ヴァシリスを前線にやるために、鍛錬させていたのですねっ。ヴァシリスは守るべき王子ですよ。

戦うためになど、、」


母上が、アリエッタを抱きしめたまま、崩れ落ちる。涙も拭かずに、泣きながら怒っている。


父上が母上に触れようとした。

「ばしっ」


母上が父上に平手打ちをした。

「触らないでっ。」


「王妃さまっ、お気を鎮められませ。」


アランが父上と母上の間に入った。


いかに王妃の立場でも、国王に手をあげたら、

不敬罪で処罰の対象になってしまう。


父上が固まっている。僕も固まってしまった。

母上の言い分も、間違ってはいない。

尋常ではない状況は、アリエッタが巫女として生まれたことから始まっている。知らないのは母上だけだ。誰も口を開けなくなった。 

苦しい沈黙が流れていく。



アリエッタが、母上の腕の中から、母上を見上げて口を開いた。


「おうひさま。あの、、、

わたしは、ヴァシリスさまが好きです。何故かわからないけれど、どうしても好きです。

ヴァシリス様の瞳の色がすきです。ずっとずっと前から、ヴァシリス様の瞳の色だけ、知っているような、この瞳だけはたいせつにしたくて、信じたくて、私をみていてほしくて、、

ヴァシリス様は、優しくて、一緒に海の中にいると、とても幸せです。

プレップスクールで、他の男子にも会いましたが、嫌でした。ダンスの練習も、触れるのも嫌で、気持ちが悪くなりました。

ヴァシリスさまと離れていると、会いたくなります。そばにいると安心します。

だから、ヴァシリスさまが、きけんなら、私も一緒にきけんになりたいのです。

もし、いつか、ヴァシリス様のお命がおわるなら、私も一緒におわりたいのです。だから、そのためなら、何でも努力いたします。ヴァシリス様のおそばにいさせてください。」


母上が涙に濡れた瞳で、アリエッタを見つめる。


「アリエルちゃん、死ぬ事がどんな事か、わかっているの?」


「はい。息が止まって、動かなくなります。

もう二度と、瞳を見つめられなくなります。

ヴァシリス様の息が止まるときは、一緒に止まりたいです。息が止まるその時まで、ヴァシリス様の瞳の中にいたいのです。

王妃さま。お許しくださいませ。ヴァシリスさまと、一緒にいたいのです。」


アリエッタの目から、また真珠の涙が溢れて、体から、グリーンの光が溢れはじめた。

アリエッタが、母上の腕の中で、身体をよじって、僕に手を伸ばしている。


母上は、光に包まれるアリエッタを見て、驚き、僕を見た。


僕は、母上に懇願するように、アリエッタに手を伸ばして言った。


「母上、覚悟はできています。お許しください。」

僕の体からオレンジの光が溢れてきた。


「ヴァシリス、それでいいのですか。」

母上が僕を見つめる。そうだ、ずっとずっと前に、この瞳に、いつも見つめられていた。

母上だったんだ。


「何故、これほどまでに、アリエッタを求めるのか、僕にもよくわからない。愛おしくてたまらない。

だから、アリエッタと共に生き、国を守る力になれたら、それ以上は望みません。」


しばらくの沈黙の後、母上は、寂しそうに微笑んで、アリエッタを僕に渡してくれた。


アリエッタは、泣きながら、僕の瞳を見つめて「ヴァシリスさま」と僕の腕の中に収まった。


僕が、アリエッタをぎゅっと抱きしめた瞬間、

部屋中に、グリーンとオレンジの光が溢れて、銀色に強く光って、消えた。


「この国を守るために生まれてきた愛なのね。」

母上が、ふうっと、ため息をついた。


父上が母上の前に跪いた。


「アンジェラ、済まない。ヴァシリスとアリエッタの意志だ。私の力を尽くして守るから、私を信じてほしい。

君を傷つけていた事も、詫びる。」


「エドワード様、状況は、理解しました。

ヴァシリスは許します。

ても、あなたは、私に説明する義務があります。

ヴァシリスは、王子である前に、私の息子です。」


「済まなかった。後から全て説明する。」


「当たり前です。エドワード。」


「アラン、ユリシーズ、王妃の権限で命じます。

ワタクシの護衛を減らして、ヴァシリスとアリエッタにつけなさい。

母として、してやれるのは、このくらいです。

ワタクシが死んでも国も陛下も困らないでしょう。

でも、ヴァシリスとアリエルちゃんは失えません。」


「王妃さま、お言葉ですが、、すでに陛下は、お二人の警護を強化しておられ、、」


「黙りなさいっ、アラン。

王妃権限と言ったはずです。

陛下にも止められない王妃権限があるのは、親衛隊長なら、知っているでしょう。私の警護など、何の意味もありません。ヴァシリスとアリエルちゃんを守りなさい。

この二人に何かあれば、ワタクシは、陛下の命を奪いますよ。」


母上の片眉が上がっている。


「アンジェラ、二人は私が守るから、」 


「あなた、当たり前のことをおっしゃらないでっ。あなたが二人を守るのは、親としてではなく、王としての役目ではありませんか。

二人を守れないなら、陛下はワタクシの敵ですわ。

ヴァシリス、アリエルちゃんを連れて、月の宮に来なさい。話があります。オラン、宮に戻ります。」


「アンジェラ、待て。」 


「ヴァシリスは、まだ未成年で、ワタクシの息子です。今夜は母子水入らずで過ごします。

邪魔はしないでくださいっ。」


「ヴァシリス、来なさいっ。」


父上が、僕とオランに行けと、頷いた。


それぞれに、それぞれが大切です。


読んでいただき、ありがとうございます。

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