第4章 婚約内定2
「ヴァシリス、うまくいったか?」
僕とユリシーズは、父上の書斎にいた。
セレステもいる。
「はいっ、アリエッタが馬車から降りる一瞬、周りが息を呑む音が聞こえましたっ、かなり恥ずかしいものでしたが。」
「はっはっはっはっ。よくやったぞ。
お前たちは騎士物語のような絵になる。近くにはパニエール大公の間諜も潜んでいたはずだ。なんとしても、其方ら二人を消したくなるだろう。」
僕は自分が憎まれて殺されるために、派手な事をしている。最近、父上の魔王ぶりが伝染して、黒い笑いをする自分に驚く事がある。
「ヴァシリス、ユリシーズ、王太子の儀は正式な式典だ。全員が正装ゆえ、騎士、護衛はもちろん、王子も、正装の一部として、真剣の帯刀を許す。いいな。
万が一、斬り合いになったら、刃向かう者は、捉えよ。逃げられそうな時は斬れ。男女問わない。王家に刃向かうもの、全て対象だ。
ヴァシリスも、イライザが、お前たちに刃物を向けたら、斬ってもかまわぬ。」
「父上、実は、そのことなのですが、」
「何だ?剣を抜くのが怖くなってきたか?」
「いえ、巫女の剣は、斬ることも出来ますが、トライデントに変化すると、雷みたいな光が出て、相手を倒せます。ただ、光の出方が、まだ微妙なので、、」
「其方のトライデントは、ヒーリング光だけではなかったのか?ユリシーズは見たことはあるか?」
「はっ。毎日、剣の稽古に付き合っていますので、剣のままの時と、トライデントに変化する時と、状況によって異なるのです。」
「どういう事か、詳しく話せ。」
僕は、ユリシーズとの鍛錬で、巫女の剣が、どう変化するか説明した。ただ、まだ、わからないことがたくさんあって、使いこなせてない。
海の中でヒーリングに使う分には、海に、つまり、ポセイダルゴ様に祈りを捧げて、海中に投げると、トライデントになって手に戻ってくる。
それを剣舞のように回して、したい事を願えば、パワーは留まることなく溢れ出てくる。
また、海の生き物など、簡単なヒーリングなら、剣なしでも、普通に集中して、手のひらをかざせば、オレンジキラキラは、すぐに出せる。
ただ、アリエッタに関する事で、僕の感情が揺れると、トライデントのパワーは、尋常でなくなってしまう。魔王のトライデントになってしまうわけだ。癒しか消滅かは、僕の気持ち次第だ。
「という事は、冷静なら、コントロールできるのだな?」
「そうです。アリエッタの事で、感情的になると、父上の獅子の炎みたいになります。
燃えはしませんが、海の波にさらわれたみたいに消えてなくなります。消えたものは、二度とあらわれません。あっ、その瞬間、銀色の光だけが、一瞬鋭く光ります。」
「獅子の炎と同じだな。ユリシーズ、ヴァシリスを見ていて、ほかに何か気づいた事はないか?」
「ヴァシリス殿下が、姫さまのことではなく、稽古にかなり集中すると、剣が紺碧からコバルトブルーを経て銀色に変わります。
その時は、トライデントには変わりません。
同時に、殿下の全身から、オレンジのもやがゆらめきます。その剣の威力が尋常でなく、、
先日は、海岸沿いの切り立った崖の一部を吹き飛ばしてしまいました。」
「ふうむ、、」
「父上は、巫女の剣、つまり守護の剣は、セレステを守る時だけ、使っていたのですよね?」
「そうだ。それ以外は、王剣がある。王になる前は、王太子の剣を賜っていたから、それで鍛錬もしていた。
確かに、守護の剣で、人を斬ったことはないな。いつも獅子の炎で、ことは終わった。
斬るより、消す方が、跡形なくてよいしな。
巫女を狙った輩は、どんな理由があるにせよ、問答無用で消していた。」
「父上、怖すぎますよ。魔王じゃなくて、、大魔王です。」
「まあ、そういうな。
確かに、ヴァシリスには王剣がないから、巫女の剣で兼ねるしかないのか?
ユリシーズ、アランを呼んできてくれないか。」
ユリシーズは、親衛隊長、こと、近衛騎士団長を呼びに行った。
「なあ、ヴァシリス」
「はいっ?」
「聞きにくいが、其方、あと13年も待てるのか?アリエッタが18歳の成人まで、あと13年だ。
アリエッタには、アカデミーの高度課程に進んでほしいから、20歳まで待つとしたら、今から15年だぞ。何をするにも、アリエッタがついてくる。それが苦しくないか?」
「父上、、正直なところ、心のなかでは、
あの、、セレステの前で申し訳ないですが、
心の中では、アリエッタを連れ去ってしまいたいような感情が溢れる事はあります。溺愛と言われたら、そうだと思います。
でも、今朝、目覚めた時に、わかったのです。
昨夜、父上のお許しがあり、アリエッタを抱きしめて眠りました。アリエッタも嫌がらずに、とても自然に僕の腕の中にいました。ほかの女子とそんなことをしたいとは絶対に思いません。
でも、朝、起きたら、僕は寝台の、ど真ん中で大の字になって寝ていて、
アリエッタは、僕の足首を枕にして、大の字になって寝ていました。
まだ、子供なのです。でも僕は20歳のアリエッタを知っています。あのアリエッタは、誰にも取られたくないのです。」
「ぶっぶふぁぁはっは。其方ら、そういう夜を明かしたのか?ぶっふぁっ。」
「父上、笑わないでください。
大人になったら、朝起きて、そんなふうに、、」
「大人は、そんな風には目覚めない。少なくとも、私は、アンジェラを抱きしめたまままか、腕枕をしているか、100歩譲って、背中合わせに眠っているか、まあ、そんなところだろうな。セレステはどうだ?」
「まあ、エドワード様。わたくしにそれを聞くのですか?」
「アリエッタの婿になるヴァシリスに、教えてやってくれ、くっくっくっ、ヴァシリスは可愛い。」
父上、笑わないでほしい。自分でも、どうしようもないんだ。
僕は顔から火が出そうだ。父上は意地悪だ。
泣きそうになって、セレステを見ると、優しく笑ってくれた。
「ヴァシリス殿下、殿下とアリエッタの出会いは、早すぎましたからね。でも、それがご神託の出会いですから、乗り越えていくしかありません。だから、まだ子供で良いのですよ。
寝相が悪いのは、子供だからです。
大人になるにつれて、寝相は良くなります。
お年頃になって、成人する頃には、大切な方と共に過ごす時間が、密になります。
逆にアリエッタの寝相が、淑女らしくなった時、
殿下が、アリエッタをずっと抱きしめたまま眠れるような寝相になった時、それが二人の結婚の時期だと思われませんか?」
「そうか、そういう事か。」
「ヴァシリス、わかったようだな。」
「はいっ。」
「ヴァシリス、王子は王子らしくしなくてはならないと、物心つく前から、徹底的に教育される。ラングドンやパトリックのように、10歳を過ぎて、好きな女性に出会い、婚約を交わして、共に学び、共に未来を見て、愛情をはぐぐむ。
そこからの10年くらいは、すぐだ。
だが、ヴァシリスは、ご神託とは言え、出会うのが早すぎた。
王子として成長し、国務に関わらなくてはならない、ヒーラーとしても学ばなければならない。
未来の夫として愛する女性と愛を育み、巫女まで守らなくてはならない。それを最初から20年、踏ん張れと言うご神託は、あまりにもむごいものだ。
だから、焦るな。20年かかるのではなくて、20年という年月をかけるしかないのだ。
すでに5年過ぎた。幼かったヴァシリスが8歳になったのだ。そして、この5年の間、其方らは離れなかった。巫女の剣は、何とトライデントになったではないか。
だから信じろ。信じて、これからの15年を伸び伸びと生きろ。いいな、ヴァシリス。人生を楽しめ。」
「父上、セレステ、ありがとうございます。」
ずっと悶々としていた霧が、嘘みたいに晴れた。
読んでいただき、ありがとうございます。




